ラインハルトを守ります!チート共には負けません!!
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プロローグ 休暇中の職場(現世)への復帰命令はやめてほしいのです。
「か~~~~~っ、ぺっ!!!」
ヴァルハラにある大神オーディンの宮殿に、とんでもない奇音が響き渡った。それは古代ローマ人がよく着用するトーガのような着物を纏った白髪を肩までたらした老人が、キラキラとした噴水のそばの白い椅子に腰かけ、泉の中に映し出される光景を見ながら、まるでセンブリを飲み下したような苦い顔をして、痰を吐き出した音だった。
「なんたることじゃ!!我が大神オーディンの加護を受け生を成したかの者が、逆賊扱いじゃと!?処刑されたじゃと!?なんたることじゃ!!!」
老人は独りしゃべるうち、次第に興奮して顔色が真っ赤になる。
「まぁまぁおじいさま、そう興奮なさらないでも」
孫ほどの年の離れた、若々しい栗色の髪をした少女がそばにやってきて話しかけた。
「なんじゃ、お前はようも平然としておるのう。あれを見て憤りを感じぬのか!?だいたいなんじゃあれは!?転生者じゃと?!そんな者がかの者の世界にやってくれば、しかもその者がかの世界を知り尽くしているとなれば、明らかにかの者にとって不利じゃとは思わぬか!?」
「ええ、そうですよね。まぁ、今はやりの『チート共』ですからね、しかも金髪の英雄に狙われる立場や面白くない立場に生まれた人たちですからね、そりゃあ金髪の英雄をこっちに送りたくなるでしょうね」
ここヴァルハラは、かの銀河英雄伝説の世界のみならず、様々な世界での死んだ者が行くところになっている。そこで審判を受け、天国かはたまた地獄か、様々な道に進ませるのである。老人はここ、ヴァルハラでかなり高い地位にいる生と死を司る神の一人であった。一緒にいる女性は孫ではなく、彼の部下のような立場にいる神であり、転生を司る神の一人であった。
「だいたいお前もお前じゃ。他の神の道楽にお前まで手を貸すことはなかろうが!お前のせいで転生者とやらがかの者の世界に行ったのではないか!これでは儂の面目が丸つぶれじゃ!大神オーディンになんと申し上げればよいか・・・」
「あ~ごめんなさい。面白そうだったから、つい」
慟哭しまくる老人に少女はしらっと笑顔で返す。
「ええい!!いまいましいっ!!!」
老人は怒りまくり、喚き声をあげ、ついにはゲホゲホオェェェェとせき込んだ。よしよしと少女が老人の背中を撫でる。
「む・・・すまんの、ついつい興奮してしまったわい」
「まぁ、おじいさまがあの金髪の英雄に肩入れしたくなる気持ちはじゅ~ぶんにわかりますけどね、相手が悪かったですよ、今回は」
「なんの!!まだまだじゃ!!」
老人はそう叫び、急にハタと両膝をうった。
「そうじゃ!!目には目を、歯には歯を、じゃ。お前の言う『チート共』がかの者の覇道を妨げるというのなら、かの者を手助けする『チート共』を送り込めばよい」
それをきいた少女が面白がるように驚いて見せる。
「ええ~~!?面白そうだけれどいいのですか、そんなこと。だいたいあっちの世界って、もうケリが付いたんじゃないですか?」
「いいや、まだ終わっておらん!!時間軸を少し戻し、今一度かの者に覇道を歩ませるのじゃ。ふっふっふ、見ておれよ『チート共』。大神オーディン様のおおせ付けで、かの者の世界には儂ら自らは手出しできんがの、かの者に協力する者どもを送り込むことはできる。ふむ・・・・よし」
老人が二言、三言つぶやくと、たちまち霞のような魂たちがあちこちから集まってきた。
「おじいさま、この人たちは?」
「うむ、これらの者はの、皆同じ世界の出身じゃ。とある世界、とある時代に活躍した英雄たちの魂じゃよ」
「英雄は英雄を知る、ってやつですか?」
『あの~~~』
魂の一つが遠慮がちに声を上げる。声からするとちょっとおっとりした女性のようだ。
『あの、私たち、とっくの昔に死んじゃったはずで、さっきまで天国にいたのに、どうしてこんなところにいるんでしょうか?』
「ほっほっほ。それはの、おぬしたちをこれから銀河英雄伝説の世界に送り込もうというのじゃ」
それをきいた魂たちがざわざわと声なき声を上げる。どうやら魂たちの世界では銀河英雄伝説の世界というのはある程度有名らしい。
『銀河英雄伝説の世界!?ちょっと、アンタ、何考えてんのよ?!』
別の魂が最初の魂に寄り添うようにして声を上げる。こちらはなかなか強気の性格の持ち主のようだ。
「あのですね、おじいさまはですね、銀河英雄伝説の世界の金髪の英雄が『チート共』に処刑されたことにですね、いたくご立腹でしてですね、あなたたちを助っ人に送り込みたいというのですよ」
栗色の髪の女性がざっくりと説明する。
『ええっ!?いいわよ、別に。だいたいのんびり休暇とってる私たちをどうしてまた現世に戻すわけ!?それってひどくない!?せっかく苦労してここにたどり着いたってのに』
二番目の魂が愕然とした声を上げる。
「やかましい!!!おぬしら悔しくないのか!?『チート共』にむざむざ殺されたかの者の気持ちを汲んでやらんのか!?ええ!?」
老人が怒声を上げる。
『そりゃあ、銀河英雄伝説は私も大好きでよく動画でアニメみたりしたけれど、でも、だからって私たちをその世界に送り込むのは筋違いなんじゃない?ねぇ、フィオ』
フィオと呼ばれたのは最初に老人に話しかけた魂らしい。どうやらこの二つの魂、親友同士のようだと栗色の髪の女性はそう思った。
「なんの!!おぬしたちの力量や智謀、そして力の強さはよく知っておるわ。よいからさっさと行け!!いってかの者を助けるのじゃ!!お、そうじゃ、むろんタダ働きではない。もしかの者の覇道がまっとうできるようであるならば、なんなりとおぬしたちの願いをかなえて進ぜようぞ」
『え、マジ!?』
さっきの二人とは別の魂が声を上げた。同時に「おお~~!!」という声にならないどよめきが魂たちから洩れる。魂たちは次々と老人を質問攻めにした。
『それって超一流のバカンスもOK?リッチなホテルに泊まってフカフカベッドで毎日寝られるの?』
「もちろんじゃ」
『おいしい料理も食べ放題?超高級アロマエステも受けられるんですか?』
「もちろんじゃ!」
『毎日シャンペンタワーやって、イケメンのホストに囲まれるのも・・・・!?』
「もちろんじゃ!!!」
老人はドヤ顔で自信満々に答える。そのくらいの望みなど瞬時にかなえられるのだ。やはり人間の欲というものは予測の範囲内だったのうと老人はほくそ笑んだ。
『聞いた?フィオーナ、ティアナ、これ、チャンスよ。私乗った!他の人も乗るでしょ?』
どうやら最初の魂のフィオというのは愛称で、本当の名前はフィオーナというらしかった。
ティアナというのは二番目に声を出した魂らしい。三番手の魂も女性のようだった。最初の二つの魂と知り合いらしい。他の魂たちも他人同士というわけではなさそうな雰囲気だ。
それにしても爺様のチョイスした魂、いったいどこから選んだのだろう。栗色の髪の女性は声に出さず、首をかしげていた。
『わかったわよ。どうせそうなるだろうって思ってたもの』
ティアナと呼ばれた二番目の勝気そうな魂がため息交じりに言う。
『でも、約束よ、爺様。絶対約束だからね!』
「むろんじゃ!!」
そうこたえながら老人はほくそ笑んだ。それはかの英雄の世界にいる『チート共』にこれで目に物見せてやれるという独りよがりの意気込みだったのだが。
「よし、行け!!!英雄たちよ!!かの者の覇道を助け、『チート共』を葬り去るのじゃあ!!」
老人の高らかな言葉と共に、魂たちは天高く舞い上がり、泉の中に次々と飛び込んでいった。
「あああっ!!」
突然少女が驚きの声を上げたので、満足そうな顔をしていた老人は飛び上った。
「な、なんじゃい!!??急に叫びおって!!どうしたのじゃ!?」
「ああ、いえ、たいしたことじゃないです」
「なら驚くことはなかろう。いや、めったに動じぬお前が叫び声を上げた時点で、儂には嫌な予感しかせんのじゃが」
「ばれちゃいました?」
テヘベロな顔をしながら、少女が言う。
「なんじゃ?はよう言え。」
「あ~そのですね、今飛び込んでいったのは『チート共』を助ける魂だけじゃないんですよ~」
「というと、なんじゃ?」
「こっそり後から数人の魂が忍び寄って、飛び込んでいったのを見ちゃったんです」
「なにィ!?」
驚愕の表情をした老人が慌てて空中を手で一振りして、二冊の冊子を取り寄せた。一冊目には今呼び寄せた魂リストが、もう一冊目には通過していった記録がのっかっている。これを見比べた爺様はしまったという顔をした。
「これはまずいことになったの。後を追っていったのは、先ほどの『英雄たち』の敵方の魂じゃ」
「あ~あ、ということはラインハルトを助ける魂の、その敵側の魂も送っちゃったってことですか、こりゃあ減俸ですみますかね~」
「構わん!!はっはっは!!一方的な展開では面白くなかろう!!これはいいぞ!!はっはっはっは~~~!!!!!」
老人が高笑いしたが、そこにはやけくその色が濃く漂っていた。
後書き
この後、爺様は減俸3割カットを食らいます。
「出国審査はいつどこのいかなる場所でもしっかりしなさいということですよ、爺様。」
としれっと栗色の髪の女性に諭された爺様でした。
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