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ダイエットは一苦労

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5部分:第五章


第五章

「それでそうした写真もさ。撮るんだよ」
「体操服って」
「ブルマーとかね」
「ブルマーってあれ?」
 祥子は何かよくわからないといったままで話を続けた。
「昔の体操服の」
「そう、それ」
 岩崎さんは答える。
「それもあるんだけれどね」
「祥子あれはちょっと」
 だが祥子はそれには難色を示してきた。
「何か嫌。嫌らしいよ」
「そうかなあ、昔は皆そうだったんだよ」
「そうなの」
 それを言われても今一つ実感が湧かないようである。今はブルマーというものは殆どなくなっている。大抵半ズボンやスパッツである。だから祥子もそれを聞いて顔を顰めさせているのだ。
「他のないの?」
「そうだね」
 岩崎さんはそれを聞いて考える顔になった。
「どうしても嫌?」
「祥子他のがいい」
 彼女はそう言ってあくまで引かない。
「何かないの?他に」
「じゃあ半ズボンでいい?」
 少し考えた後でこう述べてきた。
「そんなに嫌なら」
「うん、それだといいよ」
 祥子はそれを聞いて笑顔で答えてきた。
「半ズボンはいつも学校で穿いてるし。それだとね」
「まあそれもいいかな」
 また考える顔になってそう呟いた。
「それはそれでいいものだし。結構ね」
「そうなの?」
 その呟きを聞いて目をパチクリとさせる。
「半ズボンでもいいの?」
「ブルマーとはまた違ってね。僕は結構好きだよ」
 どうやらこれは彼自身の嗜好であるらしい。実際に半ズボンは半ズボンで健康的な色気があると人気があったりする。結局男というものはそうした生き物なのだ。何かがあればそれにすぐに飛びついてくるのだ。だから写真集も売れるのである。アイドルの方も同じ年頃なので彼等がどうして自分の写真集を買うのかはおおよそわかっている。それは祥子もそうであろうが彼女はかなりおっとりしているので薄々といったところである。
「カメラマンさんや出版社の人達と話してみるね」
「うん」
 これは程なく通り彼女は半ズボン姿を写真集で見せることになる。
 雑誌の撮影とその後の写真集の撮影は程なくして終わった。祥子にとってはようやく辛い日々が終わったということであった。
「やっと終わったよね」
 この日も岩崎さんが運転する車の中にいた。祥子は後ろの座席で女子高生そのものの明るい声で話をしていた。
「毎日毎日切なかったの」
「切なかったの」
「お腹空いて。しかも食べるものだって」
「そうだったのかなあ」
 岩崎さんはその言葉に首を傾げる。運転中だからかなり危ない。
「あまりそうは見えなかったけれど」
「だってケーキもお肉も食べられなかったし」
 祥子は口を尖らせて言う。
「だから大変だったのよ。自分で作ろうと思ったこともあったし」
「自分で?」
「そうよ」
 祥子は憮然とした顔で言う。
「だって。どうしても食べたいって思ったら自分で作らないとどうしようもないから」
「まあ確かにね」
 それは言うまでもないことであった。言われてみればそうである。
「たださ」
「何?」
 だがここで岩崎さんは一つ疑問に思うことがあったのでそれを口に出してきた。
「それ、使ってみない?」
「使うって!?」
「だからさ」
 目をキョトンとさせる祥子に対して言った。
「料理してでもって言ったよね」
「うん」
 それは頷いて認めた。だがそれでも何か訳のわからないといった顔のままであった。
「じゃあ料理番組出る気ない?」
「お料理の!?」
「どうかな、それだと食べられるしさ」
「何か面白そう」
 天真爛漫そのものの笑顔を見せてきた。
「いいわよね、それ」
「じゃあそれで決まりだね」
「うん、祥子それしたい」
 彼女はその笑顔で応えてきた。
「マネージャーさんお願い。それでね」
「何かな」
 話は上機嫌のまま進む。しかしここで落とし穴があった。
「試食とかお願いね」
「えっ、試食って」
 岩崎さんはそこまで考えていなかったので目をキョトンとさせた。
「だって皆に食べてもらうんだから。その前に誰かにね」
「あの、それはいいけれどさ」
 岩崎さんはその言葉を受けて祥子に問う。
「祥子ちゃんの料理は?やったことあるよね」
「ううん、あんまり」
 返事は彼が危惧したものそのままであった。そして祥子はかなり鈍臭い女の子なのだ。そこから導き出される答えといえば。
「けれどお願いね」
 その天真爛漫な笑顔で言われる。
「祥子頑張るから」
「わかったよ。じゃあ」
 それでもそれに応えることにした。これもマネージャーの務めなのだと覚悟を決めることにした。
「宜しくね」
「うん!」
 今度はマネージャーの受難がはじまった。祥子は乗り気だったが岩崎さんは肩を落としていた。それからは彼の苦闘の日々となったのであった。


ダイエットは一苦労   完


                    2006・11・24
 
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