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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第73話

~1週間後・ラヴェンヌ村・墓地~



ボースの復興が一通り落ち着いた後、アガットは花束を持ったティータと共に妹、ミーシャが眠る墓参りに来ていた。

「あ……」

「あんた……」

ティータとアガットはミーシャを含めた”百日戦役”で犠牲になった村人達の名前が彫られている慰霊碑の前にいるモルガンに驚いた。

「おぬしらか……」

「まさかあんたがこんな所にいるとはな。どういう風の吹き回しだ?」

「なに……ただの気まぐれだ。妹御に供えるのであろう?わしはこれで失礼しよう。」

「おいおい。邪魔なんて言ってねえだろ。その花は……あんたかい?」

去ろうとしたモルガンをアガットは引き止め、慰霊碑の前に置かれてある花束を見て尋ねた。

「……まあな。こんな事になるのであれば別の彩りを考えたのだが。」

「毎年、俺と同じ花を捧げているヤツ等がいるとは思ったが……。あんたがその一人とは思わなかったぜ。」

アガットは慰霊碑に供えてあるティータが持っている同じ花束を見て言った。

「さて、どうかな……。わしもいいかげん歳だ。どうだったか忘れてしまった。」

「ヘッ、よく言うぜ。」

「クスクス……。あの、わたしもお花、供えていーですか?」

「おお……」

「ああ、頼む。」

そしてティータは花束を慰霊碑に供え、アガットと共に黙祷をささげた。

「ふう……。悪かったな、ティータ。わざわざ付き合わせちまって。」

黙祷を終えたアガットはティータを見てお礼を言った。

「ううん、私も一度、ちゃんとミーシャさんに挨拶したかったですから……。ありがとう、アガットさん。」

お礼を言われたティータは優しい微笑みを見せてアガットに言った。



「おいおい。礼を言うのはこっちだろ。それに、仕事が一段落したら会わせるって約束だったしな。」

「えへへ……そーでしたね。」

「ふふ……。竜にも言われたそうだがおぬし、変わったようだな。落ち着きのようなものを感じさせるようになったぞ。」

2人の様子を見たモルガンは口元に笑みを浮かべた後、言った。

「よせよ、まだまだ未熟さ。だが、てめぇの未熟さとまっすぐ向き合うだけの覚悟はできた気がするぜ。全てはここからだ。」

「ふむ……。……おぬしの言っていた軍という組織の弊害だが……。改めて考えたら、おぬしの言葉も一理あると思ってな。」

「あれはその……単なる八つ当たりだ。別に軍が間違ってるとかそんな風には思っちゃいないさ。」

モルガンの話を聞いたアガットは気まずそうな表情で言った。

「まあ、聞け。今回の顛末で分かったのが、人と組織は異なるという事だ。軍の組織力が役立つこともあれば、遊撃士のフットワークが良い結果を導き出すこともある。どちらが欠けても今回の事件は解決できなかったと思わぬか?」

「……まあな。あんたらの作戦があったから竜の居場所が分かったわけだし。」

モルガンに尋ねられたアガットは静かに頷いた。

「リシャールの言葉ではないが……オーブメントが発明されてから物と情報の流れは、早く大きくなった。それを効率的に処理するために組織というものは、巨大化しながら細分化されることを余儀なくされている。」

「……軍がその良い例だな。国境師団、飛行艦隊、王室親衛隊、王都警備隊、情報部……」

モルガンの話を続けるようにアガットは例えを上げた。

「うむ……。そしてそれは、時代の流れに対応するための進化と言えよう。そこから抜け落ちるものが少なくないとはいえ……もはや後戻りはできんのだ。」

「………………………………」

「だからおぬしは……おぬしたち遊撃士は我々とは違うやり方で守るべきものを守るといい。」

「……え…………」

そしてモルガンの言葉を聞いたアガットは呆けた。

「互いの守るもののために時には対立し、時には協力し……そうすることで互いを補い、正しくあらんと確かめ合う。それが、わしらの関係の正しい在り方だとは思わぬか?」

「……ヘヘッ、違いない。ま、これからもせいぜい突っ込まさせてもらうからな。覚悟しとけよ?」

「フッ、それはこちらの台詞だ。軽はずみな事をしないよう日頃から心がけておくのだな。」

「クスクス……」

モルガンとアガットのやり取りにティータが微笑んでいたその時



「ほう………遊撃士と王国軍の将………珍しい組み合わせだな。」

なんと、リウイと花束を持ったイリーナ、そして同じように花束を持ったペテレーネとティアがアガット達に近づいて来た。

「なっ………あんた達は……!」

「リ、リウイ皇帝陛下!それにペテレーネ殿にティア殿も………!」

リウイ達の登場にアガットとモルガンは驚いた!

「あ、あのあの。ティアさんはともかく、ロレントにいるみなさんはどうしてこちらに?」

そこにティータが遠慮気味に尋ねた。

「………ボースの復興をしている我が軍の視察だ。……イリーナとペテレーネはその付添だ。それより……まさかお前達が俺達以外にも花を捧げている者達だったとはな………」

ティータの疑問にリウイは静かに答えた後、アガット達を見た。

「それはこっちのセリフだぜ。………他国の……それも皇族や宗教のトップのあんた達がなんで、こんな田舎まで来て毎年花を捧げてくれるんだ?数もあんた達が持っているのでちょうど合うし、毎年俺達以外に花を捧げていたのってあんた達だろ?」

リウイの問いに答えたアガットは尋ねた。そしてアガットの問いにイリーナが静かに答えた。

「……民に”国境”はありません。私とリウイは”皇族”として助けられなかった方達が安らかに眠れるように参らせて頂きました。」

「……私はアーライナ教の神官長として、毎年リウイ様と共にこちらに来ております。」

「……同じく私もイーリュン教の神官長として、癒せなかった方達が安らかに眠れるように、毎年来ております。……私達も花束を供えてもよろしいでしょうか?」

「あ、ああ。」

そしてイリーナ、ペテレーネ、ティアはそれぞれ花束を供え、リウイを含めたイリーナ達は黙祷した。

「………失礼ですが貴女は?」

黙祷が終わった後、モルガンはイリーナを見て尋ねた。

「……初めまして。私の名はイリーナ。リウイの正妃です。」

「なっ!?こ、これは失礼しました!リベール王国軍所属、モルガンと申します!………それにしても何故、今までリウイ陛下と共にお姿を現さなかったのでしょうか……?」

イリーナに会釈され、イリーナの身分を知って驚いたモルガンは敬礼をして自己紹介をして、イリーナに尋ねた。

「……イリーナは最近、俺の正妃になったばかりだ。この事を知っているのはマーシルン家の者達と一部の者達だけだ。式もまだ挙げていないし、知らないのも無理はない。」

「な、なんと、そうでございましたか……!この場にはいないアリシア女王陛下に代わり、祝福の言葉を贈らさせて頂きます……!ご結婚、おめでとうございます……!」

「ったく。墓地でそういう固い事はやめろよな……」

「あ、あはは………」

リウイの説明を聞いてリウイとイリーナに賛辞の言葉を贈るモルガンを見たアガットは呆れて溜息を吐き、ティータは苦笑していた。

「アガットさん。……プリネから話は聞きました。私達が間に合わなかったせいで妹さんを亡くされた事を……」

そしてペテレーネはアガットを見て言った。

「……全ての傷ついた方達を癒すという理念を持っておきながら、肝心な時に間に合わず、本当に申し訳ありません………」

さらにティアは続けるように言った後、申し訳なさそうな表情で謝罪した。

「いいって。あれは俺の八つ当たりみたいなものだしな………あの姫さんは何の悪い事もしていないのに、酷い事を言ってしまったぜ……何も悪くないあんた達の事を今まで悪く思ってしまって、本当にすまない……」

「フフ……あの娘の事だからきっと気にしていませんよ。だから、気にしないで下さい。」

「……大切なご家族を亡くされたのです。世間ではさまざまな方達を癒した事から”聖女”と言われる私とペテレーネ様や、そしてリベールと同盟を結んだ”大陸最強”と呼ばれる我が国を恨む気持ちがあってもおかしくはありません。私達は気にしていないので、どうか貴方も気になさらないで下さい。」

気まずそうに話すアガットを見たペテレーネは微笑んで言った。そしてティアは静かな表情で言った後、優しい微笑みをアガットに向けた。

「……ああ。……できれば今後もたまにでいいから、花を供えてやってくれ………ミーシャや他に眠っている奴等も喜ぶだろうしな………」

「「「はい。」」」

アガットの頼みにイリーナ、ペテレーネ、ティアは静かに頷いた。



「………そろそろ行くぞ。」

そしてリウイはイリーナ達を促して去ろうとしたが

「……待ってくれ。一つだけ尋ねたい事がある。」

「アガットさん?」

アガットがリウイ達を呼び止め、ティータは首を傾げた。

「………何だ?」

「”剣皇”………あんたもそうだが、なんであんたの娘――プリネもあの年齢であそこまでの”力”を持っているんだ?一体何を原動力にしてあそこまで強くなれる。」

リウイに見られたアガットは静かに問いかけた。

「………俺は俺とイリーナが誓い、そして戦友(とも)達が信じた”全ての種族が争う事がない世界を作る”という”覇道”を歩み続けるため、戦い続けているだけだ………プリネはお前達と変わらん。…………”守るべきものを守る”という思いで………な。お前達遊撃士、そして王国軍はその思いは同じであろう?」

「あ………………」

「ハッ。陛下のおっしゃる通り、”我らは守るべきものを守る”………その理念の元、戦い続けています。」

リウイの最後の言葉を聞いたアガットは呆けた声を出し、モルガンは真剣な表情で頷いた。

「”力”は人それぞれが持つ”信念”がどれほど強く持つかによって決まる。………”力”を得たいならお前はお前が持つ”信念”をより強く持ち、戦い続ければいつかは”真の力”を得るだろう……………行くぞ。」

そしてリウイは真剣な表情をアガットに向けて言った後、外套を翻してイリーナ達と共にその場を去った。

「…………”信念”………………」

アガットはリウイが言ったある言葉を呟き、去り行くリウイ達の背中が見えなくなるまで黙って見続けていた。

「フフ、まさか”大陸最強”と名高いリウイ陛下より助言を頂くとはな……よかったではないか。」

「…………へっ。”剣皇”の言うとおり、俺は俺の”信念”を強く持って戦う………そうすりゃ、いつかはメンフィルの姫君やあの銀髪野郎に追いつけるだろうしな………」

「フフ、アガットさんったら。」

口元に笑みを浮かべたモルガンの言葉に頷いたアガットも笑みを浮かべて言い、ティータはその様子を見て微笑んだその時



「フフ……。和やかな所を悪いが少し邪魔させてもらうぞ。」

後ろから声がし、そして振り向くと

「!!!」

「ふえっ……」

「おぬしは……」

なんと”剣帝”レーヴェが片手に花束を持って立っていた!

「将軍閣下とはこれが初めてか。”身喰らう蛇”の”執行者”―――レオンハルトという者だ。以後、お見知りおきを願おう。」

「なにっ!?」

「……てめぇ……どういうつもりだ……」

レーヴェの名乗りを聞いたモルガンは驚いた表情で大きな声で叫び、アガットはレーヴェを睨んで武器を構えた!

「ここは死者の眠る場所。するべきことは一つだろう。お前こそ、先日の続きをここで繰り広げるつもりか?」

「グッ……」

しかしレーヴェの言葉に言葉を詰まらせ、そして

「アガットさん……」

「……わかってる。」

心配そうな表情でティータに見られ、アガットは武器をしまった。それを見たレーヴェは慰霊碑の前に花束を供え、静かに黙祷した。

「………………………………」

「レオンハルト……”剣帝”レーヴェと言ったか。わしも死者の眠る場所を騒がしたくないのは同じだが……。ひとつ、聞かせてもらおうか。」

黙祷を終えても、目を閉じて黙っているレーヴェにモルガンは静かに問いかけた。

「ご随意に……」

「今回の事件で、おぬしは被害が大きくなりすぎないよう竜の暴走を抑えたそうだな。今も、死者を悼むためにそうして祈りを捧げている……。そんな者がどうして破壊と混沌を招こうとする?なにか……避けられぬ事情でもあるのか?」

「……フ…………竜の暴走を抑えたのは”実験”を正確に行うためだ。それ以外の意図はない。」

モルガンに問われたレーヴェは皮肉気に笑った後、静かに答えた。

「だが……」

「……俺は俺の命ずるまま”結社”の手足として動いている。何者の意志にも左右されずにな。”ハーメル”の沈黙を強いられたあなた方と一緒にしないでもらおう。」

「!!!」

不敵な笑みを浮かべて言ったレーヴェの言葉を聞いたモルガンは信じられない表情になって、レーヴェを見た。

「”ハーメル”だと?どうしてその名前が……」

一方アガットは不思議そうな表情をして呟いた。

「さてと……。アガット・クロスナー。覚悟が固まったからといって実力が伴わなければ意味はない。今度は、剣が弾き飛ばされるだけで済まされるとは思わないことだ。」

アガットの呟きに答えず、レーヴェはアガットに背中を見せたまま、不敵な笑みを浮かべて言った。

「ヘッ……上等だ。てめえこそ、いつまでも余裕ぶってられると思うなよ。すぐに追い上げてやるから覚悟してろや。」

「フッ……楽しみにしてるぞ。」

そしてレーヴェはアガット達から去って行った。



「……あのおにーさん。寂しそうな目をしてました。お祈りしている間、ずっと……」

「………………………………。おい……将軍。”ハーメル”ってのは国境を越えたところにある帝国側の村のことだよな?」

レーヴェが去った後、ティータは悲しそうな表情で呟き、アガットは厳しい表情で考え込んだ後、モルガンに尋ねた。

「おぬし……その名を知っているのか。」

尋ねられたモルガンは驚いた表情をして、尋ねた。

「戦争前は、ラヴェンヌ村とたまに交流があったはずだ。今じゃあ、まったく途絶えちまってるらしいが……。どうしてその名前が出てくる?」

「………………………………。……その事についてはわしの口から言うことはできん。国家間の問題に絡むのでな。」

「なに……!?」

モルガンの話を聞いたアガットは驚いた。

「ただ、これだけは言える。もしも、わしの想像が当たっているのであれば……。……あのレーヴェという男、よほどの地獄を見たに違いない。」



そしてモルガンはアガット達に再び慰霊碑を見て、重々しい雰囲気を纏わせて呟いた………………


 
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