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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第二部
狩るということ
  じゅうはち

 
前書き
突撃、寝起きドッキリ 

 
 ああ、クソ。

 物凄く裏切られた気分だ。

 本当に、こう、人型の蟷螂でもっとスマートな全体像を想像していた。
 無駄のないしなやかな体から撃ち出される、隙のない一撃を思い浮かべてしまっていた。

 私の勝手ではあるが、納得いかない。

 何とも言えない長く常に動いている触覚に、黒く鈍く光る、どちらかと言えば弾力性のある甲殻。
 確かに顔は三角形っぽい。ぽいだけで三角形とは言いがたく、台形と言った方が正解ではないかと思う。
 そこまで見るに、彼女達を襲ったのは本当にこの個体で相違はないのだろうか。

 ちょっと、私自信ない。

 とはいえ、大方コイツで間違いないだろうが、彼女が言っていた大きさよりも2回りほどは小さいだろう。
 恐怖やプレッシャーなどのインパクトから、やはり必要以上に過大に見てしまったということなのだろう。

 私は違う意味でインパクトを与えられてしまったが。

 そうだ。良いこと考えた。

 コンピューターガントレットに搭載したある、プラズマ爆弾をフルパワーで炸裂させれば、跡形もなく消し飛ぶぞ。

 よーし、やっちゃうか!

 私がコンピューターガントレットを開けようと左腕に手を置くと、ヤツはひん曲がった下顎をそのままに、私へと右拳を叩きつけてくる。
 やはり前後移動の瞬発力は想定通り高い。パンチのスピードもなかなかあるが、そんな大振りのテレフォンパンチ、私でなくても避けられる。

 私とヤツの体格の関係上、どうしても地面へと叩きつけるように放たれる拳を上半身を逸らして避け、ヤツの拳が地面にぶつかる瞬間、私は軽く跳躍し、拳が地面へと着いたのとほぼ同時に中途半端に伸びた腕の間接を逆側から踏み抜く。

 まるでプラスチックを無理矢理にネジ切ったような音と、中の筋肉繊維や筋をブチブチと破壊していく、それこそ虫ケラ踏み潰した不快な感触が私の足を伝ってくる。

「1本でーもにんじん」

 破壊した腕の1本を見て、何となく口から出てきてしまった。

 そんなごくごく暢気に、自然と声を出した私と同じく、ヤツは体液を撒き散らしながら、無理矢理に折られた腕を庇って金切り声を上げる。

 私との違いは、痛みによる絶叫であったが。

……そもそも虫の癖に痛覚あるんかい。

 顎を殴ったときに脳震盪を起こさなかったことから、脳のの大きさは大したことがないと思っていたが、痛みを感じるくらいには神経と脳は思った以上に発達しているようだ。
 それが分かったからといって、私のやることには変わりはない。『狩る』、それだけだ。

 また、睨み付けるようにその複眼で私を捉えていることから、怒りといった感情も持ち合わせているようにも思う。
 機械的に捕食や種の保存を行う、ただの昆虫よりはやり易い。何故ならば、表面に感情が発露するからだ。
 だから、威嚇するように金切り声を挙げ、私へと突っ込んでくるヤツの次の行動はあまりにも素直すぎた。

 ある程度の警戒心や知能があれば、様子を見るなり逃げに徹するなり、それなりの行動を見せるはずであるが、どうやらそこまでの知能はないらしい。

 まあ、癇癪を起こした子供と同程度ということだ。

 ヤツは、残った右拳の一本で私を殴りつけてくる。

「もっと!」

 それを私は左手でもって弾き返し、続けざまに降り下ろされた左腕を今度は右腕で弾く。

「熱く!」

 両腕を弾き跳ばされたヤツの体が開き、腹部が丸見えになる。
 しかし、ヤツには左腕がもう一本残されており、その一本の腕は私の視線の右斜め下、鋭いフック気味のアッパーを繰り出してきていた。
 ただの人間が食らえば、簡単に頭部を体から切り離すことができるそれを体を引いて紙一重で避けると、ヤツの腕の鋭い突起が私のヘルメットに接触し、火花を散らす。
 それに頓着することなく、右足を軸にバックターンの要領で体を回転させてヤツの背後へと回り込んだ。

 当然それで終わらせるつもりなど毛頭ない。

 いまだ弾かれて所在なさげな残った一本の右腕を掴んで背中側へと無理矢理回し、間接を極める。

「なれよぉ!」

 私の魂の叫びと同時、ヤツの背中を力一杯蹴りつける言わば喧嘩キックを炸裂さて、間接を極めた右腕を力任せ引き千切った。

「2本でーも……」

 体液を撒き散らしながら、ギャアギャアと地面をのたうち回るヤツの後頭部へ一発。

「……なんだっけ!」

 千切った腕を降り下ろして叩きつける。

 同質の堅さを持ったモノ同士、まるで車のボンネットを殴ったような低く腹に響く音を鳴らす。
 ヤツの頭には皹が入っており、流石に後頭部に無防備な一撃を喰らったことによって、立ち上がろうとするその足は何とも頼りない。
 フラフラと木にぶつかり、地面に倒れを繰り返しているヤツを視界に入れながら、不要となった手に持っているものを無造作に投げ捨てる、

 少々バランスが悪いのはご愛嬌として、これで足2本に腕2本。やっと我々と同じになったわけだ。

 すると、ヤツはギィギィと弱々しく、しかし歯軋りを数倍不快にしたような声を出し始めた。
 私は過去の経験から、これは愉快な仲間たちを呼び寄せているのだろうと当たりをつける。
 正直、精神的にも害悪であるこの存在が増えることに対して辟易としてしまうが、ここは一斉に駆除できると割りきって、黙ってその時を待つ。

 ヤツはこちらを警戒しつつ、ゆっくりと立ち上がる。

 そして、その時は意外とすぐに訪れた。

 私のヘルメットがもう1匹、目の前の個体と似かよった音源を捉え、その方角を示す。
 こちらへと近付いてくる速度はかなり早く、先日遭遇した面白生物(ガミュジュ)など比べ物にならない。
 私と同じように木々を跳び、地を駆けてお仲間の元へと最速で馳せ参じようとしているのが分かる。
 そして、そいつは私の前へとその姿を露にする。

……デケーな、おい。

 腕をもいだ個体よりも一回りは大きいのと合わせ、より刺々しく、全体的に鋭角なのが印象的だ。腕に生えているノコギリ状の刃もより長く、波打っている。

「番……ね」

 そう思い立って、小さい個体に目を向ける。
 騎士団を襲った個体はこちらの個体で間違いないだろう。そして、大きい方の個体だが、若干人で言うところの腹部の膨らみが目立つ。
 スキャンを開始してみれば、腹部の甲殻の下にカプセル状なった卵を抱えているのが確認でき、それに私は内心舌打ちをする。ゴキブリだゴキブリだとは思っていたが、これで確定的となった。
 このカプセル状の卵、1つのように見えるが、この中にかなりの数の幼虫が入っており、それが生まれる瞬間など見てしまった際は、トラウマになること間違いない。

 顎から威嚇音とおぼしき音を鳴らし、私を警戒しながら右腕2本を欠損しているオスへとを身を寄せていき、オスは甘えるように顔を擦り寄せる。

 刹那、オスの首から上が綺麗になくなる。

「おいおい……」

 流石の私もその光景に瞠目してしまう。

 司令塔を失った体は、それでもバタバタと動き続けようとし、それを4本の腕がガッチリと拘束する。
 もちろん、そんなことをするのはメスの個体しかおらず、ヤツはオスの頭部をまだ咀嚼しているのにも関わらず、口を開いて今度は胴体へと齧りついていた。
 堅く弾力のある甲殻を意図も容易く噛み砕き、それを咀嚼する強靭な顎と、リミッターを失ったことによって暴れまわろうとする意思のない体を簡単に押さえ付ける膂力には呆れ返る。

 そもそも思い返してみれば、ゴキブリは共食いをするものだった。
 自ら産み落とし、産まれたばかりの幼虫すら腹が減っていれば貪り喰らい、特に日本ではその姿形はもちろん、病原菌の巣窟である不潔な生き物として忌み嫌われている、何とも業の深い生き物だ。
 しかし、実は世界規模でみるとゴキブリの種類にもよるが、食用であったり愛玩ペットとしての側面の方が強かったりする。

 まあ、私には理解できない領域であるし、理解しようとも思わないが。
 それは人外になった昨今も変わらず、いまもって天敵であると認識しており、晩年その価値観に変化が訪れることはないだろう。

 そんな醜悪と言っても過言ではない、いっそ化け物とも呼べるヤツらを二足歩行にした目の前のメスは、私に目もくれず一心不乱に食事を続けている。
 脅威として認識されていないのか、はたまた食事に夢中でいまは思考の外に追いやられているのかは分からないが、随分とマイペースなものである。

 取り敢えず、小手調べとして私は両手にシュリケンを持ち、展開させて投げつける。
 回転しながら猛スピードで迫る2枚のシュリケンより少し遅れて、再度もう1枚を投げ付けた。
 それなりの巨体だ。どう左右に避けても当たることを計算に入れてあり、自ずと回避する方向は絞られてくる。つまり、上か下か、その何れかでしか私の投げ放ったシュリケンを避けることは不可能といえた。
 先も言った通り、ヤツの体の大きさなどを考えれば上に逃げるしか手段はないだろう。

 そしてヤツは私の予想通り、跳躍して3枚のシュリケンを避ける。
 流石虫。その跳躍力などは人間に比べるまでもなく、軽くメス自身の体長の倍は跳ねたのではないだろうか。
 しかし、滞空時間が長ければ長いほど、それは身動きのとれない空に拘束される時間が増えることになる。

 当然、それを見逃すほど私も甘くはない。

 瞬時にヤツをロックオンし、プラズマキャスターを放つ。
 蒼白く尾を引く流星は、突然に機動を変えたメスに痛打を浴びせることなく、紙一重で避けられた。

……忘れてた。アイツら飛ぶんだ。

 私は上空で大きな羽音を鳴らし、ホバリングをするメスを見上げる。

 戦略的な視点で見れば、自身よりも高い位置に敵を置くのはあまりよろしくない。制空権は言い過ぎかもしれないが、その優位制を取られるというのは現代の地球でも死活問題に直結する。
 それをヤツが意識しているかどうかは別として、本能的にそれが限りなく正解であるということを知っているのだろう。

 しかし、申し訳ないことに私に焦りはない。

 まず、私がプラズマキャスターという対空兵器を持っていることが1つ。また、本来ゴキブリは飛翔が得意でないというのが1つ。そして最大の理由が、この木々が生い茂る、言わば自然の障害物が多数存在し、見通しが悪い場所でゴキブリ自身がその巨体を生かすどころか、邪魔になるのが1つだ。ヤツ等は地面で這いつくばっている方が出鱈目に機動力が高いのである。
 それがただの野生の動物や、同じ知能レベルのモノが相手であれば上空からの攻勢は脅威となり得たであろう。
 私の体の作りが人型としては大きい部類に入るのかもしれないが、ヤツよりも小さい上にそんじょそこらの生物よりも俊敏に動くことができるのだ。
 地面の上であったならば、先ほど私が投げつけたシュリケンを回避したのを見るに、決して悪い動きではなかった。ヤツはそのアドバンテージを自ら捨てたのだ。

 では、上空にいるヤツに対してどういう手段に出るのか。

 答えは至ってシンプルである。

 私は次々とヘルメット内でヤツをロックオンしてプラズマキャスターを乱射する。

 1発、2発、3発。

 ヤツはでたらめな軌道を描いて避けていく。

 まあ、このプラズマキャスターを視認してから避けることができる時点で、空中でもそれなりの機動力と運動性能は持っているようだが、こちらの弾数は無制限である。

 4発目は余裕の欠片もなく避け、5発目がヤツの左腕を吹き飛ばし、六発目が右足の太ももから下を焼き払った。

 フラフラと下降しながらも跳び続けようとするメスの個体にシュリケンを投げつけ、それは狙い通りにヤツの左複眼へと、吸い込まれるように突き刺さった。

 女性は痛みに強いとは言うが、そこでメスの個体はやっと叫び声を上げ、落下していく。

 それと同時に地を蹴った私は、地面に落ちるタイミングに合わせて跳躍する。

 こちらを早期に警戒しようと、いままで私が立っていた場所に視線をやったのは褒めよう。しかし、既に私の体は地面からは離れているため、一瞬ヤツの視界から消えることとなった。
 既に背中に差してあった2段階伸縮式のツインブレードは私の右手の中で展開を終えおり、勢いそのまま、落下の力に自身の力を乗せ、すれ違い様に甲殻の薄い首筋へ一閃。

 まるで包丁で豆腐を切るように何の抵抗も感慨もなく、ツインブレードの冷たい刃はヤツの首を斬り飛ばした。

 既に癖になっている要領で、ぐるりとツインブレードを片手で回し、形だけヤツの体液を払う仕草を行う。

 昆虫類の生命力は凄まじく、特ゴキブリは嘘か本当か、首を切り落としたとしても数日は生きているという。しかも、その後息を引き取る理由は“餓死”だというではないか。
  
 私は斬り飛ばした頭部へと歩みを進めながら、ツインブレードを縮めて背中に戻すと、地面に接吻をしているその顔を蹴ってこちらへと向けさせる。

……あまり見たいものではないが、やはりというか、このメスはまだ息があるようだ。

 そこに、伸ばしたリストブレイドで串刺しにして完全に脳を破壊、更に数発、ガサガサと地面でのた打つ胴体へとプラズマキャスターをお見舞いする。特に腹部を重点的に焼き払っておかねばなるまい。

 リストブレイドを縮めれば、ずるりと滑った頭部が地面へと転がった。

 いまだ痙攣を続けるヤツの口元を一瞥し、私はぐるりと首を回した。

 
  
 

 
後書き
戦闘描写って難しい……。


5/17追記
この度、私事になりますが、読者皆様のお陰で日間一位となりました。
かなり遅くなりましたが、読者の皆様、誠にありがとうございます。
感想欄でお祝いの言葉をいただくまで知らなかったんです。

ええ、プレデターですよ。だって、プレデターですよ?

正直に申しますと、ランキングに上がるなんて、爪の先ほども思っておりませんでして、はい。
かなりマイペースにやっていこうと思ってた次第でして、はい。

ぶっちゃけビビってゲロ吐きそう。

それでは、私もマイペースに続けていきますので、気が向いたら読んでやってください。

引き続きのご愛顧、よろしくお願い致します。 
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