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宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました

作者:獲物
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第二部
狩るということ
  じゅうろく

 
前書き
ピッコロ装置へ女子を投入 

 
 彼女が目を覚ましたのは、あれから4日後のことであった。

 身体的損傷に関しては、欠損した左腕と左足を含め、僅か2日足らずで回復してみせた。むしろ、左腕に関しては神経の再接続やらを果たす大手術であったが、数時間程度であり縫合の跡も全くない。
 左足に関しては、一から再生させるということで左腕よりも時間は掛かったものの、1日半ほどで元の型にまで復元してみせた。
 あとは細かい傷やら骨折やらと、細々と処置して彼女の目が覚めるのを待つばかりとなったわけだ。

 特殊な溶液に満たされた医療ポット内で、目まぐるしく体が再生していく様は、グロテスクでもあり、神秘的でもあった。
 ちなみに全裸ではあるが、私の種族の特性上、シルエットが何となく分かるだけで、それ以外は全て真っ赤な視界である。
 これは彼女の名誉のために言っておく。そして、自己保身のためにも言わなければならないのだ。

 さて、目覚めての初日の彼女は、それはもう大変な、それこそ天と地がひっくり返ったのを目の当たりにしたかの如く狼狽し、パニックから軽い過呼吸に陥った。
 確かに、謎の液体の中で素っ裸で、しかもあんなことがあったばかりなのだ。
 既に4日は経っているが、目覚めたばかりの彼女にしてみれば、そんなことは関係ないのだから当然の成り行きと言えた。

 しかし、医療ポットの中で暴れられる訳にもいかないので、速効性の鎮静剤を投入し、強制的に眠らせる。そこから栄養剤や培養のために必要な、ポットに満たされた液体を排出し、彼女を中から出して簡単な衣服を着せてからベッドに横たわらせた。

 ベッドがビチャビチャになったが、この際気にしない。

……軽く拭いとけば良かった。

 実はちょっと気にし出した私ではあるが、後の祭りだ。
 取り敢えずは、我々種族用ではあるがバイタル等が確認できるものを彼女の体に装着して、近くに腰かける。

 あ、目が覚めたときにこの顔は些か不味い。

 寝起きにこの面を拝ませるとか、悪夢の再臨もいいところだ。

「ん……」

 やばい、ダッシュ。







 何故に私がこんなに焦らなくてはならないのか。
 一抹の違和感に首を傾げながらも、ヘルメットを装着済みの私は、彼女が寝ているだろう部屋へと入る。
 軽い空エアーの抜ける音とも共にスライドする自動扉の向こうで、既に目を覚ましているエリステインは、所在無さげにベッドから足を投げ出して座っていた。
 不安げな表情の中、警戒心を露にした瞳の色から一変、私であること認識すると、ほっと息を吐く。

「目が覚めたようだな」

 私の言葉にベッドを降りようとする彼女を片手を上げて止める。

「無理するな。左腕と左足は……問題無さそうだな」

 私は至って自然に振る舞う彼女に声をそう声を掛けたところで、自身の浅はかさを呪う。
 それは、彼女がどこか焦点の合わない瞳で自分の欠損した箇所を交互に見ながら、息を荒くしていく様を見せ付けられたからだ。

 顔を蒼白く染め上げながら、喘ぐように息をする彼女に近寄り、そっとその頬を撫でる。
 この爬虫類染みた手で触れられるのはアレだろうが、この際は致し方ない。
 その手で無理矢理に顔を上げさせて、私はその瞳をじっと見つめる。交差する視線の中、彼女の揺れていた瞳が私へと固定されていき、それと同期するように呼吸も落ち着いてくる。

「問題ない。その左腕も左足も間違いなく貴様の物だ。何も心配はいらない」

 左腕は切断されたものを縫合し、左足は彼女の細胞から培養したのだから、何も間違ってはいない。欠損したことを知らなければ、違和感も残らず、絶対に気付くことはないだろう。
 それほどまでに、医療ポットは完璧に仕上げることが可能な代物だ。

 是非とも、私用にもう一台用立てて欲しいものである。

「あぁっ、あの。わた、わたし……。なんでなんで……っ!」
「大丈夫、心配いらない。それにここは安全だ」

 理解したのかどうなのか、私はそれを確認せず、無理矢理にベッドへと横たわらせる。

「……まだ体力も戻っていない。寝ておけ」

 いまは何よりも休息が必要だろう。

 彼女はそれに逆らうことなく、まだ少し荒い息のまま目を閉じる。

 次に目を覚ましたとき、そのときは落ち着きを取り戻していることに期待しつつ、私は彼女の寝息が聞こえ始めるまでそこに居続けた。







 翌日、ブリッジで端末を操作していた私の元に、彼女が起きたことを告げるアラームが鳴る。
 常に室内をカメラが映し出しており、何度か寝返りを打つ様子も伺えたが、バイタルも安定しており、悪夢を見た風もない。終始落ち着いて眠りの中に入っていた彼女がゆっくりと起き出し、ベッドに腰かけたままキョロキョロと室内を見回していた。

 まだ夢現といったところだろう。

 勝手に歩き回られる前に、私から出向かなければならない。すぐ傍に置いておいたヘルメットを装着して、私はブリッジを後にする。

 こう言ってはなんだが、自分の船内、云わばマイホームであるのにどこか落ち着かないのは、やはり私以外の者が乗船しているからだろうか。
 決して他意はないのであるが、プレデターとして一人旅をしていたのも、実はそう悪くなかったのかもしれない。
 というよりもだ、明らかに厄介事に首を突っ込んでいる感が否めないのは何故だろうか。いったい私の計画はどこで狂った。いや、そもそも宇宙を航行中に、得体の知れないあの力場に捕まったのが一番の問題だったか……。

 頭頂部を人差し指の爪で掻きながら、今更ながらに愚痴を溢す。

 いや、目下の問題はいま、この船内にいる彼女をどうするかである。保護した野生動物のごとく、快復してから自然へと還すのがベストか。
 しかし、この船内を見られては、そう簡単な話でないのも頭が痛い。こちらに非がなくとも、何かしらの理由で私とこの船の存在が彼女の中で紐付いてしまうのは、それだけでリスクに繋がるのだ。
 数日前、かの総隊長からの質問に対し、私の存在を約束通り秘匿してくれたことは事実だ。だが、それよりも高位の者からであったら?宗教的な事由があったとしたら?彼女の生命に関わることになったとしたら?考え出したら切りがない。
 では、口封じに始末するか?と言われれば、だったら始めから助けるような真似などする必要もない。

 つらつらと考えを巡らせている内に、どうやら部屋へと到着してしまったようだ。
 結局考えは纏まることなく、私は部屋へと歩みを進めるしかない。

「あ、おはようございます」

 そう言って、ベッドの上から頭を下げる。

 目に見えるほどの疲労感を醸し出し、力無く笑うそれが余計に彼女の姿を小さくみせ、なんとも言えない気分になる。
 昨日と比べると随分と落ち着いているようで、それだけが私の心を多少なりとも軽くさせた。

「昨日はすみません、取り乱してしまって。お見苦しいところをお見せしてしまいました」
「いや、私こそ配慮が足りず、すまないことをした」

 僅かに頭を下げる私に、彼女は首を横に降る。

「あの、この腕と足はあなたが?」

 その問いに私は首を縦に振って応える。

 まあ、正確には私が貰い受けた医療ポットの性能であるが、それを伝えても仕方がない。どのように等と聞かれたら、取り敢えずは魔道具とかその辺りで誤魔化しておけばいいだろう。

「まさか、これもあなたが持っている魔道具の力ですか?」

 はいきたっ!

「そんな……。そんな貴重なものを、どうして」
「それができる物を私が持っていた。それだけだ。右腕と右足だけの生活は大変だろう?」
「そ、そう言うことを言っているのでは……」

 彼女の言いたいことは分かる。恐らく、魔道具でこういったものが存在はしているのだろうが、相当に高価な上に手に入れることもかなり困難なのだろう。また、一度だけ効果を発揮する使いきりとか、そういった物であろうことは想像できる。

「貴様は失った筈の左腕と左足が元に戻った。それでいいだろう」
「でも、私に返せるモノなんか……」

 ああ、対価ね。

……そんな尻窄みにならなくてもいいじゃない。そんな不埒なこと考えてないから心配するなよ。

「それならば、私とこの場の一切を口外しないと誓え。いまはそれでいい」

 私まじイケメン。

「でもっ!!」
「何かあれば、その時に伝える。それだけの価値があったのだろう? それには」

 なんか面倒なことになりそうなので、私はそう言って彼女の体を顎で示して、お茶を濁すことにした。
 実際、対価を受け取らない理由として、彼女が私に対してできることなど高が知れているというのが1つ。そもそもそんな対価が欲しいとか、そういったことすら頭になかったので一瞬私がパニクったのが1つ。イケメンになりたかったのが1つ。

 最初を除いて、どれもどうしようもない理由なのはご愛敬だ。

 まあ、一番は彼らがこれを送り込んできた、というのが最も足る理由であるが。
 完全な私の予想というか、希望的観測になるのだが、医療ポットをこのタイミングで送るという、そこに何かしらの意味があるのではないかと思う。彼らがそんな意味のない、非効率なことをするとは思えなかったのだ。

 もし、本当に何も考えてない、ノリと勢いだけで送りつけてきたのだとしたら、次に会ったとき、私はプラズマ爆弾を彼らに全力で投げ付ける。

 そんな私の思惑など知らない彼女は、蚊の鳴くような声で小さく返事をする。

「取り合えず、何かしら腹に入れておけ。話はその後にしよう」

 私は人間も食べることのできるレーションを差し出す。

 カロリーと栄養補給に重点を置いているため、味はお察しだ。
 それでも食べないよりはましだろう。

 彼女は小さく肩を震わせて、時折、鼻を啜りながら器用に両手でレーションの包みを開けていく。

「あんまり美味しくないですね」

 背を向けた私は顔だけそちらへと振り向き、くぐもった声にただ一言。

「……そうか」

 それだけを返した。 
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