宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第二部
狩るということ
じゅうご
前書き
医療ポッドはプロメテウスとか、エリジウムとかのを想像してくれるといいかも。
彼女を抱え、船へと辿り着いてすぐ。私は、移動中にコンピューターガントレットで起動させておいた医療ポットへとエリステインを寝かせる。
それと一緒に肩に担いでいた箱を下ろすと、彼女の薬液にまみれた腕を取り出して、所定の場所へ入れ込み、治療ボタンを押した。
あとは、勝手に医療ポットが彼女の体を治してくれるだろうことを期待し、私は光学迷彩機能を起動、再度外へと向かう。
彼女の左足を探さなくてはいけないのもそうだが、他に調べることもあるためだ。正直、他の生存者に関しては絶望的であり、そこに期待はしていない。
ご都合主義的に彼女が生きていた。それだけでも十分に奇跡だと言える。
というか、それ以前に彼らから齎された、この医療ポットがあまりにもご都合主義的過ぎる。が、そのお陰で彼女の命は繋ぎ止められそうなのだから、感謝こそすれ、そこに文句を付けるのはお門違いと言うものだろう。
船からの往復を終えた私が、再度足を踏み込んだ惨劇の場は、血の臭いに惹き付けられた者達の餌場と化していた。
――この中から見つけ出すのは骨だな。
声には出さず、喉の奥で言ちて舌打ちする。
私は、三つのサイトがそれぞれにの生物に重なった瞬間、プラズマキャスターに起動させた。
左肩アームに装着されている、計3門の砲身から蒼白い流星が絶え間なく放たれていくのを、ただただ機械的に、他人事のように眺め続ける。
頭を弾けさせ、胸に穴を空け、半身が吹き飛び、そんな物体が私の所為で更に量産されていく。
流石に、弾道から私の位置を測って、横合いから飛び掛かって来るモノもいたが、腰ホルスターからシュリケンを瞬時に投げ付けて黙らせる。
ある程度、音で場所が分かるのだから、そちらを見る必要もない。ヘルメットの力は偉大である。
そんなことを数分続けていると、ほとんどのケモノ共は逃げ出したようで、こちらへの敵性を検知することはなくなった。
プラズマキャスターの機能はそのまま、私が巡らせた視線に追従してくるのを音で感じ、ヘルメットの機能で策敵を開始する。
ほとんどは逃げ出したか、肉塊の一つになったようだが、私は自分で仕事を増やしてしまったかもしれない……。
まあ、私がこの場にいる内は下手な生き物が近付いてくることはないだろう。しかし、油断はできないので、ヘルメットの機能をフルに活用する。
騎士団を壊滅にまで追い込んだ生命体が、また近くに現れるかもしれないのだ。
そうだ。騎士団は“壊滅”したのだ。
私が目を離した、ものの数時間程度。
この惨状はその数時間程度の中で、恐らくものの数十分の出来事だろう。
あからさまに騎士達の体のパーツが足りないことを考えれば、食事をしていたのが妥当というところか。
となれば、エリステインの左足は絶望的……。
そんな思案の渦の中、私はあることに気付く。
「……総隊長と呼ばれていた男が見当たらない」
この死体の多さから、判別は難しいように感じたが、私は彼の骨格等のデータを引っ張り出して次々とスキャンを掛けていく。
……。
……。
……。
……該当なし、ね。
一目散に逃げ出したか。
まあ、この惨状だ。部下が無惨に死に逝く姿を見せられて、あまりの無力感に臆病風にでも吹かれたのだろう。理解できなくもないが、中には数名女性の騎士も見受けられるし、まだまだ若い男性騎士の体もある。肉の壁に使ったのかどうかは知らないが、恐らくは逃げ延びて、いまも生きているだろう。
若干、もやっとしたものを感じるが、取り立てて私には関係のないことと、不快感を瞬時に切り捨てる。
さて、それでは、どんな“化け物”がこれを起こしたのか、少々調査してみるとしようか。
―
私は視線を巡らせて、辺りのスキャンを開始する。
あまりにも不自然な倒れた木々や足跡から察するに、大きさは約6~7メートルほど。二足歩行であり、死体を検分したところ、そのほとんどが喰い千切られているか、凄まじい腕力でもって引き裂かれているかだ。
あとは鋭利な爪でも持っているのだろう。鋭くも人工的ではない、引っ掛かりのある雑な切り口が伺えた。
その他にはこれといって目立った箇所は無かったが、これだけの武装した人間が手も足も出せず、一方的に蹂躙されてるのだから、改めて随分と物騒な森だと認識せざるを得ない。
そこで、何故このような中途半端に食べ残して、また森の奥深くへ帰っていったのだろうかと疑問に思う。
死体の損傷を見るに、特定の部位に固執した偏食の傾向はないと見ていい。稀に野生の動物でもある特定の部位や、種族しか食さないといったモノもおり、地球でいうシャチなどがその最も足る例だろうか。端的に言ってしまえば、血液しか接種しないナミチスイコウモリなどもそうであるといえる。
襲撃者の体の大きさからみても、摂取量は決して多いとは言えないが、元々人間のような筋張った生き物を好んで食すような動物も少ない。まあ、自然なことかと考えを纏める。
熊等でよく聞くが、「一度人間の肉を食べると、味を覚えて~」とかなんとか言うが、あんなもの、警戒心が強くて機敏な野生の動物を選ぶよりも、人間の方が狩り易いからそれを覚えるだけだ。
分かる範囲での調査の結果、特筆すべきは強靭な肉体を持っている、大柄な生物といったことだけだ。
もしかしたら他にも特別な能力を持っている可能性もあるが、使う必要がなかったのか、はたまたそういった痕跡を残すことのないモノなのか。現時点では不明だということか。
あとは、本来ならこの森の最深部に生息する生き物による襲撃である可能性が非常に高い、といったところだ。
もう少し何かしらの情報が欲しいところであるが、もう一つの用事を済ましてしまおう。
私はおもむろに血に濡れて、何を言うこともない、横たわっている冷たい体を物色する。
何もそういった趣味があるわけでも、装備品を奪って売り捌こうなどとは思ってない。異星の騎士団が地球社会の軍隊と同じかどうかは分からないが、何か共通する個人を認識するもの、ドックタグのような物がないかを調べるためだ。
……ないな。
他の死体を引っくり返しも、それらしい物は見当たらない。
これは嵩張るかと思い、彼らが持っている剣の柄を見てみれば、やはり紋章のようなものが描かれている。
個人を認識するには至らないが、まあ名簿くらい持っているだろう。
ぐるりと見渡し、辺りに散乱するその数を認めた私は、溜息代わりに顫動音を鳴らす。
―
一抱えにした数十本の剣を地面に置き、ワイヤーでぐるぐると巻いて一纏めにする。
それを肩に担いで船へと戻ろうとした私のコンピューターガントレットが音を鳴らした。
蓋を開き、何事か確認してみれば、浮かび上がる立体映像のウィンドウから、医療ポットの処置が完了したとの通知であった。
意識はまだ戻っていないようであるが、事細かに彼女の状態が転送されてきており、それに目を通していけば、どうやら命に別状はないようだ。
あとは、見付からなかった左足の再生治療を行うよう、医療ポットに指示を出してからコンピューターガントレットの蓋を閉じる。
本当にすごいです、珪素系生命体産医療ポット。
各家庭に一台、間違いない。
これは売れる!
とまあ、冗談はさておき、一端の憂いは無くなった。あとは彼女が意識を取り戻したその時に話を聞けばいい。
そうだ。
狩るのはそれからでも遅くない。
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