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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第151話

9月19日―――



翌日、いつものように生徒会の依頼を終わらせた後旧校舎の探索を終えたリィンは昨日のトワの約束通り、端末室に向かった。



~トールズ士官学院・端末室~



「あれ……?まだ来てないみたいだな。―――あ。」

扉をノックしても返事が返って来ない事に首を傾げたリィンは教室に入って周囲を見回した際トワが居眠りをしている事に気付いて呆けた声を出した。

「スヤスヤ……むにゃ……」

(うーん……よく寝てるみたいだ。どうする……?起こすのも忍びないけど。……疲れてるんだろうし、しばらく寝かせてあげよう。そうだ……)

トワを起こすか起こさないかで悩んだリィンはトワを起こさない事に決め、トワが風邪を引かないように上着をかけた。

(―――これでよし。俺は……本でも読ませてもらうかな。)

そしてリィンは椅子に座って本を読み始めてトワが起きるのを待ち

(うふふ、今ので間違いなく好感度はアップね♪)

(このような気配りができるのに、どうして恋愛事になると、とたんに鈍くなるんでしょうね……?)

(ふふふ、それはご主人様だから仕方ないかと。)

(フフ、言われ放題ね、リィン……)

その様子を見守っていたベルフェゴールはからかいの表情になり、苦笑するメサイアの疑問にリザイラは静かな笑みを浮かべ、3人の念話を聞いていたアイドスは微笑ましそうにリィンを見つめていた。



~数時間後~



「ん……あれ……ここって……」

数時間後、日も暮れてすっかり夜になるとトワもようやく目覚め、自分の肩にかけられている真紅の上着に気付いた。

「……上着……?えっと……」

自分の肩にかけられている上着にトワが戸惑ったその時

「――会長。起きたみたいですね。」

リィンが声をかけてきた。



「あれ……リィン君……?あ、そっか……会議が終わってここに来て……それじゃ……この上着は……わわわっ、ごめんなさい!」

自分が居眠りをした事にようやく気付いたトワは慌てた様子で立ち上がった。

「自分で来いって言ったのにわたし、寝ちゃうなんてっ!」

「はは……気にしないでくださいよ。こっちの用事なんですし、忙しいのにありがたいです。」

「うう~……なんでリィン君の前だとこんなのばっかりなんだろ……こ、これ、ありがとう。」

(うふふ、彼女の場合は素の自分をさらけ出す事が出来る唯一の男って事でその内ご主人様を意識するでしょうね♪)

(フフ、確かにそれはありえそうですね。)

肩を落としてリィンに上着を返す様子のトワを見守っていたベルフェゴールの推測を聞いたメサイアは微笑みながら頷いた。



「いえ、もしかしたら余計かなと思ったんですが。暑くなかったですか?」

「ううん、ぽかぽかして気持ちよかったけど……―――じゃなくって!リィン君、そこに直りなさいっ!」

「へ……」

突如頬を膨らませて自分を睨み始めたトワの命令にリィンは呆けた。



「そ、その……!上着をかけてくれたのは紳士的だし、嬉しいけどっ。女の子の寝顔をずうっと見てるのはどうかと思うなっ。」

「いや……すみません。あまりによく寝てたから起こすのも忍びなくって……でも、そうですね。確かに配慮が足りませんでした。」

「ち、ちがうのっ!別に怒ってるわけじゃなくて!―――とにかくっ!あんまりこういうことを簡単にしちゃダメなんだからねっ!?」

その後トワは端末の前に座った。



「コホン………それじゃあ改めて。去年の学院祭の時にやった『演奏会(コンサート)』についてだけど。」

「あ、はい。先輩たち4人の出し物ですね。ひょっとして……何か記録でも残っているとか?」

「えへへ……実はそうなの。ルーレ工科大学で開発された”導力ビデオカメラ”のテストをちょうどジョルジュ君がやって……その記録が残ってるの。」

「導力ビデオカメラ……?」

聞き覚えのない単語を聞いたリィンは首を傾げた。



「うん、導力ネットとは別の技術みたいなんだけど。百聞は一見に如かずだね。さっそく映してみようか。」

「スクリーン……あれに写真を写すんですよね?」

「えへへ……それだけじゃないよー。それじゃあ始めるね♪」

そしてトワが端末を操作するとスクリーンに何かが映った。



「これは……」

スクリーンから音声が聞こえ、写真が動いている事にリィンは驚き

「うん、写真やラジオと違って映像と音声の両方が流せるの。ちょっと荒いかもだけどその場にいるみたいでしょ?」

「ええ。凄いな、これは……」

トワはリィンに説明をした。

「ふふっ……あ、そろそろ始まるよ!」

そして映像は進み、なんと大胆な衣装を身に纏っているトワ、クロウ、アンゼリカ、ジョルジュが映った。



「こ、これは……」

「えへへ、凄いでしょう?”ろっく”っていう新しいジャンルの音楽なんだって。”おーばるぎたー”っていう導力楽器なんかも使われているの。」

映像を見て驚いているリィンにトワは自慢げに説明し

(まあ……このような音楽が異世界にはあるのですか。)

(わたくし)も音楽は嗜みますが、長年生きてきて初めて聞きましたね。)

メサイアは目を丸くし、リザイラは興味ありげな表情をし

(ああ、これの事だったのね。ふふっ、随分と懐かしいわね~。世界が融合する前の世界―――”イアス=ステリナ”に人間の姿で紛れ込んで、人間達と一緒に楽しんでいた頃もあったわね~。)

(フフ、まさか世界が融合する前の遥か昔の文化が異世界で残っているなんて、不思議な偶然ね。)

ベルフェゴールは懐かしそうな表情をし、アイドスは微笑みながら映像を見つめていた。



「確かに凄いですね……その……衣装も大胆というか。正直、肌を多く露出している衣装を好む睡魔族と大して変わらないと思いますよ。」

「はわわっ……忘れてたっ!い、衣装はどうでもいいからステージに集中しなさいっ!」

リィンの指摘に慌てたトワは指摘した。

(これは……)

そしてリィンは興味津々な様子で映像を見つめていた。



「うおおおおっ……!」

その後映像のコンサートが終わるとリィンは興奮した様子で思わず拍手した。

「凄かった……!メチャクチャ良かったです!いやぁ……!これ、実際に見たかったですよ!」

「えへへ……そう言ってくれると嬉しいな。その、少しは参考になった?」

「ええ……この上なく!さすがにここまで出来るかはちょっとわかりませんけど……音楽に強い人達もいるし、何とかなりそうな気がします!」

(うわぁ……もしこれをやる事になったら、歴史バカであり音楽バカでもある”一角”が滅茶苦茶口出ししてきそうね~。あいつなら先程の音楽も絶対知っているでしょうし。ご主人様達も御愁傷ね~……)

恥ずかしそうな表情で微笑むトワの言葉に力強く頷いたリィンの答えを聞いたベルフェゴールは表情を引き攣らせた。



「そっか………よかった。今のステージ、クロウ君の企画だから相談してみるといいんじゃないかな?振り付けはアンちゃんだし、導力楽器はジョルジュ君に相談すれば力になってくれると思うよ。」

「そうですか………わかりました。」

「それと、この記録結晶(メモリアクオーツ)に今の映像をコピーしたから。この導力映写機にセットすれば見られるよ。明日にでもⅦ組のみんなと見てみるといいんじゃないかな?」

「あ、ありがとうございます。なんだか至れり尽くせりで申し訳ないっていうか……」

「ふふっ……おあいこ様だよ。話し合って、どんな出し物になるかはこれからだろうけど……リィン君たちの出し物楽しみにさせてもらうから。」

「はい……!」

その後トワから記録結晶を受け取ったリィンは寮に戻った。


~第三学生寮・リィンの私室~



「はは………みんな興味津々だったな。エリオットなんか完全に目を輝かしてたし。」

トワから貰った記録結晶をジッと見つめたリィンは数時間前の出来事を思い出して思わず声を上げて笑った。



~数時間前~



「やっぱりⅠ組は劇……それも古典劇をモチーフにした本格的な『オペレッタ』みたいね。」

「オペレッタ……小歌劇ですか。Ⅰ組がやるとなると衣装と舞台装置もかなり凝ったものになりそうですね。」

アリサの情報を聞いたエマは考え込み

「そうですね……きっとそれぞれの実家を通じて用意するでしょうから、どれも職人が用意した本格的な物になるでしょうね。」

「”貴族”ならではの”特権”ですね……」

「全く、学院祭に実家の金を使うとか、大人気なさすぎだろ。これだから貴族は……」

ツーヤの推測を聞いたセレーネは苦笑し、マキアスは呆れ

「だったら、こっちも対抗すればいいじゃん。何てたってプリネは”お姫様”なんだから。」

「そういう問題ではありませんよ、エヴリーヌお姉様……」

エヴリーヌの提案を聞いたプリネは呆れた表情をし

「フン……生意気な。」

ユーシスは鼻を鳴らして呟いた。



「Ⅱ組は屋内庭園みたいなパピリオンをやるみたいだね。星空をモチーフにしてたとか言ってたかなぁ。」

「それはまた凝ってるな……」

エリオットの情報を聞いたマキアスは驚き

「Ⅲ組は『ブレード』を使ったゲームコーナーをやるらしい。内装も古城風にアレンジして初心者への指南を始め、試合なども開催するとか。」

「へえ、そう来やがったか。」

ラウラの情報を聞いたクロウは感心した様子で呟いた。



「Ⅳ組は『東方喫茶』……異国情緒ある飲食店をやるそうだ。東方風というのがどういうものか、オレにはわからなかったが。」

「うーん、俺の刀なんかはまさに東方風ではあるけど……」

「はは、帝国じゃあんまり見かけない様式かもしれないね。」

「一体どのような飲食店なのでしょう?」

ガイウスの情報を聞いたリィンは考え込み、エリオットは苦笑し、セレーネは興味ありげな表情をした。



「Ⅴ組はかなり変わってる。練武場を使うアトラクションでその名も『みっしぃパニック』」

「それって確か……クロスベルにあるテーマパークのマスコットキャラじゃなかった?」

「またこの時期に微妙なネタを持ってきたな……」

フィーの情報を聞いたアリサは考え込み、マキアスは困った表情をし

「アハハ、ティオちゃんが聞いたら目の色を変えそうですね。」

「ああいうのって、え~と確か……”マニア”だっけ?」

「エ、エヴリーヌお姉様……一体どこでそんな言葉を学んだのですか?」

苦笑するツーヤの言葉に続いたエヴリーヌの言葉を聞いたプリネは疲れた表情で指摘した。



「あはは、みっしぃはボクもけっこうスキだよー。レクターが買ってきてくれたキーホルダーとかイイ感じだし。」

「フン、情報局土産か。……二年の有志だが、馬術部の部長が主催者となって競馬めいた催しをやるらしい。賭け事は無しだそうだがその男も噛んでいるそうだから裏では知れたものではなかろう。」

無邪気な笑顔を浮かべているミリアムの言葉に鼻を鳴らしたユーシスは自分が手に入れた情報を口にした後ジト目でクロウを見つめた。



「~~~~♪」

「クロウ……あのなぁ。」

「トワ会長に知られたら怒られちゃいますよ?」

口笛を吹いてあからさまに誤魔化しているクロウの様子にリィンは呆れ、エマは困った表情で指摘し

「いやぁ、お祭りなんだし固い事は抜きってことで♪」

指摘されたクロウは笑顔で答えを誤魔化した。



「他にも有志による屋台や部活ごとのイベントはあるが……規模という点では、この5つが僕達のライバルになりそうだな。」

「しかも、来場者からどの出し物が良かったかというアンケートも取るらしく……後夜祭で発表するみたいですね。」

「うーん、いかにも煽られている感じだけど……」

「だが、それでこそ一丸となって事に当たる価値があるだろう。問題は”何”を選ぶかだ。」

マキアスとエマの情報を聞いたエリオットは考え込み、ラウラは真剣な表情でリィン達を見回し、ラウラの言葉にその場は沈黙した。



「――話を聞く限り、大掛かりな設備が必要なものは避けたほうが良さそうだ。俺達の人数と期間では準備も運営もやりきれまい。」

「ええ、それは私も思った。でもそうなると……講堂のステージを使った出し物くらいになるのよね。」

「ステージを使った出し物か……Ⅰ組と直接ぶつかる事になるな。同じ劇というのも芸がないし……」

「まあ、どんな出し物にせよ全員でやれるものがいいだろう。武術の演武や模擬試合……いや、さすがに危険か。」

「でも、方向性はいいかも。いっそ料理バトルとか。」

「だったらボクは審査員がいいっ!」

「エヴリーヌも。そっちの方が楽そうだし。」

ラウラと共に提案を出したフィーの提案をを聞いたミリアムは元気よく手を挙げ、エヴリーヌも続いた。



「そんじゃあ、この俺様がプールを使ったステキでナイスなアイデアを披露してやろう。『ドキッ、女子限定、くんずほぐれつ水中騎馬戦~ポロリもあるよ~』なんてどうだ?Ⅶ組には何てたって、このトールズ士官学院が誇る”三大マドンナ”のプリネ、ツーヤ、セレーネの全員がいるんだから、間違いなく3人の水着姿が目当てかつあわよくばポロリを期待した男共で客が一杯になるぜ!?」

「却下(よ/だ/です)!!」

そして笑顔で提案したクロウの提案に女子全員は大声を上げて却下し、その様子を見守っていた男子達は冷や汗をかいた。



「……まったく。これではラチが明かんな。」

「うーん。どれも面白そうだけどなー。」

「――なあ、みんな。一つ、面白いアイデアを仕入れてきたんだけど。」

「面白いアイデア?」

「なにそれ?」

「ハハ、もしかしてトワから聞いたのかよ?」

リィンの提案を聞いたクラスメイト達がそれぞれ興味ありげな表情でリィンを見つめている中、心当たりがあるクロウは苦笑しながら尋ねた。



「ああ、映像をみせてもらった。クロウも人が悪いな……あんな凄いのをやってたのなら教えてくれればいいのに。」

「いやあ、二年の俺が言いだすのも何か違うだろ。」

「?話が見えないな?」

「ふむ、トワ会長から何かヒントでも貰ったのか?」

「ああ、去年やったっていうミニコンサートの映像をみせてもらったんだけど……」

そしてリィンはアリサ達にミニコンサートの話を聞かせた。



「ステージでの演奏……!しかもボーカル付きかぁ……!」

「ふむ……面白そうだな。」

「わたくし達が演奏をするのですか……とっても楽しそうですね♪」

(おおおおおおっ!かつて”ディル=リフィーナ”が二つの世界と融合する前の世界―――”イアス=ステリナ”の音楽を再現するとは素晴らしい!個人的にあの音楽は好かぬが、それでも今では廃れた音楽!是非それにするがよい!)

(うわぁ……よりにもよって音楽関連なんだ……というか案の定、アムドシアスが興奮しているよ……)

(五月蠅いですわね!興奮のあまり、私達にまで念話を送らないで下さい!)

(というか、貴女達も声に出しているから私にも聞こえてくるんだけど……)

リィンの話を聞いたエリオットとラウラ、セレーネは興味ありげな表情をし、アムドシアスは声を上げて興奮し、ペルルは表情を引き攣らせ、フィニリィは文句を言い、3人の念話を聞いていたプリネは冷や汗をかいた。



「フフ、また演奏する事になるとは思いませんした……」

「ああ、そういやイリーナお姉ちゃんの復活祝いにツーヤ達、演奏していたもんね。」

懐かしそうな表情をして呟いたツーヤの言葉を聞いたエヴリーヌはある出来事を思い出した。

「そういえば、去年の学院祭で凄まじく盛り上がった出し物があると聞いたことがあるが……」

「私も聞いたことがあります。クロウさんたちだったんですね。」

「おお、ゲリラ的なステージだったからアンケートは無効だったけどな。正式な出し物としてやったら上位間違いなしだったんじゃねえか?」

「フン、見てみないことにはまだ何とも言えんが……」

「ちょっとそそられるかも。」

「いーじゃん、いーじゃん!それで行こうよ!」

「とにかく、実際の映像を見る事はできるのよね?」

「ああ、トワ会長から映像の方も預かっている。明日の昼休みにでもみんなで見てみようか―――」

そして話が纏まった後リィン達は解散してそれぞれの私室に戻った。



~現在~



(うーん、みんなの驚く顔が目に浮かぶ気がするな。……まあ、衣装の露出はともかくとしてだけど。)

映像を見た時のクラスメイト達の反応を思い浮かべたリィンはトワ達が着ていた大胆な衣装を思い出して困った表情をした後時計が指している時間に気付いた。

「もう9時……アーベントタイムの時間か。」

その後リィンはラジオでいつもの番組を聞いた後、明日に備えて休み始めた。




 
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