英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第150話
9月18日―――
理事会から3日後……特別実習の続行が決定したことでリィン達Ⅶ組の意識はようやく来月の学院際に向き始めていた。
しかし、月末が潰れるということは準備期間が減ることでもあり……人数が少ないことも相まって”これは”というアイデアが中々出てこないでいた。
そして―――
~1年Ⅶ組~
「うーん、あっという間に週末ね。暑くもなく、寒くもなく。絶好の行楽日和でもあるし。明日の自由行動日は有意義に過ごすといいわ。―――ま、来週の水曜日には実技テストが控えてるんだけど。」
サラ教官の言葉を聞いたリィン達は冷や汗をかいた。
「ふう、水を差すようなことを言わないで下さい。」
「ハハッ、相変わらずだな。」
「そして来週の週末には『特別実習』ですか。」
「ええ、当初の予定通りね。――少し変更もありそうだけどまあ、誤差の範疇でしょうし。実技テストの後に発表するからせいぜい楽しみにしてなさい。」
「やけに思わせぶりですね……」
サラ教官の発言を聞いたリィンはジト目になり
「ま、いつもの事だね。」
「ワクワク、次はどこかなー。」
フィーは呆れた表情をし、ミリアムは無邪気な笑顔を浮かべ
「……今のⅦ組は人間関係で問題が起こっていませんから、どこになっても今までの特別実習を考えれば楽でしょうから、別に構いませんよ。」
「ツ、ツーヤ……」
「フッ、経験者が言うと重みがあるな。」
(お姉様に何があったのでしょう?)
「?よくわかんないけど、エヴリーヌもどこでもいいし。」
疲れた表情で呟いたツーヤの言葉を聞いたプリネは冷や汗をかき、レーヴェは静かな笑みを浮かべ、セレーネは戸惑い、エヴリーヌは首を傾げた後呟いた。
「それと来月の学院祭もそろそろ出し物を決める事。一年生は義務みたいなもんだから何もしないんだったら特別実習のレポートでも提示してもらうわよ?」
「ええっ!?」
「むむ、それはさすがに躊躇われるな……」
口元に笑みを浮かべたサラ教官の提案を聞いたエリオットは声を上げて驚き、ラウラは困った表情をした。
「HR終了。委員長、号令して。」
「は、はい。起立―――礼。」
そして教官達が教室を出るとリィン達は全員集まって学院祭の出し物について話し合い始めた。
「さ、さすがに実習のレポートの展示というのは冗談だろうが……とにかく来週明けには出し物をするか決めてしまおう。」
「そうですね……水曜には実技テストがあって週末は特別実習がありますし。」
「そうすると、明日中には当たりを付ける必要があるな。」
「他のクラスや有志の出し物も一通り調べた方がいいわね……内容がかぶったらお互いつまらないでしょうし。」
マキアスの提案を聞いたエマ、ガイウス、アリサはそれぞれ頷いて考え込み始めた。
「ああ、それはみんなで手分けして情報を集めよう。それと―――この人数でやれる出し物のアイデアだな。」
「そうだね……他のクラスは僕達の倍以上の人数だし。けっこう大掛かりな企画を考えてるみたいなんだよね。」
「人数の劣勢を覆せるような案があるといいのですが……」
「そうなると模擬店辺りが妥当ですけれど……」
「普通過ぎてつまんない気がする。エステル達みたいに劇だったら、人気は取れると思うけど。」
「さすがにこの人数では劇は難しいですし、何より練習時間が限られていますから、無理でしょうね……」
リィンの提案にエリオットは頷き、セレーネとツーヤは考え込み、エヴリーヌの提案を聞いたプリネは苦笑した。
「フン、人数が多ければ良いというわけじゃない。逆にこの人数だからこそ映える出し物はあるはずだ。」
「……なんだろ。想像もつかないけど。」
「まあ、そのあたりは全員の宿題というわけだな。」
ユーシスの提案を聞いたフィーは首を傾げ、ラウラは考え込み
「えへへ、何だか盛り上がってきたねー。」
「ま、若いモン同士、せいぜい気張るといいだろ。」
ミリアムは無邪気な笑顔を浮かべ、クロウは口元に笑みを浮かべてリィン達を見つめた。
その後解散したリィンは校舎内を回って多くの生徒達から学院祭の情報を聞いた後寮に戻ろうとすると虫の鳴き声に気付いて立ち止まった。
~校門~
「虫の音………一応、もう秋なんだな。…………(―――入学して半年……来月には学院祭もあるのか。はは、目まぐるしいというかあっという間だった気がするな。)」
「あれ~、リィン君?」
入学当時の自分を思い出して懐かしんでいるとトワがリィンに近づいてきた。
「トワ会長……珍しいですね。こんな所で会うなんて。そう言えば、生徒会室で何か会議をしてましたよね?」
「あれ、よく知ってるね?えへへ、ちょうどさっき終わった所でね。今日は早上がりをさせてもらったんだ~。」
「そうだったんですか。会議と言うと……やっぱり学院祭関連ですか?」
「うん、来月に向けて決めなくちゃいけないことが山ほどあるから。明日、生徒会メンバーで改めて話し合うことになったの。」
「はは……お疲れ様です。そういえば、明日の依頼はもう用意できていますか?何だったらここで受け取ってしまいますけど。」
「あ、リィン君への依頼は寮で寝る前にまとめてるの。うーん、これから商店街に買出しに出かけなきゃだし……ごめんね~、やっぱり明日の朝でもいいかなぁ?」
「いや、もちろん大丈夫です。」
リィンの答えを聞いたトワは真剣な表情で考え込んだ後リィンを見上げた。
「―――リィン君。それにⅦ組の他のみんなも。改めてになっちゃうけど……ガレリア要塞の件はありがとう。」
「あ……いや、頭を上げてくださいよ。もう何度もお礼を言われてますし。それに、あれは成り行きというか教官達を手伝っただけですし……」
トワに頭を下げられたリィンは呆けた後慌てた様子で言った。
「ううん、それでも君達はわたしにとって命の恩人だよ。あの時、わたしは通商会議とは別のフロアにいたけど……それでも、列車砲が発射されてオルキスタワーを直撃していたらたぶん助からなかったと思う。」
「それは……良かったです。会長が無事でいてくれて。」
「えへへ、ありがとう。あ、あんまりしつこくお礼を言うのもなんだし、このくらいにしておくねっ。」
「(うーん……本当に律儀な人だな。)そうだ、これから商店街で買出しって言ってましたよね?ひょっとして結構、荷物になるんじゃないですか?」
何度もお礼を言うトワの様子を苦笑しながら見守っていたリィンは話を変えた。
「うーん……それなりに、くらいかな?あ、そう言えば本屋さんで頼んでいた資料も来てたっけ……むむ、雑貨屋さんに行ったら一度戻らなきゃかも……」
リィンの質問を聞いたトワは困った表情で答えた後ある事を思い出して考え込み
「その、良かったら荷物持ちを引き受けますよ。いつもお世話になっているお礼ってわけじゃないですけど。」
トワの呟きを聞いたリィンは手伝いを申し出た。
「い、いいよぉ。さすがに申し訳ないし。その、すごく助かるけどそこまで手伝ってもらうのはちょっと心苦しいっていうか……って、すごく助かるとか催促してるわけじゃなくて~!」
「はは……」
勝手に自爆している様子のトワをリィンは微笑ましそうに見つめた後ある事を思いついた。
「……それなら、代わりに相談に乗ってもらえませんか?実は学院祭の出し物のことでちょっと困っていて―――」
そしてリィンはトワを手伝う名目を伝えた後、荷物持ちを務め、トワと共に多くの店を回り終えると既に日は暮れ、夜になっていた。
~夜・トリスタ~
「ふう―――これで終わりっと。わわっ、もうこんな時間!?」
店を出て一息ついたトワは既に夜になっている事に慌て
「はは……日が暮れるのも少し早くなってきましたね。それにしても会長がこの店の常連だとは思いませんでしたよ。」
慌てているトワをリィンは苦笑しながら見つめた。
「あはは、ミヒュトさん、色々な物を仕入れてくれるから。学院の購買で買えないものはいつもお願いしちゃってるかな~?イベントで使う花火とかペンギンの着ぐるみなんかを頼んだこともあったっけ。」
「なるほど、普通の店じゃ確かに無理そうですね。」
「うんうん……って。わわっ、いつの間にリィン君にそんな大荷物を!?ゴメンねっ!?わたしがもっと持つからっ!」
両手が荷物で塞がり、更に腕にも荷物が入った袋をかけているリィンにようやく気付いたトワは慌てた様子でリィンを見つめた。
「このくらい大丈夫ですよ。会長も結構持ってるんですから無理はしないでください。」
「ううっ……ゴメンね。その、コーヒーでも奢るからそこの休憩所で休んでいこう?学院祭の相談っていうのも聞かせて欲しいし。」
その後リィンはトワと共にベンチに座って一息ついた。
「そっかぁ……確かに難しい状況だねぇ。」
リィンからⅦ組の出し物についての事情を聞き終えたトワは困った表情で頷いてリィンを見つめた。
「うーん、大掛かりな設備や飾りつけが必要なものは人数的に無理だろうし……もちろん、簡単な飲食店なら大丈夫だとは思うけど。」
「やっぱりそうですか……でも、やるからには他のクラスに負けないものにしたいんですよね。」
「あはは、男の子だね。うーん、劇とかゲーム大会だったら小人数でも何とかなりそうだけど……どっちも他の1年のクラスが申請しちゃってるんだよねぇ。」
リィンの答えを聞いて微笑ましそうにリィンを見つめたトワは困った表情で自分が知っている情報を口にした。
「そうなんですか……うーん、ネタがかぶるのもちょっと避けたい所だな……そういえば……去年、先輩たち4人で舞台の出し物をしたそうですね?」
「はわわわっ……!き、聞いたんだっ!?えっと……どこまで聞いたの?」
今まで生きて来た自分の人生の中でもトップクラスに入る恥ずかしい出来事をリィンが口にするとトワは慌てた様子でリィンを見つめて問いかけた。
「いや、先輩たちには微妙にはぐらかされて……凄く盛り上がったとだけは聞いたんですけど。」
「うううう~……っ…………そんなに知りたい?」
リィンの答えを聞いたトワは肩を落とした後上目使いでリィンを見つめ
(うふふ、ここまで取り乱しているんだから是非聞いてみたいわよね♪)
(普段から慌てる事が多い彼女がここまで慌てるとはさぞかし恥ずかしい出来事なのでしょうね。)
(ア、アハハ……私もちょっとだけ気になってきました……)
(フフ、一体どんな事をしたのかしら?)
トワの様子を見たベルフェゴールとリザイラは興味ありげな表情をし、二人の念話を聞いていたメサイアは苦笑し、アイドスは微笑みながらトワを見つめ
「え、ええ……できれば。何かいいヒントが見つかるかもしれませんし。」
リィンは戸惑いの表情で頷いた。
「そっか……わかったよ。可愛い後輩の頼み……他ならぬリィン君の頼みだもん!勇気を振り絞って打ち明けるよ!」
リィンの答えを聞いたトワは何かを吹っ切ったかのような決意の表情でリィンを見つめ
「は、はあ……(そこまでの内容なのか?)」
トワの様子にリィンは戸惑いながら頷いた。
「えっとね、わたしたちがやったのは一言で言うと『演奏会』なの。ちょっとしたミニコンサートって言ったほうがいいのかな?」
「へえ……!ちょっと意外ですね。会長、楽器も弾けるんですか?」
トワの話を聞いて驚いたリィンは目を丸くしてトワを見つめて問いかけた。
「あはは、わたしはサッパリ。だから代わりに”歌”を担当したの。アンちゃんとクロウ君とジョルジュ君が演奏担当だね。」
「へえ……凄くハマリそうな感じですね。そうか、音楽だったらエリオットもいるわけだし、プリネさんの使い魔―――アムドシアスさんもいるしな……ちなみにどういうジャンルの音楽をやったんですか?」
「そ、それは……情熱的というか、……破天荒というか……」
リィンに尋ねられたトワは冷や汗をかいて言葉を濁した。
「情熱的?破天荒?」
(ん~?な~んか、心当たりがあるような気が……?)
(?気のせいかしら?随分昔にそんな印象を感じる演奏をどこかで聞いた事がある気がしてきたわ……)
トワの答えを聞いたリィンは首を傾げ、ベルフェゴールとアイドスもそれぞれ不思議そうな表情で首を傾げていた。
「あはは……帝国じゃまだあまり広まってないジャンルの音楽だったみたいで……帝都のオペラハウスとかじゃ絶対にやらないのは確かかなぁ。」
「???」
恥ずかしそうな表情で答えたトワの説明を聞いたリィンは首を傾げ
「ううっ……わかったよ。―――リィン君。明日の夕方、時間あるかなぁ?旧校舎の調査が終わってからでいいんだけど。」
リィンの様子を見たトワは肩を落とした後決意の表情でリィンを見上げた。
「明日の夕方……ええ、大丈夫だと思います。生徒会室に行けばいいんですね?」
「あ、ううん。本校舎の端末室に来てくれる?」
「端末室……わかりました。去年のコンサートの話に関係しているんですよね?」
「えへへ……それは明日のお楽しみかな。」
リィンの問いかけに微笑みながら答えを誤魔化したトワは立ち上がった。
「それじゃあ、お手数だけど第二学生寮まで付き合ってくれる?お互い、あんまり遅くなったら寮の夕食に間に合わないかもだし。」
「はは、そうですね。」
トワの言葉にリィンは頷きかけたが
「……って、だから会長はこれ以上持たなくていいですって。力仕事は後輩に任せてくださいよ。」
トワが自分より多くの荷物を持とうとした事に気付いて慌てた様子で制止し
「むううっ……リィン君のガンコ者。」
制止されたトワは頬を膨らませてリィンを睨んだ。
その後トワを第二学生寮に送り届けたリィンは第三学生寮に戻って夕食を取って一息ついた後、明日に備えて休み始めた。
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