英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~奇跡の再会~
~遊撃士協会・ロレント支部~
「そう……そんな事があったなんてね。」
エステル達の報告を聞いたアイナは静かに頷いた。
「ごめん、アイナ。もっと早く心当たりについて話しておけばよかったけど……」
シェラザードは申し訳なさそうな表情でアイナに謝罪した。
「ふふ、気にしないで。あなたの知り合いと分かってもなにか出来たわけじゃないしね。今度オゴってくれればいいわ。」
「ええ、お安い御用よ。」
「うーん、2人の飲みっぷりだと全然安くないような気が……」
「ガクガクブルブル……」
シェラザードとアイナの会話を聞いたエステルは苦笑し、オリビエはその光景を想像し、身震いした。
「霧もすっかり晴れたし昏睡していた人も目を覚ましたわ。みんな、本当にご苦労さまでした。今回は依頼が複数になったけどまとめて報酬を渡しておくわね。」
そしてアイナはエステル達に報酬を渡し、さらにどことなく顔色を悪くしているミントには推薦状を渡した。
「でも、やっぱり今回も根本的な解決じゃないよね。今度のゴスペルは人の精神まで干渉してきたし。それってやっぱり、今の技術じゃ説明できないの?」
「う、うん……。今までで1番説明できないかも。あとでおじいちゃんに報告書を送っておかなくちゃ。」
エステルに尋ねられたティータは不安そうな表情で頷き、答えた。
「ま、『ゴスペル』については爺さんの解析を待つしかねえだろ。それより、やっと『結社』の勢力が見えてきた気がするな。」
「ふむ、今回の件と合わせると……。4人の『執行者』が確認されたことになるのか。」
アガットの言葉に頷いたジンは真剣な表情で呟いた。
「ええ……。No.Ⅹ―――『怪盗紳士』ブルブラン。No.Ⅷ―――『痩せ狼』ヴァルター。No.Ⅵ―――『幻惑の鈴』ルシオラ。No.0―――『道化師』カンパネルラ。そして、この4人に加えて『教授』と『レーヴェ』という未確認の人物がいるみたいね。ひょっとしたらどちらかがロランス少尉かもしれないわ。」
ジンの言葉に答えるかのようにアイナは重々しく頷いて、話をした。
「うん……その可能性は高いかも。2人とも、あたしの知ってるヤツだって言ってたし……」
「確かに、ロランスという名前が偽名である可能性はありますね。」
エステルの言葉に頷いたクロ―ゼはロランスが偽名である事を推測した。
「しかし、たった6人ごときでここまでやってのけるとはな。ったく、やっかいな連中だぜ。」
「そうね……。あたしたちも、これまで以上に覚悟を固める必要がありそうだわ。」
「シェラ姉……いいの?」
アガットの話を聞き、決意の表情になっているシェラザードにエステルは尋ねた。
「ふふ、言ったでしょう?リベールは新たな故郷だって。故郷を守るのに理由はいらないわ。たとえ、昔の故郷の思い出と戦うことになったとしても。」
「シェラ姉……」
「なあ、シェラザード。最初から答えを決める必要はないと思うぜ。」
寂しげに笑っているシェラザードにジンは声をかけた。
「え……」
ジンの言葉に驚いたシェラザードはジンを見た。
「俺とヴァルターは互いに戦うことを納得している。もう、拳と拳を通じてしかお互い何も伝えられないんだ。だが、お前たちは必ずしもそうと決まったわけじゃあるまい?」
「それは……」
「ジンさんの言う通りだと思う。シェラ姉がどうしたいのか、これから見極めればいいわよ。あたしだって……やっと見つけられたんだし。」
「え……」
エステルの言葉にシェラザードが驚いている中、エステルは決意の表情になって、仲間達に言った。
「ねえ、みんな。こんな時に何だけど……見て欲しいものがあるの。」
「あん……?」
「エステルさん……?」
「エステル、まさか……」
「うん……。これ、雑誌社の人たちにもらった写真なんだけど……」
そしてエステルはドロシーから貰った写真を仲間達に見せた。
「こいつは……空賊艇の奪還事件のブツか。」
「なるほど……こんなものがあったのか。」
「ふむ、左にいるのが武術大会にも出場していた空賊団の娘だな。そして右にいるのが……」
写真を見たアガットは写真を睨み、オリビエは驚き、ジンも驚いた表情で呟き
「あ……」
「ヨ、ヨシュアお兄ちゃん!?」
クロ―ゼが写真の中に写っている人物――ヨシュアを見て呆然とし、ティータが信じられない表情で言った。
「えっと……今まで黙っててゴメン。ちょっと動揺しちゃってなかなか言い出せなくて……実はレンからもらった写真もこの写真と関連するようなものばかりなんだ………」
「お姉ちゃん……」
「エステルさん……」
自分達に謝るエステルをティータとクロ―ゼは心配そうな表情で見ていた。
「ヨシュアが何をするつもりかあたしには分からないけど……。多分、ヨシュアなりの方法で『結社』に迫るつもりだと思う。空賊たちと一緒になって悪さはしないと思うんだけど……」
「ええ、分かっているわ。写真も顔半分が隠れているから決定的な証拠にはならないしね。この情報はギルド内に留めておきましょう。……残りの写真には決定的な証拠が写っているかもしれないけど、渡さなくていいわ。」
辛そうな表情で語るエステルにアイナは言った。
「ありがと、アイナさん。」
「で、でも……エステルさんはいいんですか?せっかくヨシュアさんの手がかりが見つかったのに……」
「うん……。あたしがあたしである限り、ヨシュアとの絆はなくならない。そう思えるようになったからあんまり焦らないようにしたわ。」
「あ……」
凛とした表情で話すエステルにクロ―ゼは驚いた。
「違う道を歩いているけど目指す場所はきっと同じだから。だから今は……自分自身の道を行こうと思う。そうじゃないとあたしはあたしとして強くなれないから。」
「エステルさん……」
「えへへ……なんてカッコ付けてるけど……。ヨシュアとボクっ子の関係とかやっぱり気になるのよね。まだまだ修行が足りない証拠だわ。」
「ふふ……エステルさんったら。」
苦笑するエステルを見て、クロ―ゼは微笑んだ。
「ふふ、ちゃんと答えを見つけられたじゃないの。どうやら森で見た夢が良い方向に働いたみたいね?」
「んー……実はあたし、眠らされたクロ―ゼやアガット、ミントと違って、夢は見ていないのよね……」
「え……?」
エステルの話を聞いたシェラザードは驚いた。
「そういえば、エステル。ミストヴァルトであの女から庇った時、お前、髪や瞳の色を変えた上、おまけに口調もいつもと違っていたが……あれは何だったんだ?」
「あの時……陛下はエステルさんの事を”ラピス”とおっしゃっていましたが、あれは一体……」
「それにあんた………あの”覇王”に『私とラピスお姉様を娶った男』って言ってたわね?あれはどういう意味?」
アガットやクロ―ゼ、シェラザードはミストヴァルトであった出来事を思い出して、エステルに尋ねた。
「………そうね。みんなには話さないとね。」
そしてエステルは自分の中にリウイの側室であったラピスとリンの魂が眠っていた事、そしてミストヴァルトで意識を失った時に2人と出会い、そして2人と同化した事、2人と同化した事で2人の記憶を受け継いだ事を説明した。
「……………………………」
エステルの説明を聞き、その場にいた全員は信じられない表情でエステルを見ていた。
「エステルさん………じゃあ、あの口調はエステルさんの中にいるお2人の……?」
「うん。……その証拠を今、見せてあげるわ。」
驚いた表情でクロ―ゼがエステルに尋ねたその時、エステルは目を閉じた後集中した。するとエステルの髪の色は美しい黒髪になり、そして瞳は翡翠の瞳になった!
「!!」
「お、お姉ちゃん………!?」
「……その髪と瞳は、武術大会で見せた時の……!」
黒髪と翡翠の瞳になったエステルを見たクロ―ゼは驚き、ティータは不安そうな表情で声を上げ、ジンは武術大会の事を思い出して声を上げた。
「フフ………あの時、陛下は”私”と思ってくれたお陰で、なんとか踏みとどまってくれました。……本当は”あたし”なんだけどね………騙すような形だったけど、あの時はあの方法しか思い浮かばなかったのよね~。」
黒髪のエステルは優しく微笑んでラピスの口調で言った後、すぐに自分の口調に戻して苦笑していた。
「おい、エステル………さっきの口調はなんだ?」
「え?ああ、口調ね。……癖よ。2人それぞれの”力”を片方だけこうやって……解放したら、解放した方の口調が癖みたいな形で出てしまうのだ。」
アガットに尋ねられたエステルは今度は金髪と紫紺の瞳になり、リンの口調で答えた。
「エステル………2人の記憶を受け継いだって言ってたけど……貴女……それで何ともないの?」
アイナは驚いた後、心配そうな表情でエステルに尋ねた。そして尋ねられたエステルは元の姿に戻って答えた。
「うーん……無いと言えば嘘になるわね………2人はリウイの側室だったから、リウイを愛していた記憶とかあるから、正直あたしとしては複雑な気分なのよね~。」
アイナの疑問にエステルは苦笑しながら答えた。
「エステルさん……もしかして、2人の影響を受けて、まさかリウイ陛下の事を……」
「あ!勘違いしないでね!あたしにとってリウイはあくまで”友人”よ!あたしが言っているのはその……お互いを愛し合った記憶とかあるから、変な気分なのよ~!あたしはまだ、そんな事どころか、恋人もいないのに!」
不安そうな表情で尋ねたクロ―ゼにエステルは慌てて答えた後、顔を赤らめて恥ずかしそうな表情で叫んだ。
「そ、それは………」
「そりゃ、確かに……ね。経験もしていないのに、そんなのが記憶にあったらあたしでも複雑な気分になるわ………」
「ムフフ………一体どんな記憶があるのか、非常に気になるよ♪」
エステルの言葉からある事を察したクロ―ゼは顔を赤らめて苦笑し、シェラザードはエステルの言葉に同意し、オリビエは顔を緩めていた。
「……ま、受け継いだのは記憶だけじゃなく、2人の技も受け継いだから前よりもっと強くなった気分よ!2人と一緒になって、本当によかったわ!今回は『ゴスペル』に感謝しなくちゃね!」
「ったく……。やっぱりお前、大物だわ。」
「ハハ……この調子なら将来は旦那を超える大物になるな。」
エステルの言葉にアガットは苦笑しながらエステルに感心し、ジンは笑いながらアガットの言葉に頷いた。
「ねえ……気になったんだけど、ミント、どこか具合が悪いのかしら?さっきからその子、ずっと黙ったままよ?」
「へ……?」
アイナの言葉に首を傾げたエステルはミントを見た。
「ハア……ハア……な、なんでも……ないよ……?……ママ……」
エステルに見られたミントは顔色を悪くしながらも笑顔をエステルに見せた。
「「ミントちゃん!?」」
「どうしたの、ミント!?」
ミントの様子にクロ―ゼとティータは心配そうな表情で声を上げ、エステルはミントに駆け寄って、自分の手をミントの額に当てた。
「!!凄い熱!どうして、黙っていたの!?」
ミントの熱を測ったエステルは驚いた後、血相を変えてミントに尋ねた。
「ごめん……ね……ミント………ママ……に……心配を……かけたく……な……………」
ミントは弱々しい笑みを見せた後、言葉を言い終えずに意識を失って倒れた。
「ミント!しっかして!ねえ!」
「ミントちゃん!」
「目を開けて下さい!」
倒れたミントをエステルは抱きあげて呼びかけ、ティータやクロ―ゼも駆け寄って心配そうな表情で呼びかけた。
「エステル!今はその子を休ませる事が先決よ!急いで家のベッドに運ぶわよ!」
「う、うん!」
そしてエステルはミントを背負い、急いでブライト家に戻ってベッドに寝かせ、レナと共に看病を始めた。
~メンフィル大使館・リウイ大使の部屋~
一方その頃、ミストヴァルトから戻って来たリウイは大使館の自分の部屋に入った。
「……それにしてもペテレーネが随分慌てた様子で部屋に戻るよう言っていたが何があるというのだ……?………!?」
自分の部屋に入ったリウイはペテレーネの様子がおかしかったことを不思議に思ったその時、目の前に自分に背を向けている淡い緑のドレス姿の女性――自分にとってあまりにも見覚えがありすぎる背中の人物に気付き驚いて、言葉を失くした。
「あ……お帰りなさい、陛下………!」
ドレスを着た女性――イリーナは振り向いて、リウイを見て嬉しそうな表情をした後、優しい微笑みを浮かべた。
「なっ……!?……………目が覚めたのか。……そのドレス姿は一体何だ?いつもの仕事着はどうした。」
目の前の人物に優しい微笑みを向けられたリウイは一瞬かつてのイリーナと重なって見えたが、今のイリーナは自分が求めるイリーナではない事を思い出し、気を取り直して尋ねた。
「フフ……ペテレーネが用意してくれたのよ。”私”がいつでも目覚めてもいいように、用意してくれていたようね……」
「!?お、おい。一体何を言っている………」
イリーナの口調やペテレーネを呼び捨てにしている事――まるで生前の”イリーナ”のような口調で話すイリーナにリウイは一瞬驚いた後、声を震わせてイリーナに尋ねた。そしてイリーナはリウイに近付いて、リウイを抱きしめて呟いた。
「『自分の道を信じなさい………』」
「!!その言葉を……プリゾアの遺言を知っているのは俺と”イリーナ”だけのはず………!ま、まさかお前………!」
イリーナが呟いた言葉に目を見開いて驚いた表情になったリウイは身体中を震わせながらイリーナを見た。
「『貴方に出会えてよかった……貴方を憎んだこともあったけど、でも今は、こうして貴方の腕の中にいることが、嬉しい……』これでもまだわかりませんか?………”あなた”。」
「!!!イリーナッ!!」
イリーナの輝くような笑みを見たリウイはイリーナを強く抱きしめた。
「もう二度と会えないかと思いました………けどあなたはずっと私を捜し、こうしてまた会うことが出来て………本当に嬉しい………」
「俺も……俺もだ!目覚めてくれてありがとう……本当に………ありがとう………!」
リウイは涙を流しながらイリーナを抱きしめて言った。
「私が逝き、苦しみ、迷いながらも、私達の理想を捨てないでくれて、ありがとう……それに私を忘れないでくれて……」
「お前がいてくれたから、俺はここまで生きていられたんだ………!」
涙を流しながら微笑むイリーナにリウイは声を震わせながら答えた。
「私の魂が彷徨い………ブレア―ドや邪竜に囚われもしましたが………けど、そのお陰で”神核”に限りなく近い”力”も手に入れ、目覚めた事によってその”力”も目覚めました……!だから……普通の人間の方より……ずっと長く……生きていられます……だから………これからはカーリアン様やファーミシルス様のように……ずっと……永く……あなたを傍で支え続ける事が……できます……!けど……今の私は……”イリーナ・マグダエル”でもあります……それでも……傍に置いてくれますか……?」
「そんな事はどうでもいい!今はお前が目覚め、こうして俺の傍にいるだけで十分だ!」
「あなた………!ん……………ちゅ………」
そしてリウイとイリーナは深い口づけを交わした。その夜、イリーナは愛する夫――リウイに”二度目の処女”を捧げ、そして2人は失った時間を取り戻すかのようにお互いを深く愛し合った………
こうしてさまざまな運命が絡み合い、永い時を得て、”闇王”と”聖王妃”はついに再会した……………!
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