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魔法少女リリカルなのはINNOCENT ~風雪の忍と光の戦士~

作者:DEM
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第一話 始動 ―ゲームスタート―

 
前書き
 はじめましての方は初めまして、DEMといいます。以前書いた月神さんの小説のサイドストーリーを、同時間軸の別視点の物語として本格的に語っていくことにしました! お楽しみいただければ嬉しいです! 

 
「……ふぅ。やっと終わったか」

 廊下に出て職員室の扉を閉め、山彦(やまびこ)市立加賀(かが)学園高等部一年、日向(ひゅうが) 疾風(はやて)は息を吐いて汗の張り付いた制服のシャツの襟を仰いだ。その日彼は日直だったのだが、黒板を消したり日誌を書いたり……等とやることが多く、全ての仕事が終わったのは授業が終わってしばらく経ってからだった。……もっとも、一人でやっていたわけではないのだが。

「……悪かったな、小野寺。俺の手際が悪いせいで遅くなっちまって」

「気にしない、で。私も日直だったんだ、し」

 小さく首を振りながらそう言ってくれたのは、美しい黒髪を腰辺りまでストレートで伸ばし、目元を前髪で隠した少女、小野寺(おのでら) 紗那(さな)。彼女は疾風の隣の席であり、今日は同じく日直だったので一緒に仕事をしていたのだった。

「んじゃ、帰ろうか。途中まで一緒に行こうぜ」

「うん」

 そう言って、帰り道が似通っているので二人並んで歩き出す。その道中、疾風はふと思い出したことがあった。

「そういや今日だったっけ? 小野寺がやりたがってたゲームが正式リリースされるのって。……えっと……なんつったっけか」

「……ブレイブデュエル。うん、“あれ”を見た時からずっとやりたかったから……ようやく、だよ」

 紗那は口数が少なく感情がわかりにくいのでわかる人にしかわからないが、口調が弾んでいてかなり嬉しそうだ。疾風は入学して隣の席に座って以来彼女とは仲良くしているので、いろいろとプライベートなことも話し合える仲になった。



 彼女がブレイブデュエルなるゲームを知ったきっかけは、親戚の叔母だったそうだ。その手の業界関係の仕事をしている彼女の叔母の職場に荷物を届けに行った時に、お礼と宣伝をかねて、その叔母がブレイブデュエルのロケテストに招かれた際に撮った資料映像を見せてもらったらしい。VRゲームにはそこまで興味のなかった紗那だったのだが、映像を見た瞬間にその世界に心奪われた。

 そこに映っていたのは、一組の少年と少女の戦いだった。

 一人は、紫を基調としつつ赤紫のラインが入った衣装に身を包み、澄み切った青い瞳をした茶髪の少女。ただ相手に考えを読ませないようにしているのか、表情から感情を読み取ることは難しい。そんな少女の手には、紫の宝石の嵌め込まれたメカニカルな杖が確認できる。おそらくこれが彼女の武器なのだろう。

 その少女に相対するのは、漆黒のロングコートを(なび)かせた黒髪の少年。インナーやズボンもロングコートと同じ色をしているので全身黒ずくめだ。彼の右手には肉厚な刀身の黒い剣が、左手には右とは対照的に華奢な白い剣が握られている。

『『……ッ!』』

 一瞬の静寂の後、無声の気合と共に両者は動き始めた。

 まず少女が無数の炎弾を周囲に出現させ、様々な軌道で飛ばして少年に攻撃を仕掛けた。だが少年はそれに臆する素振りは全く見せず、接近しながら炎弾を斬り捨てていく。

『さすがですね……ですが元々それであなたを止められるとは思っていません』

 少女はそう言いながら杖を持ち替えて両手でしっかりと持ち、先端を少年へと向ける。そこに炎が収束されたかと思うと、次の瞬間それが業火と化して少年に向け一直線に放たれた。

『……っ!? なら……!』

 炎弾を全て斬り伏せた少年は自分に迫っている業火に気づき、瞬時に左手の剣を回転させ始める。残像が見えるほど高速で回転するそれは圧倒的な熱量をどうにか受け止め、霧散させてみせた。業火の残り火が周囲を舞う中、少年は純白の剣の回転を緩めながら握り締めつつ右手の黒い剣を肩に担ぐように構える。漆黒の刀身が真紅色に輝いたかと思うと、灼熱の炎が溢れ始めた。

『次は……こっちの番だ!』

 そう叫んで、少年は黒い剣を前方に突き出し少女へと接近し始めた。圧倒的な加速を得て少女に迫る少年の一撃、はまるで真紅の流星のようだ。

『く……!』

『ちっ……』

 勝負が決まるかと思えたが、少女は紙一重で身を捻り回避に成功し、すぐさま体勢を立て直して再び無数の炎弾を少年へと放った。だが少年も決まらなかったことに舌打ちしつつもこの展開を予想していたのか、慌てることなく全て斬り伏せていく。

『ならば……参ります!』

 先ほどのように砲撃では意味がないと思ったのか、少女は一度杖をペンダントにして首元に下げ、両手に炎を纏わせて距離を詰めた。これまでの戦闘を見る限り、近接戦は少年の方が得意に思える。しかし、密着するほどの距離での近接戦では剣よりも素手による格闘の方がリーチが短い分有利だ。

『はあぁぁぁぁ……っ!』

『う……おぉぉぉぉっ!』

 両者は互いに気合の声を発しながら、瞬きが許されないほどの速度で攻防が行われる。だが全て際どいタイミングで防御または回避が行われ、掠るものはあれど有効打は一撃もない。

『『………………っ!?』』

 凄まじい応酬の末、互いに攻撃をかわしたことで両者は交差する。攻撃の勢いがあったこともあり、両者の間にわずかだが距離が開いた。すかさず少女はペンダントを杖に戻し両手で握り絞めながら先端を少年へと向け、少年も再度右手の剣を肩に担ぐようにしながら腕を引き絞った。

『っ……!』

『らぁっ!』

 業火の閃光と真紅の流星。その凄まじいエネルギーは互いを消し去ろうとぶつかり合い、最終的に相殺し合って爆ぜた。辺り一面に視界がゼロになるほどの光が駆け抜け、爆音がそれに続いて煙が周囲を覆い隠した。

 しばしの静寂の後、空を漂っていた煙が風に流されていく。二人とも装束に小さな傷ができたものの健在な姿で、少年と少女が真っすぐ互いを見つめて浮遊していた。両者は互いに一度大きく呼吸すると仕切り直すように武器を構え直し、再び戦いの火蓋を切った。

そんな風に空を縦横無尽に駆け抜けながらお互いに一歩も引かず戦う彼らの力強さと、美しさ。それを見た瞬間に彼女はその世界の虜となり、自分もその世界に行きたい……いや、絶対に行こうと誓ったのだそうだ。



それ以来ネットでの宣伝にも熱心に目を通し、行きやすい範囲のゲームセンターに筐体が置かれることがわかった時には小躍りして喜んだ。……という話を聞いていたので、それはさぞ楽しみだろうと疾風は笑った。

「んじゃ楽しみだな……このまま行くのか?」

「うん。そのつも、り」

「そっか。楽しんで来いよ、小野寺」

 そう言った時、紗那が突然立ち止まった。何事かと振り向いた疾風は、何やら紗那が顔を下に向けてもじもじしていることに気付く。何だ? と首を傾げた疾風に、紗那は俯けていた顔を上げた。

「……あの、よかったら……日向君も一緒、に……どう?」

「……俺?」

 と、さすがに驚いた疾風はポカンとした。今まで色々と話してはいたものの、誘われるとは思っていなかったからだ。そんなリアクションを目にして、紗那は再び顔を真っ赤にして俯きながら小さく続けた。

「……日向君も、ゲーム好きって言ってた、し……あの、でも、無理にとは……」

「……ふ。そうだな、俺も興味あるから……行ってみたい。この後予定がある訳じゃねぇし」

 もそもそ言いつつ指先をちょんちょんつついている紗那を見て、ここまでお誘い受けたら行かない訳にはいかないな、と疾風は笑って頷いた。実際のところ彼も紗那から話を聞いてブレイブデュエルへの興味はあったのだ。その表情と返事を受けて、紗那も嬉しそうにはにかんだ。







「でっか……すげーゲーセン」

 歩くこと数十分、ゲームセンター“ステーションアズール”に到着した疾風は、その巨大さに少々圧倒されていた。……まぁ、それ以上に人ごみの方が凄まじかったのだが。おそらく店にデカデカと下げられている看板の“ブレイブデュエル本日稼働開始!”というフレーズが原因なのだろう。

「んで? その噂のブレイブデュエルってのはあの中ってことか」

「そう。確か最上階って、書いてあったと思、う」

「さすが、情報収集は完璧だな」

「う……変か、な」

 自分だけ舞い上がっているようでおかしいと思われると思ったのか不安げな声色の紗那。が、もちろんそんなことを思って言った訳ではないので疾風は首を振って先を促し、ホッとした様子の紗那と連れだってゲームセンター最上階のブレイブデュエルのフロアに向かった。







 さて。順調にフロアに到着した二人だったが、さすがに稼働初日とあってかあまりに人が多すぎて目を白黒させることしかできないでいた。

「……ど、どれから行きゃいいんだこれ……?」

「確か、公式サイトには……まず、プレイヤーデータを作成する必要がある、って書いてあったと思、う」

「……どこで?」

「……さ、さぁ……?」

「はいはーい、私にお任せー!」

 横から元気な声をかけられて二人が同時にそちらを向くと、ゲームセンターの制服らしく服を着たおさげのメガネをかけた女性がニコニコしながらこちらを見ていた。ネームプレートを見ると、朝比(あさひ) 花梨(かりん)という名前らしい。へー、と思って見ていたのだがいきなりガシッ! と手首を掴まれ、そのままズルズルとフロアの一角へと引き摺られていった。

「そんなあなた方は、私がナビゲートして差し上げましょう! さぁさぁ、こちらへどうぞ~」

「え、ちょ、わかりましたから引っ張らないでくれません!?」

「わ、わ……!?」

 あたふたしつつされるがままになっていると、一つの機械の前でようやく花梨は足を止めて手を開放してくれた。その勢いのまま、花梨は目の前の機械に手を向ける。

「これがカードローダー。ブレイブデュエルで用いるカードが出てくるマシンです。一日一枚、無料でもらうことができちゃうんですよー! ……で、はい」

 と、何やら二つの物を渡された。一つはスティック状で、先端にどこかにさし込む用途なのか接続端子が付いているもの。もう片方は掌に収まるほどではあるが大きく、かつ平べったいもの。魔法的な模様が描かれている。

「こっちの小さい方がデータカートリッジ。プレイヤーデータを保存するメモリーみたいなものですね。で、そっちの平たい方がブレイブホルダーと言って、カードデッキを保存するケース。そしてなんとリリース記念! どっちもプレゼントしてしまいまーす!」

「そ、そりゃどうも……で、そもそもカードって?」

「おっと、そうでしたね。ま、先にプレイヤーデータを作ってしまいましょう。その時に初期デッキが排出されますから」

 と、言うので疾風と紗那は顔を見合わせつつ、身長や体重、年齢といった項目を入力していく。……女性プレイヤーに随分デリケートなことやらせるなぁ、と疾風は思ったのだが、なんでもバーチャル空間内のアバターと現実世界とで感覚をリンクさせるので、違和感のないアバターを作成する必要があるかららしい。

 さて、そんなこんなでプレイヤーデータの作成が完了し、四枚のカードが排出された。……が、疾風はざっとその全てを見て一番上のカードと二番目のカードが同じだったのを見て顔をしかめた。自分が武器を持って立っているカードで、拳銃のようなフォルムで、銃口の下にあるボックス状のものからビームの刃が出ている。分類としては銃剣やガンソード……に、なるのだろうか。それを両手に握っている。

「うげ、いきなりダブりかよ。ツイてねぇ……」

「……あれ。私も、だ……」

「ありゃ」

 紗那の言葉を聞いた疾風が彼女のカードを見せてもらうと、確かに同じカードが2枚あった。こちらも紗那が武器を持っている絵柄で、右手に刀、左手にクリスタルの付いた鞘を持っている。いきなり二人してカードが被り、残念、と二人は苦笑いしたのだが、しかし花梨は目を輝かせながら飛びついた。

「何を言ってるんですか、お二人ともすごく運がいいですよ! 初めてでいきなりストライカーチェンジができるなんて!」

「へ? す、すと……何です?」

「話は後です、ちょうどシミュレーターが空きました! さぁさぁ早く!」

「どわわ! だ、だから引っ張らないでくださいってば!?」

 目を輝かせた花梨にまたしても手を勢いよく引っ張られ、二人は円柱状のブースの前まで連れてこられた。そのままその中に押し込まれたが、疾風は何が何だかわからずに呆然としている。隣のブースの紗那などあまりのあわただしさに目を回してしまっていた。ともあれデータカートリッジをスロットに差し込み、さてどうすんのかな? と思っていると、下の方に花梨の顔が小さく出てきて捲し立てた。

『さぁさぁ行きましょう! ブレイブシミュレーター、スイッチオンです!』

 その掛け声とともにブース……彼女曰くシミュレーターの中で、体がふわりと浮いた。重力を無視した動きに、疾風は驚いて小さく声を上げる。

「おわ、っと……へぇ、こいつは面白い。どういう仕組みになってんだろうな……」

『…………』

「ん? どした、小野寺?」

 花梨の横に出てきたモニターに紗那の顔が映ったのだが、何やら普段よりも俯いているように思われて疾風は首をかしげた。……が、続く彼女の言葉でその理由を察した。

『……あの、浮く、と……その……』

「……あぁ、なるほど」

 急に体が空中に浮かびあがったので、その勢いで制服のスカートが(めく)れかけて焦ったようだ。

『疾風さん、そんなことよりもセッティングを済ませてください。2人プレイのフリートレーニング、雲海上空ステージで。あ、一番下の乱入許可ボタンは押さないでくださいね』

『……そ、そんなこと、って……』

 バッサリ切り捨てられて若干凹んでいる様子の紗那を見て気の毒には思いつつも、男が口を出すのもどうかと思って疾風はあえて触れずに花梨の言った通りバーチャルモニターをタッチしてセッティングを進める。項目は少ないのですぐに終わり、指示を仰ごうとチャットモニターに目を戻すと花梨の顔が大写しになっていて疾風は驚いて仰け反った。

「……はい、終わりましたよ。次は? ってうおぉ!?」

『ホルダーを前に掲げて、コールです! 恥ずかしがらずに元気よく、お二人一緒に! さん、はい!』

「え!? ……あぁもう、んじゃ遠慮なく! いこうぜ小野寺!」

『う、うん……!』

 何が何だかわからないまま指示されまくり、もはや半ば自棄になった疾風はモニターに映っていた紗那に語気強く言った。紗那もそれに気圧されたようではあったがしっかりと頷き、そして二人は同時に叫んだ。……新たな世界の扉を開く、キーワードを。

『「ブレイブデュエル、スタンバイ!」』

 
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