魔法少女リリカルなのは~無限の可能性~
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第2章:埋もれし過去の産物
第45話「自分を追い詰めて」
前書き
悲しくて、悔しくて。自分を追い詰める。
そんな時って、どうすればいいですかね?
それはともかく、第45話です。
=優輝side=
「はっ...はっ...はっ...!」
逃げる、逃げる、逃げる。
何かに追われるように、後ろから迫る赤黒い影から逃げるように走る。
―――ネェ...。
「っ...!ぁあああ...!」
後ろから聞こえた声に、僕は走る速度を上げる。
...でも、まったく引き離せる気がしない。
―――ドウシテ...。
「違う...違うんだ....!」
頭を抱え、それでもなお走る。
走っても引き離せない。...けど、走らないと追いつかれるから。
―――ドウシテナノ...?
「っ...それしか...それしか方法がなかったんだ...!」
何かの言い訳をするように、僕は叫ぶ。
...嘘だ。もっと、良い方法は存在していたはず。
―――ドウシテ...ドウシテ....?
「ひっ...!?ぅぁああああああ!!?」
無我夢中で走る。逃げる。...けど、後ろから迫る気配はどんどん近づいてくる。
―――ドウシテ、ワタシヲコロシタノ?
「っ...ぁああああああああああああああああああ!!!?」
後ろから肩を掴まれ、振り返ると...。
...血まみれになって、首と胴体が離れた緋雪の姿があった。
「――――はっ....!!?」
掛布団を吹き飛ばす勢いで、僕は飛び起きる。
「はぁ...はぁ....夢....か...。」
....最近、偶に見るな....。
「はぁ...はぁ...っ...!」
胸が痛む。退院はしたけど、まだリンカーコアは治っていない。
おまけに、無理な動きをすればそれだけで肉体も痛むらしい。
「...支度、するか。」
布団を畳み、着替えてからリビングへと向かう。
時間を見れば、いつも通りの早起きだった。
「えっと...これとこれとこれ...でいっか。」
材料と手に取って、レシピを考えて朝食と昼食の弁当を決める。
すると、和室の方から物音がした。
「おはよう、椿。」
「...おはよう。相変わらず早いわね。」
「まぁね。」
起きてきた椿と挨拶を交わしながら、僕は朝食と弁当を作っていく。
「おはよー。優ちゃん、かやちゃん。」
「おはよう、葵。」
大体を作り終えた所で、葵も起きてきた。
「椿、悪いけど緋雪を起こs...あ、なんでもない...。」
「っ...!」
いつものように頼もうとして、思い留まる。
...緋雪はもういなかったな...。
「....ねぇ、優輝。」
「ん?何かな?」
「....どうして、二人分のお弁当を作ってるの?」
「っ...!」
...料理をする手が止まった。
......その手元には、僕がいつも使う青色の弁当箱と....緋雪の赤い弁当箱があった。
「あー...いつもの癖かな...。どうしよう...。」
「...私達の昼食の足しにでもするわ。」
とりあえず、作った分は冷蔵庫にでも入れておくか。
「....優輝...。」
「退院したばっかりで気が抜けてるのかな?」
心配そうな椿の声に被せるように、僕はそう言う。
「...無理は、しないでね。」
「......。」
椿の言葉に、僕は何も言い返せなかった。
「(...リハビリ程度の運動に留めておくか。...今は。)」
学校が終わり、下校に就きながら僕はそう思っていた。
...ちなみに、学校では僕を気遣ってか腫れ物を扱うような態度を皆に取られた。
「(...強く...ならなきゃ...。)」
僕が至らなかったせいで緋雪は死んだ。
だから、二度とそんな事を繰り返さないためにも、僕は強くなる...!
「はっ!ふっ..!っぐ..!?...はぁっ!」
休日、山の中。
体の痛みも多少の動きでは感じなくなり、僕は木刀で素振りをしていた。
「(もっと...!もっと早く、鋭く...!)」
多少程度の動きではないため、体に痛みが走るが、無視して木刀を振り続ける。
「ぐ...く...ぁっ!っ、はっ!」
足元が覚束なくなる。無理をしているからだろう。
...だからって、この程度では終われない...!
「ぁあっ!っ、はぁっ!!」
剣先がぶれる。もっと、もっと鋭くだ!
これじゃぁ...この程度では!
―――カァアン!!
「...っ。」
「...そこまでだよ。優ちゃん。」
振り下ろした木刀が、レイピアで止められる。
見れば、葵がそこにいた。
「山菜を取りに来たと思えば、まさかそんな事をしてたなんてね。」
「...葵だけか?」
「...かやちゃんとは別行動だよ。」
葵の言うとおり、椿の気配はしないので、別行動らしい。
「止めないでくれ、葵。」
「ダメだよ。これ以上は、優ちゃんの体が壊れちゃう。」
いつもはふざけている葵の声は、真剣そのものだった。
「...それがどうした...僕は、強くならなきゃ...!」
「っ...ごめんね。」
「え?ガッ...!?」
一言、葵が謝ったかと思うと、首に衝撃が走り、僕の意識は暗転した。
「.....っ...。」
...目が、覚める。
視界に入ってきたのは、いつもの僕の部屋だった。
「...目が覚めたかしら?」
「...椿?」
横から声がかけられ、そちらを振り向くと、不機嫌そうな、それでいて悲しそうな顔をした椿が座っていた。
「僕は....。」
「葵が気絶させてここに連れてきたのよ。...無理してたみたいね。」
椿の視線が一転して咎めるような視線になる。
「...私、言ったはずよ。“無理はしないで”って。」
「......。」
「どうして、無理しているの?...ううん、無理をして、何になるっていうの?」
椿の言葉に僕はなにも言い返せず、続けて椿は言い直しながらもそう言った。
「...強くなるためだよ。もう、緋雪のような結末を見たくないから。」
「....だから、無理をしている、と?」
「そうだよ。」
僕がきっぱりそう言うと、椿は何か考え込んでしまう。
「......とにかく、下に降りなさい。夕食は私達で用意しておいたわ。」
「...ありがとう。」
しばらくして、椿はそう言った。
何を考えていたのかは分からないけど、とりあえず夕食にするようだ。
「....改めて言うわ。...無理しないで。」
「......。」
夕食を食べ終わり、今度は葵も交えて話し合う事になった。
「今の優輝はただでさえ壊れかけてるわ。それなのに、無理をしたら...。」
「でも、強くなるには...。」
そう言おうとした瞬間、僕の頬スレスレを葵のレイピアが通り過ぎる。
「...ほら、今のも反応できなかった。」
「っ....。」
そう、今の攻撃は過去に行く前の僕でも対応できた。
けど、さっきのは反応が遅れてしまっていた。
「あたしが優ちゃんを気絶させた時も、本来なら防げたはずだよ。」
「...それほどまでに、貴方の体は傷ついている。...自覚して。」
心配に...本当に心配して二人は僕にそう言う。...だけどね。
「...それがどうした。...無理でもしなきゃ、また緋雪と同じような事が...。」
緋雪の時は、無理をしても助けられなかったんだ。
なら、この程度で音を上げてられない...!
「っ、いい加減にしなさい!!」
「ぐっ....!?」
そう言った瞬間、椿は僕の頬を叩いて部屋へと去ってしまった。
「かやちゃん!....優ちゃんも、一度頭を冷やして良く考えて。」
「.....。」
そして、葵も椿を追いかけて部屋へと行ってしまった。
「....冷やすもなにも、やる事は変わりないよ。」
全部、僕が弱かったせいで起きた事なんだ。
だから、強くならなきゃいけない。
「...風呂に入るか。」
一人になった僕は、仕方ないので風呂に入る事にした。
休日になり、僕は高町家の道場で木刀を振っていた。
...あの日以来、椿とは最低限の会話しかしていない。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ....ぜぁっ!!」
「っ...!」
木刀同士がぶつかり合う音が響き渡る。
「.....。」
「まだ...まだ..!!」
体が痛み、息切れも激しい。
それでも、僕は木刀を振い続ける。
「....終了だ。これ以上は優輝の体がもたない。」
「まだ..まだ行けます!だから...!」
―――カァアン!!
まだ行ける。...そう言おうとした瞬間、僕の木刀が弾き飛ばされる。
「...まだ痛む体でそれ以上はダメだ。」
「っ...痛む程度で、止まっていては、強くなんて...!」
そう言った瞬間、恭也さんの眼が鋭くなる。
「...いいだろう。なら、模擬戦をしてやる。」
「...え?」
「俺は木刀一本だけで、これを落としたら負けでもいい。対して、優輝はなんでもありだ。」
...その模擬戦は、恭也さんに相当なハンデがあった。
「...さすがに、それでは恭也さんが....。」
「不利すぎると?...なに、今のお前には素手でも勝てる。」
...その言葉には、さすがにカチンと来た。
「...いいでしょう。後悔しても知りませんよ?」
「じゃあ、始めるか。」
お互いに構え、注意深く隙を探る。
...僕は受け身型の戦い方だ。だから、攻めてきた所を....。
「....っ!?」
「はぁっ!」
突然接近してきた恭也さんが木刀で一閃する。
咄嗟に、僕はしゃがむ事でそれを回避するけど、また少し隙ができてしまう。
「ぜぁっ!」
「ぐっ...!」
そのまま放たれた蹴りを横に転がって躱し、すぐに起き上がる。
「シッ!」
「っ、ぁあっ!!」
すぐさま接近され、高速で突き連発される。
それを僕はかろうじて逸らし、防ぐ。
「まだ...まだ...!」
最初は不意を突かれただけ。
ここからが、反撃だ...!
「...ぐ、ぅ....!」
「...悪いが、今のお前ではどう足掻いても俺には勝てん。」
数分後、僕は恭也さんの前で這い蹲っていた。
「ついでに言っておくと、俺は今回、御神流を一つも使っていない。純粋な剣の腕前だけでお前を相手した。...にも関わらず、この有様だ。」
「なん、で....?」
なぜ勝てない。そう思って、僕は声を漏らす。
「なぜお前が俺に勝てないか。...それは、お前の心がそれだけ追い詰められてるからだ。」
「.......。」
心が追い詰められてる?...あぁ、なるほど...。
「緋雪の...事か...。」
確かに、僕の心は追い詰められてる。だけど...。
「だからこそ、少しでも強くなろうと....。」
「...ふざけるな。お前のしている事は、強くなろうとしているのではない。...周りを顧みず、ただ自分自身を追い詰める愚行。...それだけの事だ。」
「っ.....!」
「自分を追い詰め、心に余裕がない。...そんな者相手に、俺が負ける訳がない。」
恭也さんの淡々とした言葉に、僕は氷のように頭が一気に冷めた気がした。
「....俺も、お前と同じような事をした事があってな。...父さんが事故に遭った時、俺は家族を護ろうと死に物狂いで特訓した。」
「........。」
「...だが、それは周りを困らせ、あろうことかなのはに孤独を味わせてしまった。」
そう語る恭也さんは、後悔するような、そんな表情をしていた。
「....そんな経験をした俺だからこそ、今のお前は放っておけない。」
「........。」
恭也さんは、恭也さんなりに親身になって僕の事を心配してくれていたらしい。
「...お前だって、分かっているだろう?周りを顧みず、無理して強くなった所で、お前の妹は喜ぶのか?報われるのか?」
「っ.....!」
...分かってる。分かってるんだ。
こんな事したって、緋雪が喜ばない事ぐらい...!
「お前がどれだけ悲しみ、どれだけ傷ついているかは俺には分からない。...だけどな、少しは周りを頼って、前に進め。...俺と同じ過ちを繰り返すな。」
「....はい....。」
恭也さんに言われて、目が覚めた。
...僕は自身が思っていたより、緋雪が死んだことに動揺していたんだな...。
「...すいません、家に帰って、一度自分の気持ちを整理してきます。」
「...そうする事だ。」
ふらふらと、少し覚束ない足取りで僕は家に帰る。
「(...椿も葵も、これが分かってたからあそこまで僕を説得しようとしてたんだな...。)」
泣きそうな表情になっていた椿を思い出す。
...後で、謝らなければな...。
「....っ....。」
ボフッと、僕はリビングのソファに倒れこむ。
一応、シャワーを浴びて着替えているから汗とかの心配はない。
「....なにやってんだろな。僕....。」
シュネーを助けられず、緋雪を自身の手で殺し、挙句の果てに自分を追い詰める。
...本当に、何やってんだか...。
「こんなんじゃ、緋雪に顔向けできないや....。」
自分の不甲斐なさに後悔しつつ、僕はそう呟く。
「...悪いね、リヒトにシャル。...こんな僕に付き合ってもらって。」
〈...正直、見ていられませんでした。...マスターが、今にも壊れてしまいそうで...。〉
〈お嬢様の事で動揺を隠せないのは分かります。...今後は、気を付けてください。〉
デバイス二機の言葉に、僕は苦笑いする。
...本当に、迷惑かけてしまったな...。
「......緋雪....。」
....ただ、愚行に気付けても、この悲しさが消えた訳じゃない。
緋雪の名を空しく呟きながら、僕はそう思った。
「...帰ってたのね。優輝。」
「....椿か。」
ソファの上で仰向けになり、光を遮るように腕を目に当ててると、椿が声を掛けてきた。
「....ごめんな、椿。二人の気持ちも知らずに無理してしまって。」
「っ....!」
僕は椿に謝る。体勢が些か誠意が感じられないが、椿は分かってくれたみたいだ。
「ばっ...!わ、私は、優輝の支えになりたいから、無理してほしくなくて...言ってたっていうか...その....。」
「.......。」
「な、なんでもないわ!...もう、無理はしないでね。」
照れたような声で言ったからか、後半が聞き取れなかった。
...まぁ、椿なりに僕を心配してたんだろうな。
「...ありがとな。椿。...葵にも伝えてやってくれ。」
「っ~~!...わ、分かったわ...。」
素直にお礼を言うと、花が出現して椿は顔を赤くした。
「.......。」
...ふと、心が暗くなり、僕は顔を伏せてしまう。
それに、椿はすぐ気付いた。
「...辛いのなら、休んできなさい。」
「....ありがとう。」
椿の言葉に甘えて、僕は自室に戻る。
「......。」
フローリングにマットが敷かれ、隅にベッドがあり、その横に勉強机。傍にテーブルというシンプルな部屋で、置いてあるクッションにもたれながら、僕はボーッとしていた。
「....はぁ....。」
もちろん。ただボーッとしてるだけではない。
...心に空いた虚しさ故に、今ある現実から逃れようとしているだけだ。
「(...悲しみからも、逃げようとしてたんだな。)」
無理をする事で、悲しみから逃れる。
...あの無茶には、そんな意味もあったみたいだ。
「....やっぱり、辛いなぁ....。」
前々世の時、僕は何人もの人の死を見て来たし、何人も殺してきた。
それ自体に罪悪感がなかった訳じゃないけど、それでもここまで辛くなかった。
...やはり、緋雪だからなんだろうな...。
「(....なぁ、緋雪。....僕は、どうしたらいいんだ?)」
自問するように、物思いに耽るように、僕は心の中の緋雪に問いかける。
「(...お前が死んで、僕は途轍もなく悲しい。...あぁ、シュネーもこんな気持ちだったんだろうなとも思う。....でもさ、僕には、どうすればいいか、分からないんだよ....。)」
どうすれば、この悲しみをなくせるのか。
それが分からなくて。分からなくて。
....ただただ、空しく、哀しい時間が過ぎて行く....。
〈....マイスター。〉
「....シャル?」
...そんな不甲斐ない僕を見ていられなかったのか、シャルが話しかけてくる。
〈マイスター宛てに、一つのメッセージがあります。〉
「メッセージ...?」
今更、何かメッセージを貰ったって...。
〈...差出人はお嬢様です。〉
「っ....!」
どういうことかと、問いただすようにシャルを首から外し、近くのテーブルに乗せる。
「どういう...事だ...?」
〈...お嬢様の命令です。...マイスターが悲しみに暮れている場合、再生するようにと。〉
「....聞かせてくれ。」
僕がそう言うと、シャルは少し浮き、映像を映し出した。
【...よし。...お兄ちゃん、聞こえてる?】
「っ.....!!」
...それは、紛れもなく本物の声で。
...どこか、儚い表情を浮かべた緋雪が、映っていた。
後書き
恭也さんの口調が分からない...!(とらハは寡黙らしいけど、リリなのだから...。)
他の方の小説で、偶に見る主人公と恭也さんのやり取り(士郎さんが入院中)で、大抵は恭也さんが主人公に言い負かされてますけど、この小説ではむしろ恭也さんがその時の経験から主人公を励ましています。...まぁ、不器用で励ませてるか分かりませんけどね。
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