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英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)

作者:sorano
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第48話

~ミルヒ街道~



「あ……!」

エステル達が農園に向かっていると、エステル達の前方から王国軍の部隊がやって来た。

「おや……。……みんな、止まれ。」

部隊を率いていた隊長はエステル達に気付き、兵士達を一端停止させた。

「アストンさん、お久しぶり!」

昔馴染みである関所を守っている兵士達の隊長――アストンにエステルは挨拶をした。

「久しぶりだね、エステル君。それにシェラザード君だったか。ギルドの仕事の途中かな?」

「うん、そうだけど……。もしかしてロレントを警備してくれる部隊って……」

「ああ、私たちだ。ハーケン門からの増援と共にロレント市を守らせてもらうよ。」

エステルの疑問にアストンは頷いて答えた。

「そっか……」

「本当に助かります。」

「とんでもない。市民を守るのは王国軍の義務でもあるからね。ロレントの状況はどうかな?」

エステルとシェラザードのお礼に謙遜したアストンは状況を尋ねた。

「うん、霧は深くなったけど昨日みたいに昏睡事件は……。あ、あの、アストンさん!」

アストンの状況を話したエステルはアストンの息子も昏睡事件の被害者の1人である事を思い出し、血相を変えて話そうとしたが

「……ああ、ルックのことだね。眠りから覚めないだけで命に別状はないと聞いている。そんなに気を使わないでくれ。」

アストンは冷静な様子でエステルを制した。

「で、でも……」

「今はお互い、自分の責務を果たすことだけを考えよう。それが恐らく、ルックたちを助けることにも繋がるはずだ。」

「アストンさん……」

「ええ、その通りだわ。アストン隊長。街はよろしくお願いします。」

「ああ、任せたまえ。そろそろロレントだ!到着次第、すぐに警備体制に入る!」

「イエス・サー!」

そしてアストンは兵士達を率いてロレントに向かった。

「今の隊長さんって眠っちゃった男の子の……?」

「うん……ルックのお父さん。本当は心配でたまらないはずなのに……」

「強い人……ですね。」

ティータの疑問に答えたエステルの話を聞いたクロ―ゼは心配そうな表情でアストンを感心した。

「そうね……あたしたちも頑張らないと。パーゼル農園に急ぎましょう。」

そしてエステル達はパーゼル農園に向かった。



~パーゼル農園~



「ティオの家……なんだかちょっと懐かしいな。それにしても……ここもかなりの霧だわ。」

「とりあえずご主人に事情を説明するわよ。まさかこの霧の中、配達には行ってないわよね?」

「う、うーん……それはないと思うけど。」

シェラザードの疑問にエステルが悩みながら答えたその時



チリーン…………



「い、今のって……」

「……まさか……!」

農園に鈴の音が響き渡り、鈴の音を聞いたティータは不安そうな表情をし、クロ―ゼは真剣な表情になった。

「シェラ姉っ!」

「急ぐわよ!」

そしてエステル達が家に急いだその時

「「「「「……………………」」」」」

なんと霧型の魔獣が5体現れた!

「えっ……!?こ、こいつら!?」

「霧の魔物……!?」

「ふええっ!?」

「迷ってるヒマはない!撃破するわよ!」

そしてエステル達は戦闘を開始した!



「ちょっと、多いわね…………パズモ、ニル!」

敵の数を見て、エステルはパズモとニルを召喚した!

(私達の出番ね!)

「フフ、光を使うニル達にとっては楽勝な相手よ。……爆裂光弾!!」

(槌の光霞!!)

召喚されたニルは不敵な笑みを浮かべた後、魔術を放ち、ニルに続くようにパズモも魔術を放って、霧の魔獣達に大ダメージを与え、のけ反らせた!

「光よ、槍と化して、敵を貫け!……光槍!!」

さらにエステルが魔術を放って、一匹の魔獣に止めを刺した!

(行けっ!連続光弾!!)

「い、行きます!ダークマタ―!」

そしてパズモは魔術を放って、弱っている一匹にさらにダメージを与え、ティータがアーツで止めを刺し

「光よ、集え!光霞!!」

ニルは魔術で敵の一匹を消滅させた!

「風よ、切り裂け!旋刃!!」

シェラザードは魔術を放ったが、敵は消えず、シェラザードに攻撃して来た!

「チッ!風属性はあまり効かないようね………なら!」

自分の魔術が通じなかった事に舌打ちをしたシェラザードは敵の攻撃を回避した後オーブメントを駆動させ、そしてアーツを放った!

「ハアッ!アースランス!!」

シェラザードのアーツによって弱点属性をつかれた敵は消滅した!

「…………………」

一方クロ―ゼは目を閉じて、精神を集中していた。残った敵達はそんなクロ―ゼを襲った!

「クロ―ゼ、危ない!」

そしてエステルは動かないクロ―ゼに警告をしたその時、クロ―ゼは目を見開き、そして!

「……凍てつけ!凍結!!」

なんとクロ―ゼは魔術を放った!クロ―ゼの魔術により、クロ―ゼを襲おうとした敵達は突如自分達の周りに発生した吹雪によって、氷漬けになった!

「止めです!氷剣!!」

さらにクロ―ゼは魔術を放ち、クロ―ゼの魔術によって敵達は足元から発生した氷の刃によって貫かれ、消滅した!



「ふう………」

戦闘が終了し、パズモ達はエステルの身体の中に戻り、クロ―ゼは安堵の溜息を吐いた。

「す、凄いじゃない、クロ―ゼ!魔術、ついに使えたじゃない!それもあたしが使えない冷却系の魔術を!」

「す、凄いです~。」

「適正属性が冷却属性とわかっていたとはいえ、こんな短期間で使えるようになるなんて、ひょっとしたらあたしやエステルより才能があるんじゃないかしら?」

クロ―ゼが魔術を使った事にエステルは興奮し、ティータは驚き、シェラザードは驚きの表情でクロ―ゼを見ていた。

「そんな………お2人が魔術の使い方を教えてくれたお陰ですよ。それより、家の中にいる方々の無事を確認しないと………!」

「あ!うん!」

「急いで探すわよ!」

そしてエステル達は家の中に入った。



「あ……。フランツおじさん!?チェル、ウィル!?ティオ!ハンナおばさん!」

家の中に入り、リビングに行くとエステルの友人――ティオを含めた家族達が意識を失った状態で倒れていた。

「……うそ……」

倒れているティオの状態を調べた後、エステルは膝をついた。

「ダメ……眠らされてしまっています。」

「うん……この子たちも……」

クロ―ゼやティータはティオの家族達の状態を見て、無念そうな表情をした。

「……っ…………。また……間に合わなかった……」

「エステルさん……」

「お、お姉ちゃん……」

悔しそうな表情で涙を流しているエステルをクロ―ゼとティータは心配そうな表情で見つめていた。

「ダメね……まんまと逃げられたわ。あたしたちの動きを完全に読んでいたみたい。」

そこに1人、外に出て調べていたシェラザードが溜息を吐いて、リビングに入って来た。

「『黒衣の女性』ですね。」

「……ええ、間違いないわ。エステル……とりあえずベッドに運ぶわよ。部屋に案内して。」

「あ……うん……」

そしてエステル達は協力して、ティオ達をベッドに運んだ。

「何とかベッドに運んだわね。ふう……これからどうしたもんだか。」

「………………………………」

ティオ達をベッドに運び終え、シェラザードは考え込み、エステルは悲痛そうな表情で眠っているティオを見続けていた。

「エステル……。ショックなのは分かるけど気持ちを切り替えなさい。でないと、この人たちを助けることなんてできないわよ。」

「……でも……あたしが未熟だったから……。父さんの足元にも及ばないから……。ティオたちをこんな目に遭わせちゃったのかもしれない……」

「………………………………」

「今まで散々……強気なことを言ってたけど……これじゃあ……ただの強がりだよ……!こんなことじゃ……答えを見つけるなんて……あたし……あたし……」

「………………………………。……エステル。」

涙を流しながら語るエステルを見て、シェラザードは目を閉じて考えた後、突如エステルの頬を叩いた。

「え……」

頬を叩かれたエステルは叩かれた部分に手をやって、呆けた。

「シェラザードさん!?」

「お、お姉ちゃん!?」

その時その様子をたまたま見てしまったクロ―ゼとティータが慌てた様子で部屋に入って来た。

「……未熟なのはお互い様よ。あたしだって先生の足元にも及ばないけどいつも足掻き続けているわ。アガットだって、ジンさんだって、それからカシウス先生だって……。みんな力不足を痛感しながら必死になって頑張り続けている。」

「と、父さんも……?」

シェラザードの話を聞いたエステルは驚いて、シェラザードを見た。

「覚えているでしょう?先生が自分が考えた作戦によって、自分の手の届かない所でレナさんやあんたを危なく死なせてしまう所だった事があった事を……」

「……あ………」

シェラザードに言われたエステルは”百日戦役”の時、レナが自分を庇って瓦礫の下敷きになった事やエレボニア兵が自分達を襲おうとした事を思い出した。

「幸い、あんた達は師匠やリフィアさん達によって九死に一生を得た。そして先生は今度こそ、自分の手であんたやレナさんを守るために遊撃士としての道を歩き始めた。決して立ち止まることなく大切なものを守り続けてきた。王国軍になった今もそれは変わっていないと思う。エステル……あんたは、どうしたいの?」

「………………………………」

シェラザードに静かに問いかけられたエステルは黙って考えていた。



「難しく考える必要はないわ。自分の奥底にある素直な気持ちを見つめなさい。」

「………………………………。答えは……出てないけど……それでもあたし……前に進みたい。大切な人たちを守るためにも……。自分が未熟だからといって立ち止まってなんかいたくない!」

「ふふ……ちゃんと分かってるじゃない。」

(フフ、それでこそエステルね。)

(はい。ヨシュアさんの事を知ってからずっと沈んだままでしたけど、元気が戻ってよかったです。)

決意の表情で答えたエステルを見たシェラザードは微笑み、エステルの身体の中で見守っていたパズモやテトリは安心し

(クク………相変わらず手のかかる娘だ……)

(フフ……そう言っている割には嬉しそうに見えるのは気のせいかしら?)

サエラブはどことなく喜んでいる様子で呆れ、その様子に気付いたニルは微笑みながら指摘した。

「ごめんね、シェラ姉……。なんかあたし……手間のかかる妹だよね。」

「それもまた姉冥利に尽きるってもんよ。手間のかかる子ほど可愛いっていうしね。」

「むう……」

シェラザードにからかわれたエステルは頬を膨らませてシェラザードを見た。

「くすくす……」

「ふふっ……」

その様子を見たティータやクロ―ゼは声を出して笑った。

「あ……ご、ごめん。心配、かけちゃったかな?」

2人の笑い声に気付いたエステルは2人を見て尋ねた。



「うん、ビックリしたけど……。お姉ちゃんとシェラさんってホントに仲がいーんだね。えへへ……ちょっと妬けちゃうかも。」

「ふふ、とっても良い場面を見せていただいた気分です。」

「も、もう……。でもシェラ姉、どうしよう。ギルドに戻って報告したいけどティオたちも放っておけないし……」

「そうね……。あたしかあんたのどっちかが残るしかなさそうだけど……」

エステルの言葉に頷いたシェラザードが悩んだその時

「その必要はないで。」

なんと王都で別れたはずのケビンが部屋に入って来た。

「あ……」

「え……」

「ふえっ……」

「あら……」

ケビンの登場にエステル達は驚いた。

「や~、どもども。七耀教会のケビンですわ。この前、王都で別れたばかりやのにこんな早く再開できるなんてなぁ。やっぱ女神のお導きを感じるわ。」

「な、な、な……。なんでいきなりケビンさんが現れるのよ!?」

呑気に話すケビンを見て、エステルは信じられない表情で尋ねた。

「あー、話は単純でな。昨夜、デバイン教区長から昏睡事件についての報告が王都の大聖堂に届けられたんや。そこで『星杯騎士』としていっちょ確かめたろと思ってな。霧だらけの街道を通って今朝ロレントに到着したわけや。んで、ギルドを訪ねたらエステルちゃんたちがこっちに仕事で行っとるって聞いて―――」

「あー、はいはい。だいたい事情は分かったわ。ていうか全然、女神様のお導きなんかじゃないじゃない。」

ケビンの説明を聞いたエステルは頷いた後、呆れた表情でケビンを見た。



「なはは、バレたか。」

エステルに指摘されたケビンは苦笑した。

「しかしケビンさん。さっき『その必要はない』って言ってたけど、どういう意味なの?」

「ああ、姐さんとエステルちゃんのどっちかがここに残るって話や。ここは俺に任せて2人ともギルドに戻るとええやろ。」

「ええっ!?」

「あの、宜しいんですか?」

ケビンの提案にエステルは驚き、クロ―ゼは遠慮気味に尋ねた。

「これも神父のお仕事ですわ。医術の心得も多少はあるし、どうか任せたってください。」

「あのあの……ありがとーございます!」

「ふふ、ありがたくお言葉に甘えさせてもらうわ。みんな、ロレントに戻るわよ。」

「う、うん!ケビンさん……ティオたちのこと、よろしくね!」

「おう!大船に乗ったつもりで任せとき。」

そしてエステル達はティオ達の介抱をケビンに任せ、エステル達がロレントに向かったその頃、プリネ達はクロスベルからグランセルに戻り、ロレントへ行く定期船が濃霧の影響でない為、徒歩でメンフィル大使館に向かっていた。



~エリーズ街道~



「それにしても凄い霧だね、プリネちゃん。」

街道をプリネ達と共に魔槍に乗って、進んでいたリタは街道の分岐点でプリネに話しかけた。

「ええ。約10年こちらに住んでいますが、今までこんな霧がかかった事はないのですが………」

「私も大使館に務めて数年ロレントに住んでいますが、こんなに濃い霧、見た事ないです……」

リタの疑問にプリネは答え、イリーナは不安そうな表情でプリネの言葉に頷いた。

「マスター。どうしましょうか?このような状態で先に進むのは危険と思うのですが……」

「………そうね。念の為にお父様達にこの事を知らせて、一個小隊ほど連れて来てもらって、護衛してもらいながら大使館に戻るのが安全だと思うのだけど………問題は誰がこの濃い霧の中、お父様達に知らせるか……ね。」

ツーヤに尋ねられたプリネは提案をした後、考え込んだ。

「あの……じゃあ、あたしが知らせに行ってもいいです?」

「ツーヤが?大丈夫?」

「はい。だってあたしはマスターの侍女であると同時に”騎士(パートナー)”ですから、これぐらい簡単にこなして見せます。」

「フフ、そう。じゃあ、お願いしてもいいかしら?」

「はい。じゃあ、行ってきます!」

「あ、じゃあ私も一緒に行くね。」

そしてツーヤとリタは濃霧の中に消え、大使館に向かった。



「フフ……成長してから本当に頼もしくなったわね。」

「はい。まさかこんなに早く追い越されるとは思いませんでした………私もまだまだな証拠ですね。」

プリネの呟きにイリーナは苦笑しながら答えた。

「……もしかして、もうすぐ身分や私達マーシルン家に縁ある名を与えられるあの子に嫉妬しているのですか?」

「いいえ。……ツーヤちゃんの頑張りを誰よりも見て来たのはツーヤちゃんを教えていたこの私です。そのような事、思った事もありません。」

「そう。……本当は黙っているつもりだったけど、イリーナさん。貴女にもツーヤと同じくもうすぐ身分と名を与えられるのですよ?」

「え。………わ、私がですか!?どうして……!」

プリネの話を聞いたイリーナは驚いて尋ねた。

「どうしても何も、イリーナさんは普通の人の数倍、努力していたんですもの。努力する人には当然の評価があって当然でしょう?」

「そ、そんな……私なんかが恐れ多いです………けど、嬉しいです……!その……私、ついに正式なプリネ様専属の侍女になれるんですね………!」

プリネの説明を聞いていたイリーナは謙遜していたが嬉しそうな表情でプリネに尋ねた。

「ええ。…………イリーナさんに与えられる名はツーヤと違って、ある意味特別です。」

「え……どんな名を与えられるのでしょうか?」

「………”テシュオス”。それがイリーナさんに与えられる予定となっている名です。」

「え……!?そ、その名って確かリウイ陛下の正妻の方の旧姓ではないですか!わ、私みたいな者にどうしてその名を……!いくら、正妻の方と同じ名前だからと言って……」

自分に与えられる予定となっている名を知ったイリーナは信じられない表情でプリネに尋ねた。

「……私はそうとは思わないんですけどね。だから、そんなに謙遜する事はないです。(そう………その名はイリーナさんだからこそ、名乗れる名なのですから……)」

謙遜しているイリーナにプリネは気にする必要はないと伝えたその時



チリーン………



なんと鈴の音が辺りを響き渡らせた!

「鈴の音……?………あ…………………」

「イリーナさん!?クッ……こ……れは……一…体………………」

そして鈴の音を聞いてしまったイリーナとプリネは意識を失い、地面に倒れた!

「プリネ!?イリーナさん!?」

「ちょっと!しっかりしなさい!」

「……………………!」

プリネ達が倒れたその後、ペルル達がプリネの身体から出て、ペルルやフィニリィはプリネ達を揺すって声をかけ、パラスケヴァスは心配そうな様子でプリネを見ていた。

「ええい、落ち着け!」

「「「……………………」」」

そして、アムドシアスは出て来た後、ペルル達を一喝して、黙らせた。

「………見た所、眠っているだけだ。だからそんなに慌てるな。」

「……わかった。………けど、まさかアムドシアスの口から『落ち着け』なんて言葉が出るとはねぇ………」

アムドシアスの説明に頷いたペルルは苦笑して言った。

「なんだと!?まさかこの我をハイシェラのような粗暴者と一緒にしているつもりなのか!?」

「ああ、もう……”こんなの”がソロモンの一柱だなんて……”色欲”の者といい、ソロモンの魔神達は”こんなの”ばかりなのかしら?」

ペルルの言葉を聞いてペルルを睨んでいるアムドシアスを見て、フィニリィは呆れていた。



その後、一個小隊を連れたツーヤとリタがやって来てプリネ達の状態を見て、特にツーヤが表情を青褪めさせて取り乱したが、リタ達によって落ち着き、そして眠ってしまったプリネ達を大使館へと運んで行った。ツーヤ達が大使館に着き、リウイ達に事情を話したその頃、エステル達はロレントに到着した………



 
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