英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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第42話
~遊撃士協会・グランセル支部~
「なっ!?」
「「レ、レンちゃん!?」」
レンの登場にエステルやティータ、ミントは驚き
「このガキ……!あれだけの事をして、よく俺達の目の前にのうのうと顔を出せたな……!」
アガットは今にも掴みかかりそうな表情でレンを睨み
「とんでもない度胸を持つお嬢ちゃんだな………」
「いやはや……もはや感心の域に値するねぇ……」
「……さすがは”覇王”の娘といった所ね……」
「…………………………」
ジンは呆れた表情をし、オリビエは感心し、シェラザードはレンの度胸の凄さに納得し、クロ―ゼは何も語らず黙ってレンを見ていた。
「うふふ………皆様、ご機嫌よう♪先日はレンが開いたお茶会に出席して頂き、まことにありがとうございました♪」
エステル達に注目されたレンは気にせず、上品な仕草でエステル達に挨拶をした。
「あ、あんたね~!?あたし達にあれだけ迷惑をかけて、何とも思っていないの!?」
いつもの様子のレンを見たエステルは身体を震わせてレンを睨んで尋ねた。
「ごめんなさい………レン、メンフィルと仲良しさんのリベールの為を思って今回の事を考えたの。だから、許して?」
エステルに睨まれたレンは空港で見せた時のようにエステルの顔色を伺うような表情でエステルを見た。
「もう、あんたのその顔には騙されないわよ!だから、そんな顔をしても無駄なんだからね!」
「あら。さすがに2回目は通じないわね。」
(こ、この娘は~!)
あっさり態度を変えたレンを見て、エステルは心の中でさらに怒った。
「………それで、何の用でギルドに来たのでしょう、レン姫。」
そしてエルナンは警戒するような表情でレンを見て尋ねた。
「………さすがに今回はやりすぎだって、サフィナお姉様やシルヴァンお兄様に説教されて、迷惑をかけたお詫びをして来なさいって言われたから、仕方なく来たのよ。」
「お詫び?……一体それは何かしら?」
レンの話を聞いたシェラザードは首を傾げて尋ねた。
「うふふ……とりあえず遊撃士協会にはお詫びと今回の件に対する”協力”のお礼の品として、これをあげるわね。」
尋ねられたレンは小悪魔な笑みを浮かべてエルナンに豪華な装飾がされた一通の手紙を渡した。
「……………これは?」
「それはレンが書いたシルヴァンお兄様とパパ――メンフィル大使への紹介状よ。………さすがに直系の娘であり、次期皇帝のリフィアお姉様が書いた紹介状ほどの効果はないけど、少なくてもロレントにある大使館の門番に見せれば、パパに取り次いでもらえるわ。メンフィルの本国に支部を作りたい遊撃士協会にとってはそれはとっても役に立つ手紙でしょう?」
「(………なぜ、上層部が考えている事をこの娘が……)…………ええ。それより、”協力”とは一体何の事ですか?」
レンに尋ねられたエルナンは心の中で驚きながら頷いた後、レンが言った言葉が気になり、尋ねた。
「うふふ、そんなのもちろん、レン達メンフィルが作った魔導、導力を合わせて作った人形兵器の性能のテストに”協力”してくれたお礼に決まっているじゃない♪リベールでも選りすぐりの正遊撃にして『闇の聖女』の唯一の弟子にして、『風の銀閃』。『剣聖』の娘にしてさまざまな種族と契約しているエステル。そして新米ながら活躍が目覚ましい正遊撃士、アネラス・エルフィードを用意をしてくれるとは思わなかったわ♪後で銀髪のお姉さん、エステル、アネラス・エルフィードには報酬としてレンの名義で払っておくわ♪もちろん、結構な額を払うつもりだから期待していいわよ♪」
「なっ……!あの廃坑にあたし達を来させる為にわざと特務兵達の人形をボース付近に現させたの!?」
レンの説明を聞いたシェラザードは驚いて尋ねた。
「クスクス。レンもさすがにお姉さん達が現れるとは思わなかったわよ?今、リベールの有力な正遊撃士達は王都に固まっているか、強化訓練を行っていて、ボースには有力な遊撃士がいないって知っていたから、レンは準遊撃士がチームを組んで挑んでくると思ったわよ?………まあ、レンも知らないお客様がいたのにはちょっと驚いたけど。」
「テメエ………まさか、『結社』と繋がっているのか!?」
レンの話を聞いていたアガットは背負っている武器に手をかけ、レンを睨みながら尋ねた。
「レンの話はちゃんと聞いた?『結社』って何?昨日の話を聞いていた感じ、クーデター事件の黒幕みたいだけど。」
アガットに睨まれたレンは呆れた後、首を傾げて尋ねた。
「そ、それは………」
レンの疑問にエステルは何も答えず、どうするべきか迷った。
「レ、レンちゃん……それより昨日レンちゃんがその……壊した人形や『ゴスペル』によく似た装置ってどうやって作ったの?」
そこにティータが遠慮気味に尋ねて来た。
「うふふ、ティータはやっぱりそこが気になるのね。……他ならぬティータの頼みだし、話してあげるわ。……メンフィルは”百日戦役”後、オーブメント技術やゼムリア大陸の生活を知ってある事に気付いたのよ。」
「ある事??それって何なの?」
ミントは首を傾げて尋ねた。
「ゼムリア大陸は”導力”によって、軍事、生活等に全て頼っているのだから………もし、”導力”が使えなくなったらどうなるか……わかるでしょう?」
ミントの疑問にレンは凶悪な笑みを浮かべて答えた。
「………もし、その装置を兵器として、戦争をしている国で発動させればその国は混乱し、あげく戦う事もできなくなり、その国は逆らう事もできず、無条件降伏するしかない……という訳ですね。」
「うふふ、さすがお姫様ね。そういった事はわかっているじゃない♪レンは興味なかったからあんまり詳しい事は知らないから装置の説明とかできないけど、それがあれば、戦わずに敵国を支配できるでしょう?人形兵器はそのついでで創られた物よ。動力源は”魔焔”なんだから”導力”が止まっても動けるしね♪」
静かに答えたクロ―ゼの言葉を聞いたレンは小悪魔な笑みを浮かべて答えた。
「”魔焔”………それってもしかして、おじいちゃんがあの商人さんから買った武器を解体した時、出て来た石……?おじいちゃん、その石が動力源の可能性が非常に高いって言っていたし……」
「さすがはラッセル博士といった所ね。ティータの言う通り、あの石にはとてつもない魔力が含まれているのよ。………最もそれを扱うなんて、並大抵の人ではできないけど。」
「それをメンフィルは扱う事ができるという事か………つくづくとんでもない存在だな、メンフィルは。」
レンの話を聞いていたジンはメンフィルのすざましさに畏怖を抱いた。
「レンちゃん………さっきレンちゃんは言っていましたよね……『リベールの為に今回の事を考えた』って。あれは本当なのですか?」
「うふふ、そうよ。クーデター事件後の特務兵達の残党を全員、逮捕できたんだからこれで国内の反乱分子は一掃された事になっているじゃない♪それに今回の件をリベールから責められようが感謝されようが、レン達にとっては得しかないしね♪」
「………どういう事ですか?」
小悪魔な笑みを浮かべて語るレンをクローゼは不安そうな表情で見て尋ねた。
「感謝された時はメンフィルがリベールに”借り”を作れるし、例え責められた時も、クーデター事件時、レンやリフィアお姉様達――他国の皇女が特務兵に襲われたのだから、それを指摘して、逆にこちらが責める事もできるしね♪」
「っつ!!」
「そこまで考えるとは……とんでもない仔猫ちゃんだねぇ……」
「へっ!?リフィア達はクロ―ゼを助ける為に特務兵達と戦ったからまだわかるけど、レンが襲われたって……どういう事!?」
レンの答えを聞いたクロ―ゼは驚いた後表情を青褪めさせ、オリビエも驚き、同じように驚いたエステルはレンに尋ねた。
「うふふ………どこで知ったか知らないけど、大使館にいるある重要人物の事を情報部は手に入れたみたいでね。項を焦ったのかメンフィルに剣を向ければどうなるか気にしないで、数名の特務兵達がその重要人物を拘束しようとして、その時レンが傍にいたから”殲滅”したのよ。」
「ある重要人物………それって誰の事かしら?メンフィル大使やプリネさん達以外にいるとは思えないんだけど……」
「それは秘密よ♪」
シェラザードに尋ねられたレンだったが、誤魔化した。
「レ、レンちゃん……”殲滅”したってまさか………」
一方ティータは信じられない表情でレンを見て尋ねた。
「うふふ、ティータは中々鋭いわね♪ティータの考えている通りレンは特務兵達を殺したのよ♪」
「ひっ………!」
「テメエ………自分が何をしたのかわかっているのか!」
「レ、レンちゃん………!」
レンは凶悪な笑みを浮かべてティータを見て、見られたティータは悲鳴を上げ、アガットはティータを庇うかのようにティータの前に出てレンを睨んで怒鳴り、ミントは信じられない表情でレンを見ていた。
「レン!あんた、人を殺すのがどれだけの事かわかってて殺したの!?」
「クスクスクス。リフィアお姉様達とお友達になったエステルがおかしな事を言うわね?新聞記者の一人と親しいエステルなら、リフィアお姉様やエヴリーヌお姉様が”百日戦役”でエレボニアと戦ってエレボニア兵をたくさん殺した事ぐらい聞いていないのかしら?」
「そ、それは………」
レンを怒鳴ったエステルだったが、レンに指摘され、ナイアルの話を思い出して押し黙った。
「第一、プリネお姉様だって、レンみたいに盗賊や山賊とかの討伐にも参加した事があるのだから、プリネお姉様も賊――人を殺した事があるわよ?」
「プ、プリネが………」
争うのがあまり好きそうでないプリネも人を殺した事がある事を知ったエステルは驚いて、放心していた。
「うふふ、そんなに心配しなくてもリフィアお姉様やプリネお姉様は人を殺すのが好きじゃないのは事実よ?………まあ、その話は置いておいて、とりあえず今回の件に対してシルヴァンお兄様――メンフィルはリベールにある事を提案する事によって今回の件に対するリベール側の反論を封じる事にしたわ。」
「………一体それは何なのでしょうか………?」
レンの話を聞いたクロ―ゼは不安そうな表情で尋ねた。
「………もし、リベールがどこかから攻められるような事があれば、リベールがメンフィルに助けを求めた時メンフィルは二度、無条件で兵を出して、リベールを助けるわ。それとアリシア女王が存命中の間は例えどんな事があろうと、同盟の破棄は行わないわ。どう?いい提案でしょう?」
「…………それは……………」
メンフィル側の提案を知ったクロ―ゼは提案の破格さを考え、リベールの為にも女王も受けるしかないであろう提案である事に気付き、暗い表情をし、俯いて何も言えなくなった。
「レン………あんた、まさかそうなる事も予想していて、こんな事をしたの?」
話を聞いていたエステルは真剣な表情でレンを見て尋ねた。
「うふふ、さすがのレンもシルヴァンお兄様の考えまでは読めないわよ。むしろ、よくそこまで”譲歩”しているなって、感心しているぐらいよ?それにしてもよかったわね♪リベールは他国に対し、2枚の”切り札”を手に入れたんだから♪」
「………このガキ!さっきから黙って聞いていれば、国が大きいのをいい事にふざけた事ばかりぬかしやがって……!」
余裕の笑みを浮かべているレンをアガットは睨んだ。
「うふふ、”この件”は政治のお話。遊撃士協会が口を出せる事ではないわよ♪」
「………確かに。今回の件はもはや政治の話ですから、貴女の言う通り、我々遊撃士協会は口を出したり、手を出したりする事はできません。………申し訳ありませんが、みなさん。こらえて下さい。」
「チッ!」
「「………………」」
「仕方ない……か。」
「それがあるからギルドはどの国での活動も認められているんだものね……」
エルナンに言われたアガットは悔しそうな表情で舌打ちをし、エステルやシェラザードは複雑そうな表情をし、ジンは重々しく頷き、ミントは暗い表情をして答えた。
「…………レン、一つだけ答えて。エルベ離宮で初めてあたし達と会った時、両親の事を尋ねた時、言ったあの事………あれも嘘なの?あんた……リウイと聖女様の実の娘じゃないんでしょう?」
そしてエステルはレンに両親の事を尋ねた。
「あら、レンが養女だって事には気付いていたのね。まあ、レンは”人間”なんだし気付いてもおかしくないし、ママと親しいそこの銀髪のお姉さんならレンの事を知っていても不思議ではないしね。……あの時、エステル達にパパ達――ニセ物の方だけど、そっちの話は本当よ?レンには小さな頃、ニセ物のパパとママがいたわ。2人とも大好きだったけどお仕事が失敗しちゃってね。レンのこと、悪い大人たちに引き渡しちゃったのよ。『必ず迎えに行くからね』って泣きながら何度も繰り返してね。」
「そ、それって……」
楽しそうな表情で語るレンの話にエステルは信じられない表情をしていた。
「その人たちに引き取られた後、レンは色々なことをやらされた。大抵のことはすぐに慣れたけど痛くされるのだけは慣れなかった……。同じくらいの子たちもいたけどすぐに具合を悪くしちゃって居なくなっちゃうことが多かった。そんな生活が半年くらい続いたわ。」
「……くっ……」
「クソ野郎どもが………」
「さすがにこのボクも言葉がないよ……」
「「……レン……ちゃん……」」
「………女神よ………」
(……ん?待てよ……確か数年前に今聞いた話に近い事の大事件があったぞ………まさか、この娘はあの事件で生き残った……)
どことなく儚げな表情で語るレンの話を聞いたエステルやアガットは悔しがり、オリビエもさすがにいつもの調子で場を和ませる事はできず、ティータとミントは悲しそうな表情でレンを見て、クロ―ゼは悲しそうな表情で祈り、ジンはレンの話を聞いてある事件を思い出して信じられない表情でレンを見た。
「――――『D∴G教団』事件。ママの弟子のお姉さんやギルドの受付さんやA級正遊撃士のオジさんなら、聞いた事があるんじゃないかしら?」
「なっ!?」
「何故貴女があの教団の事を……!」
(………やはりか。まさか、こんな形で会う事になるとはな……)
(ほう……ここであの教団の名が出るとは思わなかったねぇ……)
レンの口から出た信じられない言葉を聞いたシェラザードとエルナンは目を見開いて驚き、ジンは冷静な様子で心の中で納得し、オリビエは驚いていた。
「『D∴G教団』?何それ?聞いた感じ、今ある宗教とは別の宗教の団体かしら?」
「「「………………………」」」
首を傾げているエステルの問いにエルナンとジン、シェラザードは押し黙っていた。
「あ、あのエルナンさん?」
「一体どうしたんだ?」
エルナンの様子を見たエステルは戸惑いながら尋ね、アガットは訝しげな表情でエルナンを見た。
「………あの事件を知っているお二人にお尋ねします。今、この場にいる全員に聞かせていいと思いますか?」
「……あたしは作戦に参加した訳じゃないから何とも言えないけど……あの教団の名を知った以上、知っておくべきだと思うわ。下手に口にして、他人に尋ねられて貰う訳にもいかないし。」
「俺も同じ意見だ。あの忌まわしき事件はとてつもない秘匿性が秘められているからな。」
エルナンに尋ねられたシェラザードとジンは静かに頷いた。
「………わかりました。『D∴G教団』………空の女神を否定する組織で数年前、リベールを含め、各国の子供を攫っていた歴史上最悪の組織でした。……その非道さは『結社』とは比べ物にならないくらいのものでした。」
「け、『結社』とは比べ物にならないって、一体どんな事をしたの……!?」
「………女神を否定するためにガキを攫いまくって一体そいつらは何がしたかったんだ?」
「子供を攫って、一体何をしたのでしょうか……?」
エルナンの話を聞いたエステルは驚き、アガットは眉を顰め、クロ―ゼは不安そうな表情で呟いた。
「教団の真の目的は事件解決後である今も、未だに不明なのですが………彼らがやっていた事はまさに外道と言われるあまりにも非道な所業でした。」
「い、一体何をしたんですか……?」
ティータは不安そうな表情で尋ねた。
「……教団はその子供達を使って、”儀式”という名の人体実験を行っていたのです……」
「じ、人体実験……」
「外道共が………!」
「あまりにも酷過ぎます………!」
「そうだよ……!なんで、そんな事ができるの!?」
「ふえっ……!」
エルナンの話を聞いたエステルは信じられない表情をし、アガットやクロ―ゼ、ミントは怒り、ティータは泣きだした。
「………事はあまりにも大きかった為、リベールを含めた3国に加え、クロスベル警察、遊撃士協会、そしてあのメンフィルもが協力してようやく教団が持つ複数の”拠点”を見つけ、教団員の撃破、そして拘束及び、子供達の救出を行ったのです。……指揮は当時A級正遊撃士であったカシウスさん――エステルさん、あなたのお父さんだったのです。」
「と、父さんが!?」
カシウスが指揮をとっていた事を知ったエステルは驚いた。
「ええ。そこにいるジンさんも作戦に参加したメンバーの一人です。」
「ジ、ジンさんが!?」
「……まあな。だが、俺は結局誰一人救える事はできなかったがな……」
エステルに驚かれたジンは静かに頷いた後、暗い表情をしていた。
「誰一人救えなかったって………まさか!」
「………ええ。教団員達から子供達を守ったメンフィル以外の各国から攫われた子供達の中でまともな状態で生存し、救出できたのは…………僅か2名です。」
「に、2名って………あまりにも少なすぎじゃない!他の子供達は!?それにまともな状態って、どういう事!?」
エルナンの説明を聞いたエステルは呆けた後、怒りの表情でエルナンに尋ねた。
「その2名以外はもはや人間の形をしていない子供……身体が別れている子供等、あまりにも酷過ぎる状態で死んでいたのです……」
「そ、そんな………!」
「ひ、酷い……酷過ぎるよ!」
「クソ野郎どもが…………!」
「…………女神よ…………」
「ふええええん!」
エルナンの話を聞いたエステルは信じられない表情をし、ミントは涙を流しながら怒り、アガットは最大限の怒りの表情をし、クロ―ゼは涙を流しながら祈り、ティータはエステルに抱きついて泣きだした。
「……それで教団員達はその後、どうなったんだい?」
オリビエは冷静な様子で真剣な表情をして尋ねた。
「……奴らは自分達が敗北しそうになると自爆、もしくは毒を呑んで全員自殺した。………だから未だに教団は結局何をしたかったのか未だにわかっていない状況だ。」
「と、とんでもない狂人の集団だったのね………ってレンがその事件を知っているって事はまさか!!」
ジンの説明を聞いたエステルは信じられない表情をした後、ある事に気付いてレンを見た。
「うふふ、察しがいいわね。……そうよ。レンは攫われた子供の中で”幸運”にも生き残っていた2人の内の1人よ。ニセ物のパパ達はそうと知らずにレンを教団の拠点に預けたみたいよ?」
エステルに見られたレンはどこか儚げな表情で答えた。
「………………」
「ヒック!レ、レンちゃんが………」
「そんな………」
「まさか貴女がそうだったとは…………」
レンの話を聞いたエステルはかける言葉がなく暗い表情をし、ティータはしゃっくりをあげながらレンを見、ミントは信じられない表情でレンを見、エルナンも信じられない表情でレンを見ていた。
「………レンちゃん。………お祖母様やエルザ大使がレンちゃんの名前に聞き覚えがあると言っていたのですが……もしかして……」
「……例の教団の事件についての話しあいでリベールはアリシア女王、エレボニアはゼクス少将、カルバードからはエルザ大使、そしてクロスベル警察からはセルゲイという人が代表で話しあったって聞いた事があるから、事件解決後、被害者の中で生存していたレンの事を聞いていたんじゃない?」
(……まさか、ここで先生の名前が出て来るとはね……)
クロ―ゼの疑問に答えたレンの話を聞いていたオリビエは意外な人物の名前が出た事に驚いていた。
「……例の教団の”拠点”を攻撃する際、メンフィルからは”剣皇”、”戦妃”、”空の覇者”そして”闇の聖女”が参加したと聞きます。もしかして貴女はその時、リウイ皇帝陛下達に拾われたのですか?」
「ええ、そうよ。パパ達に拾われてからのレンは今までにない幸せを手に入れ、いろんな事を学んだわ。たくさんの家族、行儀作法に帝王学に戦闘技術に用兵術、そして若くて強くて素敵なパパと優しくて綺麗なママをレンは手に入れ、小さい頃から憧れていたお姫様になったのよ♪どう?”闇の聖女”――ペテレーネママに憧れているエステルなら、レンが今、どれだけ幸せかわかるでしょう?だから、レンを哀れむ必要なんてないわ♪今のレン、とっても幸せだもの♪」
エルナンに尋ねられたレンは心の底から幸せになっているかのような表情でエステルを見た。
「…………………」
レンの笑顔を見たエステルは複雑そうな表情をして黙っていた。
「……確かにメンフィル皇家の一員、それもリウイ皇帝陛下とペテレーネ様を両親に持つなんてこれほど幸せな事はありませんが………レンちゃんは本当にそれでいいのですか……?リウイ皇帝陛下達はレンちゃんの実の親ではないんですよ……?」
「そうだよ!レンちゃんの本当のパパとママは絶対どこかにいるんだよ!?」
クロ―ゼは不安そうな表情でレンに尋ね、ミントも頷いて指摘した。
「うふふ、よりにもよってお姫様とミントがそれを言うとは思わなかったわ。……エステルの事を”ママ”と呼んで本当の親のように慕っているミントがレンにその事を言えるのかしら?」
「それは………」
レンの指摘にミントは俯いて何も言えなくなった。
「お姫様もそうよ。お姫様が言っている事を言いかえれば、お姫様にとってかけがいのない場所であるマーシア孤児院の子供達や院長先生の絆を否定する事になるのよ?」
「!!…………そ……れ………は………………」
同じようにレンに指摘されたクロ―ゼは目を見開いて驚いた後、押し黙った。
「さて……なんだか雰囲気が暗くなってきたし、レンはもう帰るわね。……その前にエステル、渡す物があるかレンの前に来てくれないかしら?」
「え………何をするつもり。」
レンに指名されたエステルはレンの壮絶な過去に呆けていたが、レンに指名された事で気付き、警戒した表情でレンに近付いて来た。
「うふふ、そんなに警戒しなくても何もしないわよ♪……昨日エステルに渡した手紙のお詫びにいい物をあげるわ♪はい。」
そしてレンは数枚の写真をエステルに渡した。
「写真?………え。」
写真を渡されたエステルは首を傾げていたが、写真に写っていた黒髪の少年――ヨシュアやヨシュアがジョゼット達と共に会話をしている様子の写真を見て呆けた。
「うふふ、それは特務兵の姿をした人形兵器に内蔵されてあった小型の導力カメラが撮った写真よ♪一枚は壊された後、カメラが生きていたお陰で唯一撮れた写真だから、運が良いわね?エステル♪」
「……これ………どこで……いつ……撮ったの………?」
エステルは写真を見て、身体を震わせた後信じられない表情でレンに尋ねた。
「秘密……と言いたい所だけど、お姉様達のお友達のエステルには特別に教えてあげるわ。その写真はレンとエステルが一緒にお泊まりした日に西ボース街道で撮られた写真よ♪」
「一昨日……ボース…………」
レンの答えを聞いたエステルは写真を見て、1人呟いていた。
「うふふ。それでは、みなさん。御機嫌よう。ロレントの大使館に来た時は今度は本物の”お茶会”をしましょうね♪」
そしてレンは両手でスカートの端をつまみ上げて頭を下げた後、転移魔術を使って、その場から消えた。
その後エステルは仲間達からレンから渡された写真の事を尋ねられたが誤魔化し、そして気を取り直したエステル達は次なる目的地であるボースへと向かう為に空港に向かった。定期船が来て、仲間達のほとんどが飛行船に乗り、エステルも乗り込もうとしたその時、ナイアルとドロシーが慌てた様子で駆けつけて来て、ドロシーが渡した写真――空賊に奪われた空賊艇とジョゼットと共に写っている人物――ヨシュアを見たエステルはさらに驚いた後、飛行船に乗り、複雑な思いを抱えてボースへと向かった。一方その頃。プリネはイリーナ、ツーヤ、そしてリタと共にフィニリィの探し人が見つかり、大騒ぎになっている自治州――クロスベル市に数日前に入国しており、フィニリィの探し人が現れるのを待っていた…………
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