英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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3章~狂ったお茶会~ 外伝~始まりし天使のお茶会~
~レイストン要塞~
エステル達がグランセルへと向かったその頃、中央工房から派遣されたアルセイユの整備隊がレイストン要塞に到着した。
「おお、アルセイユは先に到着してたようだな。か~、いつ見てもゾクゾクする機体だねぇ。」
整備長――グスタフは『白き翼』と評される最高速度を誇る高速巡洋艦『アルセイユ』を見て嬉しそうな表情で呟いていた。
「本当に……。ホレボレしちゃいますよね。あんな船を毎日整備できたら整備士冥利に尽きるんですけど。」
「ヘッ、そりゃあ俺の台詞だよ。」
「やあ、グスタフ整備長。忙しい所をよく来てくれたね。」
作業員と会話をしているグスタフの所にクーデター事件後中佐に昇格したシードが近付いて来た。
「よお、シード中佐。またあんたの出迎えかい。偉くなって、ここの守備隊長はお役御免になったんじゃねぇのか?」
「はは、そうなんだけどね。実はこの後、部下と共に警備艇で出発する予定でね。準備が済むまでヒマなので出迎えさせてもらったのさ。」
「はは、ご苦労さんなこった。そういや、こっちの方でも地震があったそうじゃねぇか?まさか、アルセイユが壊れたりしてねぇだろうな?」
「いや、アルセイユが到着したのは地震の起こった後のことでね。地震自体も、万全の備えだったからほとんど被害は出なかったんだ。ここの施設もそのまま使えるはずだ。」
「そりゃあ助かるぜ。さっそく今からでも入っちまいたいところだが……。親衛隊の連中はどこにいるんだ?」
「ああ……案内しよう。今行けば、面白いものをお見せできると思うよ」
「はあ?」
シードの言葉にグスタフは首を傾げた。そしてグスタフはシードに連れられて中庭に向かった。
~レイストン要塞・中庭~
シード達が到着すると、王国軍と親衛隊達に見守られ、モルガンを中心にカシウスと大尉に昇格したユリアが武器を持って向かい合っていた。
「両者、構え!」
モルガンの号令にカシウスは棒を、ユリアはレイピアを構えた!
「始めいっ!」
そしてモルガンの掛け声で模擬戦が始まった!
「―――やああああっ!」
先にユリアがカシウスに攻撃を仕掛けた!しかしカシウスは余裕の表情で防御や回避を行い、さらにカウンター攻撃をユリアに命中させた!
「くっ……」
「どうした!?動きが直線的すぎるぞ!細剣だからこそ可能な攻めの流れが作れるはずだ!教えたことを思い出せ!」
「ハッ……。……はいッ!」
カシウスの指摘に頷いたユリアは先ほどの動きと違い、カシウスを囲むように動き、背後から攻めたてた!
「それでいい……。ではこちらからも行くぞ!」
そしてカシウスは縦横無尽に動きで回避や攻撃を行い、ユリアに蹴りを入れた!
「くうっ……」
「守りも基本は同じだ!相手の動きを取り込みつつ、攻守の流れをイメージしろ!」
「はいっ!」
そして2人は激しい攻防をし、最終的にはカシウスがユリアに有効打を入れ、カシウスの攻撃にユリアは跪いた。
「うむ、そこまでだ。」
ユリアの様子を見てモルガンは模擬戦の終了を言った。すると中庭は兵士や親衛隊達による拍手が巻き起こった。
「はあっ、はあっ、はあっ……」
「ふふ、さすがだな。昔、お前に教えたのはほんの基礎だけだったが……。よくぞ独力でここまで鍛えた。」
息を切らせているユリアと違い、カシウスは息を切らせた様子もなくユリアを称賛した。
「い……いえ……。まだまだ未熟です。」
「なかなか良い仕合だったぞ。」
「将軍、ですが……」
「正直、おぬしがここまでやるとは思いもしなかった。相当な使い手でもカシウス相手では数合ほどで剣を弾かれてしまっただろう。若手最強と言われるのも肯ける。」
「きょ、恐縮です……。ですが、滅多にない機会……。できれば叩きのめされるまでお付き合い願えないでしょうか?」
モルガンの賛辞を受け取ったユリアはモルガンに稽古を頼んだ。
「フハハハハ!なかなか頼もしいな。さて、どうするカシウス?」
「ふふ、付き合ってやりたいのは山々ですが……。どうやら客人のようですな。」
ユリアの頼みを聞いて大笑いしたモルガンに尋ねられたカシウスは苦笑した後、シード達を見た。
「は~、こりゃあ凄いモンを見ちまったなァ。」
グスタフは呆けた様子で呟いていた。
「2人ともお疲れさまでした。シュバルツ大尉。本当に見事だったよ」
「シード中佐……。それにそちらの方は……」
「中央工房から派遣されたグスタフっていう者だ。よろしく頼むぜ、隊長さん。」
「こ、これは失礼した。王室親衛隊、中隊長。ユリア・シュバルツ大尉です。こちらこそよろしくお願いします。」
グスタフが名乗るとユリアも名乗り、敬礼をした。
「ふむ、どうやらこれでお開きのようだな。」
「みんな、余興はおしまいだ。それぞれの持ち場に戻ってくれ。」
「イエス・サー!」
モルガンの言葉に頷いたカシウスは兵士や親衛隊員達に指示を出した。カシウスの指示に敬礼した兵士達はそれぞれの持ち場に戻った。
「さてと、早速で悪いが機関部を見せてくれるか?できれば今日中に目処をつけちまいたいからな。」
「ええ、了解しました。それでは失礼します!准将、指南していただきありがとうございました!」
「なんのなんの。こちらも良い運動になった。」
「整備長、大尉。アルセイユを頼んだぞ。」
「は!」
「どんとお任せあれ。」
そしてグスタフとユリアはアルセイユに向かった。
「ふふ……。さすがですね、彼女は。これから更に伸びそうです。」
「ああ、そうだな。お前やリシャールまであと1、2歩といったところだろう。」
シードの評価にカシウスは頷いた。
「ふむ、ああいう若者を見るとこの老体にも沸き立つものがあるな。カシウス、後で付き合わんか?」
「将軍……。さすがにお歳を考えた方がよろしいんじゃありませんか?」
「むむっ……」
呆れた様子のカシウスの言葉を聞いたモルガンは唸った。
「聞けば、去年の武術大会ではかなり大暴れしたそうですな?カーリアン殿との――”大陸最強”を誇る精鋭揃いの中でも指折りの実力を持つメンフィルの武将との試合は滅多にできない事なのですから少しは若い者に経験をつませてやらなけらばいけないでしょう。」
「ふん、だからこそお前に司令の座を委ねたのだ。そこまで言ったからには文句を言わずに勤めてもらうぞ?」
「おっと、ヤブ蛇でしたか。」
「ふふ……」
モルガンとカシウスの様子を見て、シードは思わず笑った。
「そうだ、シード中佐。今日には出発するそうだな?」
「はい、正午には。警備艇2隻を率いて3個中隊を率いる予定です。」
モルガンに話をふられたシードは頷いて答えた。
「調印式にはワシも参加するが、それまでは身動きが取れん。王都の守りは頼んだぞ。」
「よろしくお任せください。遊撃士協会と協力して事に当たらせてもらいます。」
「う、うむ……。あまり愉快ではないが今回ばかりは仕方ないだろう。………なんせ今回は、リウイ皇帝陛下ではなく現メンフィル皇帝夫妻――シルヴァン皇帝陛下とカミ―リ皇妃も王都にいらっしゃるとの事だからな………万全を期すべきだろう。」
シードの話を聞いたモルガンは苦い表情をして頷いた。
「ふふ、将軍のギルド嫌いも徐々に治りつつあるようですな。」
モルガンの様子を見て、カシウスは口元に笑みを浮かべていた。
~レイストン要塞・外~
「監視塔に導力センサー……。水中には機雷群を設置……。やはり、守りは完璧ですわね……。フン、仕方ない……。やはりあの手紙に書かれた通り、あれを使うしかないわね……」
一方その頃、レイストン要塞を女性――クーデター事件以降行方をくらましていたカノーネが木の陰から伺っていた。
「閣下……もうすぐです。どうか待っていてください。」
そしてカノーネはレイストン要塞に背を向け、勝ち誇った笑みを浮かべて一人呟いていた。
~同時刻・メンフィル大使館・レンの私室~
「うふふ………せっかくレン達、メンフィルがリベールに恩を売れるいい材料があるんだから、ちゃんと活用しないとね♪」
その頃、数日前にリウイ達と共に大使館に帰還したレンはメンフィルの諜報部隊によって発見されたクーデター事件以降行方をくらませた特務兵達やカノーネの写真を見て、小悪魔な笑みを浮かべていた。そしてカノーネ達の写真とは別に分けてあったある人物――ケビンの報告書に貼ってあるケビンの写真を見た。
「クスクス………ついでにレンのママに関係のない事で責める人達には、レンが娘としてお仕置きする必要があるわね♪」
そしてレンはさらに分けてあった報告書に書かれてある、ある人物の活躍を読んだ後報告書に貼ってある写真――エステルの写真を手に取った。
「エステル・ブライト………随分お姉様達がお世話になったようだし、ここは妹として挨拶をしないとね♪後少しで会えるわね♪エ・ス・テ・ル♪」
自分以外誰もいない部屋でレンは一人、エステルの写真を見て小悪魔な笑みを浮かべていた。
「………さて、レンもそろそろグランセルに行こうかしら。………プリネお姉様達はお姉様の使い魔の探し人が発見されたクロスベル。リフィアお姉様達はミルスでユイドラとの交流の件の大切な会議。お姉様達はそれぞれ立派に働いているんだから、レンもメンフィルの為に働かなきゃね♪”下準備”も終えたし………うふふ………楽しい”お茶会”になりそうね♪」
そしてレンは小さな鞄に持って行く物を入れた後、リウイ達に外出する事を伝えた後、転移魔術を使ってリベールの王都――グランセルに転移した…………
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