英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第136話
演習の見学を終え、ガレリア要塞に戻ったリィン達はナイトハルト少佐から演習の成果について説明を受けた後夕食を取る為に食堂に向かった。
同日、20:10―――
~ガレリア要塞・食堂~
「悪いな、俺達の後でさ。」
「いえ……お邪魔している身分ですし。」
「……気にしないでください。」
食事を終えて退出しようとする帝国軍兵士の謝罪にリィンとアリサは謙遜した様子で受け取った。
「ま、夕飯は昼間より遥かにマトモだとは思うぜ。何てったって週に一度のハヤシライスの日だからな!」
「あはは……帝国軍の伝統ですよね。」
「まあ……!それは期待できそうですわね。」
「あのお昼ご飯と比べれば、どんな料理も豪華だね。」
嬉しそうな様子で言った兵士の話にエリオットは苦笑し、セレーネは微笑み、エヴリーヌは疲れた表情で言い
「んー、このニオイ、お腹減ってきちゃった。」
ミリアムは食堂に漂う料理の匂いを嗅いでいた。
「そういや、君らの教官さんはどうしたんだい?美人だし、ちょっと話してみたかったんだけどなー。」
「ああ……ナイトハルト教官と要塞司令の所に行きました。」
「……食事は私達だけで済ませるように言われまして。」
「そっか……でもまあナイトハルト少佐と一緒じゃな。」
マキアスとエマの話を聞いた兵士は若干残念そうな表情をした。
「第四機甲師団の連中は凄いよな。”紅毛のクレイグ”に加えてあの怖い少佐までいるんだから。」
「はは……」
「ガチムチな感じだね。」
兵士の感想を聞いたリィンは苦笑し、フィーは静かな表情で言った。
「っと、あんまり無駄話してハヤシライスが冷めたら悪いな。」
「それじゃあ、また明日な。」
その後リィン達はお昼に出された食事とは比べものにならないくらい豪華である夕食のハヤシライスを堪能していた。
「……美味しい……」
「お肉もとろけるくらい柔らかいですね……」
「ふふ、昼間の食事が嘘みたいですね……」
ハヤシライスの美味しさにアリサとセレーネ、エマは微笑み
「ああ、染み入る味だな。」
「……………フン………………」
「もぐもぐもぐ……」
ガイウスは静かに頷き、ユーシスは鼻を鳴らしながらも食べ続け、エヴリーヌは周囲の暗い空気を気にせず食べ続けていた。
「ああもう!みんな暗すぎるってばー!」
「やれやれ。ちとナイーブすぎねぇか?」
その時周囲の暗い空気に耐えかねたミリアムが声を上げ、クロウが苦笑しながらリィン達を見回した。
「……仕方ないでしょう。士官学院で教わっているものを全て否定された気分ですから。」
「教養、学力、武術……実際の戦争にそんなものは何の役にも立たないんですね。」
「……まあ、そうだね。単に”戦争”をやるだけならそんなものは必要ない。」
「重要なのは、純粋な兵力と最新兵器と総合的な火力……それらを活かせる戦術と効果的に運用できる戦略か。」
マキアスとエマの話にフィーは頷き、ガイウスは静かな表情で語った。
「……”アハツェン”にしても想像以上だったわね。2年前、母様が正規軍に自信満々に売り込んでたのは覚えているけど……」
「”兵器”……わたくしとツーヤお姉様の世界にはなかった恐ろしい存在ですわね……」
「正直……私も少しばかり気落ちしている。あのような兵器が主役の戦場で剣が活かせるとは思えぬからな。」
複雑そうな表情で語ったアリサに続くようにセレーネとラウラは重々しい様子を纏って呟いた。
「うーん、だからといって武術が役に立たないわけじゃないとは思うけど。」
「だが……俺達は少し勘違いをしてたのかもしれない。今日、演習場で見たのは混じりけのない”力”だろう。理念も理想も関係なく―――振るわれたら単純に結果だけをもたらすような”力”だ。」
「確かに……」
「剣にしろ、銃にしろ、その意味では延長線上にあるな。」
リィンの話にエマとラウラはそれぞれ頷いた。
「……この要塞に格納されてる”列車砲”なんかもそうね。」
「……そう考えると今回の演習を僕達に見えた理由が何となく見えて来た気がするな。」
「フン……随分持って回ったやり方だが。」
アリサとマキアスの話を聞いていたユーシスは鼻を鳴らした。
「……ていうかさ。話を聞いて疑問に思ったけど、あんな玩具、大した事ないよ?エヴリーヌ達の結界に罅一つ入れる事すら出来なかった上、滅茶苦茶脆かったし。」
「エ、エヴリーヌさん。」
「エヴリーヌさんは絶大な”力”を持つ”魔神”だからそんな事が言えると思うんだが……」
そしてエヴリーヌが呟いた言葉を聞いたセレーネは冷や汗をかき、リィンは複雑そうな表情で言った。
「あんな玩具、”魔神”や”神格者”じゃなくても鍛え上げられた”人間”だったら砲弾もかわせるし、破壊する事だって可能だよ。異種族なら”闇夜の眷属”じゃなくても獣人族なら持ち上げる事も可能だろうし、エルフなら結界で砲撃を防げるし、”竜”だったら、その身に砲撃を受けても平然としていると思うよ。」
「”規格外”の存在と”普通の人間”である俺達を一緒にするな、阿呆。」
エヴリーヌの説明を聞いたユーシスは呆れた表情で指摘し
「……だけど、エヴリーヌの言う事にも一理あるな。」
「実際、”ブレイサーロード”達が生身で戦車を破壊していたしね。」
「ま、まあエステルさん達の場合は色々と”特別”ですけどね……」
マキアスとフィーは静かな表情で頷き、エマは苦笑しながら言った。
「いや~、なかなか盛り上がってるみたいね。」
その時サラ教官が食堂に入ってきた。
「サラ教官……」
「お話は終わったんですか?」
「ええ、クロスベルの通商会議の情報とかも仕入れてきたわ。それと……テロリストの最新情報もね。」
「……!」
「”帝国解放戦線”か……」
サラ教官の話を聞いたリィン達は表情を引き締めた。
「――明日の予定を伝えるわ。午前中は、正規軍の行う基礎体力トレーニングに参加。午後からは特別講義と合わせて一通りの情報を教えてあげる。そしてその後は―――”列車砲”の見学許可も出たわ。」
「……そうですか……」
サラ教官の説明を聞いたアリサは複雑そうな表情をし
「ちょっと楽しみかも。」
「いや~、なかなか盛りだくさんじゃねえか。」
フィーとクロウは興味ありげな表情をしていた。
「ま、せっかく君達をわざわざ連れて来たからね。―――どんな国も多かれ少なかれ軍隊と言う”力”を持っている。そしてこのガレリア要塞はものすごくわかりやすい形でその”力”を保持しているわ。帝国の士官学院に在籍する以上、君達は知る必要がある―――帝国が現時点で持ち、自分達が将来扱うかもしれない”力の大きさ”についてを。」
「あ……………」
「…………」
「ふふ……さーてと、あたしも噂のハヤシライスを貰ってこよっと。それだけはイケるって聞いたからちょっと楽しみだったのよね~。」
自分の話を聞いて呆けた表情をしているリィン達の様子に満足したサラ教官は自分の食事を取りに行った。
「……俺達もとっとと食べてしまうか。」
「ええ……ちょっと冷めちゃったけど。」
「おかわり貰おっかなー。あ、ユーシス。いらないならボクが貰っていい?」
「ええい!いるに決まってるだろう!」
「もぐもぐ、エヴリーヌも後でおかわりもらおうっと。」
「フフ、その前に口についているルーを取りますね。」
「ん。ありがと、セレーネ。」
リィン達が食事を再び取り始めたその頃、格納庫では整備員達が導力端末を操作していた。
~格納庫~
「よし、これでいいはずだ。おっしゃ、今日のノルマ終わり!」
「は~、やれやれ。やっと風呂に入れるぜ。」
「ま、演習の前後だとどうしても修羅場だよな。導力ネットか……こいつが来てから資材管理とか相当ラクになったけど。
「たしかクロスベルじゃそこそこ使われてるんだって?帝国でも普及しないかね。」
「有線で通信を送る設備が必要らしいからな。帝国の国土の広さじゃ相当先になりそうだってよ。」
整備士達が雑談をしていると、端末から音が鳴った。
「なんだ……?」
「導力メール……司令部から?」
端末に来たメールに気付いた整備士は端末を操作して仲間達と共にメールの内容を読み
「おいおい、マジかよ!?」
「ああもう、これだから導力ネットってやつは!24時間、関係ナシかよ!」
メールの内容を知った後それぞれ文句を言い始めた。
「なんだなんだ、どうした?」
その時戦車の整備をしていた整備士達が近づいてきた。
「どうしたもこうしたも……明日、追加演習があるらしい。」
「明日までに20台のアハツェンに”Cユニット”を付けろだってよ。」
「うげっ、マジか!?」
「徹夜確定じゃないか!?」
「そもそも”Cユニット”って、そんなに残っていないだろう!?」
仕事が増えた事を知った整備士達はそれぞれ表情を青褪めさせた。
「いや……今日の夕方貨物便で運ばれたばかりだ。ちょうど20個だったな。」
そして端末を見ていた整備士が立ち上がって情報を口にするとその場にいる全員は冷や汗をかいた。
「―――仕方ない、やるか……」
「くそ~……!せめてシャワーだけでも!」
「食堂で夜食とコーヒーでも頼んでくるか……」
残業が確定した事に肩を落としながら整備士達は仕事を始めた。
一方その頃ヨナの依頼を受け、ジオフロントに潜ったロイド達はヨナがかつて占有していた部屋の前に到着した。
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