英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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外伝~演奏家の捜索~前篇
同日、13:15―――
~クロスベル駅~
「…………………………」
サングラスをかけた黒服の大男は黙って誰かを待っていた。
(おい……なんだかすげえ雰囲気のヤツがいるみてえだが……)
大男を見たランディは仲間達に耳打ちをし
(もしかしてあの人が依頼者なんでしょうか?)
(とても演奏家を探してくれと依頼した人には見えないよねぇ?)
不思議そうな表情で大男を見つめるノエルの言葉を聞いたワジは静かな笑みを浮かべ
(ア、アハハ……)
「フッ…………」
ツーヤは苦笑し、ヴァイスは静かな笑みを浮かべて何も語らなかった。
「?……すみません。特務支援課の者ですが…………」
ヴァイスの様子に首を傾げたアルは大男に話しかけた。
「……お待ちしていた。来てくれて感謝する。自分の名はミュラー……エレボニアで音楽マネージャーをしている者だ。短い間だがどうかお見知りおき願おう。」
話しかけられた大男―――ミュラーは口元に笑みを浮かべて名乗った。
「音楽マネージャー……なるほど、なら貴方が演奏家の捜索を依頼した方ですね。」
ミュラーの自己紹介を聞いたアルは頷き
(ぜ、全然見えねぇ。)
(どちらかというとSPって感じの雰囲気ですよね……)
仲間達と共に冷や汗をかいたランディとノエルは小声で相談し
(フッ……音楽マネージャーか。)
(オリビエさんが聞いたら、どんな反応をするか、目に見えてますね……)
静かな笑みを浮かべるヴァイスの小声にツーヤは苦笑しながら言った。
「……どうかしたのかね?」
ランディ達の様子を見たミュラーは不思議そうな表情で尋ね、ミュラーに尋ねられたアルは焦る仲間達の様子を気にせず話を続けた。
「いえ、特には。それでは依頼について詳しく説明をいただけますか?」
「確か『演奏家』が行方不明になったとかいう話だったね。察するに、あなたがマネジメントしている人なのかな?」
「ああ、その通り。自分達は、演奏旅行のためクロスベル入りしたのだが……少し目を離した隙に、その演奏家とはぐれてしまってな。勝手のわからない街で探すアテもなく、困っていたところだったんだ。」
ワジに尋ねられたミュラーは答え
「それは、確かに大変そうですね……クロスベル市は広いですし。」
ミュラーの話にノエルは同情した。
「ああ、それもあるが……厄介な問題もある。早速捜索を頼めるだろうか?」
「了解しました、お任せ下さい。それでは、捜索する『演奏家』について詳しくお聞かせ願えますか?」
ミュラーの確認に頷いたアルは続きを促した。
「うむ、よかろう。演奏家の名は……『オリビエ・レンハイム』。20代の金髪の男で、白いコートを羽織り、リュートを携えている。」
「ふむ、楽器を持ってるとなるとなかなか目立ちそうだね。探すのはそこまで難しくなさそうな気がするけど。」
「ああ、それだけなら探して連れ帰るのにはさほど問題はないのだが……オリビエは、少々性格に問題があってな。頼んでもいないのに自ら面倒事に首を突っ込み、更なる面倒事にしてしまう。正直言って、厄介な人物と言ってしまっていいだろう。」
自分の話に頷いたワジの話を聞いたミュラーは頷いた後表情を忌々しそうに変えて答えた。
「はあ……?」
「おいおい。今日は厄介な捜索人物の依頼ばっかだよなあ……」
「アハハ……確かに。」
(あの人は”厄介”の一言で済ませられるような人物じゃないけどね……)
ミュラーの話を聞いたアルは戸惑い、ランディは疲れた表情で溜息を吐き、ランディの言葉にノエルは苦笑し、ツーヤは疲れた表情になってある人物の姿を思い浮かべていた。
「演奏旅行に支障がないよう、速やかに探し出して欲しいが……まあ、そこまで高望みはすまい。せめて、悪目立ちする前にふん捕まえてくれると助かるが。」
「マ、マネージャーにしちゃ随分な物言いッスね。」
「とりあえずイメージはある程度つかめました。あとは、行きそうな場所に心当たりはないですか?」
「そうだな、強いていうなら……いかがわしい場所、あるいは賑やかな場所を好む傾向があるだろう。美食家ぶって、どこぞの食事処に居座っている可能性もあるが……」
「とにかくトラブルの火種がありそうな場所ってことですね。」
「だとすると、旧市街や歓楽街、裏通り……そのあたりが考えられそうだね。」
ミュラーの説明を聞いたノエルとワジは呟いた。
「ああ、いい線だと言えるが……実は、歓楽街はすでに一通り探し終えていてな。探索範囲から外して構わないはずだ。おそらく俺が探しに来ると踏んでいかにもな場所は避けているのだろう。」
「なるほど。しかし賑やかな場所といったら今日は港湾区も入るかもしれませんね。確か、公演でみっしぃの出張イベントをやっているはずですし。」
「ふむ……まあ絞り込めそうなのはそんなところだろうか。すまない、もう少し大した情報を提供できればよかったのだが……」
「いえ、参考になりました。それでは、早速捜査に当たらせていただきます。」
「どうかよろしく頼む。連れてくるのに苦労するなら多少、痛い目にあわせても構わないからな。」
「―――了解しました。もしその時が来れば、多少痛めつけてから捕縛させて頂いてもいいんですね?」
「ああ、奴にとってはいい薬になるからいっそ、気絶させても構わん。むしろそうしてもらった方が回収する際、こちらが楽になるしな。」
ミュラーとアルの会話を聞いていた仲間達は冷や汗をかいた後、演奏家の捜索を開始し、様々な場所を回りながら旧市街での捜索を開始する為に旧市街によった。
~旧市街~
「……んだと、コラァ!」
「アア!?文句ばっか言ってんじゃねえよ!」
ヴァイス達が旧市街に入ると言い争いの声が聞こえてきた。
「あの人達は確か”教団”の襲撃事件の時に見た……」
言い争いの声を聞いたツーヤが仲間達と共に声が聞こえてきた方向を見つめると、そこでは旧市街を根城にしている二つの不良集団の一つであり、ワジが以前率いていた不良集団―――”テスタメンツ”の好敵手である”サーベルバイパー”に所属する青年たちが言い争っていた。
「てめえ、スラッシュ……マジメに考えてんのか!?あのままヴァルドさんが酒に溺れて体でも壊したらどうすんだ、ア!?」
「だから、オレはそうならないように色々とアイディアを考えてるだろうが!!何にも思いつかねえからってカリカリすんなっつーの!」
「さっき『タワーの上で景色でも見れば、キゲン直るんじゃねーの』とか、軽く抜かしてやがったあれの事か!?ヴァルドさんの機嫌が高い所に上るくらいで直るんだったら誰も苦労しねえんだよ!!お前みたいなバカと一緒にすんじゃねえ、バカ!このバカ!!」
「て、てめェ~~~~~~~ッ!!3回も言いやがったな、コラァ!!一つもいいアイデアをださねえお前なんかの百倍はマシなんだよ!」
「んだと………!やろうってのか、アア!?」
そして言い争いの末、青年たちが互いが武器を構えて戦闘を開始しようとしたその時
「―――今すぐ喧嘩を止めろ!周りの人々に迷惑だ!」
ヴァイスが大声をで制止の声を叫び、仲間達と共に2人に近づいた。
「て、てめえらは………」
ヴァイス達を見た青年達はロイド達を睨み
「おいおい、仲間同士で武器まで持ち出すなんて、らしくねえんじゃねえのか?」
「ハッ……てめえらには関係ねえだろ!元はといえば……ワジ!!てめえがハンパなマネをやらかしたせいで……!!」
「そうだ……!ヴァルドさんがあんなことになっちまったのはワジのせいだ!全部てめえが悪いんだよ、ワジィ!」
ランディの忠告を無視し、怒りの表情でワジを睨んだ。
「……………………」
青年たちに睨まれる心当たりがあるワジは目を伏せて何も語らず
「ちょ、ちょっと待って!ワジ君はそんな……」
ノエルは慌てた様子で制止しようとしたが
「とにかく、このままじゃ収まらねえ……まずはてめらをブチのめしてやる!!」
「ヒャハ、そうだなァ!ヒューイ、てめえをのしてやんのはその後だぜ!」
青年達はノエルの言葉を無視してヴァイス達に敵意を向けた。
(やれやれ……共通の敵を見つけた途端、手を組むとは……仲が良いのやら、悪いのやら………)
(というかこの戦力差で何故やり合おうとするのかが理解できません。)
青年達に敵意を向けられたヴァイスは溜息を吐き、アルは不思議そうな表情で呟き
(皆さん、どうしますか?)
(完全に頭に血が上ってやがるぜ?)
(――仕方ないな。さっさと制圧して頭を冷やさせるか―――)
ツーヤとランディに判断を迫られたヴァイスが判断しようとしたその時、リュートを弾く音が聞こえて、音を聞いたその場にいる全員は首を傾げた。
「フッ……哀しいことだね。」
そして声が聞こえた方向をその場にいる全員が見つめるとそこには建物の屋上にある木箱にリュートを持ち、白いコートを羽織った金髪の青年がいた。
「争いは何も生み出さない……愚かな憎しみの連鎖を紡ぐだけさ。そんな君達に、歌を贈ろう。混沌とした心を解きほぐしやがて人々を結びつけるような、そんな優しくも切ない歌を……」
地上にいるヴァイス達を見下ろしている青年は口元に笑みを浮かべて言った後、リュートを鳴らして歌い始めた。
「流れ行く 星の 軌跡は…………道しるべ 君へ続く…………
焦がれれば 想い 胸を裂き……苦しさを 月が笑う……
叶うことなどない はかない望みなら………」
青年が歌っているといつの間にか青年がいる建物で店番をしている女の子が青年の後ろに来て、青年を蹴って怒鳴った!
「……おい、うるせーぞキンパツ!!」
「むおっ……!?」
女の子に蹴られた青年は歌を中断をした後振り返り、焦りながら女の子を見つめたが
「ど、どうしたんだい、可愛い仔猫ちゃん。フッ、見ての通り演奏中でね。悪いがサインなら後でお願いするよ。というか、こんな所で蹴られたらさすがに危な――――」
「ゴチャゴチャいってんじゃねー!店の上でメーワクだから、さっさとおりろ!」
女の子は無視して睨んだ後再び蹴り、蹴られた青年は慌てた様子で木箱から飛び降りた。
「わ、わかった。わかったからもう――――」
「おーりーろー!」
そして青年は女の子に追いやられながら逃げ
「わー……!?」
「あ、落ちた。生きてるかー、キンパツー。」
「きゅう。」
「……生きてるなー。」
声を上げた後、女の子の声が聞こえてきた。そしてその場にいた全員は黙り込んだ。
「あー……その、なんだ。なんか白けちまったし、帰るわ。」
青年の一人はヴァイス達を見つめて言い
「ヒャハッ、なんだよあの金髪……もががっ。」
もう一人の青年は何かを言いかけたが青年に手で口を塞がれ
「……いいから、帰るぞ。」
青年に促されてヴァイス達から去って行った。
「逃げましたね……まあ、彼らの気持ちもわからなくはないですが……」
その様子を見守っていたツーヤは苦笑し
「……ふう、ある意味助けられちゃったかな。」
ワジは安堵の溜息を吐いた。
「フ、フッ……魔都に咲かんとする争いの芽を摘んでしまった。愛と真心で平和をもたらす我がリュートの調べ……自分の才能がときどき恐ろしくなるよ。」
するとその時金髪の青年がフラフラしながらヴァイス達に近づいてきた。
「あ、あの………大丈夫ですか?さっきはなんだか鈍い音が聞こえましたけど。」
その様子を見たノエルィはヴァイス達と共に脱力した後戸惑った様子で声をかけ
「フッ、心配はいらないよ、マドモアゼル。あの程度の高さなど、今まさに大陸の空を駆けんとするボクには恐るるに足らずさ。」
「意味がわからねえ……」
声をかけられて答えた青年の話を聞いたランディは溜息を吐いた。
「少しばかりトラブルに見舞われてしまったが……気を取り直して、続きを披露させていただくとしよう。フッ、存分に楽しんでくれたまえ。」
そして青年はリュートを出して演奏しようとしたが
「いりません!」
ツーヤが顔に青筋をたてて制止した。
(ア、アル警視。もしかしてこの人って……)
「(ええ、話に聞いた通りの特長ですから間違いありませんね。)―――失礼ですがあなたは、オリビエさんで間違いありませんね?」
ノエルの言葉に頷いたアルは真剣な表情で青年―――オリビエを見つめて尋ねた。
「フッ……いかにも。愛を求めて旅をする不世出の天才にして漂泊の演奏家、オリビエ・レンハイムだ。フッ、君達は運がいい。この天才のゲリラ・リサイタルに遭遇する事ができたのだからね。どうか今日という日をその心に刻み、一生の思い出としてくれたまえ。」
「……はあ。」
胸を張って言ったオリビエの説明を聞いたアルは戸惑いながら頷いた。
「アレッ、そういえば……なんでその名を知っているんだい?クロスベル入りしてから名乗った覚えはないつもりだったが。……どこかでお会いしたかな?」
一方オリビエは黙り込んでロイド達を見つめた後尋ね
「私達はクロスベル警察、特務支援課の者です。ミュラーさんという方の依頼であなたを探していました。」
「ほう、君達が噂の……フッ……ミュラーの心配性も相変わらずだな。この程度の時を別々に過ごしたところで、僕らの愛は薄れはしないのに。」
アルの話を聞いたオリビエは酔いしれた様子で答え
「ええっ!そ、そんな関係なんですか………?」
「男性と男性が付き合うなんて、生産性に欠けますからやめておいた方がいいですよ?」
オリビエの答えを聞いたノエルは驚き、アルは指摘し
「……いやいや、多分違うだろ。」
(この人の場合だと、冗談になっていないかもしれないんだよね……)
ランディは疲れた表情で溜息を吐いて指摘し、ランディの指摘を聞いたツーヤは表情を引き攣らせていた。
「――とにかく、依頼者であるミュラーさんのもとへ戻っていただけますか?」
「………悪いが、その頼みを聞くわけにはいかないな。どうせ、明日には忙しくなる。今のうちにクロスベルを十分に堪能しておきたいしね。」
アルの問いかけに対してオリビエは口元に笑みを浮かべて答え
「忙しくなる……?」
オリビエの答えを聞いたアルは不思議そうな表情でオリビエを見つめた。
「フッ、こちらの話さ。もし、キミたちがボクを見逃してくれないと言うのならば……どんな手を使っても見逃してもらうとしようか。」
「へえ……?一体どうするつもりなんだい?」
オリビエの話を聞いたワジが興味深そうな様子でオリビエを見つめたその時、オリビエはヴァイス達に背を向け
「ハッ……!あそこにいるのはユリア准佐ッ!?」
真剣な表情で声を上げた!
「え。」
「ハアッ!?」
「ど、どこですかっ!?」
オリビエの言葉に反応したアルは呆け、ランディは声を上げ、ノエルは真剣な表情で声を上げてオリビエが見つめる方向を見つめていたがそこには誰もいなかった。
「って、あ、あれ……誰もいませんけど……」
誰もいない事にノエルが戸惑ったその時
「あ。」
ある事に気付いたアルが呆けた声を出した後仲間達と共に旧市街の出入口を見つめるとそこにはオリビエとヴァイスがいた!
「フッ、また会える日を楽しみにしているよ!」
「アル!俺は少し休憩しているから、後はお前達に任せた!」
そして2人はアル達に背を向けて走り去り
「ちょ、ちょっと……!」
「ヴァ、ヴァイスさん!?」
2人の行動を見たノエルとツーヤは声を上げたが2人は走り去ってしまった。
「ハハ、逃げられてしまったね。」
「しかもヴァイスまで一緒に……」
その様子を見守っていたワジは静かな笑みを浮かべ、アルは呆けた。
「あんな古典的な手にひっかかるなんて……あのユリア准佐がこんなところにいるわけないんですけど。」
ノエルは真剣な表情で呟いた後溜息を吐き
「やれやれ、レクターとは別の意味で厄介そうな兄さんだぜ。つーか、何で局長まで一緒になってんだよ!?」
ランディは疲れた表情で溜息を吐いた後叫んだ。
「サラ教官といい、オリビエさんといい、ヴァイスさんといい、いつもいつもみんな揃いも揃って何であたし達を引っ掻き回すんですか…………――皆さん。ミュラーさんも痛めつけていいと言っていた事ですし、これを機会に仕事をサボっているヴァイスさん共々”お仕置き”をしてあげましょう!」
そしてツーヤは身体を震わせながらブツブツ呟いた後、顔に青筋を立てて笑顔を浮かべてアル達を見つめ
「ハ、ハア……?」
(怖っ!一瞬お嬢やセティちゃんの怒りの笑顔と重なったぞ……)
(フフ、普段の学生生活で溜まっていたストレスがついに爆発したみたいだね。)
(ア、アハハ……一体どういう学生生活なのかちょっと気になるね……)
ツーヤの様子にアルは戸惑いながら頷き、ランディは表情を青褪めさせて身体を震わせ、静かな笑みを浮かべるワジの言葉にノエルは苦笑しながら答えた。
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