英雄伝説~光と闇の軌跡~(SC篇)
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外伝~怪盗の報告~
~ルーアン市・南街区・夜~
「―――かくして宴は終われども、残されし熱気に我らはただ惑い……蒼ざめた月影と、海原を渡る涼風が熱き血潮を冷ますのを待つのみ……」
ブルブランは港湾区の倉庫の上に佇み、呟いていた。ブルブランの姿はエステル達と出会った時と違い、ニルとテトリの魔術攻撃によってマントはボロボロで仮面に着いていた羽飾りの片方がなくなっていて、仮面には罅が入っていた。
「……待たせたな。」
そこにいつの間にかブルブランが立っている倉庫の隣にある倉庫の上に立っていた銀髪の青年――ロランスが声をかけた。
「フフ、ちょうど時間通りさ。しかし相変わらず律儀な男だな。たまには遅刻ぐらいしても罰は当たらないのではないかね。」
不敵な笑みを浮かべているブルブランの所にロランスは跳躍して、ブルブランが立っている倉庫の上に着地した。
「これも性分でね。早速だが、報告を聞かせてもらおうか。」
「はは、そう焦るものではない。今宵は気分がいい。少しくらい浸らせてくれたまえ。」
「やれやれ……よほど気に入ったと見えるな?」
ブルブランの様子に苦笑したロランスは尋ねた。
「うむ、麗しの姫君にはますます心を奪われてしまった。それに、思わぬところで美をめぐる好敵手と出会ってね。フフフ……これから忙しくなりそうだ。」
「仕方のないやつだ。個人的な趣味も結構だが計画の支障になっては困るぞ。」
「フフ、それは心配無用だ。それでは受け取りたまえ。」
そしてブルブランはロランスにゴスペルを渡した。
「……確かに。それで……実験の成果はどうだった?」
「ふむ、そうだな。9割成功と言っていいだろう。投影装置が生み出した映像をかなり遠くの座標まで転送できた。ただ、最初の1、2回は転送に失敗したらしくてな……。3回目を越えたあたりから完璧に作動するようになったが。」
「ふむ……。不安要素はあるが、悪くない。早速、教授に伝えておこう。」
ブルブランの報告を聞いたロランスは頷いた。
「しかし『ゴスペル』か……。導力停止現象もそうだが今の技術を遥かに越えているな。『十三工房』製らしいが一体どういうカラクリなのかね?」
「さてな……。俺も詳しくは聞かされていない。ただ、教授によればそれらの現象は『奇跡』の一端に過ぎないらしい。」
「ほう、奇跡ときたか。ふむ……奇跡は女神にしか許されぬ御業。いったいどういう意味なのやら。」
「いずれにせよ、真の潜在能力は今後の実験で明らかになるだろう。………それよりその様子だと、随分手酷くやられたようだな?お前ほどの者がそこまでやられるとは誰がやったのだ?」
ロランスはマントがボロボロで仮面に罅が入っているブルブランを見て尋ねた。
「フフ………『彼』がお気に入りの少女のナイト達にやられてしまったよ。まさか去る直前に魔術を放って来るとは………フフ、麗しの姫君や好敵手に出会えた嬉しさでつい、油断してしまったよ。」
「エステル・ブライトの使い魔とやらか……確かに奴らはそれぞれ、正遊撃士と同等かそれ以上の実力を持っているから油断はできない上奴らは………」
ロランスは急に話を止めた。
「………………………………」
そして突如、身体をある方向に向けて、そこを睨んでいた。
「ほう?フフ、今宵は意外な登場人物に恵まれているようだ。さて、筋書きはどうしたものか。」
「フッ……」
ブルブランの言葉にロランスは不敵に笑った後、剣を構えた。
「それは、身を潜めているネズミの態度次第だろうさ。」
「クク、違いない。」
ブルブランもロランスのように自分の得物であるステッキを構えた。
「さてさて……どんな声で鳴いてくれるのやら。」
2人が武器を構えて、ある方向に強襲しようとしたその時
「……うぃ~…………」
遠くから誰かが酔った様子で近付いて来た。
「ふむ……。どこのネズミか知らぬが命拾いしたようだな。」
「フッ……。女神達に感謝するがいい。」
そして2人は倉庫を飛び下り、姿を消した。
「ぎゃはは、酒持ってこ~い!」
「うぇっぷ、もう飲めない……」
「ちくしょう……俺だって……俺だってなぁ……」
2人が消えた後、酒に酔った人物達――ロッコ達だった。
「はあぁ~……。寿命が縮むかと思ったわ……。ヘッ、言われずとも女神に感謝しまくりやっちゅうねん。………ちなみにこの場合、イーリュンやアーライナにも感謝すべきやろか?」
ロランス達が睨んでいた方向――コンテナに隠れて、自分の得物であるボウガンを構えて戦闘態勢に入っていたケビンは強敵が去った事に安堵の溜息を吐いて、武器を懐にしまった。
「……しかしまあ、何ちゅう化物どもやねん。あれが結社の『執行者』か……」
そしてケビンはロランス達がいた方向を見て、一人呟いていた。
そして翌日、エステル達はジャンに学園の地下であった出来事を報告していた。
「そうか……ご苦労だったね。『身喰らう蛇』……。カシウスさんに話を聞いた時には正直、半信半疑だったが……。とりあえず、今回の調査の報酬を渡すよ。まさかこんな形になるとは思わなかったけどね。」
そしてジャンはエステル、アガット、ミントにそれぞれ報酬を渡し、さらにミントには正遊撃士の推薦状を渡した。
「わあ………ママとヨシュアさんが貰ったのと同じ、推薦状だ……本当に貰っていいの!?ジャンさん!」
推薦状を貰ったミントは表情を輝かせてジャンに尋ねた。
「ああ。予想以上に活躍してくれたし、エステル君達のサポートもしっかりこなせていたしね。構わないよ。」
「えへへ………ありがとう、ジャンさん!」
ジャンに褒められたミントは無邪気に喜んだ。そしてジャンは表情を真剣な表情にして、エステル達に言った。
「調査結果はすぐに王国軍に報告しておこう。あちらさんも相当、情報を欲しがっていたからね。」
「ああ、頼んだぜ。あの投影装置を考えるとハンパな組織じゃねぇはずだ。しかも『ゴスペル』をまた持ち出してくるとはな……」
「どうやら結社の目的は新しい『ゴスペル』を使った実験をすることにあったようだね。幽霊騒ぎは、趣味の入った実験結果でしかなかったようだ。」
「怪盗ブルブラン……。あいつ、自分のことを『執行者』と呼んでたよね。」
「恐らく『結社』のエージェント的な存在だろうね。察するにロランス少尉も同じような立場だったんだろう。」
アガットやオリビエ、エステルの話を聞いたジャンは自分の仮説をエステル達に話した。
「………………………………」
「ママ…………………」
「エステルさん、あの……」
黙っているエステルを見て、エステルの考えを察したミントとクロ―ゼは心配そうな表情でエステルを見た。
「うん、わかってる……。『漆黒の牙』……。あの日、ヨシュアは自分のことをそんな風に呼んでいたから……。多分、ヨシュアもその『執行者』だったんだと思う。」
「なるほどな……。あの怪盗野郎と同格なら、あいつの専門技術も納得だ。ひょっとしたら実力を隠して猫をかぶっていたのかもしれねぇ。」
エステルの話を聞いたアガットは16歳という年齢でありながら、さまざまな技術に長けていたヨシュアに納得した。
「うん……そうかも。……ねえ、ジャンさん。」
「なんだい?」
「あの怪盗男、結社の計画が始まったばかりだって言ってた。多分、リベールの各地で色々しでかすつもりだと思うの。ほかの地方支部から何か情報は入ってきてないかな?」
「うーん……。目立った情報は入ってないね。ただ、エステル君の言う通り、結社が各地で暗躍を始めている可能性は高いと思う。幽霊騒ぎも一段落ついたし、他の地方に移った方がいいかもね。」
「ああ。俺もそう思っていたところだ。どこか手薄な支部はあるかよ?」
ジャンの考えに頷いたアガットはどこの支部に行くべきか尋ねた。
「強いて言うならツァイス支部だと思う。常駐のグンドルフさんが王都方面へ出かけたらしくてね。かなり大変な状況らしい。」
「だったら、あたし達が手伝いに行った方がよさそうね。でも、ルーアン支部は大丈夫?」
「実は、ボース支部のスティングさんが数日後こっちに来てくれるんだ。それまではメルツ君1人に何とかしのいでもらうとするさ。そうだ、ツァイスに着いたらラッセル博士を訪ねた方がいいね。新たな『ゴスペル』の一件は博士の知恵を借りた方が良さそうだ。」
「わあ………ツァイスかあ…………ティータちゃんに会えるね、ママ!」
ツァイスに行く事を知ったミントはツァイスにいる友人の事を思い、はしゃぎながらエステルを見た。
「ふふ、そうね。ティータとも会いたいし、すぐに工房を訪ねてみるわ。」
「それでは準備ができたらさっそく飛行場に行くとしよう。ジャン君。乗船券を5枚手配してくれたまえ。」
「へっ……?」
「いきなり仕切ってなに図々しいこと言ってんのよ……。……って5枚?」
オリビエの提案にジャンは首を傾げ、エステルはジト目でオリビエを睨んだが、ある事に気付いて首を傾げた。
「フッ、エステル君とアガット君とミント君。そして、このボクと姫殿下の分に決まっているだろう。」
首を傾げているエステル達にオリビエは当たり前の事を言うような表情で答えた。
「あ、あんですって~!?」
「ええええ~!?」
「そんな気はしてたが……。この先も付いてくるつもりかよ?」
オリビエの話を聞いたエステルとミントは驚いて声をあげ、アガットは顔をしかめて尋ねた。
「ヨシュア君を捜すのは愛の狩人たるボクの使命でもある。新たな好敵手とも巡り会えたし、同行する理由は十分だと思うけどね?」
「あ、あんたのタワケた理由はともかく……。クローゼまで一緒に巻き込むんじゃないわよ!」
ついでにクロ―ゼまで巻き込んでいる事にエステルはオリビエを睨んで怒鳴ったが
「いえ……。実は私も、同じことをお願いしようと思っていました。」
なんと当の本人であるクロ―ゼはオリビエと同じ考えである事を答えた。
「え。」
「クロ―ゼさん?」
クロ―ゼの意外な返事にエステルは呆け、ミントは首を傾げた。
「リベールで暗躍を始めた得体の知れぬ『結社』の存在。王位継承権を持つ者として放っておくわけにはいきません。それに何よりも……エステルさんとヨシュアさん、そしてミントちゃんの力になりたいんです。」
クロ―ゼは凛とした表情でエステル達についていく理由を答えた。
「クローゼ……。で、でも学園の授業はどうするの?」
「そうだよ~。クロ―ゼさんが通っている学園って、すっごく難しいってミント、先生から聞いたよ?」
エステルは嬉しさを隠せない表情で、ミントは心配そうな表情でクロ―ゼに尋ねた。
「実は今朝、コリンズ学園長に休学届を出してしまいました。試験の成績も問題ありませんし、進級に必要な単位もとっています。ジルとハンス君にも相談したら『行ってくるといい』って……」
「い、いつのまに……」
「やれやれ。思い切りのいい姫さんだぜ。」
クロ―ゼの行動を知ったエステルは苦笑し、アガットは感心した。
「す、すみません……。押しかけるような真似をして。あの……駄目でしょうか?」
「ふふっ……。駄目なわけないじゃない!そういう事なら遠慮なく協力してもらうわ!アガットもいいよね?」
「ま、いいだろ。アーツにしてもハヤブサにしても姫さんがいると色々助かるしな。」
「ミントは………聞くまでもないわね。」
「勿論だよ!これからクロ―ゼさんと一緒に行動できるんだ…………ミント、ワクワクして来たよ!」
アガットの返事を聞いたエステルはミントを見たが、表情を輝かしているミントを見て、苦笑した。
「よかった……。ありがとうございます。エステルさん、アガットさん、ミントちゃん。」
「えへへ、何といっても紅騎士と蒼騎士の仲だもんね。一緒に協力して、行方不明のお姫様を捜すことにしましょ!」
「あ……はい、そうですね!」
「フッ、それじゃあボクは黒髪の姫に強引に迫ろうとする隣国の皇子という設定で……」
「勝手に役を増やすなあっ!」
エステル達の和やかな会話にちゃっかり入って来たオリビエにエステルは怒鳴った。
「あはは……。話がまとまって何よりだね。しかし、そういう事なら2人を『協力員』という立場で扱わせてもらった方が良さそうだ。そうすればギルドとしても経費面などで便宜が計れるからね。」
エステル達のやり取りを微笑ましそうに見ていたジャンはクロ―ゼとオリビエの立場を言った。
「はい、それでお願いします。」
「誠心誠意、愛を込めて協力させてもらうよ。」
そしてエステル達はギルドを出た…………………
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