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英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク

作者:sorano
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外伝~帝都への帰還~中篇

~グランセル城・客室~



「……ふう。さすが女王陛下ご自身が紅茶がお好きなだけはありますな。香り、温度、味わい……どれをとっても申し分ない。フフ、私はコーヒー党ですがこれなら毎日飲みたいくらいです。」

「……その意見には同意するがそろそろ本題に入って頂こうか。話しと言うのは一体何かな?」

紅茶を飲んで一息ついているオズボーン宰相にオリビエは真剣な表情で尋ねた。

「フフ……どうやらリベールでの滞在は殿下にとってこの上なく有意義なものだったようですな。」

「……なに…………」

「以前お会いした時もたいそう柔軟で聡明な方だという印象を受けたものですが………今の殿下はそれに加えて芯の強さも兼ね備えておいでだ。さぞ陛下もお喜びになるでしょう。」

「フッ、そういう貴方こそ相変わらずの豪胆ぶりだね。いや、以前会った時よりもさらに圧倒的なオーラを感じるよ。さしずめ併呑(へいどん)した領土の広さだけの怨念をまとっているといった所かな。」

オズボーン宰相の称賛を口元に笑みを浮かべて受け取ったオリビエは笑顔を浮かべて称賛に対して皮肉で返した。

「フフ、これは手厳しい。ですが、できれば併呑ではなく併合と仰って欲しい所ですな。かの”百日戦役”以来、帝国軍が侵略行為に及んだことはただの一度たりとも無いのですから。」

「確かにその通りだ。――――あくまで名目上はね。」

「………ほう。」

オリビエの意味深な言葉を聞いたオズボーン宰相は若干驚いた表情をして、オリビエを見つめた。



「併合された小国や自治州はどこも幾つかの問題を抱えていた。そしてその問題が深刻化して猟兵団などが入り込んで来た所で、極度に治安が悪化……困窮した現地政府の要請を受けて帝国軍が介入し、そのままウヤムヤの流れで併合が決定される。そのプロセスは全て共通している。」

「ふむ、確かにそのような共通性があるのは確かですな。ですがそれも、激動の時代が生み出した必然でありましょう。帝国軍はあくまで帝国のため、周辺地域の安定を実現するべく然るべき対応をしているだけですよ。」

「それは非常に結構なことだ。だが………それにしては情報局の人間が周辺地域に赴きすぎているのは気になるな。しかも、抱えていた問題が深刻化するよりも以前からだ。」

自分の指摘に対して返したオズボーン宰相の説明に頷いたオリビエは笑顔を浮かべて意味深な言葉をオズボーン宰相に向けた。

「フフ、そのような情報をどの筋から入手されたのかはあえて問いますまい。全ては危機管理の思想によるもの。だからこそ我が軍はこれまで幾つもの有事を治めることが出来たのです。」

「周辺地域の怨嗟とテロという危険と引き換えにね。正直、貴方がこうして単身リベールを訪れたというのがいささか信じられない気分さ。今のエレボニアにおいて恐らく、一番テロの対象として狙われている人間だろうからね。」

「フフ、恐れ入ります。ですが、どうかご心配なく。優秀なスタッフのおかげでテロへの対策は万全でしてね。」

「優秀なスタッフ………たとえばあのレクター君か。」

オズボーン宰相の口から出た人材に心当たりがあるオリビエは真剣な表情で訊ねた。



「フフ、変わり者ではありますがなかなか使える男でして。今回のスケジュール調整からテロ対策まで段取ってくれました。おかげで、このあと安心してクロスベルに向かう事ができます。」

「な………!?」

オズボーン宰相が次に向かう場所を知ったオリビエは信じられない表情で思わず声を上げた。

「クロスベルの政府代表と極秘の会議を行う予定でしてね。最近、共和国の資本が流れ込んで対抗勢力に押され気味なのだとか。一度、行ってみたい場所でしたのでこれを機会に訪れてみようかと。」

「ば、馬鹿な………今のクロスベルは各国の勢力が入り乱れた状況だ!緩衝地帯であるのをいいことにテロ組織や犯罪組織などの温床になっているとも聞く………そんな場所に非公式とはいえ、帝国宰相が乗り込むだと……!?」

「それを言うなら殿下。あなたとて同じことでしょう。そしてかの浮遊都市に乗り込み、視察という大任を果たされて地上に戻られた。フフ、それと比べればたかがクロスベル訪問ごとき、子供の遣いと同じ事。」

「………………………」

不敵な笑みを浮かべて語るオズボーン宰相をオリビエは真剣な表情で見つめていた。

「今、本国で殿下はちょっとした英雄扱いですよ。その殿下が”白き翼”と名高い”アルセイユ”で帝都に凱旋する。”帝国時報社(インペリアル・クロニクル)”を始めとする各方面への連絡もぬかりはない………まさに殿下が見込まれた通り、華々しいご帰還となるでしょうな。」

「…………ッ……………」

自分の目的をオズボーン宰相が悟っている事に気づいたオリビエは唇を噛みしめてオズボーン宰相を睨み

「フフ、どうかこの機会を最大限に活かしてご自分の足場を固めるがよろしい。殿下、私はあなたに大いに期待しているのですよ。」

対するオズボーン宰相は興味ありげな表情でオリビエを見つめた。一方その頃レクター書記官は空中庭園で一人静かに外を見つめていた。



~グランセル城・空中庭園~



「…………………」

「ピューイ!」

静かに外を見つめているとジークが空から飛んできて、レクター書記官の前のテラスにとまった。

「ピュイ!」

「よ、久しぶり。変わってないね、お前。」

「ピュイピュピュイ。ピューイ、ピュイピュイ。」

「なるほど………色々とあったみたいだなァ。ま、主人共々元気そうで何よりだぜ。」

「ピュイ♪」

「……先輩。」

レクター書記官がジークに親し気に話しかけているとクローゼが近づいてきた。



「これはクローディア殿下。ご機嫌うるわしゅう。勝手かとは思ったのですが、見学させていただいておりました。いや、それにしても本当に素晴らしい眺めですね。」

「先輩………どういう事なんですか?どうして先輩が………オズボーン宰相の元でこんな事をしているのですか?」

「はて………何のことやら自分にはさっぱり。どなたかと勘違いされていらっしゃるのでは?」

クローゼの問いかけに対してレクター書記官はとぼけた様子で答えた。

「レクター・アランドール………2年前までジェニス王立学園に在籍していた、前生徒会長………先輩、あなたの事ですよね。」

「いえ、実は私の名前はレク・タ~ランドールと申しまして。ですから多分それは別人でしょう。どうか私のことは、レクとでもタ~ランドールとでもお呼びください。」

「っ………ふざけないで下さい、先輩っ!あんな風に、突然退学届を出して何も言わずに居なくなるなんて………!レオ先輩やルーシー先輩、それにジルやハンス君たちがどれだけ心配したと思っているんです!」

とぼけた様子で答え続けるレクター書記官の態度に業を煮やしたクローゼは怒りの表情で声を荒げてレクター書記官を睨んだ。



「……………………」

「あの冷静なレオ先輩が怒鳴り声を上げていました!ルーシー先輩は『レクターらしい』って苦笑しながら泣きそうな顔で!ジルやハンス君、それにもちろん私だって………!なのに………この城に私がいると知って、姿を現しておきながらなぜ誤魔化そうとするんですか!?」

「………くくっ……………わはははははははははははっ!」

怒りの表情で語るクローゼを見つめていたレクター書記官は突然笑い始めた。

「レクター先輩………!」

「悪い悪い、そう怖い顔をするなって。しかし、お前さん。相変わらずアタマが固いねぇ。王太女になってもクソ真面目なところは全然変わってないみたいだなァ。」

「あ………」

レクター書記官がかつての学生時代のように親し気に話しかけてくると、クローゼは安心して嬉しそうな表情になった。

「でもまあ、安心したぜ。お前のことだから王太女なんかになったりしたら身動き取れなくなるかと思ったが………噂で聞いた限りじゃ、何とかやってるみたいじゃないの?オレが学園を辞めてからいい出会いがあったみたいだな。」

「先輩………はい、おかげさまで。でも、私が変われたとしたらその最初のきっかけをくれたのはレクター先輩、あなたです。あんな風に突然いなくなるから満足にお礼も言えませんでしたけど………私はずっと……先輩に感謝していました。」

「ほう、そりゃ光栄だ。お礼にキスでもしてくれるか?」

「しません。尊敬はしてますけど恋愛感情はありませんので。」

意味ありげな笑みを浮かべて問いかけるレクター書記官にクローゼは苦笑しながら答えた。



「そりゃ残念。後輩がこんな綺麗になって少しドキドキしてたんだが………どうやらオレの一人相撲だったみだいだなァ。」

「ふふ、また心にもない事を。先輩の方こそ………信じられないくらいきちんとした格好をなさっていますね。いつもヨレヨレの制服をだらしなく着ていた先輩が………」

かつての学生時代のような態度で語るレクター書記官を微笑ましく見守っていたクローゼは学生時代のレクター書記官と今のレクター書記官を頭の中で比べていた。

「バカモノ、あれはファッションだ。あの適度にルーズでファジーな着こなしは厳密な計算による演出でだな………」

「………今となってはその言葉も真実に思えます。学園生活を思うがまま謳歌し、あちこち楽しくかき回しながらも先輩は賢者のように理知的でした。その理由の一端が今日………ようやく垣間見えた気がします。」

「………………」

「改めてお聞きしますが………先輩、どうしてオズボーン宰相の元へ?学園を退学してから……一体、何があったのですか?

そしてクローゼがレクター書記官に真意を訊ねているその頃オズボーン宰相の自分に対する評価を聞いたオリビエは口を開いて話し始めた。 
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