英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第119話
8月29日――――
翌朝、アルゼイド子爵とクラウスに見送られたリィン達が町に降りると霧が晴れていた。
~レグラム~
「あ……!へー、凄い光景だねー!」
「本当に……湖面がまるで鏡みたいです。」
「綺麗………」
霧が晴れたレグラムの湖面の絶景にミリアムははしゃぎ、エマとセレーネはうっとりとした様子で見つめた。
「?向こうに船が止まっているね。」
「―――サザーラント州側の波止場だな。」
エヴリーヌの疑問にユーシスは答え
「”聖女の城”というのも昨日よりはっきり見えるな。」
「これが……霧の晴れたレグラムか。」
「フフ、私にとってはどちらも馴染み深い光景だな。」
ガイウスとリィンもそれぞれ景色を楽しみ、ラウラは懐かしそうに見つめていた。
「―――みんな。昨日は騒がせて済まなかった。」
静かに答えたリィンの言葉を聞いた仲間達は振り返ってリィンを見つめた。
「……リィンさん……」
「――まったくだ。だが、そなたにとって必要なことだったのだろう?」
「……ああ。以前の俺は、師匠の教えに気付ける段階にはなかった。だけど……子爵閣下が手合わせを通じて俺に気付かせてくれたんだ。」
「そうか……ならばよい。……そなたも足掻きながら前に進もうとしているのだな。」
「フフ、いい風の導きがあったようだな。」
「―――しかしリィン。改めて聞かせてもらおうか。お前の力……あれはなんだ?プリネがその身に秘める”力”を解放した時と似ているようだが。」
「そだね。リィンって、”闇夜の眷属”―――上位か最上位魔族あたりの血でも混じっているの?あんな凄まじい”魔”は人間だと絶対に出せないよ。」
ユーシスとエヴリーヌの疑問を聞いたリィンや仲間達は驚き
「あ……」
「お兄様……」
セレーネは心配そうな表情で真剣な表情をしているエマと共にリィンを見つめた。
「…………………」
二人の問いかけにリィンは黙り込み
「すごかったよねー。別人みたいな動きをしてた上、”光の剣匠”に傷を負わせたし。何かのリミッターが外れたような感じだったけど?」
ミリアムは興味ありげな表情で推測した。
「ああ……どうやらそうみたいだ。―――自分の中に眠っている”獣”じみた何か……何かのタガが外れた時だけ、俺を呑みこんで”変化”させる……子供の頃に初めて気付いて心のどこかでずっと恐れてたんだ。」
「そうだったのか……という事はベルフェゴールと出会った時、俺とエリオットを逃がしたのも……」
「ああ……”変化”した俺に二人を巻き込ませない為だ。」
ある事を思い出したガイウスの言葉にリィンは静かに頷いた。
「”獣”じみた何か、か……」
「”闇”に属するエヴリーヌさんは何かご存知ではないのですか?あの時のお兄様からは凄まじい”負”の気を感じたのですが……」
「んー、そう言われても”魔神”や魔族達の”負”の力とは何か違うんだよね。」
一方ユーシスは考え込み、セレーネに尋ねられたエヴリーヌは首を傾げて不思議そうな表情でリィンを見つめた。
「うーん。カッコよかったけどなー。リミッターを外して強くなるならじゃんじゃん使えばよくない?」
「はは……それが出来れば苦労はしないさ。あれを抑える為に……俺は師匠から剣を教わった。正しき力の使い方を知る事で自分の中の獣を抑えられるように。だが、根本的な解決にはならず、途中で修行も打ち切られた……情けない話だろ?」
ミリアムの指摘に苦笑したリィンは自身が剣を始めたきっかけや説明をした後疲れた表情で溜息を吐いた。
「リィンさん……」
「お兄様……」
「だが、昨日の勝負で何かを掴めたんだな?」
「ああ……どれだけ否定しても自分自身を偽ることはできない。あるがままの自分を認めない限り、結局、前にも後ろにも進めない。……そんな当たり前の事に今更ながら気付かされただけさ。」
「ほえ~……」
「よくわかんない。」
ガイウスの問いかけに答えたリィンの決意を知ったミリアムは呆け、エヴリーヌは首を傾げ
「そうか……」
「フッ、世話の焼ける男だ。」
「わたくしの”パートナー”がお兄様で本当によかったですわ……」
ガイウスとユーシスは静かな笑みを浮かべ、セレーネは微笑んだ。
「あるがままの自分を受け止め、迷いながらも前に進んで行くか。……ふふ。私も負けていられないな。なんせ私の奥義どころか父上の絶技まで習得した上改良までしているのだから、アルゼイド流の宗家の血を引く者として今以上に精進せねばな。」
「ハハ、”変化”しないと使えないから、習得したとは言えないけどな。」
ラウラに見つめられたリィンは苦笑しながら答えた。
「……リィンさん。今の話、B班のみんなにもいずれ伝えてあげてください。きっと喜ぶと思いますから。」
「ああ……そうさせてもらうつもりだよ。先月の旧校舎以来、心配をかけてたみたいだからな。」
その後リィン達は課題を受け取る為に遊撃士協会支部に向かった。
~遊撃士協会・レグラム支部~
「いや~、聞いたぞ。何でも”光の剣匠”とやり合ったんだってな?」
「はは……胸を貸してもらっただけです。しかもセリカ殿にまでお手を煩わせてしまいましたし。」
「いやいや、あの”光の剣匠”とやり合ったどころか、攻撃を叩きこめただけでも大したもんだ。サラも化物じみた強さだが子爵やセリカはその上を行くからなぁ。さすが”八葉一刀流”の初伝を貰ってるだけはあるな?」
苦笑するリィンの様子をトヴァルは感心しながら見つめた後ウインクをした。
「く、詳しいですね……」
「さすが遊撃士、情報通だねー。」
「ま、”八葉一刀流”はギルドも馴染みがあるからな。それはともかく……2日目の課題を渡しとくか。」
そしてトヴァルはリィンに課題内容が書かれてある紙が入った封筒を手渡し、リィン達は課題内容を確認した。
「あら……さほど多くはないんですね?」
「今日は一日中ですから、昨日より多いと思ったのですが……」
課題内容の数を確認したエマとセレーネは目を丸くし
「この手配された魔獣はいささか気になるが……」
ラウラは考え込む動作でトヴァルを見つめた。
「ああ、午後からは別の課題を追加で振ろうと思っている。レグラム滞在は今日までらしいから、セリカ達共々せいぜい手伝ってもらうつもりさ。それじゃ、よろしく頼んだぜ。」
「えー、何で遊撃士協会ってこんなに人使いが荒いの?」
「エ、エヴリーヌさん。」
トヴァルの話を聞いて不満そうな表情をしているエヴリーヌを見たエマは冷や汗をかいた。
「承知しました。」
「では、始めるとするか。」
「フン、この程度であればすぐに片がつきそうだな。」
「それじゃあ、今日もはりきって行こー!」
そしてリィン達は課題の消化を開始した。
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