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ソードアート・オンライン~隻腕の大剣使い~

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第34話白骨の処刑獣


ライリュウside

第75層・《コリニア》、転移門広場

準備は終わった。やり残した事(キリトとのデュエル)も済ませた。あとはボスを倒し、花畑の街の妹の待つ家に帰るだけ。絶対に生きて帰ろうーーー

「おーい!ライ公ーーー!!」

「誰が伝説の虎だ、クライン」

転移門から出てきたら真っ先にあのおっさんの声が響いた。ギルド《風林火山》リーダー・クライン。今のところ、あのおっさんのギルドは一人も死者を出していない。一ギルドのリーダーとして、一人のプレイヤーとしてなら尊敬出来るんだけどーーー女を色眼鏡で見るところはどうもいただけない。おまけに未来と初対面だった時にはーーー

『クライン、23歳独身!恋人募集中ゥッ!?』

『人の妹を色眼鏡で見るんじゃねぇ!このエロ侍!』

ーーーこんな事もあったな。この時は三刀流とエロコックを足して2で割ったような奴だなって思ったっけ。今となっては懐かしいな。
ここにいるのはクラインだけではなく、さっきまでデュエルをしていたキリトと、そのデュエルを楽しそうに見届けてくれていたアスナさんもいた。それにーーー

「エギル・・・何でここに?」

「お前も言うかライリュウ・・・こっちは商売投げ出して加勢に来たんだぞ?」

スキンヘッドでガタイの良い色黒の外国人男性、エギル。エギルは一時期から商人プレイヤーとして活動し、フロアボス戦にもたまに強力に来てくれる程度に一緒に戦う事が少なくなった。でも実力だったら攻略組とそこまで変わらないから、心強い味方である事は確かだ。
おまけに今回のボス戦の戦利品で一儲けしようと考えているらしく、なんだか、そのーーー揺るぎないと思えるな。

「ん?ライリュウ、お前その装備・・・」

「そういえば、いつもの赤忍者じゃないよな。違和感すごいな・・・」

「いつも真っ黒のキリの字が言える事でもねぇだろ?」

「ステータス高いんだから別にいいだろ!?」

「まあまあキリトくん落ち着いて・・・」

エギルがオレの装備を指摘し、キリトが違和感を覚えクラインとの口喧嘩が勃発。アスナさんがキリトを宥めてあっさりと終戦。ナイスツッコミだったぞクライン。誉めて使わす。
ひとまず四人にこの装備の説明ーーーは、いいかな。そう考えていたら、転移門から五人の男が現れた。《血盟騎士団》団長、ヒースクリフ。そして彼を囲む四人の幹部格の男達。この五人組を見たら、周りの空気が変わった。
彼らは適当な所に立ち止まり、ヒースクリフが大きな青い結晶アイテムを取り出した。あれはーーー《回廊結晶》。前にオレも《タイタンズハンド》の投獄に使ったな。あれは予め出口を設定して、使用すれば設定された場所に通ずる空間の穴が生まれる。ヒースクリフはその《回廊結晶》を空にかざしーーー

「コリドー、オープン」

合言葉を唱えて、出口に設定されたボス部屋の前に通ずる空間の穴を生み出した。

「さあ、行こうか」

ヒースクリフはオレ達に振り向き、出発の合図をあげる。
オレ達は彼の言葉を聞き、空間の穴ーーーボス部屋への通路に足を踏み入れた。




******




通路を抜けたら、薄暗いボス部屋の前の広い場所にいた。ボス部屋の中はおろか、部屋の前ですでに不気味な雰囲気が漂っている。
オレ達は各々アイテムストレージから回復アイテムを取り出しベルトポーチにしまったり、武器の並べ替えなどもしている。オレも《回復ポーション》各種をベルトポーチにしまい、《ドラゴンビート》を最後まで温存するために別の剣を取り出した。
これは《ザ・グリームアイズ》を《オーバーロード》で倒した際に、LAボーナスとして手に入れた《グリームアイズの剣》を装備した。結構しっくりくるし、使えるはずだ。

「準備はいいかな?基本的には《血盟騎士団》が前衛で攻撃を食い止めるので、その間に可能な限り攻撃パターンを読み、柔軟に反撃してほしい。厳しい戦いになるだろうが、諸君の力なら切り抜けられると信じている」

ヒースクリフの説明では、《血盟騎士団》がタンクとしてボスの攻撃を防ぎ、その隙にオレ達が攻撃を叩き込む。ヒースクリフはオレ達なら出来るだろうと信じて、攻撃を任せてくれてるんだ。だったらその期待に最大限応えよう。

「・・・解放の日のために!!」

『うおぉぉぉぉぉぉ!!』

ヒースクリフの掛け声にみんなが気合いのこもった雄叫びをあげる。
扉を開き、武器を構える。それはまさしく戦闘態勢を意味する。

「死ぬなよ?」

「へっ、お前こそ!」

「今日の戦利品で一儲けするまで、くたばる気はねぇぜ・・・」

「この世界全部ぶっ壊すんだ。ここで死んだら男が廃る・・・全力でいくぜ!!」

ここに(オトコ)という名の四頭の獣がいる。《二刀流》の《黒の剣士》、赤い甲冑と悪趣味なバンダナを頭に巻く侍、色黒の屈強な斧使い、そしてこのオレ《隻腕のドラゴン》。オレ達は声を掛け合い、気合いを入れる。
目の前の扉は完全に開かれた。退却する気も死ぬ気もない、集団の先頭に立つヒースクリフはーーー

「戦闘開始ィィ!!」

『うおぉぉぉぉぉぉ!!』

突撃の合図を叫ぶ。その声に戦士達は雄叫び、暗く広い部屋に突入する。そして一ヶ所に大きく広がり、ボスの登場を待つ。
暫しの沈黙が流れるーーーボス部屋の扉が大きな音を立て閉門し、その存在が完全に消滅する。前に偵察第を送り込み、そのメンバーの半分がボス部屋に入った数秒後に扉が閉じ、開かなくなったって聞いたけどーーーこの事だったのか。
さて、肝心のボスはーーー出てこないな。オレ達の見てる範囲にはいないのか?

「上よ!」

ここでアスナさんが天井に張り付いているボスの存在に気付く。
それはまさに怪物であった。皮膚や内臓、筋肉などはなく、身体全体が骨で出来た死神。数える事も気が遠くなる無数の脚、大きな鎌の手、赤い眼を四つ持つ、後頭部が後ろに長く伸びているーーー

「《ザ・スカルリーパー》!?」

白骨の処刑獣だった。その姿を目に写すだけでこの部屋にいる戦士達が恐怖で身を震わせる。それはあの怪物の存在感がそうさせるのだろうか。

「固まるな!距離を取れ!」

一ヶ所に留まっては天井から降りてくるあの怪物に潰されてしまう。ヒースクリフの声は恐怖のあまり耳に届かない。

「こっちだ!」

「走れ!早く逃げろ!」

キリトとオレの呼び掛けにやっと気が付いた二人のプレイヤーは走り出すがーーー天井から降りてきた《スカルリーパー》の鎌で斬り殺される。
たった一撃でHP全損。それは今《スカルリーパー》に葬られた二人が弱い訳ではない。単純に《スカルリーパー》のパワーが強いだけだ。
あの白骨の処刑獣の猛攻は止まらない。まさしく目にも止まらぬ速さで別の集団に急接近し、右の鎌を振るう。その鎌をヒースクリフの《神聖剣》の盾が防ぐ。だが次に振るわれた左の鎌で別のプレイヤーが斬り殺される。
まだまだ猛攻は止まらない。ヒースクリフの横の超スピードで通り過ぎーーーオレ達の頭上をジャンプ。

「まともに近付く事も出来ねえぞ!」

エギルがオレ達の頭上を通過する《スカルリーパー》を見ながら焦りの声をあげる。着地した《スカルリーパー》の標的にされたプレイヤーの前にキリトが割り込み、二刀の剣をクロスして降り下ろされる左の鎌を受け止めるが、攻撃の重みで顔をしかめる。
その隙に右の鎌でキリトを斬り捨てようとするが、《血盟騎士団》の団長が強固な盾で防ぎ、副団長が《ランペンドライト》という名のレイピアで《スカルリーパー》の骨の身体を突く。それにより巨大な白骨の身体は後ろに大きく飛ばされる。どうやらーーー

「二人同時に受ければいける!!」

「らしいな。《黒の剣士》と《閃光》様なら出来るだろうな」

一人でダメなら二人でやればいい。そういう事だ。

「キリト!オレは攻めに行っていいか?」

「あぁ!鎌は俺達が食い止める!みんなは側面から攻撃してくれ!」

あの巨大な鎌はキリトとアスナさん、そしてヒースクリフに任せてオレ達はボスの側面からダメージを入れる。エギルやクライン、そしてさっきまで恐怖で動けなかったプレイヤー達が剣や槍を構えて《スカルリーパー》に向かって走り、突き刺す。その攻撃は少なからず効いている。

「暴れんじゃねぇーーー!」

エギルが叫び、オレや他数人と一緒に突っ込むが、奴には長い尻尾もあった。それを振り回し、二人のプレイヤーを処刑。
エギルはどうやら腕を掠めただけで済んだみたいだな。かくいうオレはーーー

「はい背中ががら空きだぜぇっ!!」

タイミング良く背中に跳び移る事が出来た。そしてむき出しの背骨に《グリームアイズの剣》を突き刺し、ジワジワとダメージを入れる。
とはいえ背骨にこのままぶら下がってる訳にもいかない。

「おいキリト!オレだっていつまでもこの状態じゃいられねぇんだよ!早く手伝ってくれ!」

「キリトくん!」

「あぁ・・・!」

親友夫婦に早く動いてもらわないとオレが振り落とされる。結局アスナさんがキリトに声を掛け突撃。やっぱり嫁さんに言われないとアイツ動けないのか?
《スカルリーパー》はオレを乗せて部屋の中を走り回り、ヒースクリフに右の鎌で斬りつけるが盾で防がれる。そこにクラインとエギルが突入。まずクラインが《スカルリーパー》のあばら骨の中に潜り込み、オレンジ色の光が灯った刀で突き上げる。エギルは緑色の光を灯した斧を空中から降り下ろす。そのおかげでオレは《スカルリーパー》の背骨から降りる事が出来た。

「ありがとうエギル、ちょっと酔って降りられなくなってたんだ・・・ウプッ」

「この状況で何酔ってんだ!お前乗り物酔いか!?」

我ながら情けない。そういえばリズさんとドラゴンの巣穴から脱出する時も酔ったなーーーどうしてモンスターでこんなに酔えるんだ?
とにかくアイツを止めないとーーーアレならいけるか?

「はぁ・・・頼むぞ・・・





















《オーバーロード》!!」

最近少しずつ使えるようになった《オーバーロード》、発動した途端に《スカルリーパー》の動きが遅く見えてきた。《グリームアイズ》の時みたいに止まって見える訳じゃないけど、鎌や尻尾を避けて剣を当てるならこれで十分だ。
可能な限り強い攻撃を当て、そして鎌を弾き返す。今のオレのスピードなら、身体がーーー脳が耐えられる書き勝てない相手じゃない。《スカルリーパー》のHPはもう少しで完全に消える。

「ライリュウ!一緒に決めてくれ!!」

脳の活性化で神速の状態になってるのにキリトの声が聞こえる。キリトの言葉が分かる。どうしてかは分からないけどーーー一緒に止めを指す。かつての第1層ボス戦の時のように。

「いくぞぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!』

オレは《スカルリーパー》の後ろから、キリトとアスナさんは前方から三本の剣を重ね合わせ、前後両方向から持てる限り、放てる限りの力を込めた斬撃で《スカルリーパー》のHPを削りきりーーーこの世界から、白骨の処刑獣の存在を消し去った。
その瞬間、ボス撃破の祝いのファンファーレが鳴り響いたがーーーみんなとても喜べるような状態ではなく、疲れはててその場に倒れこんだ。

「ライリュウ・・・大丈夫か?」

「ちょっと頭痛ェ・・・ウウッ」

キリトから安否確認の声を掛けられた。正直ーーー頭が痛い。《オーバーロード》は脳に強い負荷が掛かるから、普段から発動して慣らす事は出来ないんだよな。家の振り子時計を見つめて短時間、ほんの一瞬だけ使えるようになったけど、やっぱりボス戦で長時間の使用は無理があるな。何気に《グリームアイズ》の時より使用時間長かったしーーー

「・・・何人殺られた?」

ここでクラインが小声で今回のボス戦の犠牲者の人数を聞いてきた。キリトはシステムウィンドウを開き、マップに表示されているプレイヤーの人数を数え始めた。最初に集まった人数と今残っている人数を比較するとーーー

「・・・10人死んだ」

「嘘、だろ・・・?」

死亡者10人ーーーこの言葉にエギルをはじめ、全メンバーが目を見開いた。《オーバーロード》まで使ったのに、そんなに死んだのかーーー

「あと25層もあるんだぜ・・・?」

「本当にオレたちゃあ・・・てっぺんまで辿り着けんのか?」

「正直厳しい・・・」

あと25層ーーーこの先に25のフロアボスが待ち構えていて、そいつらとも戦わなくちゃならないーーーもし《スカルリーパー》より数倍強いボスと戦うとすると、厳しいな。

「キリトくん?」

アスナさんの声が聞こえ、そこを向くとーーー《エリュシデータ》を拾い、ゆっくり立ち上がるキリトがいた。そのキリトは《エリュシデータ》に青いライトエフェクトを灯しーーーヒースクリフを突き刺そうとしていた。

「キリト!?お前、何やってんだ・・・ッ!?」

この瞬間、決してあってはならない現象が起こった。キリトの剣は、盾で防がれていないにもかかわらず、システムの障壁に防がれた。そのシステムの名はーーー

「《破壊不能オブジェクト》!?」

《破壊不能オブジェクト》ーーー街の建物や解放されていないダンジョンの扉、《圏内》ならプレイヤーにも効果を発揮する絶対的防護システム。それが今ヒースクリフにも働いている。
でもここは迷宮区塔のボス部屋、《圏内》じゃない。ダンジョンなどでプレイヤーが《圏内》にいる状態にーーー《破壊不能オブジェクト》になる訳がない。

「システム的不死・・・って、どういう事ですか団長?」

「この男のHPゲージは、どうあろうとイエローまで落ちないよ。システムに保護されているのさ」

システムに保護されたプレイヤー、そんな事あるのか?未来から聞いた話じゃ、ユイちゃんも同じだったらしいけど、それは元々運営に生み出された存在だったからーーー運営?まさか、ヒースクリフはーーー

「この世界に来てから、ずっと疑問に思っていた事があった。アイツは今どこで俺達を観察し、世界を調整してるんだろうってな。でも俺は、単純な心理を忘れていたよ・・・ライリュウ、分かるか?」

単純な心理ーーーこの世界は元々オンラインゲームとして生み出された世界だ。観察、ゲーム、つまり他人のゲームを見ている状態だ。どんな子供でも知ってる事だーーー

「他人のやってるRPGを傍らから眺めるほどつまらない物はない・・・」

「あぁ・・・そうだろ?茅場晶彦」

ここにいる全員が驚愕の顔になった。ヒースクリフの正体は、オレ達をこのデスゲームに閉じ込めた張本人ーーー茅場晶彦。

「なぜ気付いたのか、参考までに教えてもらえるかな?」

「・・・最初におかしいと思ったのは、デュエルの時だ」

数日前に行われたキリトVSヒースクリフのデュエル。オレはあの日、《オーバーロード》の負荷で寝込んでいて観戦出来なかったけどーーー決着が付きそうだった最後の一瞬、あまりにも動きが速すぎたそうだ。
ヒースクリフが言うにはあの時は自分でも痛恨時だったらしい。キリトの動きに圧倒されて、ついシステムのオーバーアシストを使用してしまった。その一瞬でキリトのヒースクリフに対する違和感を覚えたのかーーー

「確かに私は茅場晶彦だ。付け加えれば、最上階で君達を待つはずだったこのゲームの最終ボスでもある」

やっと正体を認めた。この男はずっとオレ達と一緒に戦って、最上階の第100層でオレ達が倒すべきラスボスになる男だったんだ。

「趣味が良いとは言えないぞ?最強のプレイヤーが一転、最悪のラスボスか・・・」

「中々いいシナリオだろう?最終的に私の前に立つのは君だと予想していた。《二刀流》スキルは全てプレイヤーの中で最大の反応速度を持つ者に与えられ、その者が魔王に対する勇者の役割を担うはずだった」

キリトのユニークスキル《二刀流》ーーーあれはこの世界における魔王の茅場を倒す勇者に与えられるスキルだったのか。茅場は《二刀流》使い倒される事を望んでいたのか?

「・・・俺達を忠誠を・・・希望を・・・よくも、よくも、よくもぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

ヒースクリフを信じていた《血盟騎士団》の男が、怒りのままに茅場晶彦(ヒースクリフ)に斬り掛かるーーーが、茅場のシステムコマンドで麻痺の状態異常にされ、攻撃は不発。さらに茅場はシステムコマンドで他のプレイヤー全員を麻痺状態にした。それはーーー

「うっ!?」

オレも例外じゃなかった。ただ、何も影響を受けていないのはーーーキリトだけ。

「どうするつもりだ?この場で全員殺して隠蔽する気か?」

「まさか、そんな理不尽な真似はしないさ。こうなっては致し方ない・・・私は最終層の《紅玉宮》にて、君達の訪れを待つ事にするよ。ここまで育ててきた《血盟騎士団》、そして攻略組プレイヤーの諸君を途中で放り出すのは不本意だが、なぁに、君達の力ならきっと辿り着けるさ」

ここでオレ達を殺す気はないのか。でも最終層まで行くのにどれだけの時間をかけて、どれだけの犠牲者を出せばいいんだよ。これ以上、誰も死んでほしくねぇよーーー

「だが、その前に・・・」

茅場の言葉は、まだ終わっていなかった。《神聖剣》の盾で地面を叩き、言葉を繋ぐーーー

「キリトくん、君には私の正体を看破した報酬を与えなくてはな。チャンスをあげよう」

「チャンス・・・?」

「今この場で一対一で戦うチャンスだ。無論、不死属性は解除する。私に勝てばゲームはクリアされ、全プレイヤーがこの世界からログアウト出来る・・・どうかな?」

全プレイヤーのログアウトーーー罠かもしれない。でも、本当にログアウト出来るのなら、これ以上人が死ぬ事はなくなる。
第1層で死んだディアベル、《リトルギガント》、ゴドフリーのおっさん、実際のところ《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》だってこの世界であんな殺人鬼になったんだ。
キリトなら絶対にこの話に乗るはずだ。キリトが茅場を倒せば、きっとーーー

『おいちゃん行っちゃうの?』

『ごめんなユイちゃん、あとでまた会おうな。・・・帰って来たら美味しいケーキ食べに行こうぜ?』

『うん!お約束ね!』

『おう!』

ーーーユイちゃん。

「・・・いいだろう、決着を「待てよ!」・・・ライリュウ?」

オレは茅場への挑戦を受けるというキリトのセリフの最中に割り込み、黙らせた。その理由はーーー

「・・・オレがやる!」

『!?』

「ライリュウ、お前どういうつもりだ!?」

「キリトがここで死んだら今後の攻略に大きな支障が出る。だからオレがやる」

「お前だって同じだろ!?」

オレが茅場と戦う。キリトは絶対やらせないぞみたいに怒鳴ってるけど、この世界を最終的に終わらせるのが《二刀流》なら今ここでキリトが殺されたら誰がこの世界は終わらせる?

「ライリュウ・・・お前ミラはどうするんだ!?妹置いて死ぬ気か!?」

「お前が他人の事言えた義理か?キリトだって現実(リアル)に妹いるんだろ?そこまで変わらねぇじゃねえか」

キリトだって妹がいる兄貴なんだ。オレと立場は同じなんだ、妹に関して流石にキリトにそこまで言われたくない。

「ライリュウくん・・・君は私に勝てると思っているのかな?」

「思うんじゃねえ、勝つんだ。そもそも、オレに勝てなきゃキリトに勝つのはもっと無理だ。実はさぁ、ボス戦の前にキリトとデュエルしたんだよ」

「ほう・・・それで?勝負の結果は・・・?」

「へへっ、紙一重の差で・・・オレの負けだ」

「なっ!?」

デュエルはオレの勝ちーーーではなく、負けたと嘘をついた。こうでもしねぇと受けてくんねぇだろ。

「いいだろう、まずは君からだ、ライリュウくん。君に勝ったらキリトくんと勝負でいいかね?」

「あぁ、それで構わねぇよ」

茅場は先にオレの挑戦を受け、オレの麻痺状態を解除し、代わりにキリトを麻痺状態にした。オレは立ち上がりーーー今まで一緒に戦ってきた仲間に目を向ける。

「エギル、今まで剣士クラスのサポートありがとな・・・オレ知ってたぜ?お前が儲けのほとんど全部、中層ゾーンの育成に注ぎ込んでた事」

エギルのあのあこぎな商売は、攻略組の戦力の底上げを狙って、中層ゾーンのプレイヤーを強くするために、他の店より高めの値段で商売してたんだ。少しでもいいから、ゲーム攻略が早く進めるようにーーー

「クライン・・・仮に、仮にな?お前に彼女が出来たらさ、オレの話してやってくれよ。「オレのダチは超強い隻腕の剣士なんだぜ」・・・って感じで」

「・・・テメェ、ライリュウ!何やたら仮にを強調してんだコノヤロォー!彼女出来ても、オメェの話なんかしねぇかんな!オメェ・・・ちょっと整ったツラしてるからって、調子乗んなよ!?」

「乗ってない乗ってない」

クラインはーーーギルドのリーダーとしての顔を見せれば、案外モテなくもないと思うけどなーーーまあ、気さくなムードメーカーのこいつは、嫌いじゃないけどな。

「キリト、アスナさん・・・ユイちゃんの事、ごめん」

「は?」

「どういう事?」

これはヒースクリフが茅場だって分かった事で、謝らないといけないと思った事だ。

「オレがヒースクリフに・・・茅場にユイちゃんの事を教えたから・・・ユイちゃんが消えそうになったんだ。オレが・・・ユイちゃんとの家族の時間を奪ったんだ」

「違う、ライリュウそれは違う!」

「ユイちゃんはわたしとキリトくんを助けるために戦って、カーディナルにエラー扱いされて、それで・・・!」

「いや、オレのせいだ」

茅場は今GMのーーーゲームマスターの権限を用いて、オレ達を麻痺状態にした。オレがユイちゃんの事を伝えたあの時ーーーユイちゃんの存在を抹消する事が出来たかもしれないんだ。もしそうだったらーーーユイちゃんに会わせる顔がない。

「ミラに伝言頼むよ・・・「お前の兄貴になれてよかった」って」

「そんな頼み事受けられるか!自分の口で言え!」

「キリト、兄貴なら分かるだろ?家族に何も言えないまま死ぬなんて・・・悲しすぎんだろ」

オレはこんな事になるとは思わなかった。だから、いつもと変わらない「いってらっしゃい」と、いつもと変わらない「いってきます」で今日ここへ来た。
もし死ぬかもしれないこの勝負で本当に死んだらーーーそれこそ自分を、未来に何も言わなかった自分を恨む。

「みんな・・・現実(リアル)で会おうぜ!」

オレはみんなにそれだけ言って、茅場に向き直り《グリームアイズの剣》を構える。

「茅場・・・お前はオレ達プレイヤーから、たくさんの物を奪った」

「一応、教えてもらおうか」

「お前が創造したこの世界で、お前は4000人以上の人の命を奪った・・・」

4000人もの人間が、家族と会話をする事も出来ずにこの世を去ったーーー

「お前が創造したこの世界で、たくさんの人の()()を奪った・・・」

自分という人格を失い、《笑う棺桶(ラフィン・コフィン)》のような人間を生み出したーーー

「お前が創造したこの世界で、信頼出来る関係を奪った・・・」

友人、家族、恋人、そんな一生大切にしないといけない存在を失う人もいたーーー

「何よりオレ達から・・・現実を奪った!!」

奪われた物は取り戻す。今からオレは、この男をーーー

絶対(ゼッテェ)許さねぇぞ・・・茅場晶彦ォォォォォォ!!」

ーーー殺ス!!
 
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