英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第105話
8月18日―――
―――8月中旬。夏の盛り、うだるような暑さがトリスタの街を包み込む時期……メンフィル帝国から帰還したリィン達は授業や訓練を再開していた。
士官学院は軍と同じく、年末年始以外の長期休暇は存在しないが、貴族生徒に限っては将来の領地運営の勉強などの名目で故郷への帰省が認められており……この時期、Ⅰ組・Ⅱ組の生徒達のほぼ全員がトリスタから離れていた。
そんな中、Ⅲ組からⅤ組までの生徒は彼らを羨みながらも勉学と修練に励み……また、リィン達Ⅶ組のメンバーも全員がトリスタに留まっていた。
8:30―――
~1年Ⅶ組~
ホームルームが始まる少し前、リィン達は集まって雑談をしていた。
「はぁ………毎日暑いねぇ。」
「……正直、だるい。」
「わざわざ言わないでよ……せめて導力エアコンがあれば少しは快適なんだけど……」
暑そうな様子で呟いたエリオットとフィーの言葉を聞いたアリサは疲れた表情で溜息を吐いた後この場にはないある物を思い浮かべた。
「導力エアコン?」
「何ですか、それ?」
聞きなれない名前にエリオットとエマは首を傾げて尋ねた。
「うーん、冷たい風を出して室内の温度を整えるもので……まあ、ストーブの反対と思ってくれればいいわ。」
「ふむ………まるで魔法だな。」
「不思議ですね……一体どんな物なんでしょう?」
「聞いた事はあるが物凄く高価じゃなかったか?近代的なビルでもないと設置されていないみたいだし。」
「アリサの家にはそんなのがあるの?」
アリサの説明を聞いたガイウスとセレーネは目を丸くし、マキアスとフィーは尋ねた。
「ま、ラインフォルトの本社ビルだとそういう設備はあったわね。……母様も理事をやってるならそういう気を利かせればいいのに。」
「いや……さすがにそれは無理だろう。」
「士官学校ですし、そこまで学生に甘くはなさそうですね。」
「そうですね……特にエレボニア帝国軍は食事も質素にしていると言われている程ですから無理だと思いますよ。」
ジト目で文句を言ったアリサの意見を聞いたリィンは苦笑し、エマとプリネはそれぞれ意見を言った。
「でも夏に涼しく過ごせる装置かぁ……考えた人って天才だよね、きっと。」
「ふむ……確かにこちらの方は故郷よりも暑さが厳しいな。これも修行と思えば気にならぬが。」
「フフッ、『心頭滅却すれば火もまた涼し』ですね。」
ラウラの言葉を聞いたツーヤは苦笑しながらラウラを見つめた。
「バリアハートは同じくらいだがこの時期、峡谷から風が吹くからな。まだ過ごしやすいかもしれん。」
「俺の故郷は……山間にあるからこの時期でも涼しいくらいだな。そう言えばセレーネはこの暑さに参っていないのか?」
「はい、わたくしの祖国―――アルフヘイムは常夏の国ですから、この程度の暑さは慣れていますので平気ですよ。」
「へ~、そうなんだ……そう言えば……リィン達、貴族生徒なのに結局帰省しなかったんだよね。」
リィンの疑問に答えたセレーネの説明を聞いたエリオットは目を丸くした後ある事を思い出して首を傾げた。
「一応、6人共許可は出ていたんでしょう?」
「はは……クラス全体が休みになるなら考えたけど。妹達とも会ったばかりだし、今年の夏は止めておいたんだ。」
「わたくし達はこの間の”特別実習”で行ったばかりですから。」
「エリウッド義兄さん達には顔出しはできましたから、必要はないと思って止めておいたんです。」
「それにケルディックの公務で普段抜けている分、夏休みの間は取り戻したいと思いまして。」
「―――元より修行中の身。自分なりの手応えが得られるまで中途半端に帰るつもりはないな。」
「フン……わざわざ居心地の悪い実家に帰る阿呆がいるか。この暑さを我慢した方が千倍マシというものだ。」
「そ、そんなにイヤなんだ。」
アリサの疑問にリィン達がそれぞれ答えている中、呆れた表情で答えたユーシスの話を聞いたエリオットは苦笑した。
「―――まあ、暑さに関係なく色々慌ただしくなっているしな。関係者にとったら暑さどころじゃないだろう。」
「……確かに。」
「クロスベルで行われるという”西ゼムリア通商会議”か。」
マキアスの言葉に頷いたエマに続くようにガイウスは静かに現在世間を騒がしている出来事を呟いた。
「”西ゼムリア通商会議”……IBC(クロスベル国際銀行)総裁も務めるディーター・クロイス市長の提案により開催される国際会議ね。」
「エレボニア帝国からは、皇帝陛下の名代としてオリヴァルト殿下……そして……オズボーン宰相が正式に出席されるんでしたね。」
「……メンフィル帝国からは、シルヴァンお兄様の名代としてリフィアお姉様……そして補佐のレンが出席する事になっています。」
エマとプリネがそれぞれ言うとリィン達は黙り込んだ。
「―――”鉄血宰相”ギリアス・オズボーンか。何というか……とんでもない存在感だったな。」
「何でも呑みこみそうな”怪物”って感じ。」
「エレボニア帝国政府代表……軍部出身の政治家で、11年前、皇帝に信任されて宰相となった人物。帝国正規軍の7割を掌握すると聞く。」
「帝都を中心に、全土に鉄道網を整備した人物としても有名ですよね。それと、周辺にある幾つかの小国や自治州を併合したと聞きます……あくまで平和的に、みたいですが。」
「フン、どうだかな……あの男が宰相となってから軍事費が増大したのは間違いない。巨大な帝都や、併合した地域からの莫大な税収を足掛かりにしてな。」
「……どうしてそんなにも軍事費を増大するのでしょうね……?戦争でも起こすつもりなのでしょうか……?」
「それは……」
エマの説明を聞いて鼻を鳴らしたユーシスの話と不安そうな表情をしているセレーネの推測を聞いたマキアスは複雑そうな表情で考え込んだ。
「……実際、クロスベル方面の2門の”列車砲”を発注したのも元はと言えばあの人なのよね……それによって、共和国との間で大規模な戦争が起きる所だったし。」
「その時は、リベールという国の提唱で戦争を回避できたと聞いたが……たしか”不戦条約”だったか?」
「ああ……だがその緊張は未だに尾を引いているらしい。だから、今回の通商会議ではそのあたりが話されると思うが……」
「―――まあ、間違いなく揉める事になるでしょうね。」
「そうね……領有権問題にメンフィル帝国も介入してきたからね……」
ガイウスの質問に答えた後真剣な表情で考え込んだリィンの言葉を聞いたツーヤは静かに呟き、プリネは複雑そうな表情で考え込んでいた。
「うーん、帝都じゃすごく人気がある人なんだけどなぁ。……実際には、あんな連中に思いっきり狙われてるみたいだし。」
「”帝国解放戦線”……『静かなる怒りの焔をたたえ、度し難き独裁者に鉄槌を下す』か。」
「どうやら宰相殿に対して憎悪の炎を燃やしているようだ。それも尋常の怒りではあるまい。」
「確かに、それだけの恨みを買いまくっていそうな感じ。」
「恐らく小国や自治州の併合の際に、何かあったのかもしれませんね……」
ラウラとフィーの意見に続くように、プリネは静かに呟き
「うーん、父の盟友を悪く言いたくはないんだが……」
マキアスは複雑そうな表情で考え込んでいた。
「えっと……そう言えばレン姫……でしたか。13歳なのに、”西ゼムリア通商会議”という国際政治に携わっているんですね。」
その時重くなった空気を変えるかのようにエマはプリネを見つめ
「ええ。レンはあらゆる意味で”天才”ですから、リフィアお姉様の補佐も難なく務めるでしょうから選ばれてもおかしくない人選ですね。」
プリネは静かな表情で答えた。
「あらゆる意味で”天才”ですか……?」
「一体どういう意味なんだ?」
「……ヘイムダルの時に見せた身体能力や戦闘能力からして、唯の子供ではないのは確かだが……」
プリネの答えを聞いたセレーネとマキアスは首を傾げ、ユーシスは真剣な表情でプリネを見つめた。
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