英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第99話
~ぺステ城・客間~
「えへへ……また家族が増えました!ロイにも後で報告しないと!」
「フフ、そうね。」
「え……」
「他にもご子息かご息女がいらっしゃるのですか?」
嬉しそうな表情で母親に報告するクラリスの話を聞いたリィンは呆け、アリサは目を丸くして尋ねた。
「ああ、今年で一歳になる息子がいてね。今は乳母に世話を任せてこの場にはいないんだ。」
「レベッカって言って、元はお父様に専属侍女長として仕えていた人で、結婚を機に一端は宮仕えを辞めた方なんですが、お父様とお母様の希望で今は乳母として私達のお世話をしてくれてお母様みたいにとても優しい人なんですよ!」
「う、乳母……」
「アハハ……さすが皇族だよね。」
エリウッド公爵とクラリスの話を聞いたリィンは表情を引き攣らせ、エリオットは苦笑し
「フフ、レベッカさんにはいつもお世話になっているわ。レベッカさんがロイの世話をしてくれるおかげでエリウッド様や私達の食事の用意や洗濯ができますもの。」
「へ……」
「お、皇族の正妻の方が食事の用意や洗濯ですか……?」
「普通だったらそう言う事はメイドの仕事ですよね……?」
フィオーラ夫人の話を聞いたマキアスは呆け、アリサとセレーネは戸惑った。
「フフ、メンフィルの皇族、貴族は他国と違って、正妻や正妃は夫の身の回りの世話をする事になっているんです。嫌な話になりますがその方が色々と安全ですし。」
「なるほどね。確かに正妻や正妃なら信頼できる相手だから食事に毒を盛られる可能性や寝室に何かを仕掛けられる可能性はありえないわね。」
「ちょ、ちょっとサラ教官!?」
「本人達の目の前で何て事を言うんですか……」
ツーヤの説明を聞いて納得しているサラ教官の言葉を聞いたリィンは慌て、マキアスは冷や汗をかいてエリウッド公爵達を気にしながら指摘した。
「ハハ、気にしないでくれ。実際サラ殿の言う通り、幾ら信頼があるとはいえ赤の他人のメイドに任せるより家族である正妻や正妃に食事の用意や寝室の掃除等をしてもらった方が色々と安全なのは確かな話だからね。」
「私自身、普通の一般家庭のようにエリウッド様に私の手料理を食べてもらえますから、その決まりにとても感謝しているんです。」
「お母様の料理、とっても美味しいんですよ!」
リィンとマキアスの様子を見たエリウッド公爵は苦笑し、フィオーラ夫人は微笑み、クラリスは嬉しそうな表情で言った。
「あら?専属侍女長は食事の用意とかしないのかしら?エリゼはリフィア殿下の食事の用意とかしているのよね?」
「仕える相手が男性の場合、その相手が正妻を娶った場合はその役目は正妻と正妃に譲る事になっているんです。専属侍女長は正妃や正妻を助ける存在でもありますので。」
「そうだったのか……」
アリサの疑問を聞いて答えたツーヤの説明を聞き、メンフィル皇家の意外な決まり事を知ったリィンは目を丸くした。
「えっと……メンフィル帝国の皇族や貴族の正妃や正妻が食事の用意をするって事はリウイ陛下やシルヴァン陛下の場合はイリーナ皇妃とカミーリ皇妃なの?」
「ええ、そうですよ。カミーリ皇妃もそれなりに料理を作れますが、イリーナさんは元々プリネさんの専属侍女見習いとして働いていましたから料理や洗濯は得意なんですよ?」
エリオットの疑問にツーヤは頷いて答えた。
「ええっ!?イ、イリーナ皇妃ってプリネ付きのメイドだったの……!?」
「とてもかつてメイドを務めていた方には見えませんでしたが……」
「……そう言えば、マクダエル議長のご息女であるイリーナ皇妃はかつてメンフィル大使館でメイドとして働いていた時にリウイ陛下に見初められた話で割と有名な話だったな……」
ツーヤの口から出たイリーナの過去を知ったアリサは驚き、セレーネは戸惑い、ある事を思い出したマキアスは考え込んだ。
「あら?ツーヤがプリネの専属侍女長なんだからイリーナ皇妃とは親しかったのかしら?」
「ええ。イリーナさんはあたしにとって侍女の先輩でしたから、非公式の場では恐れ多くも気軽な態度で接して欲しいと頼まれて今でもかつての呼び方で接しているんです。」
サラ教官の疑問にツーヤは答え
「リウイ祖父上の正妃となった事でイリーナ様とリウイ祖父上の偉業を知るほとんどの者達はイリーナ様を敬うようになったから、イリーナ様にとってツーヤは数少ない気軽に接する事ができる相手だから無理もない話だ。」
エリウッド公爵は静かな表情で答えた。
「ふふっ、あたしとしては今まで通りの態度で接していいから気楽なんですけどね……」
「ん?……―――クラリス、そろそろ稽古の時間じゃないか?」
エリウッド公爵の言葉にツーヤが微笑んだその時、時計の時間を見てある事に気付いたエリウッド公爵はクラリスに視線を向け
「あっ、いけない!そろそろ行かないと!―――それでは皆様、私はこれで失礼いたします。」
クラリスはリィン達に上品な仕草で会釈をした後部屋を出て行った。
「先程稽古と仰いましたがやっぱり領主の娘としての淑女の教育ですか?」
クラリスが部屋を出て行った後ある事が気になったアリサは尋ねた。
「勿論淑女としての教育もあるが、クラリスが今行った稽古は”天馬騎士”としての稽古だよ。」
「”天馬騎士”……ですか?」
エリウッド公爵の説明を聞いて聞き覚えのない言葉にセレーネは首を傾げた。
「――――”天馬騎士”とはその名の通り、”天馬”に騎乗して戦う騎士だ。」
「ええっ!?き、”騎士”!?」
「なっ!?ツーヤの話ではクラリスは4歳だと聞きましたが……4歳で剣を持たせているんですか!?」
リィンの説明を聞いたエリオットは驚き、マキアスは信じられない表情でエリウッド公爵を見つめたが
「マキアス!」
「!も、申し訳ございません!大変失礼な事を言ってしまって……」
声を上げて真剣な表情で自分を見つめるリィンの言葉にハッとした後すぐにエリウッド公爵に謝罪した。
「気にしないでくれ。4歳児に剣を持たせる等普通の家庭ならありえない話だしね。」
「……メンフィル帝国の皇族として生まれた子供達は皆、幼い頃から武術か魔術を習うのが”決まり事”なのです。」
「一体どうしてそのような決まり事を……」
複雑そうな表情で語ったフィオーラ夫人の説明を聞いたサラ教官は真剣な表情でエリウッド公爵を見つめた。
「―――リウイ祖父上の意向だ。メンフィル皇族は有事があれば先頭に立って指揮をする為、当然自身の身の守りが必要だ。その為の措置だ。」
「皇族が戦場に出れば自然と味方の兵達の士気は高まります。更に皇族自身の戦闘能力が高ければ士気は更に高まる事も明白です。その為、メンフィル皇族の子供達は幼い頃から武術や魔術を習う事になっているんです。」
「なるほど?さすがは”覇王”の考えって所ね…………敵には恐怖を、味方には畏怖を刻み込む”覇王”らしい物騒な教育方針ね。」
「サ、サラ教官……」
「何もそのような言い方をしなくても。」
エリウッド公爵とツーヤの説明を聞いて眉を顰めたサラ教官の言葉を聞いたエリオットは冷や汗をかき、アリサはエリウッド公爵達を気にしながらサラ教官を見つめた。
「わたくしとお姉様は7歳の頃から武術の基礎を習い始めましたが……さすがに4歳は早すぎると思うのですが……」
「……そうだね。」
戸惑いの表情をしているセレーネの言葉にツーヤは静かに頷いた。
「プリネが滅茶苦茶強い理由がわかった気がするな……」
「……あの年代で”達人”クラスになるなんて、幼い頃から相当努力していた証拠よ。」
複雑そうな表情で呟いたマキアスの言葉にサラ教官は静かな表情で答えた。
「……………義兄さん。そろそろリィンさん達に課題を渡したらどうですか?」
そしてツーヤは空気を変える為にエリウッド公爵を見つめ
「ああ、そう言えばまだ渡していなかったな。―――この封筒の中に課題内容が書いてある紙が入っている。」
「ありがとうございます。」
エリウッド公爵はリィンに特別実習の課題が書いてある封筒を渡した。
「君達が泊まる客室についてはフィオーラに案内させる。―――では僕もそろそろ政務に戻らなければならないから失礼するよ。」
「お忙しい所を僕達の為に時間を取って頂きありがとうございます。」
立ち上がったエリウッド公爵にマキアスは会釈し
「なに、良い息抜きにはなったからお互い様だよ。」
エリウッド公爵は静かな笑みを浮かべた後部屋を出て行った。
「エリウッドお義兄様って、とっても素敵な方ですね!」
「何だかおとぎ話とかで出てくる王子様みたいな人だったわよね……」
「うん。それに公爵様なのにとても親しみやすい人だったね。」
「ああ……民が慕っているのもわかる気がするな。」
エリウッド公爵が去るとセレーネ、アリサ、エリオット、リィンはそれぞれ感想を言い合い
「まあ、あたしのタイプじゃないけど、あの顔であの性格なんだから女性にモテモテなのは間違いないわねぇ。」
「誰もサラ教官の好みなんて聞いていませんから。」
苦笑しながら言ったサラ教官の言葉にマキアスは呆れた表情で指摘し
「フフ、とても賑やかな人達ね、ツーヤのクラスメイト達は。」
「ア、アハハ……」
リィン達の様子を微笑ましそうに見守っていたフィオーラ夫人の言葉にツーヤは苦笑した。
その後リィン達はフィオーラ夫人に客室を案内され、客室を見て再び驚いた。
「え、えっと……マルーダ城の客室に泊まった時に予想はしていたけど……」
「こっちもマルーダ城の客室と大して変わらないくらい豪華な客室ね……」
「士官学院生の僕達には勿体ないと思うんだがな……」
「貧乏臭い考えね~。こんな豪華な客室を一人で使わせてもらえるんだから、ラッキーと思えばいいじゃない♪」
客室を見たエリオットとアリサは表情を引き攣らせ、マキアスは疲れた表情で溜息を吐き、サラ教官は苦笑した後嬉しそうな表情で答え
「サラ教官は少しは遠慮してください。」
「アハハ……」
サラ教官の言葉を聞いたリィンは呆れた表情で指摘し、セレーネは冷や汗をかいて苦笑していた。
「ツーヤは自室にしておくかしら?」
「ええ、そうしておきます。」
フィオーラ夫人に尋ねられたツーヤは頷いて答えた。
「え……ツーヤ、このお城に自分の部屋があるの?」
「まあ、ツーヤにとっても実家になるからあって当然だな。」
二人の会話を聞いていたエリオットは目を丸くし、マキアスは納得した表情で頷き
「ええ。まあ滅多に使う事はないんですが。―――そう言えば言い忘れていましたが……皆さん、客室に備え付けてある冷蔵庫の中にある飲み物もそうですが、客室に備え付けてある茶菓子やつまみ等も好きに飲み食いして頂いて構いませんよ。元々客室に泊まる方用に用意されてある物ですから、お金は一切取りませんから。」
「へ!?」
「高級ホテルでもそんなサービスは中々ないわよ。」
ツーヤの説明を聞いたリィンは驚き、アリサは苦笑し
「何ですって!?何でそれを昨日の内に言ってくれなかったのよ!?昨日泊まった客室にあった茶菓子やつまみには手を出したけど、冷蔵庫に何本か入っていた高そうなワインは飲んだ事がバレてとんでもない金額のお金を請求されたらヤバイと思って我慢していたのに!」
サラ教官は血相を変えて悔しそうな表情でツーヤを睨んだ。
「サラ教官……」
「城の客室の冷蔵庫を物色するなんて、何をやっているんですか……」
「え、えっと。わたくしが泊まる客室にあるお酒でよければ持っていって構いませんので、元気を出して下さい。」
サラ教官の発言を聞いたリィンとマキアスは呆れ、セレーネは苦笑しながら言った。
「フフ、心配しなくても今夜のディナーにサラさんにはお酒を出すつもりでしたから、ディナーでも飲めますよ?」
「ホントですか!?」
「姉さん、甘やかす必要はないよ。」
微笑みながら言ったフィオーラ夫人の言葉を聞いて嬉しそうな表情をしているサラ教官をジト目で見つめたマキアスはフィオーラ夫人に指摘し
「まあまあ……夏休みもあたし達の為に休みを削ってついてきてくれているんですから、それくらいは大目に見てもいいと思いますよ。」
ツーヤは苦笑しながら諌めたが
「という事は全ての客室の冷蔵庫にただ酒がある訳よね?―――あんた達、それぞれが泊まる部屋の冷蔵庫に入っている酒とつまみは後で全部あたしが回収するわね♪学生のあんた達は酒は飲めないし、ただ酒があるのに、飲まないなんてお酒も悲しむでしょうしね♪」
「…………他人の実家でこんな図々しい事を言っているサラ教官を大目に見る必要があるか?」
「アハハ…………」
ある事を真剣な表情で推測した後嬉しそうな表情で言ったサラ教官の指示を聞いてジト目になったマキアスに尋ねられ、冷や汗をかいて苦笑していた。
その後それぞれの部屋に荷物を置いたリィン達は課題を終える為に行動を開始した。
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