英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第98話
朝食を取り、城を出て転移門で”商人の都レスペレント”に移動したリィン達はそれぞれの目的地に向かってペガサスやグリフィンを駆って向かい、リィン達はツーヤの先導によって”特別実習”を行う地―――”竜騎士の都ぺステ”に到着した。
~”竜騎士の都”ぺステ~
「ここがぺステか……初めて来たな。」
「あら?リィンは来た事がなかったの?数年間異世界で過ごしていたんでしょう?」
珍しそうな様子で周囲を見回しているリィンを不思議に思ったアリサは尋ね
「ハハ、ミルスでずっと勉強と訓練づくしだったから、他の地方には行った事がないんだ。」
リィンは苦笑しながら答えた。
「ねえ、ツーヤ。ぺステはああやっていつも”竜騎士”の人達が飛び廻っているの?」
「わたくし達が街に近づいてきたときも逸早く気付いて何の用で来たのか尋ねにきたみたいですが……」
「はい。ああやって竜騎士達を町の上空に飛び廻らせる事で事件が起こった際、いつでも駆けつけられるんです。」
上空を飛び廻っている数人の竜騎士達を見上げたエリオットとセレーネの疑問にツーヤは答え
「ふふっ、空からならさぞ早く駆けつける事ができるでしょうね。」
ツーヤの説明を聞いたサラ教官は苦笑しながら答えた。
「……それで肝心の”実習課題”を渡してくれる人はどこにいるんだ?」
「それにペガサス(この子達)はどこに預ければいいのかしら?」
「まずは領主の城に向かいます。ペガサスやグリフィン達も城の人達に預けますのでそのまま連れて行って大丈夫ですよ。―――行きましょう。」
マキアスとアリサに尋ねられたツーヤは答えた後先導し始め、リィン達はツーヤについて行き始めた。
「あっ!あの黒髪の女性は……!」
「ツーヤ様だ!」
「いつお帰りになったんだ……?」
リィン達が街を歩いているとツーヤに気付いた街の住人達はそれぞれ驚きの表情でツーヤを見つめ
「わーい!ツーヤ様だ~!」
「お帰りなさい、ツーヤ様!」
子供達は嬉しそうな表情でツーヤに駆け寄ってきた。
「ふふっ、ただいま。元気にしてた?」
「うん!」
「ねえねえツーヤ様、遊んで遊んで~!」
「もう、ツーヤ様に失礼じゃない!ツーヤ様は凄くお忙しい方なのよ?」
優しげな微笑みを浮かべたツーヤに見つめられた子供達はそれぞれはしゃぎながらツーヤと会話をしていた。
「へえ……義理の関係とは言え、やっぱり領主の妹となると歓迎されているみたいね。」
「ハハ……あの光景を見ていると何だか郷の事を思い出しますよ……父さん達もユミルの民達に親しげに話しかけられていましたし、俺も帰省した時はいつもそうでした。」
「フフ、さすがお姉様です!。アルフヘイムでもとっても慕われていましたし……」
その様子を見守っていたサラ教官は感心し、リィンとセレーネは懐かしそうな表情をし
「エレボニアではありえない光景よね……?」
「う、うん。平民にとって貴族は凄く恐れ多い存在だもん。」
アリサとエリオットは信じられない表情で見守り
「バリアハートの時と比べると、こちらの方が親しみがあっていいな。」
マキアスは静かな笑みを浮かべて見守っていた。
「―――お待たせしました。すみません、少しだけ時間を取ってしまって。」
そして自分に集まって来た子供達を優しく諭して解散させたツーヤはリィン達の所に戻ってきた。
「いや、気にしないでくれ。」
「随分と民に慕われているみたいだけど、何か民に好かれるような事でもしたのかしら?」
ある事が気になったサラ教官は興味ありげな表情で尋ねた。
「いえ、これも全て善政を敷いていた先代の領主であるサフィナ義母さん達や現在の領主であるエリウッド義兄さんが慕われているお蔭で、義理の家族関係であるあたしも慕われているだけですよ。」
「そうかしら?さっきの子達にとってツーヤは近所のお姉さんみたいな存在に見えたわよ?」
ツーヤの説明を聞いたアリサは不思議そうな表情で尋ねた。
「時折帰省した時に少しだけ一緒に遊んであげたら、なつかれたんです。もしかしたら孤児院で年長者として子供達の世話をミントちゃんと一緒にしていたおかげかもしれませんね。」
「ツーヤが子供達と一緒に遊んでいる光景か……ちょっと想像できないね。」
「まあ、普段の凛々しい彼女の事を考えたらな……」
ツーヤの話を聞いて目を丸くしているエリオットの言葉にマキアスは苦笑し
「そうですか?お姉様は凄く面倒見の良い方ですよ?」
セレーネは不思議そうな表情で首を傾げた。
「ありがとう、セレーネ。さてと―――それじゃあ行きましょう。」
その後ツーヤの先導によってリィン達は領主が住んでいる城―――”ぺステ城”に到着した。
~ぺステ城~
「ここが”ぺステ城”……」
「大きいわね……」
「とても領主の城とは思えない規模だぞ……」
「う、うん。セントアークの領主の館とも比べ物にならないよ……」
「エレボニア帝国とは”格”が違う証拠ねぇ。」
ぺステ城の大きさを見たリィンとアリサは呆け、マキアスは疲れた表情をし、エリオットは驚きの表情で苦笑するサラ教官と共に城を見つめた。
「―――お疲れ様です。いつも見張り、ご苦労様です。」
「!ツーヤ様!」
「お帰りなさいませ!巡回の者達よりツーヤ様のご帰還の報告は既に承っています!」
ツーヤが見張りの兵士達に話しかけると兵士達はそれぞれ敬礼をして答えた。
「エリウッド義兄さん達はどちらに?」
「ハッ!エリウッド様より城に到着次第、客間にお通しするようにと承っています!」
「わかりました。それとペガサスとグリフィン達の世話を頼んで構いませんか?」
「ハッ!お任せ下さい!」
そしてリィン達はペガサスやグリフィン達を兵士達に預けた後城の中に入ると、既に執事が待機しており、リィン達は執事の先導によって客間に通されて少しの間待つと扉をノックする音が聞こえて来た。
~客間~
「―――失礼するよ。」
扉から男性の声が聞こえた後、扉が開き、そこにはまさに”貴公子”を現した金髪の貴族の青年と優しげな雰囲気を持つ女性と二人の間には貴族の子女らしき幼い少女がいた。
「あ……………」
(ね、ねえ……もしかしてあの女性って……)
(ああ……マキアスの話に出て来た……)
女性の見覚えのある容姿を見たマキアスは呆け、小声のエリオットの言葉にリィンは頷き
「―――ツーヤ叔母様、お久しぶりです!」
少女は嬉しそうな表情でツーヤに駆け寄ってツーヤに抱き付いた。
「う”っ……!」
「ええっ!?」
「あら♪その歳で”オバサン”って呼ばれているなんて、気の毒ね~。」
少女の言葉を聞いたツーヤは表情を引き攣らせ、セレーネは驚き、サラ教官はからかいの表情でツーヤを見つめた。
「ク、クラリス。いつも言っているでしょう?その呼び方はお願いだから止めてって。」
「フフ、ツーヤの言う通りよ、クラリス?結婚もしていない女性に”叔母様”だなんて失礼よ?」
ツーヤは冷や汗をかきながら疲れた表情で少女に指摘し、女性は苦笑しながら指摘した。
「あ……私ったらツーヤお姉様に失礼な事を……すみません、ツーヤお姉様。」
「フフ、気にしないで。」
そして少女に謝罪されたツーヤは苦笑しながら答えた。
「――――エリウッド・L・マーシルン。ツーヤの義理の兄にあたる。君達の事はツーヤの手紙で知っているよ。いつも妹と仲良くしてくれてありがとう。」
「エリウッド様の妻のフィオーラ・マーシルンと申します。よろしくお願いします。」
「ご挨拶が遅れ、申し訳ありません。メンフィル帝国王公領ミレティア領主エリウッド公爵の娘のクラリス・L・マーシルンと申します。以後お見知り置きを。」
そして青年―――エリウッド公爵と女性―――フィオーラ夫人、そして少女――――クラリスはそれぞれ自己紹介をした。
「は、初めまして!リィン・シュバルツァーです!よろしくお願いします!」
「アリサ・ラインフォルトです。その……いつもツーヤにはお世話になっています。」
「マキアス・レーグニッツです。よろしくお願いします。」
「えっと……エリオット・クレイグです。」
「―――サラ・バレスタイン。未熟な身ですがツーヤの担任をやらしてもらっています。」
「ツーヤお姉様の妹のセレーネ・アルフヘイムと申します。以後お見知り置きをお願いします。」
エリウッド公爵達が名乗るとリィン達もそれぞれ自己紹介をした。
「ハハ、そんな固くならないでくれ。君達にとって僕達は級友の家族なんだからそんなに固くなる必要はないよ。」
緊張している様子のリィン達を見たエリウッド公爵は苦笑しながら指摘した。
「そ、それはちょっと難しいわよね……?」
「う、うん。だって公爵様でしかも皇族ですし……」
エリウッド公爵の指摘にアリサに同意を求められたエリオットは戸惑いの表情をし
「フフ、エリウッド様。皆さんが困ってらっしゃっていますよ?」
「弱ったな……そんなつもりはなかったんだが……」
「……………………」
優しげな微笑みを浮かべるフィオーラ夫人の言葉に苦笑しているエリウッド公爵の様子を見たマキアスは静かな表情で黙り込んでいた。
「?あの……セレーネさん、でしたか?先程ツーヤお姉様の”妹”と仰っていましたが……」
その時ある事に気付いたクラリスは不思議そうな表情でセレーネを見つめ
「はい。わたくしはツーヤお姉様の双子の妹です。」
「?ツーヤの?確かに双子の妹がいる話は聞いていたが……」
「まずはお茶を入れて色々とお聞きしましょう?」
その後それぞれ席についたリィン達はフィオーラ夫人が入れたお茶をご馳走になりながら、セレーネの事情を説明した。
「そうか……そのような事情が。」
「とても不思議なお話ですね……」
「そうね……でも、世界が違えど家族に出会えるなんてまるで”奇跡”のような話ね。」
セレーネの事情を聞き終えたエリウッド公爵は真剣な表情になり、目を丸くしているクラリスの言葉にフィオーラ夫人は静かな表情で頷いた。
「あの……フィオーラ……さん。つかぬ事をお聞きしたいのですがよろしいでしょうか?」
その時決意の表情をしたマキアスがフィオーラ夫人を見つめた。
「?私にですか?何でしょう。」
「その……僕の顔に見覚えはないでしょうか……?」
「マキアス…………」
死んだはずの親族に自分の事を尋ねるマキアスをリィンは静かな表情で見守っていた。
「………………申し訳ございませんが、貴方の顔を見るのは今日が初めてです。」
「そうですか……」
マキアスの顔をジッと見つめた後静かな表情で答えたフィオーラ夫人の言葉を聞いたマキアスは疲れた表情で肩を落とした。
「マキアス。その……大丈夫……?」
「ああ……大丈夫だ。ツーヤから僕や父さんの事も含めた記憶を全て失っている事は聞いていたから。それにこうして直に顔を合わせて話してみてわかったよ……やっぱり僕が知る”姉さん”だって。」
「マキアスさん……」
エリオットに心配されて答えたマキアスの様子をセレーネは心配そうな表情で見つめた。
「?フィオーラが君の”姉”?どういう事なんだい?」
マキアスの言葉の意味がわからなかったエリウッド公爵はリィン達に尋ね、リィン達はフィオーラ夫人とマキアスの関係や事情を説明した。
「お、お母様の親族の方だったんですか……」
事情を聞き終えたクラリスは驚きの表情でマキアスを見つめ
「それにしても改めて聞くとあまりにも酷い話よね……」
「……ま、血統主義のエレボニア貴族は正妻に平民を迎える事なんてありえない話でしょうね。」
辛そうな表情をしているアリサの言葉にサラ教官は目を伏せて答えた。
「―――今の話を聞いて正直僕はフィオーラを徹底的に圧力をかけてきた男の家族もそうだけど、フィオーラを裏切って自殺に追いやったその男に怒りを抱いているよ。本当に彼女の事を愛しているはずなら、そのような事はしなかったはずだ。」
「エリウッド様……私は気にしていないので、どうかお気になさらないで下さい。それに……私はエリウッド様と出会い、結ばれ……今はこうして共に生きている事に心から幸せに思っていますから……」
静かな怒りを纏っているエリウッド公爵の様子を見たフィオーラ夫人は優しげな微笑みを浮かべてエリウッド公爵を見つめ
「フィオーラ……」
フィオーラ夫人に微笑まれたエリウッド公爵も微笑みを返して互いに見つめ合った。
(うわっ……!凄いラブラブだね……)
(ハハ、確かに。)
(見ている方が恥ずかしくなってくるわ……)
(互いを思い合うとても素敵な夫婦ですね♪)
(まるで新婚夫婦を見ているみたいよ……あ~あ。あたしを思ってくれるダンディな中年紳士が現れないかしら?)
二人の様子を見たエリオットとリィンは苦笑し、アリサは疲れた表情をし、セレーネは嬉しそうな表情をし、サラ教官は呆れた後羨ましそうな表情で二人を見つめ
(ううっ、姉さんの事は吹っ切ったはずなのにやっぱり複雑だな……でも……幸せそうで本当によかった……)
マキアスは疲れた表情をした後安堵の表情でフィオーラ夫人を見つめた。
「もうお二人とも、お客様の前ですよ?」
「アハハ、相変わらずとても仲がいいですね。」
一方クラリスは呆れ、ツーヤは苦笑しながら言った。
「っと、すまない。」
「フフ、ごめんなさい。それで……―――マキアス君、だったかしら?」
「は、はい!何でしょうか?」
フィオーラ夫人に見つめられたマキアスは緊張した様子でフィオーラ夫人を見つめた。
「もしマキアス君がよければだけど、かつての貴方が知る”フィオーラ”として私に接してくれていいわよ。」
「え…………で、でもフィオーラさんは記憶が……」
フィオーラ夫人の申し出に呆けたマキアスは戸惑った。
「……例え記憶を失っても貴方が私の親族である事は間違いないもの。……それに何となくだけど貴方と顔を合わせた時、”懐かしい”って思ったもの。」
「フィオーラ義姉さん…………」
「………………”姉さん”………………―――わかった。姉さんがそこまで言うなら前のように呼ばせてもらうけど……姉さんも僕の事はできれば前のように呼び捨てで呼んでくれないか?」
優しげな微笑みを浮かべて言ったフィオーラ夫人の言葉にツーヤは驚き、フィオーラ夫人が浮かべている笑顔がかつて自分が知る”フィオーラ”の笑顔と重なって呆けていたマキアスは静かな笑みを浮かべてフィオーラ夫人を見つめた。
「フフ、わかったわ、”マキアス”。」
「……よかったな、マキアス。フィオーラさんに会えて。」
「ああ…………えっと……今更こんな事を言うのもおかしな話ですが、どうかこれからも姉さんの事、幸せにしてあげてください、エリウッド公爵閣下。」
リィンに言われたマキアスは頷いた後エリウッド公爵を見つめ
「ああ、任せたまえ。」
エリウッド公爵は静かに頷いた。
「お父様、お母様。私、マキアスさんの事はこれからどうお呼びすればよいですか?マキアスさんは私にとって親族にあたる方ですし。」
「そうね……皆さんの話だとマキアスは私にとって弟のような存在だそうだから、普通に”マキアス叔父様”と呼べばいいんじゃないかしら?」
「え”。」
クラリスに尋ねられて答えたフィオーラ夫人の言葉を聞いたマキアスは表情を引き攣らせ
「マキアスがお、おじさん扱い……」
「た、確かに間違ってはいないけど……」
「アハハハハハ!その歳で”オジサン”になるなんて、気の毒ね~♪」
「え、えっと……元気を出してくださいね、マキアスさん。」
その様子を見ていたエリオットとアリサは冷や汗をかき、サラ教官は腹を抱えて笑い、セレーネは苦笑しながらマキアスを見つめた。
「いやいやいやいやっ!?普通に”いとこ”の関係だから”叔父さん”扱いされる事はないよ、姉さん!」
そしてマキアスは慌てた様子で否定した後疲れた表情でフィオーラ夫人に指摘し
「フフ、そうだったの。記憶がないからわからなかったわ。」
(今の言葉を聞いたら何だか本当に記憶喪失なのかどうか怪しくなってきたぞ……)
自分の指摘に微笑みながら答えたマキアスは疲れた表情をした。
「むう。じゃあ、どうお呼びすればよいのでしょう……」
「クラリス。ツーヤのように兄扱いでいいと思うよ?」
「わかりました。―――改めてよろしくお願いしますね、マキアスお兄様!」
「あ、ああ。よろしくな、クラリス。」
呼び方に迷っている助言したエリウッド公爵の指摘に頷いたクラリスに微笑まれたマキアスは気を取り直して答えた。
「さてと……それでセレーネさんの話に戻るがツーヤ、母上にその娘の事は説明したのかい?」
「いえ、まだですが……」
「そうか。じゃあ僕から母上に話してその娘も僕達と義理の家族関係にしてもらうよう進言するよ。」
「え……よろしいのでしょうか?」
エリウッド公爵の提案を聞いたセレーネは目を丸くして尋ねた。
「ツーヤの実の妹ならツーヤと義理の家族関係にある僕達にとっても”家族”だからね。母上もきっと歓迎してくれるよ。」
「勿論私も家族として歓迎するわ、セレーネ。」
「私もです!よろしくお願いします、セレーネお姉様!」
「皆さん……はい!よろしくお願いします……!」
「……ありがとうございます、エリウッド義兄さん。」
エリウッド公爵達の暖かい申し出にセレーネは嬉しそうな表情で頷き、ツーヤは静かな笑みを浮かべて会釈した。
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