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高嶺の花

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第六章

「僕なんかをそう思っていたんだ」
「あの娘はあの娘でな」
「そうだったんだ」
「ああ、とにかく相手をそうそうな」
「高嶺の花とか思わないことなんだ」
「そうなんだよ」
 まさにというのだ。
「そうしたらかえって相手もびっくりする、そしてな」
「相手もそう思ってるかも知れない」
「そういうことだよ、わかってくれたな」
「よくね」
 これがハンスの返事だった。
「今回のことでわかったよ」
「ああ、それにな」
「それに?」
「エーデルワイスって言ったろ」
 ヒルダのことをというのだ。
「御前あの娘のことを」
「うん、今もそう思ってるよ」
「エーデルワイスは確かに奇麗だけれどな」
「それでもなんだ」
「案外ポピュラーな花だろ」
「そうかな」
「ああ、我が国だとな」
 スイスではというのだ。
「そうした花だろ」
「だからなんだ」
「そこまで高く思うな」
 マルティンはハンスに言った。
「相手をな」
「そういうものなんだ」
「そうしたらかえっておかしくなるからな」
 こう言うのだった。
「御前もヒルダちゃんもそうじゃなかったけれどな」
「おかしくもなるんだ」
「相手をしっかりと見るんだ」
 そのありのままの姿をというのだ。
「これからはそうしろよ」
「わかったよ、じゃあね」
「ヒルダちゃんをな」
「お互いにそうしていくよ」
 その交際の中でとだ、ハンスはマルティンの言葉に頷いた。そうして実際にだ、ヒルダと交際していく中でだ。
 ありのままの彼女を見た、見れば時々失敗もして慌てたりもする。ごく普通の女の子だった。
 趣味も少女的だ、それでヒルダ自身にこう言ったのだった。
「ヒルダちゃんが余計に好きになったよ」
「どうしてなの?」
「本当のヒルダちゃんを知れたから」
 交際する前は知らなかったが、だ。
「だからね」
「私のことが余計になのね」
「うん、好きになったよ」
「それは私もよ」
 ヒルダもだ、ハンスに微笑んで話した。
「ハンス君のことがわかったわ」
「それでなんだ」
「思っていた以上にずっと優しくて気遣いをしてくれるから」
 だからというのだ。
「好きになったわ」
「そうなんだ」
「これまで以上にね」
「お互いをよく知る」
 ハンスはここでマルティンの言葉を思い出して言った。無闇に高く見て自分では無理だ駄目だと思うよりも。
「それが大事だね」
「そうよね」
 ヒルダもハンスのその言葉に笑顔で頷く、二人で楽しいデートの時間を過ごしながらだ。そうしたことを話したのだった。


高嶺の花


2015・11・16 
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