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英雄伝説~焔の軌跡~ リメイク

作者:sorano
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第60話

~???~



「……ここ……は……」

「………エステル…………」

何もない真っ暗な空間にエステルが目覚めると、聞き覚えのある声がした。

「ヨシュア!?」

声がした方向にエステルが振り向くと、そこにはヨシュアがいた。そしてエステルはヨシュアに向かって走って行ったが、いくら走ってもヨシュアの元に行けなかった。

「な……なんで……?」

「いいんだ……。……もういいんだよ……」

いくら走ってもヨシュアに近づけない事にエステルが戸惑っている中、なんとヨシュアの片腕がヨシュアの体から外れて、地面に落ちた!

「ああっ……!」

「元々……僕は壊れた人形だから……」

エステルが悲鳴をあげたその時、ヨシュアのもう片方の腕もヨシュアの体から外れて、地面に落ちた!



「人間には戻れないから……」

そしてついには、ヨシュアの身体が完全にバラバラになってしまった!

「だから…………もういいんだよ……」

「……………あ………………」

エステルは体を震わせながらバラバラになったヨシュアに近づき、ヨシュアの頭を拾い上げた。

「ありがとう……。さよならエステル……」

「い……いや……。いやあああああっ!」

ヨシュアの死を見てしまったエステルは悲鳴を上げた。



~???~



「……あ……………………」

ベッドの上で眠って悪夢を見ていたエステルは目を覚ました。

「ビックリした……エステル、大丈夫?」

その時ベッドの傍でエステルを見つめていたユウナが目を丸くしてエステルを見つめた。

「ユウナ……よ、よかった……夢だったんだ……」

「うふふ……怖い夢を見ちゃったのね?」

「うん………もう最悪な夢……だいたいあんな人形なんか出てくるから紛らわしい夢を――――」

ユウナと会話していたエステルは敵対している組織に所属しているユウナが自分の目の前にいるという違和感に気付き、慌てて起き上がった。



「……ちょ、ちょっと!どうしてユウナがこんな所にいるのよっ!?」

「うふふ……驚くタイミングがズレているわよ。エステルったら、相変わらずノンキなんだから。レンが今までエステルに手を焼かされた場面が目に見えるわ。」

「わ、悪かったわね、ノンキで。というかヨシュアはともかくレンに手を焼かせた事なんてないわよ………って、ここ……」

笑顔で自分を見つめるユウナの言葉を聞いたエステルはユウナをジト目で睨んだが見覚えのない場所に自分がいる事に首を傾げて周囲を見回した。



「ここにユウナがいるのは別におかしい事じゃないわ。だってユウナたちの新しい拠点なんだもの。」

「新しい拠点……」

「うふふ……その窓から見てみれば?」

「…………………」

ユウナに促されたエステルは窓に近づいて外の景色を見つめ

「な……!」

驚くべき景色を見たエステルは声を上げた。



なぜなら、エステルは巨大な赤色の飛空戦艦の中にいて 、そして戦艦は空を飛んでいた!



「……………」

「”(あか)の方舟”グロリアス………これ一隻で、一国の軍隊を圧倒する事が可能よ。うふふ、なかなか面白そうなオモチャでしょう?」

自分の現状に口をパクパクしているエステルに得意げに説明したユウナは小悪魔な笑みを浮かべた。

「あ、あんたたち……こんな物を持ち出して何を……」

そしてエステルが驚きの表情でユウナを見つめたその時、放送が聞こえてきた。



「やあ、お目覚めのようだね。ようこそ、エステル君。寝心地はいかがだったかな?こんな場所に連れて来られてさぞかし混乱しているだろう。だが、我々は君に対して危害を加えるつもりはない。安心してくれて結構だ。」

「………………………………」

放送を聞いたエステルは不安そうな表情で周囲を見回していたが

「どうだろう、一度ゆっくり話してみるつもりはないかね?結社のこと、我々の目的、そして共通の友人について……。色々な疑問に答えてあげられると思うよ。」

「……いいわ。聞かせてもらおうじゃない。」

ヨシュアの話を出され怒りが戻ってきたエステルは静かな怒りを纏って答えた。



「よろしい、待ってるよ。ユウナ、エステル君を案内してあげてくれたまえ。」

「うふふ、わかったわ。それじゃあ、エステル。”聖堂”に行きましょう。」

「”聖堂”……?」

「この艦の最上階にあるなかなかステキなお部屋よ。そこで”教授”が待っているわ。」

「………………………わかった。案内してもらおうじゃない。」

「うふふ、そんなに警戒しなくてもいいわ。多分、エステルにとっても悪くない話だと思うし。」

「へ……どういう事?」

「お楽しみは後でね。ほら、ユウナについてきて。」

その後エステルはユウナの先導の元、ある部屋の入り口まで来た。



「うふふ……ここが教授のいる”聖堂”よ。ここから先はエステル一人で行くといいわ。」

「……ねえ、ユウナ。」

「何?」

「研究所で、ヨシュアの人形を操っていたのはユウナなのよね?」

「ええ、そうよ。”教授”に頼まれたんだけど、なかなか面白かったでしょう?」

「はあ………やっぱり”結社”に助けられた事は間違いのようだったわね。」

「え……?」

エステルがふと呟いた言葉を聞いたユウナは不思議そうな表情をしたが

「……ま、今はいいか。それじゃあ行ってくるわね。」

「うふふ、行ってらっしゃい。」

エステルはユウナの疑問に答えず、部屋の中に入って行った。



~グロリアス・聖堂~



エステルが部屋に入るとオルガンの音が聞こえ、周囲はどことなく聖なる気配を纏わせた広い空間で、オルガンの前の椅子にはワイスマンが座ってオルガンを弾いていた。



「ようこそ……”紅の方舟”グロリアスへ。久しぶりだね、エステル君。」

そしてエステルが近づく気配を感じたワイスマンはオルガンを弾くのを中断して椅子から立ち上がってエステルを見つめた。

「アルバ教授……。やっぱりあなただったんだ。さっき声を聞いてようやく思い出せたわ。」

「フフ、さすがは”剣聖”の娘といったところかな。軽くとはいえ、封鎖された記憶を自力で思い出してしまうとはね。」

自らの力で自分の封印を解いたエステルをワイスマンは感心しながら見つめていた。



「………………………………」

「ちなみに本当の名前は、ゲオルグ・ワイスマンという。”身喰らう蛇”を管理する”蛇の使徒”の一柱を任されている。」

「”蛇の使徒”……。”結社”の最高幹部ってとこ?」

「まあ、そのようなものだ。さてと―――先ほど言ったように私には君の疑問に答える用意がある。何か聞きたいことはあるかね?」

エステルの疑問に答えたワイスマンはエステルに尋ねた。



「………………………………。……聞きたいことがあり過ぎて何から聞こうか迷うんだけど……」

「焦ることはない。ゆっくりと考えたまえ。よかったら一曲、弾かせてもらおうか?」

「結構よ。ていうか、そんな趣味を持ってる人とは思わなかったんだけど……。貧乏な考古学者っていうのは完全に嘘っぱちだったわけね。」

かつてアルバ教授としてのワイスマンと出会った時の自己紹介を思い出したエステルは騙された事に怒りを感じながらジト目でワイスマンを睨んだ。

「フフ、貧乏はともかく考古学を研究してるのは本当さ。ちなみにパイプオルガンは教会にいた頃、(たしな)んでいたものでね。あの帝国人ほどではないが、それなりの腕前だっただろう?」

「きょ、教会にいた……?」

「いわゆる学僧というやつさ。”盟主”と邂逅したことで信仰の道は捨ててしまったが……。その時に学んだ古代遺物アーティファクトの知識は今もそれなりに役立っている。そう、今回の計画においてもね。」

「………………………………。大佐をそそのかしてクーデターを起こさせたのも……各地で”ゴスペル”の実験をして色々な騒ぎを起こさせたのも……全部……あんただったわけね。」

目の前にいる人物が全ての黒幕である事に気付いたエステルは真剣な表情で尋ねた。



「その通り―――全ては”福音計画”のため。」

「『福音計画』……。あの研究所のデータベースにもそんな項目があったけど……。要するに”輝く環”を手に入れる計画ってわけ?」

「手に入れるというのはいささか誤った表現だが……まあ、そう思ってもらっても構わないだろう。」

「”輝く環”って何?女神の至宝って言われているけど具体的にはどういうものなの?」

「”輝く環”の正体に関しては現時点では秘密にさせてもらおう。せっかくの驚きを台無しにしたくはないからね。」

「驚きって……」

ワイスマンの答えを聞いたエステルは呆れた表情をした。



「計画も第3段階に移行した。もう少しで、その正体は万人に(あまね)く知れ渡ることになる。フフ……その時が楽しみだよ。」

「………………………………」

「そして”環”が現れたその時……我々は、人の可能性をこの目で確かめる事ができる。」

「人の可能性……。”レグナート”もそんな事を言っていたような……」

「ほう、あの聖獣からそこまでの言葉を授かったか。ふむ、あながちお父上の七光りだけではないようだね。」

エステルの話を聞いたワイスマンは感心した表情でエステルを見た。



「お世辞は結構よ。何よ……色々質問したってはぐらかしてばかりじゃない。」

「これは失礼……そんなつもりじゃなかったのだが。だが、君が一番聞きたい質問にははっきり答えられると思うよ。」

「………………………………」

「おや、何をそんなにためらっているのかな?恐れることはない。勇気をもって訊ねてみたまえ。」

「………………………………。ヨシュアは……どこにいるの?」

ワイスマンに促されたエステルはヨシュアが既に”結社”に戻っているかもしれないという可能性に不安を感じつつ尋ねた。



「フフ……それは私にも分からない。どうやら空賊たちと一緒に何かを画策しているようだが……。いまいち動きが掴めなくてね。今のところ、生きているのは間違いないだろう。」

「そ、そうなんだ……」

「ヨシュアの能力は、隠密活動と対集団戦に特化されている。そのように調整したのは私だが予想以上の仕上がりだったようだ。フフ……どこまで頑張ってくれるか楽しみだよ。」

「あんた……」

楽しそうに語るワイスマンをエステルは睨んだ。



「ああ、そんなに怖い顔をしないでくれたまえ。私の元に預けられた時、ヨシュアの心は崩壊していた。そんな心を再構築するなど私にも初めての試みだったのだ。その成果を気にかけるのは研究者として当然とは思わないかね?」

「………………………………。……あの生誕祭の時、ヨシュアに何を言ったわけ?」

「封じた記憶を解除して真実を教えてあげただけだよ。君の家に引き取られた彼が無意識のうちにスパイとして”結社”に情報を送っていたこと……。そして、彼の情報のおかげでリシャール大佐のクーデターが成功し、我々の計画の準備が整った事をね。そのご褒美として、改めて”結社”から解放してあげたんだ。」

「………………………………。……やっと分かった……。ヨシュアがどうして……あの夜……姿を消したのか……。どうしてあんな顔で……さよならって言ったのか……」

ワイスマンの話を聞いて全てを察したエステルは頭をうつむかせて身体を震わせながら、静かに呟いた。



「いや、それについてはさすがに遺憾に思っているよ。自分を取り戻したヨシュアが君たちの前から姿を消すとはね。そのまま素知らぬ顔で君たちと暮らしていくといいと勧めておいたのだが……。フフ、親切心が仇になったかな?」

「よくも……そんな事が言えるわね……。そんな道を選ぶしかないようヨシュアを追い詰めたくせに……。あんな顔をして……ハーモニカをあたしに渡して……。さよなら……エステルって……」

そしてエステルはワイスマンを睨んで、棒を構え、そして――――

「全部、全部ッ!あんたのせいじゃないかああ!」

エステルは叫びながらワイスマンに襲いかかって攻撃しようとした!

「…………………」

「あうっ……」

しかしレーヴェが突如ワイスマンの前に現れて、剣を振るってエステルを吹っ飛ばした!



「”剣帝”レーヴェ……。い、一体どこから現れたの……」

「……最初からここにいた。お前が気付かなかっただけだ。」

信じられない表情で尋ねるエステルにレーヴェは静かに答えた。

「やれやれ……何とも品のない振る舞いだ。」

さらに聞き覚えのある声がした。すると、”怪盗紳士”ブルブラン、”痩せ狼”ヴァルター、”幻惑の鈴”ルシオラがエステルの目の前に現れた!

「クカカ、そう言うなよ。”白面”に殴りかかれるなんざ並の度胸じゃできねえはずだぜ。」

「ふふ、腕はともかく度胸だけは大したものね。それとも鈍いだけなのかしら。」

「あ……う……」

”執行者”達が一斉に現れた事にエステルは思わず、後ずさりした。

「フフ、そう言えば”執行者”としておチビちゃんと会うのはこれが初対面だったわね。『執行者』No.Ⅵ。『幻惑の鈴』ルシオラ。今はそう呼ばれてるわ。」

「貴女が………シェラ姉から聞いてはいたけど、どうしてあの時の占いのお姉さんが……」

ルシオラが名乗るとエステルは信じられない表情でルシオラを見つめた。



「ウフフ……君が”剣聖”のお嬢さんか。」

するとその時”道化師”カンパネルラが”執行者”達の前に現れた。

「フフ、初めましてかな。執行者No.0―――”道化師”カンパネルラさ。以後、ヨロシク頼むよ♪」

「くっ……」

カンパネルラも”執行者”と知ったエステルは呻いたその時

「もう、みんなしてエステルをいじめちゃだめじゃない。」

”殲滅天使”ユウナがエステルの背後から近づいてきた。

「ユウナ……」

「うふふ……心配しなくてもいいわ。別にエステルを殺すために集まったわけじゃないから。」

「へ……」

「ねえ、教授。早く例の話をエステルにしてあげて?」

自分の話を聞いて首を傾げているエステルに意味ありげな笑みを浮かべて見つめたユウナはワイスマンに続きを促した。



「フフ……そうさせてもらおうか。どうだろう、エステル君。”身喰らう蛇”に君も入ってみる気はないかね?」

「へ……。……ごめん。聞き違えちゃったみたい。もう一度、言ってくれない?」

ワイスマンの口から出た信じがたい提案を聞いたエステルは呆けた後、尋ね返した。

「君も”身喰らう蛇”に入ってみる気はないかと言った。まずは”執行者”候補としてね。」

「あ、あ、あ……あんですってー!?」

そしてワイスマンが自分を勧誘しているという事実にエステルは大声で叫んで驚いた。



「フフ、そんなに驚くことではないだろう?考えてもみたまえ。君が”結社”に入ればヨシュアも意地を張らずに戻ってくるとは思わないかね?」

「あ……………」

ヨシュアが戻ってくるかもしれないという推測を聞かされたエステルは呆け

「エステルの望みはヨシュアと再会することよね?”結社”に入りさえすればその望みはすぐにでも叶うわ。うふふ……考えるまでもないわよね?もし”結社”に入ってくれるんだったら、ユウナがレンの代わりにエステルの妹になってもいいわよ?レンの代わりっていうのは癪だけど、レンからエステルを取り上げるっていう方が面白そうだし。」

「……で、でも………あたし……」

ヨシュアが戻ってくるかもしれないというユウナの甘い誘惑を聞くとさらに迷い始めた。

「フフ、ゆっくりと考えたまえ。この後、我々はしばらく艦を留守にする必要があってね。帰ってきたら、その時にでも返事を聞かせてもらおうか。」

ワイスマンが指を鳴らすと、エステルの背後から紅蓮の猟兵が2人現れた。

「申し訳ないが、それまでは君の自由は制限させてもらうよ。足りないものがあれば彼らに希望を伝えるといい。」



そしてエステルは紅蓮の猟兵達に自分が眠っていた部屋に連れていかれた………… 
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