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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第61話

その後校舎内を歩き回った後寮に戻る為に校門に出ると蝉の鳴き声が聞こえてきた。



~夕方・トールズ士官学院・校門~



(スピナ蝉……こっちの方でもいるのか。あの鳴き声が聞こえると夏って感じがしてくるよな……)

「――帰りか、シュバルツァー。」

蝉の鳴き声を聞いたリィンが懐かしそうな表情をしていると軍事学を担当し、エレボニア帝国軍で少佐を務めているナイトハルト教官がリィンに近づいてきた。



「ナイトハルト教官……ええ、教官もお帰りですか?」

「ああ、明日には一度原隊に戻る用件があってな。今日は早めに学院の仕事を切り上げさせてもらった。」

「原隊……そういえば教官は、帝国正規軍からこちらに出向されてるんですよね?」

「ああ、不定期ではあるが。……改めになるが先月の実習はご苦労だった。」

「それは……ノルド高原の一件ですね?」

ナイトハルト教官に労われたリィンはある事を思い出して尋ねた。



「ああ、軍の報告書を読んだがいつ共和国軍との戦闘が始まってもおかしくない状況だったらしいな。どうやら情報局の連中が色々と動いていたようだが……それでも戦争を食い止めたお前達の功績は大きいだろう。」

「いえ、そんな……結局、眼鏡の男については何もわかっていないんですよね?」

ナイトハルト教官の称賛に謙遜したリィンはギデオンの正体が気になり、尋ねた。



「ああ、傭兵団を動かしていた”G(ギデオン)”と名乗った男か。情報局の方でも調査中ではっきりとはわかっていないらしい。まあ、あの情報局のことだ。どうせ何かは掴んでいるのだろう。」

「そうですか…………」

「……シュバルツァー。確かにお前達は良くやった。だが、運に助けられたことも当然わかっているな?」

「……!……それは…………」

ナイトハルト教官の指摘に驚いたリィンは複雑そうな表情をした。



「お前達のレポートを読んだが少々、独断専行が多すぎる。軍というのはスタンドプレーで成り立つような組織ではない。高度な連携と、司令官による統一された組織運用は基本だ。そしてそれはどの国も同じ事だ。――――授業で教えたはずだな?」

「……はい。確かにノルド高原では中将閣下の意向に反対して無理をしたと思います。もっと上手く動けていればメガネの男も逃がさずにすんだのかもしれません……」

「それさえわかっていればいい。―――報告を見るに時間が無かったのも確かだろう。組織運用の原則論に囚われて柔軟さを捨てろとも言わん。ただ、物事の順序とスジはきちんと弁えておくがいい。」

「はい。」

「ふう……こういった心構えは本来は担任教官が教えておくべき内容なのだが……”彼女”の経歴を考えればそもそも期待するのが間違っていたのかもしれんな。」

リィンの返事に満足したナイトハルト教官は疲れた表情で呟いた。



「”彼女”と”彼”……サラ教官のことですか?」

「ああ、優秀なのは認めるが軍人としての心構えが無さすぎる。軍と無縁だったとはいえ、士官学校の教官に着任したからには弁えてもらいたいのだが……レオンハルト教官もせっかく副担任としての立場にいるのだから、軍人としてサラ教官に注意してもらいたいのだがな……」

「え、えっと……サラ教官って前は何をしていたんですか?」

溜息を吐いて呟いたナイトハルト教官に戸惑ったリィンは尋ねた。



「なんだ、知らないのか?実は彼女は――――」

そしてナイトハルト教官がリィンにある事を教えようとしたその時

「レディの過去の暴露はちょっと感心しませんね?」

サラ教官が二人に近づき、ジト目でナイトハルト教官を睨んだ。



「サ、サラ教官……」

「バレスタイン教官か。」

「まったく綺麗なお姉さんの過去が気になるのはわかるけど。だからと言って、頭の固い軍人さんにあんまり影響されちゃダメよ~?杓子定規で身動き取れなくなる可能性だってあるんだからねー?」

「サ、サラ教官……」

目の前でナイトハルト教官の言葉を否定したサラ教官にリィンは冷や汗をかいて二人を見比べた。



「……フン、言ってくれる。行き当たりばったりの即席教官に前途ある士官候補生が導けるとはとても思えんがな。」

「む……さすがは最強と言われる”第四機甲師団”のエースですこと。領邦軍のように伝統と格式を重んじるような口ぶりですけど。」

「む…………」

(や、やっぱりこの二人ってソリが合わないんだな……それにしてもシャロンさんといい、レオンハルト教官といい、サラ教官も喧嘩っ早いというか……)

互いににらみ合う二人から一歩下がって見守っていたリィンは呆れた表情でサラ教官を見つめた。



「おや~?サラ教官に、ナイトハルト教官?」

するとその時歴史と文学を担当している教官―――トマス教官が3人に近づいてきた。

「あ。」

「……っ……」

トマス教官の登場にサラ教官は呆け、ナイトハルト教官は表情を引き攣らせ

「トマス教官……」

リィンは目を丸くしてトマス教官を見つめた。



「おお、リィン君も一緒でしたか~。何だか楽しそうですね~?私もご一緒していいでしょうか?」

「い、いや……」

「あはは、ちょっと挨拶をしただけでして……ほらリィン、ボケっとしてないで早く寮に帰らないとっ。」

「え、ええ……?」

その場から早く去ろうとしているサラ教官の様子にリィンは戸惑いながら頷いた。



「そうだ、ここで会ったのも何かの縁でしょう~。これから街の居酒屋で親睦を暖めるとしましょうか~?お二人とも結構イケる口ですよね~?」

「い、いや自分は……!」

「きょ、今日は自分の部屋で一人で静かに飲みたいなぁって!」

一方トマス教官に誘われた二人はそれぞれ慌てた様子で言い訳をしたが

「うふふ、まあ遠慮なさらず~。そうだ~、せっかくだからリィン君もご一緒しませんか~?アルコールはダメですけどそれ以外なら奢ってあげますよ~?」

トマス教官は二人の意見を聞かずにどんどん話を進めた。



「い、いや~……教官たちの親睦を深めるのを邪魔するのも忍びないですし……それにほら、ちょうどレオンハルト教官も来たみたいですから、レオンハルト教官も誘ってみたらいかがですか?」

トマス教官の申し出にリィンは冷や汗をかきながらやんわりと断り、ちょうど自分達の方に歩いて来るレーヴェに気付いて指摘した。

「……?今、俺を見なかったか、シュバルツァー。」

リィンの視線に気付いたレーヴェは眉を顰めて4人に近づいたが

「ちょうどよかったです~。教官同士の親睦を深める為に居酒屋で一杯しようと提案した所なんです~。」

「………っ…………おい、これは一体どういう事だ?」

トマス教官の誘いを聞いて一瞬表情を引き攣らせた後、リィンに視線を向けた。



「――それでは、自分はこれで失礼します。シャロンさんには教官達の分はいらないって伝えておきますね。」

「あ、ちょっと……!」

するとリィンは教官達に挨拶をした後その場から去った。

「こ、こら~っ!なんて薄情な生徒なのっ!?」

「謀ったな、シュバルツァー……!この借りは何れ返してもらうぞ……!」

去って行くリィンをサラ教官とレーヴェは睨み

「うふふ~、それじゃあ私達も行くとしましょうか~。」

「いや、自分は本当に明日の朝早くに出るので……」

トマス教官の言葉を聞いたナイトハルト教官は必死に言い訳をしてその場から逃げようとした。 
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