馬の様に牛の様に
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4部分:第四章
第四章
「中華丼に五杯ってね。おおよそおひつにして」
「一個半ってところ?」
「どうなのよ、それ」
こう友人に問い返すのだった。
「いつもそれだけ食べるって」
「確かに多いわね」
「多いなんてものじゃないわよ。言っておくけれどね」
喋る声がうわずってきている。興奮しているのは明らかだった。
「お料理には私も自信があってね」
「うん」
「作るのも好きよ。お米を研ぐのもね」
それはいいというのである。
「けれどよ」
「不満なのね、何かが」
「いつも横でそんなにお化けみたいに食べられたらドン引きよ」
「見ていて慣れないのね」
「慣れたら怖いわよ」
今度返した言葉はこれであった。
「不可能よ、そんなことは」
「また随分と困ってるのね」
「お化けが横にいる気分よ」
まさにそれだというのである。
「本当にね。お化けがいるみたいなね」
「何度もお化けって言うのね」
「本当にそれなんだから」
言葉はかなり強引にもなっていた。
「それだけ食べるのよ、あの人」
「しかも太らないのね」
「いつも運動してるしおまけに太らない体質らしくてね」
「羨ましいわね、それって」
「私は太る体質だしね」
自分でそれはわかっている美佳だった。言いながらその顔を憮然とさえさせている。
「残念だけれど」
「美佳お尻大きいしね」
「すぐに下半身に来るのよね」
憮然としたままでの言葉だった。
「胸にはいかないで下半身に。お腹にもね」
「まあまあ。そういうことは言わないで」
ここで憮然とする美佳を慰める友人だった。
「そんなふうにはね」
「わかったわよ。けれど本当に」
「旦那さんの大食いは、なのね」
「どうにかならないのかしら」
困り果てた顔での言葉だった。
「治らないのかしら」
「さあ。無理なんじゃないの?」
友人の今度の言葉はいささか無責任な響きの見られるものだった。
「それはね」
「無理だと思うの?」
「あちらのお父さんもお母さんも別におかしいって思ってないのよね、それは」
「ええ、そうよ」
その通りだと答える美佳だった。
「昔からだそうだし」
「そう。子供の頃からね」
「私も聞いてはいないけれど実家じゃごく普通にそうやって食べてるし」
「ならもうこれはどうしようもないわね」
友人はここまで聞いてはっきりと言い切ったのだった。
「はっきり言うわよ」
「ええ」
「その大食いはなおらないわ」
友人は美佳に対してまたしてもはっきりと言い切ってみせた。
「絶対にね」
「なおらないの」
「子供の頃からでしょ?」
「それは間違いないわ」
「だったら仕方ないわ」
友人はさらに彼女に対して話していく。
「もうね」
「どうしてもなの」
「そうよ。絶対によ」
彼女の言葉は続く。
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