英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第53話
~ノルド高原~
「……ありがとう。本当に、いくら感謝してもしきれないくらいだ。ペルルやフィニリィ、アムドシアスもありがとう。」
馬を走らせているガイウスはリィン達を見回して感謝の言葉を述べた。
「えへへ、気にしないで!ご馳走してもらったんだから恩返しぐらいしないとね!」
「ま、自然を大切にしている者達の平和を守る事も精霊としての義務ですから気にする必要はないですわ。」
「我は一宿一飯の恩を返したまでだ。気にする必要はないぞ。」
リィン達の周囲を飛行して馬を走らせているリィン達について行っているペルルとフィニリィはそれぞれ答え、プリネが乗っていた馬に乗って馬を走らせているアムドシアスは当然と言った様子で答え
「お、大げさねぇ。」
「そうですよ。同じクラスの仲間でしょう?」
「フン……まあ色々とこだわりがあるみたいだな。」
「故郷の危機を食い止めたい……単にそれだけじゃないんだろう?」
アリサ達もそれぞれ答えている中、ある事に気付いたリィンはガイウスに尋ねた。
「……ああ。―――中将の推薦を受けて士官学院に入ったことにも関係していてな。誰もがそうだと思うが……オレは故郷の地を愛している。風鳴る高原を、高き山々を、蒼き穹を。日の出の神々しさを、夕陽の切なさを、全てを許してくれるような綺羅の夜空を。ノルドの地の全てを愛してるんだ。」
「………そっか……」
(……いつか、全ての人間達も彼やこの地に住む民達のように自然を愛してくれる日が来るといいのですけどね……)
「えへへ、その気持ち、ボクもわかるよ!どんな所だって故郷は愛しいもんね!」
「それにこのような歴史ある大自然が故郷なら、誰でも愛郷心があって当然だな。」
「ええ。長い時を生きてきた私だって、これ程の素晴らしい大自然は滅多に見た事がありませんわ。」
ガイウスの説明を聞いたリィンは頷き、リザイラは静かな表情でガイウスを見つめ、プリネの使い魔達もそれぞれ頷き
「わ、私も故郷のルーレには思い入れがあるけど……」
「愛していると言えるのはさすがガイウスさんですね……」
故郷を愛している言い切ったガイウスをアリサとエマは驚いた様子で見つめた。
「しかし……ならばどうしてこのノルドの地を離れたんだ?異国の地にある士官学校……正直、お前のような男が故郷を離れて入学したのが不思議なくらいだが。」
理想の家族とも言えるラカン達と共に生活し、故郷を愛するガイウスの留学を疑問に思ったユーシスは不思議そうな表情でガイウスを見つめて尋ねた。
「フフ、疑問も無理はない。俺自身―――明確な答えが出せているわけでもないからな。だが、オレの幼い頃、共和国軍の基地が東に築かれ……帝国軍が監視塔を建ててからそれは少しずつオレを不安にさせた。……教会の巡回神父からはゼムリア大陸の歴史を色々と教わった。そして、大国同士の争いで消えた民族がいかに多いかに驚かされた。そして”導力革命”と”異世界の登場”――――あらゆる生活と文化に影響し、”時間”と”距離”の概念を大幅に覆してしまったあの発明と、”百日戦役”で大国であるエレボニア帝国に圧倒的な力を見せつけた異世界の”力”……それを知った時、気付いてしまった。オレが愛しているノルドの地が平穏であり続ける保障はない……いずれ”外”の大きな流れに巻き込まれる可能性があり得ると。」
「…………………………」
「……そうだな。それは歴史が証明しているな。」
「ええ…………」
「うん………かつてのボク達―――”闇夜の眷属”でさえ平和に暮らす事は凄く難しかったもの………」
ガイウスの話を聞いたアリサは呆け、アムドシアスとフィニリィは重々しい様子を纏って頷き、ペルルは悲しそうな表情で頷いた。
「……驚いたな。そこまで考えていたのか……」
「それでは、ガイウスさんは……大切な故郷をとりまく”外”を知るために士官学院に来たんですね?」
一方リィンは驚き、エマは静かな表情で尋ねた。
「ああ……きっかけは多分そうなんだろう。あの時のオレは、何か得体の知れない予感に怯え、焦っていたんだと思う。中将と知り合ったのをきっかけに”トールズ士官学院”の事を知って……そこに推薦してもらえると聞いて気付いたら申し出に飛びついていた。……帝国がどういう所なのかほとんど知らなかったというのにな。だから多分、そういう事なんだろう。」
「フン……まったく。どうやら俺達の誰よりも大それた理由で来たようだな?」
ガイウスの留学理由を知ったユーシスは苦笑しながらガイウスを見つめた。
「はは……確かに。故郷を愛し、守る為にいったん外の世界を知るか……」
「……正直、帝国人には出てこない発想でしょうね。でもそっか……そういう事だったのね。」
「アリサさん……?」
複雑そうな表情で考え込んでいるアリサに気付いたエマは心配そうな表情でアリサを見つめた。
「ううん、こちらの話よ。―――でも、そういう事ならなおさら捨てておけないわね。私達を暖かく迎えてくれたこの地に報いるためにも……!」
「そうですね……本当によくしてもらいましたし。」
「ああ、今回の不可解な事件、何としても見極めないと……!」
「帝国にとってこの地は大切な隣人でもある……協力させてもらうぞ、ガイウス。」
「勿論ボクも!プリネの代わりにいっぱい頑張るね!」
「フフ、精霊女王たる私も存分に力を貸してあげますわ!」
「この歴史ある美しき自然を守る為にも芸術を愛する魔神たる我も力を貸してやろうぞ!」
「ああ―――よろしく頼む!」
クラスメイト達やプリネの使い魔達の心強き言葉にガイウスは心から感謝し、力強く頷いた。
その後監視塔で調査を開始したリィン達は監視塔を砲撃した場所がカルバード軍基地方面とは明らかに違う事に気付き、調査の結果を監視塔の責任者に伝え、ゼンダー門への連絡を頼み……そのままエマが割り出した砲撃をしたと思われる地点へ馬を走らせることにした。
「みんな、あれを!」
「何かあったの!?」
高原に馬を走らせていたリィンは何かを見つけて声を上げた後仲間達と共に馬を降りてある場所に向かうと、ザイルがかけられて場所を見つけた。
「あんなところにザイルが……?」
「ワイヤー梯子がまとめられている……人の手によるものには違いないだろう。このあたりに集落の作業場でもあるのか?」
ザイルを見つけたエマは驚き、ユーシスは考え込んだ後ガイウスに尋ねた。
「いいや、聞いたことがない。」
「だとしたら、かなり怪しいわね。この上が、砲弾の発射地点なのかしら……」
ガイウスの答えを聞いたアリサは真剣な表情でザイルを見つめた。
「なんとか調べたいところだけど……流石にあの高さには届かないな。」
「あたりには掴まれるような場所もない、か。さて、どうするべきか……」
ザイルの先に行く方法が見つからないリィンとユーシスは考え込んだその時
「――ならば今こそ、その二人の出番ではないのか?」
アムドシアスが提案した。
「へ……」
アムドシアスの提案を聞いたリィンは呆け
「その二人は飛行できるのだから、その二人にザイルを下ろしてもらえばよいだろう?」
「あ……!」
「飛行できる方に頼めばいいという発想を何故思いつかなかったのでしょう……」
アムドシアスの指摘にアリサは声を上げて苦笑するエマと共にペルルとフィニリィを見つめ
「……常識的に考えて人が空を飛ぶという考え自体に気付かないから、その二人に頼めばいいという事に気付かなくても無理はない。」
ユーシスは静かな表情で呟いた。
「二人とも、頼めるか?」
ガイウスはペルルとフィニリィを見つめ
「うん、まっかせて!フィニリィ、行くよ!」
「ええ。」
ガイウスの頼みに頷いたペルルとフィニリィはザイルの所まで飛行して協力してザイルを下ろし、二人に下ろされたザイルを使って登って先に進むとある物をリィン達は見つけた。
「これは……!」
「あったようだな……!」
設置されてある迫撃砲を見つけたリィン達は迫撃砲にかけより、アリサが調べた。
「導力迫撃砲……思った通り、RFの旧式だわ。それに、間違いない。つい最近使われた形跡がある。」
「こ、こんなところに隠していたなんて……」
「……なるほど、周囲からはちょうど死角になっている。闇に紛れて砲弾を発射し、そのまま放置して逃げた……そんなところか。」
「だが……戦争を回避するにはこれだけは不十分だ。」
「……そうだな。もう少し手がかりが欲しいけど……」
アリサ達がそれぞれ考え込んでいる中、戦争を回避する証拠としては不十分である事に気付いたユーシスとリィンは厳しい表情をした。
「でも調査の大きな進展ではありますし……一旦、報告に戻ったほうがいいかもしれませんね。」
「そうね、一度ゼンダー門に戻ってみましょうか。」
「ああ、そうしよう。」
そしてゼンダー門に報告する為にザイルを降りたリィン達だったが、ある物を見つけた。
「あっ……!?」
「あいつは……!」
リィン達が見つけた物―――銀色の人形兵器は傍にいる少女を腕に乗せて飛行して去って行った。
「あの子は、バリアハートのときにも見かけた……!?」
「ああ……間違いあるまい。」
「このタイミングで現れるなんて……さすがに無関係とは思えない!北西の方角だ―――!追いかけるぞ、みんな!」
「ええ!」
「急いで馬にのれ!」
その後馬に乗ったリィン達は銀色の人形兵器を追跡し始めた。
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