英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第51話
その後依頼を片付け、昼食をご馳走になったリィン達は昼からの依頼の消化をして集落に戻ると集落の人が使っている導力車が故障しており、集落の人々が知る導力技術で作られた物の故障を直せる技術者を呼ぶ為に、技術者がいる湖の近くにある小屋に向かった。
~ノルド高原・ラクリマ湖岬~
「……どうやら中に誰かいるみたいだな。」
小屋の中から人の気配を感じたリィンは呟き
「えっと……例の御老人ですよね?」
小屋の中にいる人物が件の人物かどうかをエマはガイウスに尋ねた。
「ああ、たぶん釣りから戻られたんだろう。」
「フン、なかなか優雅な暮らしをしているじゃないか。」
「大自然に囲まれた隠居生活ですから、きっと充実した1日を日々送っているのでしょうね。」
ガイウスの話を聞いたユーシスは鼻を鳴らし、ユーシスの毒が微妙に混じった言葉に苦笑するプリネは扉を見つめ
「……どうするの?」
アリサはリィン達に判断を仰いだ。
「ごめんください!いらっしゃいますか!」
「おお、開いとるぞ。遠慮なく入ってくるがいい。」
「!」
リィンの言葉に返した老人の声を聞いたアリサは目を見開いて息を呑み
「ア、アリサさん……?」
「どうかされたんですか?」
アリサの様子に気付いたエマとプリネは戸惑いの表情でアリサを見つめた。
「……?えっと、失礼します。」
アリサの様子に首を傾げながらもリィンは仲間達と共に小屋の中に入った。
「あ―――――」
部屋の中でパイプを吸っている老人の姿を見たアリサは呆け
「……ご隠居。ご無沙汰しています。」
ガイウスは老人に会釈をした。
「おお、ガイウス。半年ぶりくらいじゃの。それとアリサ、直接会うのは5年ぶりになるかな?」
「え。」
「も、もしかして……」
アリサに微笑む老人の様子にリィンは呆け、ある事に気付いたエマは驚きの表情でアリサを見つめ
「お、お、お……お祖父様っ、どうしてこんな所にいらっしゃるんですかっ!?」
アリサは口をパクパクさせた後信じられない表情で声を上げた。その後リィン達は席に座って改めて老人の話を聞き始めた。
「フフ……まあ見当はついておるじゃろうがあらためて自己紹介と行こうか。グエン・ラインフォルト。そちらのアリサの祖父にあたる。よろしく頼むぞい。トールズ士官学院・Ⅶ組の諸君。」
「こ、こちらこそ。リィン・シュバルツァーです。」
「初めまして……エマ・ミルスティンです。」
「お初にお目にかかる。ユーシス・アルバレアだ。」
「プリネ・カリン・マーシルンと申します。よろしくお願いします。」
老人――――アリサの祖父であるグエンが名乗るとリィン達はそれぞれ自己紹介をした。
「ふむ、なかなか見所のありそうな面々じゃな。いや、しかし5年も経つと見違えるほど成長したの~。背はもちろんじゃが、出てるところも立派に出て。うむうむ、本当にジジイ冥利につきるわい♪」
アリサの身体をよく見て感心したグエンの言葉を聞いたリィン達は冷や汗をかき
「お、お祖父様!本当に……!今までどうしてたんですか!?す、全て放り出してルーレからいなくなって……!どれだけ私が心配したと思ってるんですかっ!?」
アリサは呆れた後グエンを睨んで声を上げた。
「一応、季節ごとには便りを出しておったじゃろう?お前がシャロンちゃんに届けた手紙もいつもちゃあんと読んでおるしな。」
「だ、だからと言って……!……5年も前からここでずっと暮らしてたんですか?」
「うむ、もっとも1年中、暮らしておるわけではないが。1年の半分くらいは、帝国に戻ったり、大陸各地の知り合いの所に遊びに行っておる。」
「そう……だったんですか。」
今まで知らなかった祖父の5年間の行動を知ったアリサは複雑そうな表情で頷いた。
「その、グエンさん。どうやら俺達の実習についても詳しくご存知だったみたいですね?」
「そ、そう言えば……」
「まるで俺達が来るのを待っていたような様子だったな。」
「もしかして”特別実習”の依頼を出したのですか?」
リィンの疑問を聞いたエマはグエンが自分達の事を知っているように言った事を思い出し、ユーシスは呆れた表情で苦笑するプリネと共に尋ねた。
「ふふ、集落の運搬車が壊れたというのは偶然じゃが。実習の期間中、お前さんたちが訪ねてくるだろうとは思っていた。イリーナの連絡にもあったしな。」
「!?か、母様と今でもやり取りをしてるんですか!?」
グレンの説明を聞いたアリサは信じられない表情で尋ねた。
「まあ、必要最低限じゃが。我が娘ながら、仕事が楽しくて仕方ないようだからの~。やれやれ、どこでどう育ったらあんな仕事中毒になるのやら。」
「……………………」
呆れた表情で母親(イリーナ会長)の事を語るグエンをアリサは複雑そうな表情で見つめ
「アリサさん……?」
「……………………」
アリサの様子に気付いたエマは首を傾げ、リィンはジッと見つめていた。
「さて、コーヒーも飲み終えたしとっとと修理に向かうとするか。ガレージで工具を取ってくるから少し待っておるがいい。そうじゃガイウス。大岩魚が何匹か釣れたから持って行ってくれんか?」
「ええ、ありがたく。」
そしてグエンとガイウスは小屋を出て行き、その様子をリィン達は見守っていた。
「………RFグループ先代社長、グエン・ラインフォルトか。名前だけは知っていたがずいぶん軽妙な老人だな。」
「そ、そうですね……飄々とされているというか。」
「えっと……親しみ安い方でしたね。」
「……ふう、いいわよ。別に気を遣わなくっても。趣味人で、飄々としててみんなから愛されているけど気まぐれでいいかげんで……5年前だって……」
ユーシスやエマ、プリネの気を遣っている言葉を聞いたアリサは溜息を吐いた後複雑そうな表情でかつての出来事を思い出し
「アリサ……?」
その様子をリィンは不思議そうな表情で見つめた。
「ううん、何でもない。―――私達も行きましょ。すぐに集落に戻るでしょうし。」
「ああ、そうだな。」
その後リィン達はグエンと共に集落に戻る事になり、グエンの希望によってグエンはリィンの後ろに乗せてもらい、リィン達は馬で集落まで戻り始めた。
~ノルド高原・夕方~
「……まったく……どうしてリィンなのよ……ま、まさか変なこと吹き込まれてないでしょうね?」
馬を走らせているアリサは時折リィンの背後に乗るグエンを見た後ブツブツ呟き
「ふふっ、まあまあ。そ、それよりちゃんと手綱に集中してくださいね……?」
その様子を苦笑しながら見ていたエマはアリサに忠告した。
「そうそう、そう言えばシャロンちゃんは元気かね?お前さんたちの寮で働き始めたと聞いたが。」
一方グエンはリィンに呑気な様子で尋ねた。
「ええ、俺も知り合ってまだ日は浅いですけど……すごく有能な人みたいですね。」
「有能というのは勿論じゃが、それ以上に可愛いじゃろ~?慎ましくて可憐で、それでいて悪戯っぽい立ち振る舞い……く~っ、ワシの専属メイドとしてこちらに来てほしいくらいじゃ!」
「は、はあ……」
グエンに同意を求められて答えに困ったリィンは戸惑いの表情で頷いた。
「ふむ、しかしあのエマちゃんも超ないすばでーで眼鏡っ子じゃし、とてもええの~。しかも成績優秀な委員長とはまあに死角ナシじゃな!それにあの”闇の聖女”の娘さんであるプリネちゃんも、とても子持ちとは思えんほど綺麗なお母さんに似て美人じゃし出てる所は出ているし、しかも家事も完璧と聞く。まさに女性としてパーフェクトじゃ!お前さんもそう思うじゃろ!?」
(うふふ、よくわかっているじゃない♪)
(ふふふ、さて……ご主人様は一体誰を選ぶのでしょうね?)
(あら♪そんなの勿論、ハーレムに決まっているじゃない♪)
(ふふ、結婚する際に揉めないとよいのですが。……まあ、私としては自然と共に生きる事を決意する人間の意思を継ぎし者達が増えるのは歓迎しますが一体何人になるのやら……)
「いや、確かにそう思わなくもないですけど…………………………」
答え難い質問を次々とするグエンの言葉を聞いたベルフェゴールとリザイラはそれぞれ口元に笑みを浮かべて互いにリィンの将来の伴侶について念話で語り合い、リィンはグエンの問いかけに戸惑ったが少しの間考えてグエンにあってからずっと疑問に思っていた事を尋ねた。
「―――あの、グエンさん。どうして今までアリサに所在を教えなかったんですか?」
「ふむ……なあ、リィン君。お前さんから見たアリサはどんな子だと思う?」
「それは…………頑張り屋だと思います。その、色々な意味で。」
グエンに問いかけられたリィンは今までのアリサの事を思い出して答えた。
「ああ、そうじゃな。見ての通り器量良しじゃし、貴族の子女にも負けぬ振る舞いや教養を身につけておるじゃろ?無理をしているわけではなくて。」
「そうですね……正直、凄いと思います。……ですが…………」
「人に頼らず何でも一人で解決しようとする……そんなところがあるじゃろ?」
「ええ……そんな風には感じていました。義理堅くて、人には親切で。でも、自分の事は人に頼らず全て一人で抱え込もうとする……」
アリサの今までの言動を思い出したリィンは真剣な表情で考え込みながら答えた。
「多分、あの子のそんな性分はワシと娘の仲が原因なんじゃろう。すなわち祖父と母親の対立が。」
「……!」
「ワシが所在を告げなかったのもそのあたりが原因でな……だがまあ、これ以上ワシの口から言うわけにはいかん。お前さんが孫娘とイイ仲になれば自然と教えてくれるじゃろ。」
「いい仲って……何か誤解していませんか?」
グエンの言葉を聞いたリィンは冷や汗をかいて答えた。
「おや、違うのかの?手紙でお前さんの名前を見たからてっきり何かあったかと思ったが。」
(あら♪)
(ふふふ、さすが家族は聡いですね。)
目を丸くして言ったグエンの言葉を聞いたベルフェゴールは興味ありげな表情をし、リザイラは静かな笑みを浮かべ
「いや、その……不幸な偶然はありましたけど。単なるアクシデントですし仲直りしてからは何も……」
リィンは戸惑いの表情で答えた。
「ほう、アクシデントか。登校途中にパンを咥えたあの子と曲がり角でぶつかりでもしたかの?それで偶然、ムフフでラッキーな体勢になったりしたとか!」
「な、何でそんなに意味不明に具体的なんですか。それにラッキーな体勢って――――!………………」
グエンの問いかけにリィンは戸惑った後地下校舎での出来事を思い出して黙り込み
「おおっ!?本当に何かあったのか!?それは詳しく、えぐり込むように聞かせてもらおうじゃあないか!?」
リィンの様子を見たグエンは興味ありげな表情でリィンに問いかけた。
「フフ、私でよければ話してあげるわよ♪」
「ふふふ、お孫さんとご主人様の仲は他の男性と比べると随分仲がいいのは本当ですよ?二人で共にこの私を破ったのですから。」
するとその時馬を走らせているリィンの両脇にベルフェゴールとリザイラが現れてそれぞれ飛行しながらリィンとグエンが乗る馬と並び
「なっ!?ベルフェゴール!?リザイラ!?」
「おおっ!?随分とベッピンでないすばでーなお嬢さん達じゃないか……!その年でこれ程の素晴らしいお嬢さんを二人も侍らすとはやるではないか!アリサの事も含め、詳しく聞かせてもらおうじゃあないか!?」
突如現れた二人にリィンは驚き、グエンは興味ありげな表情で二人を見つめた後リィンに問いかけ
「もう、お祖父様っ!ベルフェゴールとリザイラも!それ以上何か余計な事を言ったら許さないわよっ!?」
(?どうしてアリサは怒っているんだろう??)
その様子に気付いたアリサが馬のスピードを抑えてリィン達と並んで3人を睨んで怒鳴り、アリサの様子をミルモは首を傾げて見つめていた。
「んー、あれって……シカンガクインの人達だ。何でこんな所にいるんだろう?」
一方オーロックス砦に侵入した水色の髪の少女が遠くからリィン達の姿を確認して首を傾げ
「ま、いっか。何だか色々と面白くなりそうだし♪」
「―――――」
すぐに気を取り直して片手を天へと掲げた。すると少女の背後に銀色の人形兵器が現れ
「うん、それじゃあ任務、開始しちゃおっかな♪まったくオジサンたちも要求レベルが高すぎるよねー。」
「――――――」
少女は人形兵器の片腕に乗ってどこかへ飛び去った。
リィン達と共に集落に到着したグエンは故障した運搬車を修理し、その後―――リィン達やグエン、依頼によって保護したカメラマンを歓迎する宴会が長老宅で開かれた。
~夜・ノルドの集落~
「いや~、グエン殿には本当にお世話になりっぱなしだわい。それでは、まず一献。」
「おっとっと。それじゃあ返杯を、と。ほれほれラカン殿もガンガン行くがいいじゃろ。勿論、精霊や異種族のお嬢さん達も歓迎されているんじゃから、ガンガン飲むといいじゃろ。」
長老と酒を酌み交わしたグエンはラカンや大人たちと共に座っているフィニリィ、リザイラ、ベルフェゴール、アムドシアス、ペルル、ミルモに視線を向け
「ええ、遠慮なく。」
「うむ!歓迎してくれた礼に後で我の演奏を聞かせてやろう!」
グエンの言葉にラカンとアムドシアスは頷き
「うふふ、まさか貴女とお酒を酌み交わす時が来るとは思いませんでしたわ、リザイラ。」
「ふふふ、それはこちらの台詞ですよ、フィニリィ。精霊を統べる者達がこうして酒を酌み交わす等、もしかしたら初めてかもしれませんね。」
フィニリィとリザイラは微笑みながら互いの酒を酌み交わし
「フィニリィ様とリザイラ様はよくお酒なんて飲めるよね?果物の方が甘くて美味しいのに。」
二人の様子を見ていたミルモは首を傾げ
「それにしても気付けば凄いメンツが集まったものねぇ。魔神が二柱に精霊の王族が二人もいるなんて。」
「アハハ……ボクとミルモだけ何だか場違いな気がしてきたよ……」
ベルフェゴールとペルルはそれぞれ苦笑しながら周囲を見回した。
「いや~、何というか驚いたね。あのグエン・ラインフォルトがこんな場所で暮らしてたなんて。」
一方その様子をリィン達と同じテーブルでご馳走を食べていたカメラマンのノートンは目を丸くしてグエンを見つめた。
「やっぱりその筋では有名な人なんですよね?」
「そりゃあ、導力革命を受けてラインフォルトをあそこまで巨大なグループにした立役者だからね。娘さんが会長を継いでからはさらに巨大になったけど。」
「ラインフォルトと言えば昔は火薬を使った銃や大砲を手がける武器工房というイメージだったが……いつの間にか、鉄道や導力兵器を大々的に手がけていたような印象だな。」
リィンの疑問に答えたノートンの説明を聞いたユーシスは自分が感じていた事を口にした。
「ああ、貴族の人にとったらそんな感覚かもしれないですね。実際、ラインフォルトは帝国だけじゃなく大陸諸国でも手広く販路を拡大している上異世界にも進出しようとしている噂もあるぐらいだし……その意味では、帝国では珍しい”国際人”ともいえるかもしれない。」
「なるほど………」
「物知りとは思ったが、そこまでの人物だったとは……」
グエンの過去を知ったガイウスは驚いた様子で話を聞いていた。
「しかし、その彼がどうして会長を辞めたのかは謎なんだよな。一説には病気と言われてたけど見た感じ全然元気そうだし。こりゃあ、あの噂の方が正しかったのかもしれないな。」
「あの噂?」
「なんだそれは?」
ノートンが呟いた言葉が気になったリィンとユーシスは不思議そうな表情で尋ね
「おっと、何でもない。ゴシップみたいなものさ。俺はブン屋じゃないからね。不確かな噂は控えておくよ。」
尋ねられたノートンは答えを誤魔化した。
「アリサさん?」
「ボーっとしているようですけど、どこか具合が悪いのですか?」
一方大人の女性達と共に色々な事を話していたエマとプリネはアリサが呆けている事に気付いて尋ね
「ん……料理が美味しすぎて食べ過ぎちゃったみたい。少し苦しくなってきたから風に当たってくるわ。」
「そうですか…………」
「………………」
アリサの答えを聞いてそれぞれ納得いかない様子でアリサが住居を出て行く様子を見守り
(アリサ……?)
リィンは首を傾げて見つめていた。そこにエマとプリネが近づいて来てリィンに小声で話しかけてきた。
(その、何だかちょっと風に当たりたいって……リィンさん、できればついてあげてくれませんか?)
(もしかしたら何か悩みがあるかもしれませんし……誰かが聞いてあげた方がいいと思います。)
(それは構わないが……って、どうして委員長やプリネさんじゃなくて俺なんだ?)
エマとプリネに促されたリィンは戸惑いの表情で尋ねた。
(そこはほら、適材適所というやつですよ。)
(ええ、そうですね。)
(意味がわからん……けどまあ、行ってくるよ。)
そしてリィンもアリサの後を追うかのように住居を出た。
「…………ふう………………バカみたい……一人で空回っちゃって…………」
外に出たアリサは溜息を吐いた後複雑そうな表情でかつての幼い頃を思い出した。
~数年前~
「ほーら、アリサ。すっごい風景じゃろう!」
「うん、すっごいね!」
老人の言葉に幼いアリサは嬉しそうな表情で頷き
「ほらほら、二人とも。予定が押してるんだからさっさと行くわよ。」
「まあまあ、いいじゃないか。滅多にない休暇だ。君も少しは羽根を伸ばすといい。」
二人を急かそうとする女性を眼鏡の男性は苦笑しながら諌めていた。
~現代~
「…………………………」
「……アリサ?」
かつての幼い頃を目を閉じて思い出していたアリサにリィンが近づいてきた。
「リィン…………ど、どうしたの?あなたも食べ過ぎたとか?」
「ああ、結構頂いたかな。でも大丈夫か?フラついてるみたいだけど。」
「べ、別にちょっとぼうっとしてるだけで……少し風に当たればどうってこと―――きゃっ。」
アリサが突如倒れかけるとリィンがアリサに近づいてアリサを支えた。
「ご、ごめんなさい。」
「ほら、言わんこっちゃない。無理もない。今日は一日中、馬に乗ってたし、しかもリザイラとの激しい戦闘を繰り広げたからな。かなり体力を消耗したんだろう。」
「そっか……そうよね……そんなことも自分で気付かなかったんだ……」
リィンの指摘に頷いたアリサは疲れた表情で顔を俯かせて黙り込んでいた。
「……アリサ。空を見上げてみなよ。」
その時ふと空を見上げたリィンは呟き
「え…………」
リィンの言葉を聞いたアリサが空を見上げると夜空は雲一つない満天の星空だった。
「あ――――……………………」
「はは……昨日は早く寝ちゃったから気付かなかったんだな。でも……風に当たるなら、俯いているより見上げた方がいいんじゃないか?」
「…………………………ええ、まったくだわ。」
そして二人が草原に寝転んで満天の星空を見つめているとやがてアリサが口を開いた。
「―――――8年前だったわ。技術者だった父が亡くなったのは。それをきっかけに、私の家は大きく変わってしまった。当時、取締役だった母は事業拡大に没頭するようになって……”家族”を殆んど顧みなくなったわ。」
「そうだったのか……………確かに、随分やり手というか凄腕といった女性だったけど。」
「実際は、ルーレ駅で会った印象の数倍くらいは強烈でしょうね。一緒に食事できる機会すら3ヵ月に1度あるかどうか………代わりに一緒にいてくれたのがお祖父様と、シャロンだったの。」
「そうか……シャロンさんとの付き合いも結構長いんだよな?」
シャロンとアリサの親しげなやり取りを思い出したリィンはアリサに尋ねた。
「ラインフォルト家に来てから7年くらいになるわね。………家が家だから、子供時代、本当の意味での友達は少なかった。貴族の子からは疎まれ、平民の子からは特別扱いされ……でも、二人がいてくれたから少なくとも寂しくなかったわ。お祖父様は、乗馬やバイオリンなど色々な趣味の手ほどきをしてくれたし……シャロンから護身術や弓の扱い、貴族の子女並みの礼儀作法を教わった。………いっぽう母は………会長である祖父の意向を無視して際限なくグループを拡大していった。」
「そうだったのか………でも、元々かなり大きな技術工房ではあったんだろう?」
「ええ、鉄鋼や鉄道から戦車や銃のような兵器まで………”死の商人”と揶揄されるだけのモノ作りはしてきたと言えるわね。そのこと自体、複雑ではあるけど”恥”と思ったことは一度もないわ。でも――――ここ数年、ウチが作ってきたものを考えると、さすがに行き過ぎとしか思えない。」
「ここ数年作ってきたもの……?」
複雑そうな表情で話をしたアリサの話を聞いたリィンは首を傾げた。
「聞いたことくらいあるでしょう?帝国東部、ガレリア要塞に2門設置されている”列車砲”のことは。」
「ああ……噂くらいは。何でも、世界最大の長距離導力砲なんだってな。」
「私もスペックしか知らないけど恐ろしいほどの破壊力よ。共和国とメンフィル帝国と領有権争いをしていた”クロスベル自治州”の全域をカバー。たった2時間で、人口50万ものクロスベル市を壊滅できるらしいわ。」
「………とんでもないな。戦争というより、虐殺にしか結びつかないと思うんだが……」
アリサの話を聞いたリィンは溜息を吐いた後複雑そうな表情をした。
「ええ、私もそう思う。そして……母が受注したその兵器の完成に立ち会った祖父も同じだった。何というバチ当たりな兵器を造ったんだろうって悩んだみたい。そして、帝国軍に2門の列車砲を引き渡すか迷っていたところで……取締役だった母の裏切りに遭った。」
「え―――――」
「ラインフォルトグループの大株主全員を味方につけたのよ。ルーレの領主であるログナー侯爵から帝国軍の有力人物まで……貴族派・革新派双方の意を受けてお祖父様は退陣を余儀なくされ……母の新会長への就任が決定した。」
「…………………」
悲しそうな表情で答えたアリサに言葉がかけられないリィンは黙り込んだ。
「お祖父様は……私を残してラインフォルトを去った。味方だと思ってたシャロンも雇い主である母に従うだけだった。それが――――5年前の出来事よ。」
「そうか…………………アリサは……納得が行かなかったんだな?お母さんのした事というより”家族”が壊れてしまったことが。」
アリサの過去を聞き終えたリィンは考え込んだ後、アリサが士官学院に来た理由に気付いてアリサに視線を向けた。
「ええ………そうね。実の親を陥れた母様も、それをただ受け入れたお祖父様も私は納得が行かなかった……あれだけ優しかったシャロンが何も言ってくれなかったことも。ラインフォルトグループの存在が私が思っているより遥かに巨大で………その重みの前には、家族の絆なんて意味がないなんて絶対に認めたくなかった。だから私は――――実家を出て士官学院に入ったのかもしれない。」
「…………………」
アリサの説明を聞いたリィンはアリサを見つめて黙り込んだ。
「ふふっ、でも結局全然、母と家から逃げられなくて。お祖父様はお祖父様で飄々と第二の人生を楽しんでて。私一体何をやっているんだろうって一時期滅入ってた所だったけど……………―――この星空を見上げたらどうでも良くなっちゃったわ。やっとわかった気がする。どうしてお祖父様がこの地に移り住んだのかを。」
「そっか……―――やっぱりアリサは強いな。こうして俺に色々と話してくれたってことは………多分、前に進めるきっかけが掴めたってことだろう?」
静かな笑みを浮かべて星空を掴むかのように片手を上げたアリサに続くようにリィンも片手を上げた。
「ふふっ……そうね。だとしたら、それはきっと士官学院に入ったからだと思う。Ⅶ組のみんなに、部活のみんな……本音で向き合える仲間と出会えたから私は強くなれた。だから――――ありがとう。心配してくれて……空を見上げろって言ってくれて。」
自分を心配してくれたリィンに様々な思いを持つアリサは頬を赤らめて微笑みながら見つめた。
「はは……どういたしまして。白状すると、追って来たのは委員長とプリネさんに促されたからでさ……そのあたりは申し訳ない。」
「ふふっ、だろうと思った。まあいいわ、そのあたりは今後の課題ということで。」
リィンが自分を追って来た理由が予想通りな事に苦笑したアリサは口元に笑みを浮かべてリィンを見つめ、二人はそれぞれ起き上がった。
「そういえば、私を強いって言ってくれたけど……貴方だって色々と頑張ってるじゃない?実習ではリーダーとしても引っ張っていってくれてるし。それにプリネの護衛もしているじゃない。」
「はは、自由行動日に似たような事をしてるからな。護衛の件だって、プリネさん自身が強いから守る時が見つからない上、肝心な所はレオン教官が守っているしな。―――でも、まだまださ。”自分”から逃げてるようじゃ。」
「え…………」
静かな表情で語ったリィンの言葉に訳がわからないアリサは呆けた。
「前に”自分を見つける”なんて格好つけた言葉を言ったけど……本当は、ただ逃げてるだけじゃないかって不安に駆られる時がある。家族からも――――自分自身からも。」
「…………………その、ご家族とあまり上手く行ってないの?」
「いや、血は繋がっていなくても両親とも俺を慈しんでくれている。エリゼの双子の妹のエリスとは最近すれ違いが多いけどまあ、仲は悪くはないと思う。全部……俺自身の問題なんだ。」
「リィン……………………」
重々しい様子を纏って答えたリィンの話を聞いたアリサは心配そうな表情で見つめた後考え込み、やがて口を開いた。
「―――でも、そういう風に言えるってことは……多分、前に進めるきっかけが掴めたってことでしょう?」
「!」
アリサの指摘に驚いたリィンは目を見開いた。
「ふふっ、もらった言葉をそっくりそのままお返しするわ。いつも、どれだけ恥ずかしい言葉を臆面もなく言ってるか…………少しは自覚するといいんじゃない?」
「はは……―――参った、一本取られたよ。そうだな、俺も少しずつ前に進んで行けるんだよな。学院に入って、Ⅶ組のみんなや同級生や先輩達と出会えて……―――こんな風にみんなと同じ時間を共に過ごすことで。」
ジト目のアリサに見つめられたリィンは苦笑した後今までの出来事を静かな笑みを浮かべて思い出してアリサを見つめた。
「ええ、きっとそうよ。この特別実習だってきっと私達の糧になるわ。だから―――――」
リィンの言葉に頷いたアリサだったが何かに気付いた。
「こんな風に”みんな”と…………?」
そしてある言葉が気になったアリサが首を傾げたその時
「あー、コホン。」
ユーシスが咳払いをする声が聞こえ、声を聞いたアリサが驚いて振り向くといつの間にかⅦ組のメンバーが二人を見つめていた。
「あ、あはは……なかなか戻ってこないので様子を見に来たんですけど……」
「フフ、どうやら私達はお邪魔だったようですね。」
エマは苦笑し、プリネは微笑み
「……………………」
ガイウスは静かな笑みを浮かべて頷いた。
「!!!あ、あ、あなた達!いったい何時からいたの!?」
「『―――でも、そういう風に言えるっていうことは……多分、前に進めるきっかけが掴めたってことでしょう?』」
口をパクパクするアリサの問いかけにユーシスはからかいの表情でアリサが口にした言葉を繰り返し
「や、やめてええっ!!あれはリィンの恥ずかしい台詞をそのまんま返しただけで……っ!」
アリサは顔を真っ赤にして悲鳴を上げて言い訳をし始めた。
「ふふっ……そんなに恥ずかしがらなくても。思わずジンと来ちゃいました。」
「ああ……悪いとは思ったが、良い場面に立ち会わせてもらった。」
「クスクス、滅多に見られない場面を見せてくれてありがとうございます。」
「ああもう、なんで私が一番、恥ずかしい人になってるの!?ええい、こうなったらあなた達も加わりなさいっ!恥ずかしい青春トークを一緒にぶちまけてもらうわよ!」
クラスメイト達に微笑ましそうに見つめられたアリサは顔を真っ赤にして首を横に振った後エマ達を睨んだ。
「ええっ!ま、待ってください!」
「ふんっ……お断りだ!」
「フフ、さすがに私も遠慮しておきますね。」
アリサの言葉にエマは慌て、ユーシスは口元に笑みを浮かべて首を横に振り、プリネは微笑みながらやんわりと断った。
「そうは行かないわよ!まずはプリネ!レオン教官との出会いやどういう経緯で恋人同士になったのか、洗いざらい話してもらうわよ!」
「ええっ!?そ、それはさすがに勘弁してほしいのですが…………」
アリサに矛先を向けられたプリネは驚いた後冷や汗をかいて苦笑し
「フッ、その件に関しては俺達も是非聞きたいな。」
「フフ、そうですね。もしかしたらサーガになるような内容かもしれませんね。」
「ユーシスさん!?エマさん!?」
味方と思っていたはずの二人があっさりアリサの意見に同意した事に驚いた。
「……お疲れだったな。」
一方その様子を微笑ましそうに見つめていたガイウスはリィンを労った。
「いや、こちらの方が力づけてもらったくらいさ。―――なあ、ガイウス。」
「なんだ?」
「本当に―――いい所だな。」
「ああ……そうだろう?」
そしてリィンとガイウスは夜空を見上げた。
~深夜~
一日の疲れを取るかのようにベッドでぐっすり眠っていたアリサだったが、どこかの遊園地らしき場所でリィンとデートし、観覧車で互いを抱きしめて自分からリィンに口付けする瞬間で目を覚ました。
「!!!(な、何なの今の夢……!?)」
目を覚ましたアリサは顔を真っ赤にして飛び起きて、ドクンドクンと鼓動する胸を片手で抑えた。
(私……もしかしてリィンの事………………)
リィンへの恋心に気付いてしまったアリサは湯気が出る程の真っ赤な顔でリィンとユーシスが眠っている場所を見つめた後、からかいながらもリィンに親しげな態度で接しているベルフェゴールとリザイラの存在をすぐに思い出した。
(リィンは二人の事……どう思っているのかしら……?二人とも悔しいけど凄い美人でスタイルもいいし、性格だってそんなに悪くないし…………それにもしかしたらエリゼさんも……………………)
自分が恋焦がれる相手の恋敵があまりにも強力な相手ばかりである事に気付いたアリサは不安そうな表情をしたが
(……だからと言って、諦めないんだから!そ、それにいざとなったら重婚って手もあるし……!)
すぐに決意の表情になって、ベッドから出てリィンが眠っているベッドに移動して眠っているリィンを見つめた。
「…………………………」
(あら?)
(こんな夜更けに何をしに来たのでしょう?)
リィンを見つめているアリサの気配に気付いて目覚めたベルフェゴールとリザイラは不思議そうな表情でアリサを見つめたその時
「ありがとう、リィン…………ん…………」
なんとアリサは眠っているリィンの唇に口付けをし
「~~~~~っ~~~~~!!!?(わ、私ったら何て事を…………!)」
すぐに我に返って湯気を出す程顔を真っ赤にした後慌ててリィンから離れて自分のベッドに飛び込むように入って布団を被り
(うふふ、どうやらついにご主人様への思いを自覚したようね♪これから面白くなりそうだわ♪)
(フフ、ご主人様への思いを自覚した途端、私達の存在に焦ってあのような事をしてきたのかもしれませんね。)
アリサが去るとベルフェゴールはからかいの表情になり、リザイラは静かな笑みを浮かべ
「~~~~~っ~~~~~」
(むにゃむにゃ…………葡萄が一杯だ~♪)
顔を真っ赤にしたアリサの様子に気付いていないミルモは呑気に好物に囲まれた夢を幸せそうに見ていた。
6月28日、02:55――――
~監視塔~
「02:55……あとちょっとで交替か。共和国の動きは今夜も無しと……まったく、本当にこんなことやる必要があるのかねぇ。」
ノルド高原に建造されてある監視塔でカルバード軍が建造した基地を見張っていた兵士はぼやいていた。
「やれやれ、見張りの任務を何だと思っている。」
その時交替の兵士が近づいてきた。
「おっと、早いじゃねえか。いやあ、ボヤきたくなる気持ちもわかるだろ?クロスベル方面ならともかくこんな僻地で戦争なんて起きるはずがねぇんだし。」
「決めつけるんじゃない。中将閣下も警戒は緩めるなと仰っていたし気を抜くべきじゃないだろう。」
「ゼクス中将ねぇ……凄い人なのはわかるけどよ。有名な第三機甲師団もこんな辺境じゃ形ナシだよな。やっぱり鉄血宰相への協力を拒んだから飛ばされたのかねぇ。」
「こ、こら、滅多なことを言うな。あらぬ噂が立ったらどうする?」
兵士が呟いた言葉を聞いた交替の兵士は慌てた様子で指摘した。
「へいへい、真面目だねぇ。ま、とっとと交替して俺は寝させてもらうぜ。数分くらいオマケでもいいだろ?」
「まったく…………」
同僚のいい加減さに交替の兵士が呆れたその時、何かが爆破する音が聞こえてきた。
「なんだ今のは……!!!」
「あ、あれは……!?」
音に気付いた兵士達が音が聞こえた方向を見つめるとカルバード軍の基地の一部が炎上していた!
「な、なんだありゃ!?砲撃でも受けてんのか!?どこかの師団が動いてるってことかよ!?」
「馬鹿な!そんな話は聞いてない!クッ……とにかくゼンダー門に連絡を―――」
そして兵士達が行動に移ろうとしたとき、何かが飛んで来る音が聞こえてきた。
「な、なんだ……」
「まさか――――」
するとカルバード軍の基地がある方向とは別の方向から飛んできた砲弾が監視塔に命中した!
「う、うわあああああっ!?」
「て、敵襲!?一体どこから――――」
突然の奇襲に兵士達は驚いて砲弾が来た方向を探して周囲を見回すと、再び何かが飛んで来る音が聞こえ、音が聞こえた方向を見つめた。
「あ…………」
「女神よ――――」
すると砲弾が次々と監視塔に命中し、監視塔は炎上し始めた!
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