英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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第47話
~貨物列車内~
「……だ、だまされた……せっかく家を出たと思ったのに掌の上だったなんて……」
「えっと、その……」
「元気を出してください、アリサさん。」
肩を落として疲れた表情になったアリサをエマとプリネは心配そうな表情で見つめ
「どうやらお母さんとは上手く行ってないみたいだな?」
ルーレ駅でのアリサとイリーナ会長のやり取りを思い出したリィンは尋ねた。
「ええ……見ての通りよ。……何というか、昔から折り合いが悪くてね……士官学校に入ったのも実家を出たからなんだけど……―――まさかあの人が理事をしている学院だったなんてっ!ああもう、バカバカッ!なんでもっとちゃんと調べなかったのよ~っ!?」
「その、何というか……」
「ご愁傷様と言うしかありませんね……」
「えっと……すみません。常任理事の一人がアリサさんのお母さんである事をもっと早く言っておけばよかったかもしれませんね。」
自分を責めているアリサをリィンとエマは心配そうな表情で見つめ、プリネは申し訳なさそうな表情で見つめた。
「ふむ……そこまで嫌がることか?」
一方アリサの様子が気になったガイウスは不思議そうな表情で尋ねた。
「その……色々あるのよ。昔から、仕事人間のくせに私には変に干渉してきて……口では好きにしろとか言いつつ、今回みたいに手を回してきて……はあ……変だと思ったのよ。お祖父様から頂いた学費口座が入学以来、減ってないんだもん……」
ガイウスの質問に答えた後溜息を吐いたアリサの話を聞いたリィン達はアリサの迂闊さに冷や汗をかいて呆れた。
「という事は、お母さんが払ったということか……」
「理事をしてらっしゃるならその程度の融通は利きそうですね。」
「フン―――いいじゃないか。その程度の干渉くらい、ありがたく思うべきだろう。」
「なっ……!?」
ユーシスの指摘を聞いたアリサは信じられない表情でユーシスを見つめた。
「あの場に現れて、俺達に挨拶しただけまだマシというものだ。―――完全な無視よりもな。」
「あ……」
「……ユーシス。」
「ユーシスさん……」
ユーシスとアルバレア公爵の親子関係を思い出したアリサやリィン、エマは心配そうな表情でユーシスを見つめ
「……フン。つまらん事を言ったようだ。
リィン達に見つめられたユーシスは鼻を鳴らして何でもない風に装った。その後シャロンからもらった昼食を食べ終えたリィン達は列車の乗組員と会話をしていた。
「――へえ、士官学校の実習なんかで高原に行くのか。軍人のタマゴってのも色々と大変なんだなぁ。」
「はは……まあ、それなりには。」
「普通の士官学校としてはかなり異例だと思いますが……」
「確かにそうですね。異例なのは私達――”Ⅶ組”と言うべきでしょうし……」
乗組員に感心されたリィンやエマ、プリネはそれぞれ苦笑していた。
「しかし、あの時のお前さんがそんな制服を着ているなんてなぁ。馬子にも衣裳っていうか、なかなかカッコイイじゃないか。」
「そうか……ありがとう。」
乗組員の賛辞の言葉にガイウスは静かに頷いた。
「ガイウスは背が高いから士官学院でも目立つよな。」
「そうね、2年の先輩を含めてもかなりの高さじゃないかしら。」
「ノルドの民というのは皆、お前のように背が高いのか?」
「いや、オレより背が高いのはオレの父くらいだろう。弟は小柄の方だが……これから伸びるかもしれない。」
ユーシスの質問に答えたガイウスは故郷にいる兄弟たちの顔を思い出した。
「ガイウスさんってたしか兄弟が多いんですよね?」
「弟一人に、妹が二人いる。人見知りするかもしれんがよろしくやってくれ。」
「ふふ、わかったわ。」
「しかし段々、ノルド高原に近づいてきた気分になってきたな。」
「フッ、確かにな。」
「一体どんな所なんでしょうね?」
「は~、何だか羨ましいねぇ。―――今、ちょうどアイゼンガルド連峰の半分くらいまで来ている。ゼンダー門まで2時間くらいだからもう少しのんびりしててくれ。」
「ええ、わかりました。」
「よろしくお願いする。」
そして乗組員はその場から去って行った。
「春に士官学院に来るときに知り合ったのか?」
乗組員が去ると乗組員がガイウスを知っていた事を思い出したリィンはガイウスに尋ねた。
「ああ、その時も同じ貨物列車でな……帝国の習慣についても色々と教えてもらった。」
「ふふ、なるほど。」
「それは助かったでしょうね。」
「ああ、オレを士官学院に推薦してくれた恩人も含めて色々な人に世話になっている。これも風と女神の導きだろう。」
「風と女神か……」
「はは、ガイウスらしいな……」
(フフ、その女神の子孫がいると知ったら、どういう反応をするでしょうね。)
その後列車はようやくリィン達の目的地である”ゼンダー門”に到着した。
16:30―――
~ゼンダー門~
「おお、やっと到着したか。」
リィン達が改札を出ると隻眼のエレボニア将校がリィン達に近づいてきた。
「あら、貴方は確か……」
「中将……ご無沙汰しています。」
エレボニア将校に気付いたプリネは目を丸くし、ガイウスは軽く会釈をして挨拶をした。
「うむ、数ヵ月ぶりになるか。士官学校の制服もなかなか新鮮ではあるな。”トールズ士官学院”……深紅の制服は初めて見るが。」
「これが自分達”Ⅶ組”の象徴である色だそうです。」
(………どうやら帝国正規軍の将官の方みたいね……)
(ああ、中将という事はこの門の責任者なんだろう。)
(ガイウスさんと随分親しいみたいですけど……)
(しかし隻眼か……どこかで聞いた事があるような。)
ガイウスと親しく話している様子の将官をリィン達は興味ありげな表情で見つめ
「ふむ、そしてそちらが……」
「ええ、オレの級友で”Ⅶ組”の仲間になります。」
リィン達を見回した将官にガイウスは頷いて説明した。
「―――士官学院Ⅶ組、リィン・シュバルツァーです。」
「初めまして、アリサ・ラインフォルトです。」
「エマ・ミルスティンです。よろしくお願いします。」
「ユーシス・アルバレア。お初にお目にかかります。」
「フフ、噂には聞いていたが面白い顔ぶれが集まっているようだ。それと……ご挨拶が遅れ、申し訳ありません、プリネ姫。」
リィン達の事を微笑ましそうに見つめていた将官はプリネに気付いて会釈をし
「こうして実際に会うのは初めてでしたね、ゼクス中将。プリネ・カリン・マーシルンと申します。オリヴァルト皇子やミュラー少佐から中将のお噂はかねがね聞いてます。」
「フフ、一体どんな噂をされているのやら。」
プリネの話を聞いた将官は苦笑した後、リィン達を見つめて自己紹介をした。
「帝国軍、第三機甲師団長、ゼクス・ヴァンダールだ。以後、よろしく頼む。」
「”隻眼”のゼクス……!」
「アルノール家の守護者か……」
将官―――ゼクス中将が名乗るとリィンとユーシスはそれぞれ目を見開いてゼクス中将を見つめた。
「ほう、私の名を知っているようだな?」
「アルノール家の守護者……」
「それって確か……」
「……”ヴァンダール”といえば、皇族・アルノール家を守護する武門の一派として有名だ。そして”隻眼”のゼクスといえば、帝国正規軍で五本の指に入る名将とも聞き及んでいる。」
「”アルゼイド流”と並ぶ帝国における武の双璧……その、お目にかかれて光栄です。」
「ハハ、そう持ち上げられるほど大層な人間ではないのだが。おぬし達の話も聞きたいがさすがに時間も時間だ。今日中に帰るつもりならすぐに出発した方がいいだろう。」
「ええ、そのつもりです。すみません。お願いしていた件は………?」
ゼクス中将の言葉に頷いたガイウスはゼクス中将を見つめ
「うむ、用意してあるぞ。」
ゼクス中将はガイウスの問いかけに頷き、その様子を見守っていたリィン達は首を傾げた。
「お願いしていた件……?」
「えっと、今日中にガイウスの実家に行くのよね?」
「もしかして移動手段の確保ですか?」
「ああ、プリネの言う通りオレの実家に向かう為の移動手段を中将に用意していただいた。」
「フフ、ついてくるがいい。」
そしてゼクス中将について行ったリィン達が外に出ると遠くも見渡せるほどのノルド高原の牧歌的な景色が見えた。
~ノルド高原~
「こ、これは―――」
「………………」
「なんて……なんて雄大な……」
「鉄路の果て……遥かなる蒼穹の大地……いや―――言葉は不要か。」
「ええ……これほど圧巻される景色に似合う言葉はありませんね。」
(へえ……これほどの風景、もうこの時代には残っていないと思っていたのだけど……)
(うわあ~!この草原の空を思いっきり飛んだら気持ちいいんだろうな~!)
(素晴らしい!人の手による開発がされていないこの景色!一種の芸術だな!)
(……中々のものですわね。しかし……この覚えのある気配……どうやらリザイラはこの高原のどこかに”領域”を同化させているようですわね。)
ノルド高原の景色に圧倒されたリィン達は呆け、ベルフェゴールとペルルは興味ありげな表情をし、アムドシアスは感心し、フィニリィは驚いた後真剣な表情で考え込んだ。
「フッ、気に行ってくれたようで何よりだ。」
リィン達の様子を見たガイウスは口元に笑みを浮かべた。するとその時軍人達が馬を連れてきた。
「馬……もしかして。」
「そうか……馬で集落まで移動するのか。」
「ああ、高原での移動は馬がないと成り立たない。馬術部のユーシスはもちろん、リィンとアリサ、プリネも乗れると聞いていたからな。」
リィンとユーシスの推測に頷いたガイウスは説明をしてリィン達を見回した。
「あ、うん。たぶん大丈夫だと思うわ。」
「俺も実家で乗っていたから大丈夫だ。」
「私もたまに乗馬をしていますから勿論大丈夫です。」
「えっと、私は馬には乗った事ないんですけど……」
唯一乗馬経験のないエマは不安そうな表情でガイウスを見つめ
「委員長は、誰かの後ろに乗って欲しい。馬の負担の事を考えるとアリサかプリネの後ろが良さそうだ。」
「確かに……エマ、それでいい?」
「は、はい。ちょっと緊張しますけど……」
ガイウスの提案に頷いたアリサの言葉にエマは頷いた。
「よし……さっそく乗らせてもらうか。」
そしてリィン達はそれぞれ騎乗した。
「よーし、どうどう。」
「フフ、いい子ね。」
「……いい馬だな。」
騎乗したリィンやプリネ、ユーシスはそれぞれ馬を宥め
「エマ、大丈夫?」
アリサは自分の背後で自分の腰を掴んでいるエマに尋ねた。
「は、はい……何とか。
「ふふっ、走り始めたらちゃんと掴まっててね。」
「フフ……大丈夫そうだな。」
二人の様子を見たガイウスは安堵の表情で微笑んだ。
「いずれもノルドの集落で育てられた駿馬だ。1時間もかからずに集落までたどり着けるだろう。―――そうだ。地元のガイウスはともかく。お主たちにはこれを渡しておくとしよう。」
「え……」
ゼクス中将はリィン達にノルド高原の地図を渡した。
「わぁ……!」
「ずいぶん詳細でわかりやすい地図ですね。」
「なるほど、軍の測量で作成した物というわけか。」
「高原の広さを考えると相当の時間がかかったんでしょうね……」
「うむ、実習の時に役立てるといいだろう。」
「……とても助かります。」
ゼクス中将の好意にリィン達はそれぞれありがたく受け取った。
「――さて、そろそろ出発するといい。風と女神の加護を。長老とラカン殿によろしくな。」
「はい。」
「わざわざのお見送り、ありがとうございました。」
「それでは失礼する。」
そしてリィン達はゼクス中将に別れを告げ、ノルド高原へ馬を走らせ始めた!
「凄いな……とんでもない解放感だ。」
「ええ……!まるで風になったみたい!」
「私もこんな解放感で馬を走らせた事はありません。馬を走らせる事ってこんなに気持ちよかったんですね……!」
「そ、そうですね……ちょっと恐いですけど。」
馬を走らせているリィン達がそれぞれ雄大な高原に馬を走らせる解放感に浸っている中、初めて馬に乗るエマは不安そうな表情をし
「まあ、じきに慣れる。―――しかし馬術部の連中に羨ましがられそうな体験だ。」
エマの言葉に答えたユーシスは口元に笑みを浮かべた。
「ははっ……確かに。」
「お父様達も知ったらきっと羨ましがりますよ……」
「フフ……―――オレの故郷は北東に向かった先にある。日没までに何とか辿り着くとしよう。」
「ああ……!」
「行きましょう……!」
その後リィン達は分かれ道に到着した。
「分かれ道に来たけど……」
「こう広いと、方向感覚が曖昧になってくるな。」
「遭難したら大変な事になってしまいますね……」
「ちょっ、プリネ。縁起でもない事を言わないでよ……」
「た、確かにこんなに広いと逆に不安になってしまいますものね……」
「一応、目印となる地形を教えておこうか。あれが出発地点である”ゼンダー門”だ。あれは”三角岩”……この一帯の中心となっている。」
ノルド高原の広さに若干の不安を抱えているリィン達にガイウスは次々と目印となる物に視線を向けて説明した。
「すごく大きな岩山ですね。」
「確かに、いい目印になってくれそうだな。」
「ええ、迷ったらまずはあの岩山を目指せばいいわけですから。」
「あら、その横に見える人工物みたいな建物は?」
それぞれが岩山に注目している中、建造物を見つけたアリサはガイウスに尋ねた。
「あれは”監視塔”……帝国軍が建てた施設だ。ノルド高原の南東、共和国方面を監視するための施設と聞いている。」
「”共和国”……」
「帝国の東に位置する大国、”カルバード共和国”か。」
「クロスベル方面だけじゃなく、こちらでも繋がっているんだな。」
「ああ、そして――――あちらの山脈の方角にオレの故郷でもある集落がある。」
「なるほど……」
「えっと、地図で確認すると……」
ガイウスの説明を聞いたリィン達はそれぞれ地図を取り出して現在位置を確認した。
「うん、大体の位置関係が掴めてきたような気がするわ。」
「ええ。わかしやすい目印とエレボニア軍が測量した詳細な地図のおかげですね。」
「しばらくは地図を片手に慣れる必要がありそうだな。」
アリサとプリネの言葉に続くようにリィンは頷いた。
「そういえば……あちらの方に不思議な石柱がありますね?」
その時何かが気になったエマは石柱が何本も立っている場所を見つめてガイウスに尋ねた。
「あ、ホントだ。」
「明らかに人の手で立てられているようだが……」
「この高原には、ああいったものがあちこちに点在していてな。どうやら千年以上前にあった巨大文明の遺跡らしい。」
「巨大文明……」
「ふむ、帝国にも残っている精霊信仰の遺跡のようなものか。」
「……そうかもしれませんね。」
ガイウスの説明を聞いて考え込んだリィンとユーシスの言葉を聞いたエマは真剣な表情で石柱を見つめながら呟き
「精霊信仰………(フィニリィ。)」
ある言葉が気になったプリネはフィニリィに念話を送った。
(何ですの?)
(精霊で思い出したけど……以前ケルディックで貴女が教えてくれた”精霊王女”―――リザイラ様はエレボニア帝国付近の緑豊かな土地に”領域”を同化させているって話をミルモから聞いていたようだけど……)
(ええ、ここですわ。この高原全体からリザイラの”領域”――――”リスレドネー”の気配を強く感じますから、この高原のどこかに”リスレドネーの領域”への入り口があると思いますわ。)
(そう…………)
フィニリィの答えを聞いたプリネは真剣な表情で考え込んだ。
「色々興味はあるだそうが、今日は後回しだ。何とか日没までに集落に辿り着かなくてはな。」
「ああ、了解だ。」
「それじゃあ、行きましょうか。」
その後リィン達は馬を走らせて小さな集落に到着した。
~ノルドの集落~
「これが……」
「……ガイウスの故郷か。」
「なんだか新鮮なような懐かしいような……」
「……不思議と郷愁に誘われるような光景だな。」
「ええ……とても暖かい雰囲気が集落全体から感じますね。」
「……確かに。」
集落を見つめたリィン達はそれぞれの思いを抱えた。
「まあ、この場に定住しているわけではないが。夏から秋にかけては北へと移動するのが常だ。」
「なるほど、遊牧民だもんね。」
ガイウスの説明を聞いたアリサは納得した様子で頷いた。
「だからああいう、変わった建物なんだよな?」
「ああ、厚手の布でできた移動式の住居でな。――さて、まずはオレの実家に案内しよう。長老などには改めて紹介するとして―――」
そしてリィンの質問に答えたガイウスが行動に移りかけようとしたその時
「あんちゃああああん!」
「わぁ……!」
「か、可愛いっ……!」
子供が3人ガイウスにかけより、幼い少女がガイウスに抱き付いた。
「あんちゃん!ガイウスあんちゃん!」
「ガイウスお兄ちゃん……!……おかえりなさいっ……!」
「ただいま、リリ、シーダ。トーマも、元気そうだな。」
「へへ、あんちゃんこそ。―――おかえり。ガイウスあんちゃん。」
「ああ、ただいまだ。」
ガイウスは久しぶりに会う家族である子供達を優しげな微笑みを浮かべて見回した。
「はは……すごく慕われてるな。」
「ええ……一人っ子には目の毒ね。」
「そうですね……」
「ガイウスさんがどことなく大人びている理由がわかって気がしますね……」
子供達に慕われているガイウスの様子を見たリィン達は微笑ましそうに見つめ
「………………」
ユーシスは目を伏せて黙り込んだ。
「あ、ひょっとして手紙に書いてあった……?」
一方リィン達に気付いた少年―――トーマは目を丸くし
「ああ、オレと同じクラスの仲間達になる。」
「えっと、初めまして。ガイウスあんちゃんの……じゃなくて、ガイウスの弟のトーマっていいます。こちらは妹のシーダとリリ。」
「は、初めまして……」
「あんちゃんのお友達~?」
ガイウスの説明を聞いたトーマは妹達と共に自己紹介をし、リィン達を見つめた。
「はは……初めまして、リィンだ。」
「アリサよ、よろしくね。」
「エマです。ふふっ、みんな可愛いですね。」
「プリネです、よろしくお願いしますね。」
「ユーシスだ、よろしく頼む。」
「うわ~……帝国のヒトって感じだなぁ。」
リィン達が自己紹介をするとトーマは興味ありげな表情でリィン達を見回し
「あれ?お姉ちゃん、耳、私達より長くない??」
「リリ、失礼よ。」
プリネの耳に気付いて目を丸くした幼い少女―――リリの言葉を聞いた少女―――シーダはリリを責めた。
「フフ、気にしないで下さい。私は人間ではなく”闇夜の眷属”ですからこの耳が珍しく見えるのも仕方ありません。」
「え……そ、それって……」
「もしかして噂の異世界の種族ですか……?」
「ええ、そうよ。異世界には色んな種族がいるわよ?―――例えばこの子もその一人よ。――――ミルモ!!」
プリネの説明を聞いて目を丸くしているトーマとシーダの言葉に頷いたアリサはミルモを自分の傍に召喚した。
「わぁ~!可愛い~!」
ミルモを見たリリは目を輝かせ
「え、えっとその妖精みたいな人ってもしかして……」
「精霊様ですか!?」
トーマとシーダは驚きの表情でミルモを見つめた。
「ええ、その精霊よ。でもこの子はゼムリア大陸に住んでいる精霊じゃなくて、異世界に住んでいる精霊だけどね。」
「…………♪」
アリサの肩に止まっているミルモはアリサに頭を撫でられ、気持ちよさそうな表情をしていた。
「わぁ~、お姉ちゃん、セーレイさまと仲良しなんだ~!」
「凄い人とお友達になったんだね、ガイウスお兄ちゃん……」
「えへへ、さすがあんちゃんだよ。」
アリサとミルモの仲の良さを見たリリははしゃぎ、シードは驚きの表情で嬉しそうな表情をしているトーマと共にガイウスを見つめた。
「ああ、アリサには素晴らしき風の導きがあったな。」
「フッ、クラスメイトが精霊に好かれる変わり者と知った時は少々驚いたがな。」
「何よ?文句でもあるの?」
(俺なんか魔神に何故か好かれているんだが……)
口元に笑みを浮かべたユーシスの言葉を聞いたアリサはジト目でアリサを睨み、リィンは冷や汗をかいて表情を引き攣らせ
「まあまあ……」
「………………」
アリサの様子を見たプリネは苦笑しながら諌め、エマは真剣な表情でミルモを見つめていた。
「フフ……よき友に恵まれたようだな。」
その時民族服を着た男性と女性がガイウスに近づいてきた。
「父さん、母さん。ただいま戻りました。」
「ふふ、お帰りなさい。―――皆さんも初めまして。ガイウスの母、ファトマです。」
「お、お母さんっ!?」
「ぜ、全然見えませんね……」
ガイウスの母―――ファトマの見た目があまりにも若い事にアリサとエマは驚き
「そうですか?私は普通に見えますが……」
(両親どころか親戚のほとんどの見た目が若いけど、実際は凄く年を取っている人達を家族に持つプリネさんしかありませんよ、その感覚は……)
首を傾げているプリネをリィンは苦笑しながら見つめていた。
「ふふっ、お上手ね。」
エマの褒め言葉を聞いたファトマは微笑みながらリィン達を見つめた。
「―――ガイウスの父、ラカン・ウォーゼルだ。よろしく頼む、士官学院の諸君。」
「はい、こちらこそ。」
「よろしくお願いする。」
「さて、客人用の住居を離れに用意しておいた。積もる話もあるだろうがひとまず荷物を置くといい。じきに日も暮れる……我が家で夕餉にしよう。」
その後ラカンに用意してもらった住居に荷物を置いたリィン達はウォーゼル家の好意によって夕食をご馳走になり始めた。
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