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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第46話

ルーレ行きの列車に乗り込んだリィン達はガイウスから実習地である”ノルド高原”についての説明を受け始めていた。



~列車内~



「―――それでは、実習地である”ノルド高原”について説明しよう。”ノルド高原”は、エレボニアの北東方面にある高原地帯だ。ルーレ市の北に広がる”アイゼンガルド連峰”を越えた先にある。」

「”アイゼンガルド連峰”……かなり大きな山岳地帯よね。列車だと、幾つものトンネルを抜ける必要がありそうだけど。」

「ああ、帝国に来る途中、何度もトンネルを通ったものだ。そこを越えると一転して遥かなる北の山々に囲まれた広大な高原が広がっている。帝国軍の拠点などを除いて人が住んでいるのは俺の故郷である”ノルドの民”の集落のみ……人よりも羊の方が多いくらいだ。」

「なるほど……まさに異郷の地って感じだな。」

「ふふっ、絵本で見たような光景が広がっていそうですね。」

「ええ……牧歌的な場所で癒されるでしょうね。」

アリサの質問に答えたガイウスの話を聞いたリィンは頷き、エマとプリネは微笑んだ。



「あと、ノルドといえば……”軍馬”の生産と育成でも知られているな。」

その時ある事を思い出したユーシスはガイウスに視線を向けた。

「ああ、ノルドの民は馬と共に生きているからな。今でも、帝国人向けの馬を育てることを生業としている。」

「そういえば、実家の馬もノルド産と聞いた事があるな。」

「たしか馬術部の馬もそうじゃなかったかしら?」

「ああ、全てそうだ。エレボニア帝国の紋章である”黄金の軍馬”……あれもノルド産の軍馬がモチーフになっているらしい。」

「まあ……そうだったんですか。」

アリサの確認の言葉に答えたユーシスの説明を聞いたプリネは目を丸くした。



「ノルド高原で挙兵したというドライケルス大帝の逸話もありますし……帝国とは歴史的にも縁が深い土地みたいですね。」

「ああ、高原の南端には”ゼンダー門”と呼ばれる帝国軍の拠点の一つがある。今回の旅で、列車で行けるのはそこまでになるな。」

「そうか……結局、今日の到着予定時間は午後の4時過ぎくらいだったか。」

「ええ、現在8時過ぎ……ルーレ駅に到着するのが昼頃でそこから貨物列車に乗り換えて4時間くらいになるわね。」

「やれやれ。思った以上の長旅だな。」

「帰りも長時間の移動がある事を考えると少し気が重いですね。」

「まあ、滅多にない機会ですしのんびりと行きましょう。」

その後列車はルーレ市に近づいてきた。



11:50―――――



本日はルーレ方面行き、特別急行列車をご利用頂き誠にありがとうございました。―――次は終点、ルーレです。どなた様もお忘れ物のないよう、よろしくお願いいたします。



「はあ……到着みたいね。」

「”黒銀の鋼都”か……こちらに来るのは初めてだな。」

「あ、私もです。」

「勿論、私も……というかエレボニア帝国に来た事自体が初めてですから。」

エマの言葉に続いたプリネはすぐに苦笑した。



「こちらに来る時、駅を通り過ぎただけだが……まるで鉄の塊でできたような大きな都市だったな。」

「まさにそんな感じだよな。あの、遠くに幾つか見える円錐状の建物は何なんだ?」

ガイウスの言葉に頷いたリィンは景色を見ながらアリサに尋ねた。

「あれは工業プラント用の導力ジェネレーターになるわね。大規模な工場が多いからそこで必要とされる導力を大量に生み出す施設ってわけ。」

「な、なるほど……」

「どんな街並みなのかちょっと想像つきませんね。」

「さすがは広大な土地を持つエレボニア帝国の工業都市ですね。」

アリサの説明を聞いたリィンとエマ、プリネは驚いた。その後列車はルーレ市に到着し、列車から降りたリィン達は貨物列車に乗る為にホームを移動し始めた。



~ルーレ駅~



「そういえば……もうお昼でしたよね。どこかでお弁当とか買った方がいいんでしょうか?」

「ああ、それもそうだな。」

「ここから更に4時間の鉄路……何か買った方がいいだろう。」

「さすがに貨物列車では車内販売は無いだろうしな。」

「……という事はルーレ市内か、駅構内にある売店で買っていくしかありませんね。」

「そう言う事なら、一度改札を出ましょうか。ランチボックスを売ってる駅の売店があったはずよ。」

リィン達が昼食について話し合っているとアリサが提案した。



「いえ―――それには及びませんわ。」

するとその時女性の声が聞こえ

「へ―――」

「こ、この声は!?」

声を聞いて驚いたリィンがアリサ達と共に声がした方向を見つめるとそこにはシャロンがいた。



「シャ、シャロンさん!?」

「ど、ど、ど……どうして貴女が先回りしてるのよっ!?」

バスケットを持って近づいてきたシャロンをアリサは信じられない表情で見つめて声を上げて指摘し

「それはもう、お嬢様への愛が為せる業といいますか……朝とは違い、腕によりをかけたお弁当を用意いたしました。どうぞ、お召し上がりください。」

「ど、どうも……」

シャロンは嬉しそうな表情で答えた後リィンにバスケットを手渡した。



「昼食まで用意して頂くなんて……本当にありがとうございます。」

その様子を見守っていたプリネはシャロンに感謝を述べ

「その……凄くありがたいんですけど。」

「どういうカラクリなのかさすがに気になってしまうな。」

エマとガイウスはシャロンが先回りしていた事が気になり

「フッ、ラインフォルト家のメイドは主人を驚かせるのが趣味らしい。おおかた帝都で、定期飛行船に乗り込んだといったところか?」

ユーシスは口元に笑みを浮かべた後、呆れた表情で尋ねた。



「あ……」

「なるほど、その手があったか。たしか飛行船だとルーレまで半分くらいの時間でしたよね?」

「ふふっ、そうでございます。ちなみにお弁当は、定期飛行船の厨房をお借りして拵えました。出来立てですのでご賞味ください。」

「わざわざ飛行船の厨房を借りて作ったんですか……」

シャロンの行動を聞いたプリネは目を丸くし

「あはは……ありがとうございます。」

「ありがたくご馳走になろう。」

ガイウスは苦笑するエマと共に感謝の言葉を述べた。



「ま、まったく……何か企んでいると思ったら。このままノルド高原まで来るつもりじゃないでしょうね?」

「いえ、実はこの後、別のお仕事が入りまして……トリスタに戻るのも少々遅れそうな見込みです。」

「別の仕事……?」

シャロンが他の仕事をする事に不思議に思ったアリサが首を傾げたその時

「―――私の仕事の手伝いをしてもらうことになったのよ。」

キャリアスーツの女性がリィン達に近づいてきた。



「か、か、か……母様!?」

女性の登場にアリサは驚いて声を上げ

「久しいわね、アリサ。そして、こちらが”Ⅶ組”の面々というわけね。アリサの母、イリーナです。ラインフォルトグループの会長を務めているわ。よろしくお願いするわね。」

アリサに視線を向けた後リィン達を見回した女性―――イリーナ会長は自己紹介をした。



「こ、こちらこそ。リィン・シュバルツァーです。」

「は、初めまして……エマ・ミルスティンです。」

「ガイウス・ウォーゼル。よろしくお願いする。」

「お初にお目にかかります。プリネ・カリン・マーシルンと申します。以後、お見知り置きを。」

「ユーシス・アルバレア。見知りおき願おうか。」

イリーナ会長に自己紹介をされたリィン達もそれぞれ自己紹介をした。



「まあ、せいぜい不肖の娘と仲良くしてやってちょうだい。―――仕事があるのでこれで失礼させてもらうわ。シャロン、行くわよ。」

「かしこまりました、会長。」

そしてイリーナ会長はリィン達に背を向けて去り始めたが

「え……い、いい加減にして!」

アリサの怒鳴り声を聞いて立ち止まった。



「いつもいつも、そうやって仕事ばかりを最優先にして……!勝手に家を飛び出した娘に何か一言くらいはないわけ!?」

「お嬢様……」

アリサの叫びを聞いたシャロンは心配そうな表情でアリサを見つめ

(薄々感じていたけど……)

(色々とあるみたいですね……)

リィンやエマはアリサとイリーナ会長の親子仲が複雑である事に気付いた。



「あなた自身の人生……好きに生きればいいでしょう。ラインフォルトを継ぐことを強制する気もないわ。あの人のように勝手気ままに生きるのも悪くはないでしょう。」

「っ……」

イリーナ会長の指摘を聞いたアリサは唇を噛みしめたが

「それに貴女の学院生活も”最低限のことは把握してるわ。”学院からの月ごとの報告でね。」

「え。」

イリーナ会長が自分の学院生活を知っている事に呆けた後すぐに考え込み、ある事が気になってイリーナ会長を見つめて言った。



「シャロンが母様に報告するのは当然覚悟してたけど……その、学院からの報告って……?」

「ああ、言ってなかったかしら。”トールズ士官学院”―――あなた達の学院の常任理事を務めさせてもらっているから。」

「!!?」

イリーナ会長の口から出た予想外の話を聞いたアリサは驚き

「そ、それって……」

「ルーファスさん……ユーシスのお兄さんと同じか?」

エマとリィンはユーシスに視線を向けた。



「……そうらしいな。ラインフォルトの会長……理事として申し分ない人材だが。」

「ふむ……」

(残りの常任理事を知ったら、また驚くでしょうね……)

ユーシスの推測を聞いたガイウスは考え込み、常任理事を全員知っているプリネはリィン達の反応を思い浮かべて苦笑していた。

「ARCUSと魔導杖についてもそれなりに関わっていてね。”Ⅶ組”の運用レポートについては毎回、興味深く拝見しているわ。今回の”特別実習”についてもまあ、期待させてもらいましょう。」

イリーナ会長はリィン達に応援の言葉を送った後その場から去って行き

「……………………」

「……それでは、お嬢様。お帰りをお待ちしております。皆様も、どうかお気を付けて行ってらっしゃいませ。」

口をパクパクさせているアリサに視線を向けたシャロンはリィン達に会釈をしてイリーナ会長の後をついて行った。



二人がいなくなるとアリサはその場でしゃがみこみ

「ア、アリサさん……」

「だ、大丈夫か?」

アリサの様子を見たエマとリィンはアリサを心配し

「…………?」

更にミルモもアリサの傍に現れて心配そうな表情でアリサを見つめていた。



その後リィン達は貨物列車に乗り込んで列車で向かう目的地の”ゼンダー門”に向かい始めた。 
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