英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第44話
~トールズ士官学院・グラウンド~
「―――そこまで!勝者、エリゼ・シュバルツァー!」
二人の戦いを見守っていたレーヴェは号令をかけ
「ぐ、ぐう……!?そ、そんな……一騎打ちで……それも年下の女性に負けるなんて……」
地面に膝をついているパトリックは呻いた後信じられない表情をし
「パ、パトリックさん!」
「だ、大丈夫ですか!?」
貴族生徒達はパトリックに駆け寄ってパトリックを心配した。
「私達―――”シュバルツァー家”を罵倒した報いです。もしまた兄様やシュバルツァー家を罵倒するような事があれば、”今度こそ”容赦はしませんよ。」
「う……あ…………」
太刀を鞘に収めたエリゼはパトリックを殺気を込めた目で睨み、エリゼの殺気を込められた目で睨まれたパトリックは恐怖の表情でエリゼを見つめていた。
「………………」
一方戦いを見守っていたリィンは口をパクパクさせ
「め、滅茶苦茶強かったよね、エリゼさん。」
「あ、ああ……終始一方的な戦いだったぞ。」
「……風の震えが止まった。どうやら彼女の怒りは消えたようだな。」
エリオットとマキアスは表情を引き攣らせ、ガイウスは静かな口調で呟き
「フン、一矢も報いる事もできずに敗北するとは。小物らしい無様な負け方だったな。」
「弱すぎだね。」
ユーシスは鼻を鳴らして呆れた表情でパトリックを見つめ、フィーは興味がなさそうな様子で呟いた。
「下手したらお兄さんのリィンよりも強いんじゃないのかしら?」
「フフ、既に追い抜かれているかもしれぬな?」
「その娘をくれぐれも怒らせない方がいいと思うわよ~?」
「うっ……」
冷や汗をかいたアリサの言葉に続くように微笑みながら自分に視線を向けたラウラの言葉とからかいの表情で言ったサラ教官の言葉にリィンは冷や汗をかいて唸り
「ア、アハハ……」
その様子をエマは苦笑しながら見守り
「さすがエクリア様とカシウス准将の教えを受けているだけはありますね……」
「ええ……本人の努力も勿論関係しているでしょうが、やはり教え方が相当よかったんでしょうね。」
プリネとツーヤは感心した様子でエリゼを見つめた。
「―――メンフィル帝国の貴族として相応しい戦いだったぞ、エリゼ。今後の成長を楽しみにしている。」
「恐縮です。」
リウイの称賛の言葉にエリゼは会釈をした。
「―――エリゼが今の腕前へと上達したのは、非常時の際皇族の守護者となる専属侍女長として相応しい者になる為に努力した結果だ。そしてそれは”Ⅶ組”の武術の腕前や中間試験の結果にも言える事。”貴族”だからという理由だけで、自分達が上の立場である事が当然だと勘違いして胡坐をかいていたお前達の愚かさが敗因だ。武術、中間試験の結果共にな。」
そしてリウイはパトリックや貴族生徒達を睨んで呟き
「まさに陛下の仰る通りだな……」
「フム、確かに……」
「武術も勉強もみんなで頑張りましたものね……」
「ああ……」
リウイの言葉を聞いたユーシスとラウラは納得した様子で頷き、静かな表情のエマの言葉にマキアスは頷き
「あ……う……」
「ヒッ……!」
「…………」
リウイに睨まれたパトリックや貴族生徒達は恐怖の表情で身体を震わせていた。
「あの~、もうそのくらいで勘弁しておいてあげてくれませんか?Ⅰ組の連中が可哀想なくらい震えあがっていますし。」
「……プリネ姫達に今後も順風満帆な学院生活を送らせてあげる為にも、不必要に恐れを抱かさないほうがいいかと。」
その様子を見守っていたサラ教官は苦笑しながら静かな笑みを浮かべるレーヴェと共にリウイを見つめて言い
「やれやれ、俺は理事の一人として教育指導をしただけなのだがな。―――まあいい。エリゼ、行くぞ。」
「かしこまりました。―――それでは皆様、私達はこれで失礼いたします。―――それと兄様。」
溜息を吐いたリウイの指示に会釈をして答えたエリゼはリィンに視線を向けた。
「な、何だ?」
エリゼに呼ばれたリィンは戸惑い
「…………兄様が使い魔契約をなさっているベルフェゴール様へのご挨拶については、”日を改めて”エリスと共にご挨拶をさせてもらうつもりですから、ベルフェゴール様にどうぞよろしくお伝えください。」
「うっ……エ、エリゼ。何でそんなに怒っているんだ?」
(フフ、私の存在で嫉妬した妹達が一体どんな行動にでるのか、今から楽しみね♪)
背後に魔力によって発生した電撃をバチバチ迸らせ、目にも見える程の怒気をメラメラ燃やしながら膨大な威圧を纏って微笑むエリゼに見つめられたリィンは大量の冷や汗をかいて表情を引き攣らせ、ベルフェゴールはからかいの表情になった。
「―――ご自分の胸にお聞きになってください。」
リィンの問いかけにエリゼは明確な答えを言わず、去って行くリウイの後をついて行ってその場から去った。
「え、えっと……結局プリネのお父さんって、何をしにここに来たのかな?」
「メンフィル帝国の貴族のリィンとツーヤを罵倒した事について注意しに来たように思えたけど、わたしたち”Ⅶ組”の事を褒めているようにも聞こえたね。」
リウイとエリゼが去るとエリオットは戸惑いの表情でプリネを見つめ、フィーは静かに呟き
「フフ、どうでしょうね?さすがにお父様が何を考えて今の模擬戦をさせたのかは私にもわかりません。」
「陛下の事を一番良くわかっているのはイリーナさんぐらいですから……」
プリネとツーヤはそれぞれ苦笑していた。
「ま、色々あったけど模擬戦はこれで終わり。Ⅰ組の協力に感謝するわ。あと、自習中だからといって勝手に教室から出ないように。―――そちらの子達も。教室で課題をしてらっしゃい。じゃないと、”英雄王”が理事としてまた指導をしに来るかもしれないわよ~?」
「もう……お父様を何だと思っているんですか。」
サラ教官は口元に笑みを浮かべて自分達から離れた場所で見ていたフェリスと貴族女子を見つめ、サラ教官の発言を聞いたプリネは呆れ
「は、はいっ!」
「し、失礼しました……!」
フェリス達は逃げるようにその場から去って行った。
「あと、明日の武術訓練は今日の模擬戦とさっきの模擬戦の反省にするわ。どこがマズったのかみっちり教えてあげるから自分達なりに考えてきなさい。」
「りょ、了解した……!し、失礼する……!」
そしてサラ教官の指示を聞いたリウイとエリゼの睨みによる恐怖が未だ残っていて、一刻もその場から離れたかったパトリックは逃げるように去り
「パ、パトリックさん……!」
「ま、待ってください……!」
貴族男子達もパトリックを追うように慌てた様子でその場から去って行った。
「は~……どうなるかと思ったけど。」
「まったく、これだから貴族というのは……」
パトリック達が去るとエリオットは安堵の溜息を吐き、マキアスは呆れ
「フン、あれと一緒にするな。」
「それにパトリックさん達も充分罰を受けましたよ……」
マキアスの言葉を聞いたユーシスは鼻を鳴らし、ツーヤは苦笑し
「フッ、”英雄王”に睨まれる等教官の怒りを買う事よりも効果はあるだろうな。」
「何でそこであたしを見るのかしら?」
静かな笑みを浮かべるレーヴェに視線を向けられたサラ教官は顔に青筋を立ててレーヴェを睨んだ。
「ありがとう、ガイウス。何というか……色々と助けられたよ。」
「……?礼を言われることか?まあ、お前の役に立ったとしたら何よりだ。」
リィンにお礼を言われたガイウスが不思議そうな表情をした後頷いたその時サラ教官が手を叩いて自分に注目させた。
「今回の実技テストは以上。それじゃ、さっそく今月の”実習地”を発表するわよ。」
「そ、そうでしたね……」
「今月はどこかな。」
「さ、受け取ってちょうだい。」
そしてサラ教官はリィン達に”特別実習”のメンバー表を配った。
6月特別実習
A班:リィン、アリサ、エマ、ユーシス、ガイウス、プリネ
(実習地:ノルド高原)
B班:マキアス、エリオット、ラウラ、フィー、ツーヤ
(実習地:ブリオニア島)
「これって……」
「”ブリオニア島”は確か……帝国南部の外れにある島だったな。」
「ラマール州の沖合いにある遺跡で有名な島だったはずだ。しかし――――」
メンバー表と実習地を確認したエリオットは目を丸くし、マキアスの話にラウラは頷いた後考え込み
「……………………」
(ハア、今度はこの二人か……ユーシスさんとマキアスさんが和解してようやく……と思っていたのに……何であたしの班ばっかりこうなるの……)
フィーはラウラから視線を外して黙り込み、その様子に気付いたツーヤは疲れた表情で溜息を吐いた。
「”ノルド高原”は帝国北東の先の方でしたよね?」
「ええ、ルーレ市の先……国境地帯の向こうになるわね。」
「古くより遊牧民が住む高地として知られる場所だな。」
(ノルド高原……クロスベルと同じカルバードと領有権を巡って争っている土地ね。何事もないといいのだけれど……)
エマ達が実習地について話し合っている中、プリネは考え込み
「あ、それって確か……」
「ガイウスの故郷だったよな?」
実習地がクラスメイトの故郷である事に気付いたエリオットは目を丸くし、リィンはガイウスに視線を向け
「ああ、そうだ。A班には高原の集落にあるオレの実家に泊まってもらう。よろしくな―――リィン、アリサ、委員長、ユーシス、プリネ。」
視線を向けられたガイウスは頷いて説明した。
そして”特別実習日”が来た……!
ページ上へ戻る