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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第28話

バリアハートに到着し、ホテルに向かおうとしたリィン達だったが、突然聞こえてきた車のクラクションを聞いて足を止めた。



~バリアハート~



「……?」

「車のクラクション……?」

音を聞いたリィンとツーヤは首を傾げ

「あ……!父上……」

振り向いたユーシスはホテルの前に停車している高級車を見て驚いた。

「え……」

「なに……!?」

車に乗っている人物の事をユーシスが口にするとエマとマキアスは驚き、ユーシスは慌てた様子で車の最後部に向かった。すると車の窓が開き、貴族の男性が姿を現した。



「……挨拶が遅れて申し訳ありませんでした。学院の実習ではありますがユーシス、戻りまして――――」

ユーシスは緊張した様子で声をかけたが

「挨拶は無用だ。」

「……っ……」

ユーシスの父親であり、”アルバレア公爵家”の当主の貴族の男性―――アルバレア公爵はユーシスに目もくれず答え、アルバレア公爵の冷徹な答えにユーシスは息を呑んだ。



「ルーファスにも言ったが好きに滞在するがいい。ただ、アルバレア家の名前には泥を塗らぬこと……それだけは弁えておくがいい。」

「……はい。」

アルバレア公爵の指摘にユーシスは重々しい様子を纏って頷き

「その、学友がおりますのでせめて紹介でも……」

リィン達の事をアルバレア公爵に紹介しようとした。

「必要あるまい。……何かあればこちらから連絡する。」

そしてユーシスに一方的に言ったアルバレア公爵は運転手に指示をしてその場から去って行った。



「………………」

去って行く高級車をユーシスはどことなく寂しげな雰囲気を纏わせて見つめ

「なにあれ。」

「フィ、フィーちゃん……」

先程の会話の様子を指摘したフィーの言葉を聞いたエマは冷や汗をかいて心配そうな表情でユーシスを見つめた。



「今のが”アルバレア公”……四大名門の一角にして絶大な権勢を誇る大貴族か。」

「……ああ。そして信じられぬことに俺の父でもあるらしい。」

マキアスの言葉にユーシスは頷き

「……ユーシス。」

「………………」

ユーシスの様子を見たリィンとマキアスはそれぞれ真剣な表情でユーシスを見つめた。



「……栓無い事を言った。腹が減ったな……いったん部屋に戻ったら食事にでも繰り出すか。」

「そうですね……」

「今日は随分歩き回りましたからね。」

「お腹ペコペコかも。」

その後リィン達は部屋に戻ってシャワーを浴び……一息ついてから中央広場のレストランに繰り出すのだった。



~中央広場・レストラン”ソルシエラ”~



「……ふう、いい風だな。」

「ふふっ、お料理もとても美味しかったです。」

「初めて口にする味でしたけど、とても美味しかったですね。」

「満足、満足。」

食事を終えたマキアス達はそれぞれ一息つき

「さすがに貴族の街で繁盛しているレストランだな。ユーシスの行きつけだっけ?」

リィンはレストランの味に感心した後ユーシスに尋ねた。



「ああ……昔から良くしてくれてな。ここの味で育ったようなものだ。」

リィンに尋ねられたユーシスは昔を懐かしむかのような表情で答えた。

「フン、さすがに贅沢だな。……まあ、ここの料理が美味しかったのは認めるが。」

ユーシスの話を聞いたマキアスは鼻を鳴らした後ジト目になり

「美味しいだけじゃなくてなんかあったかかったかも。」

「そうですね、こういう店にしては食材のバランスもいいですし……ユーシスさんの健康のことを気遣っているような気がします。」

「それになんというか……あくまであたしが感じた事ですが料理に家庭の雰囲気もありましたね。」

「ああ……そうなんだろう。…………………」

フィーやエマ、ツーヤの意見を聞いたユーシスは頷いた後黙り込んでいた。



「し、しかしB班の方は今頃どうしているんだろうな?」

その場に静寂が訪れた後、雰囲気を変える為にマキアスが呟き

「はは、ちょうど先月も同じようなことを話したっけ。メンフィル帝国領のセントアーク市か……同じように頑張ってると思うけど。」

マキアスの言葉を聞いたリィンは苦笑した後、B班のメンバーの顔触れを思い出しながらB班の様子を思い浮かべた。



「そう言えば……リィンさんは先月、ケルディックに行ったんでしたよね。」

「ああ、ちょうど食事時にB班の話をしてたんだ。そっちの方はどうだったんだ?」

「そ、それは……」

リィンの質問を聞いたマキアスは言い辛そうな表情をし

「……とてもこんな普通の雰囲気じゃなかった。あの時のことを考えると今回はかなりマシだと思う。」

「フィ、フィーさん。」

フィーの答えを聞いたツーヤはフィーが遠回しにマキアスとユーシスが原因である事を口にしている事に気付いて冷や汗をかいた。



「そ、そっか。」

一方リィンは苦笑しながら頷き

「……まあ、そうだな。」

原因の一人であるマキアスは複雑そうな表情をし

「ふふ、今回のレポートはちょっと気が楽かもしれません。」

エマは微笑みながら答えた。



「―――だが、決して良くもないだろう。」

しかしその時ユーシスが静かな表情で答え、ユーシスの言葉を聞いたリィン達はユーシスに注目した。

「ユーシスさん……」

「おそらく今回のB班はベストを尽くせる状況だろう。だが、俺達A班は今日一日ベストを尽くせたか?手配魔獣との戦いもそうだが、それ以外の依頼についても。」

「……むう。」

「……確かにそうですね。」

ユーシスの指摘を聞いたフィーは頬を膨らませ、ツーヤは静かな表情で頷き

「…………………」

マキアスは真剣な表情でユーシスを見つめていた。



「実習は残り1日……何とか建て直すしかないだろう。それに、俺達自身の問題以外に難しい状況が見えてきたのも確かだ。」

「そうですね……」

リィンの言葉にエマは貴族の横暴さの問題やオーロックス砦で見た過剰とも思える戦力の増強を思い出して頷いた。



「クロイツェン州での増税に領邦軍の大規模な軍備増強……―――まさか関係がないとは言わせないぞ?」

「別に否定はしない。だが―――問題の根幹は革新派と貴族派の対立にある。今日見た重戦車”アハツェン”など、正規軍がどれだけ配備していると思う?」

責めるような視線のマキアスの問いかけにユーシスは頷いた後尋ね返し

「そ、それは……」

尋ね返されたマキアスは正規軍の数を考え、正規軍が圧倒的に戦力が勝っている事を口にし辛く口ごもった。



「100台や200台じゃなかったと思う。」

「正規軍の数を考えれば1000は軽く超えているでしょうね……」

フィーの推測にツーヤは頷き

「そう、帝国正規軍は強大だ。大陸でも最大級の戦力を保持していると言えるだろう。その七割を掌握する”鉄血宰相”に貴族連合がどう対抗するか……」

「だからこその領邦軍の軍備増強ですか……」

二人の推測に頷いたユーシスの言葉を聞いたエマは複雑そうな表情をした。



「……同じ帝国内なのに不毛すぎるとしか思えないな。」

「……そちらはどうなのだ?」

リィンが疲れた表情で呟くとある事が気になったユーシスはリィンを見つめて尋ね

「え……」

「―――あくまで噂程度しか聞いていないが、メンフィル帝国の領土はあまりにも広大でゼムリア大陸全土にも匹敵すると聞く。エレボニア帝国ですらこの状況なのだから、エレボニア帝国より領土を持つメンフィル帝国も様々な問題を抱えていると思うが。」

「まあそうだね。今日会った竜騎士軍団の団長だっけ?妾の娘なのに、軍の上層部という地位についているし、妾の娘である事も全然隠していないなんて、普通に考えたらおかしいよ。」

「ユ、ユーシスさん、フィーちゃん……」

「二人ともよくもまあ、そんな聞き辛い事を平気で聞けるな。」

ユーシスとフィーの推測を聞いたエマは冷や汗をかいて二人を見つめ、マキアスは呆れていた。



「ハハ、気にしないでくれ。俺の知る限りではそう言った問題は聞いた事がないよ。……まあ、知っていると言ってもメンフィル帝国の帝都ミルスの状況ぐらいだけどな……」

リィンは苦笑しながら答え

「―――少なくても領主を務めている方達は問題はなく、善政を敷いていますし、領主達同士もそうですが皇族との仲も良好ですから政治、軍事では特に問題はありませんね。」

「何故だ?」

ツーヤの説明を聞いたユーシスは不思議そうな表情をして尋ねた。



「領主の方達自身が皇族―――つまりはリウイ陛下の子供ですので、腹違いになりますが兄弟姉妹の関係になりますから皇族、領主同士仲が良いんです。」

「だ、だが……普通腹違いの兄弟姉妹達の仲はあまり良くないと聞くが……」

ツーヤの説明を聞いたマキアスは戸惑いの表情で尋ね

「普通ならそうですね。ですがリウイ陛下は最も愛している正室のイリーナ皇妃を除けば側室、妾の方達は全員等しく愛したそうですし、その方達が産んだ子供達全員等しく接し、大切にしていたそうですし、側室の方達もそれぞれ仲が良いですから、多くの皇位継承者達がいながらも皇位継承ももめる事無くシルヴァン陛下がリウイ陛下の後を継ぐ事に全員賛同したと聞いています。」

「意外。エレボニアでは”魔王”と恐れられている程なのに愛妻家の上、子煩悩なんだ。」

「フフ、とても優しい方なんですね。」

「なるほど………両親に大切に育てられ、親の温もりをちゃんと知っているから例え妾の娘でも、サフィナ元帥みたいに自分の産まれに誇りを持って、あんなにも堂々としていられるのか……」

「……………………」

ツーヤの話を聞いたフィーは目を丸くし、エマは微笑み、マキアスは納得した様子で頷き、ユーシスは目を伏せて黙り込んでいた。



「おお、青春の悩みとはかくも美しく尊いものか―――」

その時ブルブランがリィン達に声をかけてきた。

「貴方は……」

「確か……ブルブラン男爵でしたか?」

「……………」

ブルブランを見たエマは目を丸くし、リィンは尋ね、ツーヤは表情を引き攣らせてブルブランを見つめていた。



「フフ……覚えていてくれて光栄だ。士官学院の諸君だったか。無事、一日目を終えたようだね。」

「……ええ、何とか。」

「そっちの成果は?」

「生憎、運命的な出会いにはいまだ巡り合えなくてね。美とはかくも難しい……だからこそ尊いとも言えるものだが。」

フィーの質問にブルブランは芝居がかった口調で答えた後髪をかきあげた。



「まあ、その調子で滞在を楽しんでいただければ幸いだ。」

ブルブランの態度にユーシスは呆れながら答えたが

「フフ、それはもう存分に。麗しの翡翠の都……鋼の匂いがするのはご愛嬌だが。」

「……っ。」

ブルブランがさりげなく口にした領邦軍の件を聞き、表情を引き締めた。



「アルバレア公も趣味人と聞いたが最近は火遊びの方がお好きらしい。それはそれで一興……美しい火花が見られるのならば。フフ、そうも思えないかね?」

「悪趣味な……」

「……少しばかり不謹慎だと思います。」

「……その”火遊び”に貴方も参加するつもりなのですか?」

ブルブランに問いかけられたマキアスとエマはそれぞれブルブランを責めるかのように厳しい表情でブルブランを見つめ、ツーヤは真剣な表情で尋ねた。

「おお、これは失敬。まあ残り1日、せいぜい頑張って美しいものを見せてくれたまえ。成功の美か、挫折の美か……どちらになるかは君達次第だが。私個人としてはケルディックに降り立った我が知人達のように成功の美を見せてくれる事を期待しているよ。」

そしてブルブランは恭しく一礼した後その場から去って行った。



「くっ……何だあの男は!これだから貴族というのは鼻持ちならないんだ……!」

(貴族ではなく犯罪者ですけどね……)

ブルブランが去った後怒りの表情で呟いたマキアスの言葉を聞いたツーヤは疲れた表情になり

「フン……言うと思ったぞ。だが、そもそも今の男―――本当に爵位を持っているのやら。」

ユーシスは呆れた後ブルブランが去った方向を見つめて呟いた。



「え。」

「考えてみれば、どことなく芝居がかかった感じでしたね……まるで”貴族”というものをわざとらしく演じているような。」

「ああ、俺も怪しいと思う。それともう一つ……―――どうして俺達の実習があと一日だと知ってるんだ?」

「そ、そういえば……」

「……実習については話したが期間までは言ってなかったな。」

リィンの疑問を聞いたマキアスとユーシスはそれぞれブルブランに実習期間の事を言ってなかった事を思い出し

「砦からの帰りに見かけた銀色の物体もそうだけど……色々とおかしな連中が紛れ込んでる気がする。」

(さすがは腕利きの元猟兵ですね……)

警戒の表情で言ったフィーの言葉を聞いたツーヤは真剣な表情でフィーを見つめた。



「……いずれにしても実習期間は残り1日だ。俺達は俺達で惑わされずに頑張るしかないと思う。」

「はい。」

「ええ。」

「ん。」

「フン、そうだな。」

「まずはホテルに戻ってレポートをまとめるか……」

その後ホテルに戻ってレポートをまとめたリィン達はそれぞれの部屋に戻って明日に備えて休み始めた。 
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