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英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)

作者:sorano
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第9話

4月17日――――



~トリスタ・第3学生寮~



「よし……」

特科クラス”Ⅶ組”のオリエンテーリングから約3週間後、自分達が宿泊している寮の一部屋の鏡の前で身だしなみを整え終え、鞄を取って学院に向かおうとしたリィンは机に置いてある両親と自分、そして双子の妹達が写った写真に気付いて写真を見つめた。

「……………―――行ってきます。」

数秒の間写真をジッと見つめたリィンは自室から出た。



「あ、リィン!」

リィンが自室を出るとエリオットが近づいてきた。

「おはよう、エリオット。」

「えへへ、おはよう。学院に行くんでしょ?せっかくだから一緒に行かない?」

「もちろん。そんなに時間もないしとっとと行くとしよう。」

エリオットの申し出にリィンは頷いた後提案した。



「うん、そうだね。他のみんなは……もう出かけちゃったのかな?」

「ああ……このフロアにはもう人の気配はなさそうだ。ガイウスなんか早起きみたいだし、とっくに出かけたんだろう。」

「そ、そっか。(気配って……どうやって感じるんだろう?)」

リィンの言葉を聞いたエリオットは内心冷や汗をかきながらリィンと共に玄関に向かった。



二人が玄関に向かうとそこにはアリサとエマが二人で談笑していた。

「あ……」

「っ……!」

「リィンさんにエリオットさん。どうもお早うございます。」

「あ、ああ……おはよう。」

ジト目のアリサに見つめられているリィンは戸惑いながらエマの朝のあいさつに答えた。



「おはよう。アリサ、委員長。二人ともこれから登校?」

「え、ええ、まあね。―――エマ。時間もないし行きましょ。」

「ちょ、ちょっとアリサさん……それじゃあ、教室で。」

突如出て行ったアリサの行動にエマは戸惑った後リィン達に一言をかけてアリサの後を追って行った。



「……はあ……」

二人が寮から出て行くとリィンは肩を落として溜息を吐き

「はは、思ったよりも長引いちゃってるみたいだね。うーん、”あれ”が不可抗力だったのは彼女もわかってると思うし……そんなに根に持つタイプにも見えないんだけどなぁ?」

エリオットは苦笑した後考え込んだ。



「俺もそう思ったんだけど……改めてきちんと謝ろうと思ってもそれすらさせてくれないんだよな。」

「まあ、めげずに誠意を伝えればちゃんとわかってくれるんじゃない?ただでさえ”別の問題”でクラスがギスギスしてるんだし……せめて君達くらいは仲直りしてもらわないとね。」

「……努力するよ。」

エリオットの言葉に疲れた表情で頷いたリィンはエリオットと共に学院に向かい始めた。



~トリスタ~



「でもこの2週間……ホント、あっという間だったね。覚悟してたのは武術訓練くらいだったけど……まさか普通の授業のレベルがあんなに高いとは思わなかったよ。」

リィンと共に学院に向かっているエリオットは入学してから2週間の出来事を思い出して疲れた表情をした。

「まあ、文武両道はエレボニアの気風でもあるからな……予復習はきっちりやらないとついて行けなくなるかもしれない。」

「はあ……リィンもそうか。委員長とマキアスが羨ましいな……どっちも凄く頭がいいみたいだし。入学試験じゃ、委員長がトップでその次がマキアスだったんでしょ?」

「そうみたいだな。あと、ユーシスやアリサもそうだけど、プリネさんもかなり成績はいいらしい。ラウラやガイウス、ツーヤさんも上位に入るみたいだったしな。」

「そ、そうなんだ。うーん、頑張らなくっちゃ。……それにしても……本当にいいのかなぁ?」

リィンの情報を聞いたエリオットは頷いた後ある事を思い出して考え込み始めた。



「いいって、何がだ?」

「その、ユーシスとラウラ、後プリネとツーヤだよ。何となく対等に話してるけどユーシスとラウラ、それにツーヤは貴族、プリネは皇族出身だし………特にユーシスの実家なんて帝国東部を納める大貴族だし、プリネはあの”英雄王”と”闇の聖女”の娘であると同時にメンフィル帝国の皇族だし、ツーヤは元平民とは言え”伯爵”の爵位を持っている貴族だよ?」

「……まあ、4人共構わないって言ってるんだから気にする必要はないさ。」

「そう言っている割にはリィン、プリネとツーヤの二人に関しては”さん”付けで呼んでいるよね?やっぱり、リィンだって気後れしているじゃん。」

「ハハ……できるだけ早く治そうとは思っているんだけどな……」

エリオットに指摘されたリィンは苦笑しながら答え

「かと言ってマキアスみたいに喧嘩腰なのもどうかと思うが。」

そしてマキアスの態度を思い出して疲れた表情をした。



「そうだよねぇ……あれから、ますます仲が悪くなってるみたいだし……あの二人が同じ場所にいるだけで空気が緊張するんだよね。」

「ユーシスの方も無用に挑発的だからな……そう簡単には打ち解けられないだろう。」

「う、うーん。何とかできればいいけど……」

教室でのユーシスとマキアスがさらけ出す険悪な態度をどうするかに二人が悩みながら歩いていると学院の校門前まで来た後目についた学生寮に視線を向けた。



「平民出身の生徒が住んでいる”第二学生寮”か……僕達、本来だったらあそこに入ってたんだよね?」

「あ、ああ、そうかもな。しかし、まさか”Ⅶ組”が寮まで別とは思わなかった。俺達が入るのに合わせて古い空家を改装したみたいだしな。」

「まあ、意外と綺麗だし、雰囲気も悪くないけど……学院までちょっと歩くのは善し悪しってところかもね。」

「―――邪魔だ、どくがいい。」

二人が立ち止まって会話をしていると高慢そうな声が聞こえ、声が聞こえた方向に振り向くとそこには白い制服を着た貴族生徒が数人いた。



「フン……”Ⅶ組”の連中だったか。……………」

貴族生徒の一人の金髪の男子生徒は鼻を鳴らした後リィンとエリオットの顔をジッと見つめ

「……?」

「え、えっと……?」

生徒の行動に二人は戸惑っていた。



「フッ……しょせんは寄せ集めの連中か。―――行くぞ、みんな。」

「はい、パトリックさん!」

「まあ、せいぜい分を弁えるんだな。

そして貴族生徒達は二人に嫌味とも思える言葉を口にした後その場から去り学院へと向かった。



「はあ……貴族クラスの人達か。やっぱり緊張するなぁ。」

「……まあ、エレボニア貴族と言えば今みたいなのが普通だからな。ラウラ達はまだ話しやすい方だと思うぞ?」

「あはは、そうかもね。」

二人が会話をしていると予冷が鳴り

「予冷か。急がないとな。」

「うん、そうだね。あ、そうそう。クラブの所属ってもう決めた?別に所属しなくてもいいみたいだけど……」

「いや、正直決めかねてるんだよな……」

予冷を聞いた二人は再び学院へと向かい始めた。



数時間後、一日の授業が終わり、ホームルームの時間となった。



「―――お疲れ様。今日の授業も一通り終わりね♪前にも伝えたと思うけど明日は”自由行動日”になるわ。厳密に言うと休日じゃないけど授業はないし、何をするのも生徒達の自由に任されてるわ。帝都に遊びに行ったっていいし、何だったらあたしみたいに一日中寝てても構わないわよ?」

ホームルームでサラ教官は説明を終えた後笑顔になり

「――バレスタイン教官の行動には全く興味はないが、一日中寝るつもりなら、自分がやるべき分の仕事を俺に押し付けないでもらおうか。」

教室の扉付近の壁にもたれかかって聞いていたレーヴェは目を伏せながら指摘し

「ふふ~ん、そっちは”副担任”で”後輩”なんだから”担任”のあたしの言う事は絶対だし、”先輩”を楽させるのが”後輩”の義務でしょう?」

レーヴェの指摘にサラ教官は勝ち誇った笑みで答えた。

「やれやれ……こんな”器”の小さい者に後れを取るとは、俺の予想以上に凡庸な連中だったようだな、ジェスターの連中は。」

「あら、喧嘩売ってんのなら、いつでも買うわよ?生意気な後輩を指導するのも先輩の”仕事”だしねえ?」

しかし呆れた表情で溜息を吐いたレーヴェの言葉を聞いたサラ教官は不敵な笑みを浮かべてレーヴェを見つめ

(レ、レーヴェ……)

(あはは………やっぱりサラ教官、レーヴェさんにかつて受けた”借り”を少しずつ返させているようですね……)

その様子を見た生徒達は冷や汗をかいて呆れ、プリネは疲れた表情をし、ツーヤは苦笑していた。



「え、えっと、学院の各施設などは開放されるのでしょうか?」

するとその時場の空気を変える為にエマが質問し

「図書館の自習スペースが使えるとありがたいんですが……」

マキアスも続くように質問した。



「ええ、そのあたりは一通り使えるから安心なさい。それとクラブ活動も自由行動日にやってる事が多いからそちらの方で聞いてみるといいわね。」

「……なるほど。」

「ふむ、確認しておくか。」

「―――それと来週なんだけど。水曜日に”実技テスト”があるから。」

「”実技テスト”……」

「それは一体どういう……?」

サラ教官の口から出たある言葉が気になったリィンとアリサはそれぞれ真剣な表情になった。



「ま、ちょっとした戦闘訓練の一環ってところね。一応、評価対象のテストだから体調には気を付けておきなさい。なまらない程度に身体を鍛えておくのもいいかもね。」

「――無論、装備は勿論だが戦術オーブメントの確認を怠らないように。テストでは当然戦術オーブメントを使ってもらう予定だ。」

「……フン、面白い。」

「ううっ……何かイヤな予感がするなぁ。」

「……ふぁぁ……」

サラ教官とレーヴェの説明を聞いたユーシスは不敵な笑みを浮かべ、エリオットは不安そうな表情をし、フィーは一切動じずあくびをして眠そうな表情をした。



「そして―――その実技テストの後なんだけど。改めて”Ⅶ組”ならではの重要なカリキュラムを説明するわ。」

「そ、それは………」

「……………(遂に来たか。)」

(オリヴァルト皇子が考えたあのカリキュラムね……)

サラ教官から出た意味ありげな言葉を聞いたマキアスとリィン、プリネはそれぞれ気を引き締めた。



「ま、そういう意味でも明日の自由行動日は有意義に過ごすことをお勧めするわ。HR(ホームルーム)は以上。副委員長、挨拶して。」

「は、はい。起立―――礼。」

そしてホームルームは終わり、クラスメイト達はそれぞれの行動に移り始め、リィンはエリオットとガイウスと談笑していた。



「”実技テスト”かぁ………ちょっと憂鬱だなぁ。魔導杖もまだちゃんと使いこなせていないし。」

「そんなに心配なら一緒に稽古でもしておくか?修練場(ギムナジウム)もあるみたいだし、よかったら付き合うぞ。」

肩を落とすエリオットの様子を見たリィンは申し出たが

「あ、うん……ありがたいんだけど。実はこの後、クラブの方に顔を出そうと思ってるんだ。」

エリオットは申し訳なさそうな表情で申し出を断った。



「なんだ、もう決めたのか。どのクラブにしたんだ?」

「うん……吹奏楽部だよ。といっても担当するのはヴァイオリンになりそうだけど。」

「へえ……ヴァイオリンなんて弾けるのか。趣味でやっていたのか?」

「えへへ、まあね。でもやっぱり幼い頃から専門的な講師に教えてもらった事があるプリネみたいに上手くないけどね。」

「ああ、そう言えばあの二人は吹奏楽部に入った事で一時期有名になっていたな……」

エリオットの話を聞き、プリネとツーヤが吹奏楽部に入った事に一時期騒がしかった事をリィンは思い出し

「アハハ……まさか二人が入るなんて、びっくりだよ。それも二人ともそれぞれの楽器が上手いし、特にプリネがヴァイオリンであの曲を弾いたのは驚いたなぁ。」

「”あの曲”?」

「”星の在り処”だよ。昔エレボニア帝国で流行った曲なんだけど……どうして他国出身の、それも皇族のプリネがあの曲を知っていたのか不思議なんだよね。」

(”星の在り処”………確かエリゼ達の好きな曲の一つだな……確かにエレボニア以外での国ではあまり知られていないあの曲をプリネ姫が知っているのはおかしな話だな……)

エリオットの説明を聞いたリィンは考え込んでいた。



「ねえねえ、ガイウスはどの部に入るか決めたの?」

「ああ、オレは美術部という所に入ろうかと思っている。」

「美術部……ちょっと意外だな。」

「ガイウス、絵とか書くんだ。」

普通の生徒より大きな体格を持つガイウスが入る部活を知ったリィンとエリオットはそれぞれ目を丸くした。



「故郷にいた頃にたまに趣味で描いていた。ほぼ我流だから、きちんとした技術を習えるのはありがたいと思ってな。」

「そっかぁ……」

「ちょっと見たい気がするな。」

3人が談笑していると教室の扉が開き、サラ教官が教室に入って来てリィン達に近づいて話しかけてきた。



「よかった、まだ残ってたわね。」

「サラ教官。」

「どうしたんですか?」

「いや~、実は誰かに頼みたい事があったのよ。この学院の”生徒会”で受け取って欲しいものがあってね。」

本来なら重大な事でありながらも、その事を伝える事をすっかり忘れていたサラ教官だったが、悪びれた様子を一切見せず苦笑しながら言った。



「受け取って欲しい物……」

「それは一体……」

「ふふっ、学院生活を送る上で欠かせないアイテムって所かな。誰でもいいから、全員分を受け取ってきて欲しいのよ。」

「―――だったら、俺が受け取ってきますよ。”生徒会”という所にこの後、行けばいいんですね?」

「え、でも……」

「いいのか?」

リィンの申し出を聞いたエリオットは申し訳なさそうな表情をし、ガイウスは目を丸くして尋ねた。



「ああ、二人はこれからクラブの方に行くんだろう?俺はまだ決めていないし、見学がてら受け取ってくるさ。」

「そっか……じゃあ、お願いしようかな。」

「よろしく頼む。」

その後サラ教官から”生徒会”の場所を聞いたリィンは生徒会がある場所へと向かい始め、生徒会がある場所を探しているとある生徒が声をかけてきた。

「よ、後輩君。」

声が聞こえた方向に振り向くとバンダナの青年がリィンに近づいてきた。

「えっと……?」

「お勤めゴクローさん。入学して半月になるが調子の方はどうよ?」

「あ、ええ……(どうやら先輩のようだな。)―――正直、大変ですけど今は何とかやっている状況です。授業やカリキュラムが本格化したら目が回りそうな気がしますけど。」

「はは、わかってんじゃん。特にお前さん達は色々てんこ盛りだろうなからなー。ま、せいぜい肩の力を抜くんだな。」

「は、はあ……えっと、先輩ですよね。名前を伺っても構いませんか?」

なれなれしい態度で話しかけてくる青年にリィンは戸惑いながら名前を尋ねた。



「まあまあ、そう焦るなって。まずはお近づきの印に面白い手品をみせてやるよ。」

「手品……?」

「んー、そうだな。ちょいと50ミラコインを貸してくれねえか?」

「え、ええ。(確かあったよな……)」

青年に言われたリィンは戸惑いながら50ミラコインを青年に手渡した。



「お、サンクス。そんじゃあ―――よーく見とけよ。」

「え……」

そしてリィンが50ミラコインに集中すると青年はコイントスをし

(……っ……)

リィンが見守る中、素早く両手を出して落ちてきた50ミラコインを握った。



「―――さて問題。左手と右手。どっちにコインがある?」

「それは――――左手です。」

「残念、ハズレだ。」

リィンの答えを聞いた青年は静かな笑みを浮かべて握っていた左手を開けるとそこには何もなかった。



「……参りました。動体視力には結構自信があったんですけど。って、あれ?手品っていうことは―――」

「こういうことさ。」

「え。」

更に青年が両手を開けるとそこには何もなく、それを見たリィンは目を丸くした。



「フフン、まあその調子で精進しろってことだ。せいぜいサラのしごきにも踏ん張って耐えて行くんだな。――そうそう生徒会室なら2階の奥だぜ。そんじゃ、よい週末を。」

そして青年はその場から去って行き

「……あ、50ミラ……」

青年が去った後青年に貸した50ミラが帰ってきていない事に気付いたリィンは肩を落とした。

(ふう、完全に一本取られたなあ。俺が生徒会室に行く事も何故か知っていたみたいだし。どうやら2年生も結構クセモノ揃いみたいだ。)

その後リィンは生徒会室の前に到着し、扉にノックした。



~学生会館・生徒会室~



「はいはーい。鍵はかかってないからそのままどーぞ。」

「(あれ、この声……)―――はい、失礼します。」

扉の奥から聞こえてきた聞き覚えのある声に目を丸くしたリィンが扉を開けて中に入ると入学式の際、校門で出会った女子生徒がリィンに近づいてきた。



「あ……あの時の。」

「えへへ、2週間ぶりだね。生徒会室にようこそ。リィン・シュバルツァー君。サラ教官の用事で来たんでしょ?」

「え、ええ。生徒会の方だったんですね。(飛び級なのか……?改めて見るとフィーよりも歳下みたいだけど……)」

「???どうしたの?」

不思議そうな表情で自分をジッと見つめるリィンの行動に女子生徒は首を傾げて尋ねた。



「いえ、その、やっぱり2年の方なんですよね?」

「あはは、そんなにかしこまらなくていいよー。この学院の生徒会長のトワ・ハーシェルっていいます。改めてよろしくね、リィン君。」

「せ、生徒会長ッ!?」

目の前の小柄な女子生徒―――トワが生徒会長だと知ったリィンは信じられない表情で声を上げた。

「うん、そうだけど?これから、君達新入生に関わることも多いと思うんだ。困っていることや相談したいことがあったらぜひ生徒会室まで来てね?いっしょうけんめいサポートさせてもらうからっ。」

「は、はい……よろしくお願いします。(信じられないけどどうやら本当みたいだな……)……コホン。それでサラ教官の用事ですが。自分達”Ⅶ組”に関する何かを預かってもらっているとか?」

「あ、うんうん。これなんだけど……はい、どうぞ。一番上のがリィン君のだよ。」

トワは机に置いてある手帳の束を取ってリィンに手渡した。



「これは……学生手帳―――そう言えばまだ貰っていませんでしたね。」

手渡された手帳の束―――学生手帳を見たリィンは目を丸くした。

「ごめんね、君達”Ⅶ組”はちょっとカリキュラムが他のクラスと違ってて……”戦術オーブメント”も通常とは違うタイプだから別の発注になっちゃったんだ。」

「戦術オーブメント……”ARCUS”のことですね。」

「うん、学生手帳には戦術オーブメントの説明者も載っているんだけど……他の一年生の子は今までと同じ標準タイプだから同じレイアウトが使えたんだ。でも君達のは特注品で、かなり操作説明も違うから少し時間がかかっちゃったの。」

「そうだったんですか……って、もしかしてそういった編集まで会長が。」

トワの説明を聞いたリィンは驚いた後ある事に気付いてトワを見つめて尋ねた。



「うん、サラ教官に頼まれて。ごめんねー?こんなに遅れちゃって。」

「いえ、とんでもないですよ!むしろ恐縮というか……そもそも、それって生徒会の仕事なんですか?明らかに教官が手配するべき仕事のような気が……」

トワに謝られたリィンは謙遜した後本来ならサラ教官がやるべき事である事に気付いてこの場にはいないサラ教官を呆れるかのようにジト目になって尋ねた。



「うーん、サラ教官もいっつも忙しそうだし……かと言って副担任のレオン教官もサラ教官の補佐の形で動いているから忙しそうだし……他の教官の仕事を手伝うことも多いから、今更って感じかなぁ?」

「(いい人だ……途方もなく。)――えっと、それでは他の手帳を”Ⅶ組”のみんなに私ておけばいいんですね?」

トワの人柄に冷や汗をかいて驚いたリィンはすぐに気を取り直して尋ねた。



「うん、よろしくねー。うーん、でもリィン君たちも一年なのに感心しちゃうな。」

「……?えっと、何がですか?」

「えへへ、サラ教官からバッチリ事情は聞いてるから。何でも生徒会のお仕事を手伝ってくれるんでしょ?うんうん。さすがは新生”Ⅶ組”だねっ。」

「その……一体何の話ですか?」

トワの口から出た予想外の話に冷や汗をかいたリィンは戸惑いの表情で尋ねた。



「えっと、生徒会で処理しきれないお仕事を手伝ってくれるんでしょう?『特科クラス』の名に相応しい生徒として自らを高めようって――みんな張り切っているから生徒会の仕事を回してあげてってサラ教官に頼まれたんだけど……」

「…………………」

トワの説明を聞いたリィンはサラ教官が生徒会室の場所を教えた後にウインクをした意味をようやく悟った。



(あの表情はそう言う事か……)

「ひょ、ひょっとしてわたし、何か勘違いしちゃってた……?入学したばかりの子達に無理難題を押し付けようとしてたとかっ……!?」

固まっているリィンの様子を見たトワは慌て出し

「(うっ……)――いえ。その、サラ教官の話通りです。随分お忙しそうだし、遠慮なく仕事を回してください。」

トワの様子を見たリィンは唸った後すぐに気を取り直すと共に覚悟を決めて答えた。



「そ、そっかぁ……ビックリしちゃった。えへへ、でも安心して。あまり大変な仕事は回さないから。えっとね。大抵のものは士官学院や町の人達からの『依頼』になると思うんだ。」

「『依頼』……ですか?」

「うん、生徒会に寄せられた色々な意見要望ってところかな。今日中にまとめて、朝までに寮の郵便受けに入れておくから。とりあえずリィン君のポストに入れてもいいかな?」

「ええ、お願いします。」

その後トワに夕食を奢られる事となったリィンがトワに別れを告げて、建物を出ると既に夜になり、寮に帰ろうとしたときアークスに通信が入り、リィンは通信を開始した。



「えっと……リィン・シュバルツァーです。」

「グーテンターク。わが愛しの教え子よ。どうやら会長に夕食を奢ってもらったみたいね?」

「……その愛しの教え子をだまし討ちしてくれましたね。どういうつもりなんですか?」

声を聴いて通信相手がサラ教官だとわかったリィンは呆れた表情で尋ねた。



「―――詳しくは言えないけど来週伝える”カリキュラム”にもちょっと関係してるのよ。誰か一人にそのリハーサルをやってもらおうと思ってね。生徒会が忙しすぎるのも確かだし、一石二鳥の采配だと思わない?」

「会長の仕事を増やしているのは教官たちな気もするんですが……まあ、趣旨はわかりました。明日の自由行動日に生徒会の手伝いをすればいいんですね?」

「あくまで君の判断に任せるわ。特定のクラブに入るつもりなら無理にとは言わないよ?」

「いえ、ピンと来るものがまだないので問題ありません。ですが―――1つだけ。どうして”俺”なんですか?」

「…………………」

リィンの問いかけに対し、サラ教官は何も答えず黙り込んでいた。



「クラス委員長はエマだし、副委員長はマキアスですよね?身分で言うなら、ユーシスやラウラは勿論、プリネさんやツーヤさんのような真っ当な貴族、皇族出身者までいる―――なのに何故、俺なんですか?」

「ふふっ……それは君が、あのクラスの”重心”とでも言えるからよ。」

「え……」

「”中心”じゃないわ。あくまで”重心”よ。対立する貴族生徒と平民生徒、留学生、そしてかつての敵国の皇族、貴族生徒までいるこの状況において君の存在はあらゆる意味で”特別”だわ。それは否定しないわよね?”姫君の中の姫君(プリンセスオブプリンセス)”の”3人目の護衛”君?」

「!それは……………………」

サラ教官に驚いたリィンは複雑そうな表情で黙り込んでいた。



「そしてあたしいは、その”重心”にまずは働きかけることにした。”Ⅶ組”という初めての試みが今後どうなるかを見極めるために。それが理由よ。」

「…………………」

サラ教官の話を聞いて黙り込んでいたリィンだったが通話越しに聞こえてくる何かを飲む音を聞き、苦笑しながら指摘した。

「って教官。何を飲んでいるんですか?」

「ビールよ、ビール。週末なのに部屋で寂しく一人酒に決まってるじゃないの。まったくもう、ダンディで素敵なオジサマの知り合いでもいたら一緒に飲みに行ってるんだけど。」

「あのですね……」

「――ま、あんまり深く考えずにやってみたら?どうやら”何か”を見つけようと少し焦ってるみたいだけど……まずは飛び込んでみないと”立ち位置”も見出せないわよ?」

「!」

「ふふっ、それじゃあね。寮の門限までにはちゃんと帰ってくるのよ~?」

そしてサラ教官は通信を切り、リィンはアークスを元の位置に戻し

「”立ち位置”か……そうだな―――まずは動いてみるか。」

やがて夜空を見上げて呟いた後寮に向かって歩き出した。



その後エリオット達に学生手帳を配り終えたリィンは翌日の”自由行動日”に備えて床についた。 
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