見習い悪魔

第七章

　チブスはすぐにアミィーの元に戻り報告した。魔神はそれを聞いてまずは喜びの声を出すのであった。
「そうか。それは何よりだ」
「はい、やりました」
「しかし最後は力を使わなかったな」
　魔神はこのことを彼に言ってきた。
「それはどうしてだ？」
「あっ、すいません」
　チブスは言われてやっと気付いたのだった。
「それはつい」
「人間の戦いに見惚れていたか」
「申し訳ありません」
「いや、いい」
　だが魔王はそれをいいとしたのだった。
「それは構わない」
「構わないのですか」
「目的は達した。それに人間の力は確かに凄いものがある」
「そうですね。それは確かに」
「それがわかったこともいい」
　それもだというのである。
「大きな収穫だったな」
「どうもです」
「そしてだ」
　魔神はチブスにさらに言うのであった。
「目的も達したしな」
「私のですね」
「天使の思惑を覆した。それはいいことだ」
「はい、確かに」
「だが」
　しかしであった。魔神はここでこんなことも言った。
「あの魔物もそれで叱責はされていないだろう」
「それは何故ですか？」
「あちらも目的を果たしたからだ」
　だからだというのである。
「その目的をな」
「えっ、ですが」
　チブスは魔神の今の言葉を聞いてだ。その大きな目をしばたかせてそのうえで問うた。
「あいつ失敗しましたよ。それでもですか？」
「中日を優勝させることは失敗したがそれでも目的は果たしたのだ」
「どういうことですか？それは」
「野球は阪神や中日だけではない」
　アミィーはこのことも話した。
「他にもチームはあるな」
「ええ、まあ」
　一年間阪神と一緒にいれば嫌でもわかることだった。野球は一つのチームだけではできはしない。特にリーグとなるとそれだけのチームが必要なのだ。
「その通りですけれど」
「巨人だ」
　ここで魔神はこのチームの名前を出したのだった。
「巨人を優勝させてはいけなかったのだ」
「巨人をですか」
「これは天界の考えでもあったし魔界の考えでもあった」
　双方の考えだというのである。
「それも達成されなくてはいけなかったのだ」
「何時の間にそんなことが」
「最初御前はただ仕事に慣れさせる為に行かせた」　
　その真相も話される。
「しかし。御前は野球に入ったな」
「まあ成り行きで」
「しかし他にもそうした話があったのだ」
「そうだったんですか」
「そして御前は阪神を優勝させた」
「最後はもう見ているだけでしたけれどね」
　ここではありのまま話したのだった。実はそうだったのだ。彼もミザルにしても最後の方はもう人間と人間の勝負を見守るだけだった。
「それでもですか」
「それでもだ。決まっていたのだ」
「巨人を優勝させない」
「我々にしろ天界にしても人間の世界はある程度元気でなくては困るのだ」
　その事情も話すのだった。
「その為に巨人には優勝してもらっては困ることだったのだ」
「だからですか」
「そう、、だからだ」
　その事情も話すのだった。
「巨人の優勝は阻止しなければならなかった」
「どうして巨人は優勝してはいけなかったんですか？」
　それはチブスにはわからない話だった。魔神の話を聞いていてその間にもついつい首を傾げさせてだ。そのうえで言うのであった。