英雄伝説~運命が改変された少年の行く道~(閃Ⅰ篇)
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序章~トールズ士官学院~ 第1話
「へえ……!」
~近郊都市・トリスタ~
駅から現れた赤い制服を着た黒髪の男子――――リィン・シュバルツァーは街の到る所にある木に咲いている花を見て声を上げた。
「ライノの花か……こんなに咲いているのは初めて見たな。(ここで2年間、過ごすことになるのか……うん。居心地の良さそうな街だな。)」
街の景色をリィンが見つめていると後ろから、赤い制服を着た金髪の女子が周囲の風景を見ながら歩いて来てリィンにぶつかり
「きゃっ……」
リィンにぶつかった女子は地面に跪き
「え―――」
ぶつかられたリィンは呆けた。
「あいた……」
「ご、ごめん、大丈夫か?……すまない。俺がぼうっとしてたせいだな。」
地面に跪いた女子にリィンは申し訳なさそうな表情で謝罪しながら手を差し伸べ
「ふふっ……」
手を差し伸べられた女性は微笑んだ後リィンの手を借りて立ちあがった。
「気にしないで。私も花に見惚れちゃってたから。でも、すごく良さそうな街ね?」
「ああ、俺もちょうど同じ事を思っていた所さ。トランク、大丈夫か?落としちゃったみたいだけど。」
「ええ、心配しないで。それにしても……同じ色の制服なのね?」
「そういえば……みんな緑の制服だけど一体どうなっているんだ?送られてきた物を着てただけなんだが……」
女子の言葉を聞いたリィンは周囲の緑の制服を着た学生たちを見て不思議そうな表情をしていた。
「それは私も同じだけど……でも、他にも着ている人を見かけたし、理由があるかもしれないわね。それこそ同じクラスだったりとか。」
リィンの言葉に頷いた女子は笑顔をリィンに向け
「あ……」
女子の言葉を聞いたリィンは呆けた。
「ふふっ、それじゃあ。入学式の時にまた会えそうな気もするけど。」
そして女子はリィンから去って行った。
「……名前、聞いとくんだったな。まあいいや、これから先も顔を合わせる機会はありそうだし。しかし同じ色の制服か……」
女子が去った後リィンは溜息を吐き、そして気を取り直して考え込み、懐からオーブメントを取りだした。
「この装置にしても制服と一緒に届いたわりには何の説明もなかったし。士官学校の備品にしてはかなり凝ってるみたいだけど……」
リィンがオーブメントを見つめて考え込んでいたその時
「わあ……!綺麗ですね、マスター……!」
「ええ………こんな景色は今まで見た事なかったわ……」
「……ライノの花だな。1年を通して全体的に気温が低いハーメルでは決して咲かない花だな。」
リィンや金髪の女子と同じように赤い制服を着た黒髪の女性、夕焼け色の髪の娘、そして2人とは違って漆黒の軍服を着た銀髪の青年が駅から現れた。
「!?プ、プリネ姫!それにルクセンベール卿やレオン少佐まで……!」
夕焼け色の髪の娘を見たリィンは驚いた後、黒髪の女性や銀髪の青年を見て驚いた。
「あら?どうして私の事を……」
夕焼け色の髪の娘―――プリネは首を傾げ
「………リウイ陛下から話にあった同級生として当てられたお前の護衛だろう。」
「あ……」
青年に言われたプリネは声を上げ
「―――――シュバルツァー家のご子息のリィンさんでしたね。これから2年間、短い間ですが一緒にマスター……いえ、”プリネさん”を守っていきましょうね。」
黒髪の女性はリィンに微笑み
「ハッ!私のような未熟者の剣では足を引っ張る事もあるかと思いますが粉骨砕身のつもりで護衛させていただきます!」
微笑まれたリィンは姿勢をただして言った。
「フフ、そんな畏まらなくても大丈夫ですよ。今は同じ学生同士なのですから、私の事は皇女扱いしないで下さい。」
「し、しかし……」
プリネに微笑まれたリィンは戸惑ったが
「………プリネ姫を悪目立ちさせない為にも過度な接し方は止めた方がいい。ただでさえ、お前自身も十分悪目立ちする”理由”があるからな……」
「!!………わかりました。それと……今後は何とお呼びすればいいでしょうか?」
静かな表情の青年に言われたリィンは目を見開いた後頷き、真剣な表情でプリネを見つめて言った。
「皇族に対する呼び方ではなく、同級生同士の呼び方でお願いします。」
「勿論、あたしも同じ接し方でお願いします。」
「……………でしたら……”プリネさん”と”ツーヤさん”でいかがでしょうか?」
「う~ん………まだ固い呼び方のような気もしますね。何でしたらツーヤ共々呼び捨てで呼んで貰っても構いませんよ?」
「そ、そんな!さすがにそれは恐れ多いです……!」
プリネに言われたリィンは慌てた様子で言い
「プリネさん……さすがにそれは無茶ですよ……あたしだって正直、プリネさんの呼び方を元の呼び方に戻したいぐらいなのですよ?」
「……訓練兵相手に皇族や貴族を呼び捨てで呼ばせる等いくらなんでも無茶すぎる提案だぞ。」
黒髪の女性は苦笑しながら言い、青年は呆れた表情で指摘した。
「フフ、そうかもしれないわね。――――それでは私達は先に行きますので、また後で。」
二人の言葉を聞いたプリネは微笑んだ後二人と共にリィンから去って行った。
「フウ………それにしてもどうしてプリネ姫達が士官学院に留学したんだろう……?留学するとしても姫達なら”聖アストライア女学院”だと思ったんだけどな………やっぱり臨時教官役として赴任するレオン少佐が護衛につく事ができないからかな……?」
プリネ達が去るとリィンは溜息を吐いた後考え込み
「―――まあいい、そろそろ行こう。(……リフィア殿下の侍女として頑張っているエリゼに負けないようにプリネ姫の護衛を無事務めないと……!)」
すぐに気を取り直して、自分が向かうべき場所へと向かって行った。リィンがある場所へ向かっていると、執事風の老人が赤い制服を着た青髪の女子に何かを渡していた。
「―――それではお嬢様。ご武運をお祈りしております。」
「うん、ありがとう。爺も元気で、父上の留守はよろしく頼んだぞ。」
老人から何かを受け取った女子は受け取った品物を肩に担いた後老人を見つめて言った。
「ハハ、心得ております。」
老人の返事を聞いた女子は老人から去って行った。
「これは失礼―――よき日和でありますな。この度はご入学、誠におめでとうございます。」
リィンに気付いた老人はリィンに一礼をして答え
「あ……―――ええ。ありがとうございます。」
老人の言葉を聞いたリィンは呆けた後軽く頭を下げ、リィンの言葉を聞いた老人はどこかへと去って行った。
(……颯爽としたご老人だな。どこかの家の執事みたいだけど。さっきの娘は貴族出身か……凛としたただずまいだったし、名のある武門の出かもしれないな。)
そしてリィンは目的地―――”トールズ士官学院”に到着した。
~トールズ士官学院~
「……ここが……かのドライケルス大帝が創設したと伝えられる学校か。」
学院に到着したリィンは学院の景色を見つめて呟いた。するとその時クラクションが鳴らされ、クラクションに気付いたリィンがその場をどくと一台のリムジンが現れ、リムジンの運転手が出てきた後、後部座席のドアを開いた。
「―――お疲れ様です。士官学校に到着いたしました。」
「ご苦労。」
するとリィンと同じ赤い制服を着た金髪の男子がリムジンから現れた。
「お荷物、お持ちいたします。」
その時運転手が申し出たが
「―――無用だ。悪目立ちをするつもりはない。」
「で、ですが………」
男子の答えを聞いて戸惑った。
「無用と言っている。後は適当に休憩してからバリアハートへ戻るがいい。」
「……は。それでは失礼いたします。佳き学院生活を……お体にはお気を付け下さい。」
男子の言葉を聞いた運転手は軽く頭を下げ、男子は学院へと向かい、運転手はリムジンに乗り込んで去って行った。
(導力リムジン……ラインフォルトの最高級モデルか。やはり大貴族の子弟も入学してきているみたいだな。)
そしてリィンも学院の敷地内へと入って行った。
「―――ご入学、おめでとーございます!」
するとその時少女の声が聞こえてきた後、緑の制服を着た小柄な少女が黄色の作業服を着ている太った青年と共にリィンに近づいた。
「うんうん、君が最後みたいね。リィン・シュバルツァー君、―――でいいんだよね?」
「は、はい。――――どうもはじめまして。しかし……どうして自分の名前を?」
少女に尋ねられたリィンは戸惑った様子で頷いた後尋ねた。
「えへへ……ちょっと事情があってね。今はあんまり気にしないで。」
「???」
「それが申請した品かい?いったん預からせてもらうよ。」
「ああ……案内書にあった通りですね。」
太った青年に言われたリィンは持っていた包みを青年に渡した。
「―――確かに。ちゃんと後で返されるとは思うから心配しないでくれ。」
「入学式はあちらの講堂であるからこのまま真っ直ぐどうぞ。あ、そうそう。”トールズ士官学院”へようこそ!」
「入学おめでとう。充実した2年間になるといいな。」
二人の言葉を受けたリィンは頭を軽く下げた後二人から去り
(一応、二人とも先輩なのかな?女子のほうはちょっと年上には見えなかったけど……しかし『俺が最後』と言ってたがどういうことなんだ……?)
二人からある程度離れるとリィンは二人を見つめて考え込んでいた。するとその時チャイムが鳴った。
(……そろそろ入学式の時間か。2年間の学院生活の始まりだ。気を引き締めて行こう。)
そしてリィンは講堂に向かい、入学式に参加した。
その後入学式が始まり、学院長であるヴァンダイクが新入生たちの前で演説をしていた。
~トールズ士官学院・講堂~
「―――最後に君達に一つの言葉を贈らせてもらおう。本学院が設立されたのはおよそ220年前のことである。創立者はかの”ドライケルス大帝”――――”獅子戦役”を終結させたエレボニア帝国、中興の祖である。―――即位から30年あまり。晩年の大帝は、帝都から程近いこの地に兵学や砲術を教える士官学院を開いた。近年、軍の機甲化と共に本学院の役割も大きく変わっており、軍以外の道に進む者も多くなったが……それでも、大帝が遺した”ある言葉”は今でも学院の理念として息づいておる。」
演説を続けていたヴァンダイクは大きく息を吸った後、両手を机について前に乗り出し
「『若者よ―――世の礎たれ。』”世”という言葉をどう捉えるのか。何をもって”礎”たる資格を持つのか。これから2年間で自分なりに考え、切磋琢磨する手がかりにして欲しい。―――ワシの方からは以上である。」
大声で言った後説明をし、笑顔になった。
(『世の礎たれ』か……)
ヴァンダイクの演説を聞いたリィンが考え込んだその時
「うーん、いきなりハードルを上げられちゃった感じだね?」
隣の席に座っている夕焼けのような赤毛の少年がリィンに声をかけてきた。
「ああ、さすがは”獅子心皇帝”と言うべきか。単なるスパルタなんかよりも遥かに難しい目標だな。」
「あはは、そうだね。僕はエリオット・エリオット・クレイグだよ。」
リィンの言葉に笑顔で答えた少年―――エリオットは自己紹介をし
「リィン・シュバルツァーだ。そういえば……同じ色の制服だな?」
リィンの自己紹介をした後エリオットが着ている赤い制服を見て尋ねた。
「うん、どういう事なんだろうね?ほとんどの新入生は緑色の制服みたいだけど……あ、向こうにいる白い制服は貴族の新入生なのかな?」
尋ねられたエリオットは不思議そうな表情で頷いた後最前列にいる白い制服を着ている生徒たちを見つめ
「ああ、そうみたいだな。だが…………」
リィンも答えた後考え込んだ。
「どうしたの?」
「いや、何でもない。」
エリオットに尋ねられたリィンが答えたその時
「―――以上で”トールズ士官学院”、第215回・入学式を終了します。」
男性の声が聞こえた後声が聞こえた方向を見つめた。
「以降は入学案内書に従い、指定されたクラスへ移動する事。学院におけるカリキュラムや規則の説明はその場で行います。以上―――解散!」
その後リィンやエリオット達――――赤い制服の生徒たち以外は全員講堂を出て行った。
「指定されたクラスって………送られてきた入学案内書にそんなの書いてあったっけ?」
「いや、なかったはずだ。てっきりこの場で発表されると思っていたんだが……」
講堂を出て行く生徒たちを見つめて戸惑っているエリオットの言葉にリィンが答えたその時
「はいはーい。赤い制服の子達は注目~!」
女性の声が聞こえ、声が聞こえた方向に振り向いた。
「どうやらクラスがわからなくなって戸惑ってるみたいね。実は、ちょっと事情があってね。―――君達にはこれから『特別オリエンテーリング』に参加してもらいます。」
女性教官はリィン達を見回して説明し
「へ……!?」
「特別オリエンテーリング……」
説明を聞いた眼鏡の男子は驚き、金髪の女性は呆け
「ふむ………?」
「……………………………」
青色の髪の女子は考え込み、銀髪の少女は黙り込み
「フフ、一体何をさせられるのかしらね?」
「”あの人”が関わっていますから、絶対普通ではない事をさせられそうですね……」
プリネは微笑み、プリネの側にいる黒髪の女子は苦笑し
(………なるほど。事前に資料をもらったが、あの皇子が関わっているだけあって、さまざまな”事情”がある曲者揃いのクラスだな……………)
漆黒の軍服を着た銀髪の青年教官は静かな笑みを浮かべてリィン達を見回していた。
「まあ、すぐにわかるわ。それじゃあ全員、あたしとそこの銀髪教官についてきて。……あんたもそこにいつまでもつったてないで行くわよ。」
そして女性教官はリィン達を見回して言った後銀髪の青年に視線を向け
「………了解した。」
視線を向けられた青年は頷いた後女性教官と共に講堂を去って行った。
「え、えっと……」
去って行く2人を眼鏡の女性は戸惑いながら見つめ
「とりあえず行くしかなさそうだ。」
長身の男子は呟き
「……やれやれだな。」
金髪の男子は溜息を吐いた後去って行った2人を追っていった。
「えっと……ホント、どういう事なのかな?」
「わからないが……とにかく行ってみよう。」
そしてエリオットとリィンも生徒たちの後を追い
(………フン……………?)
その様子を白い制服の男子は考え込みながら見つめていた。そしてリィン達が教官達についていくと、古びた建物に到着した。
~旧校舎~
「こ、ここって……」
「士官学院の裏手……ずいぶん古い建物みたいだな。」
建物を見つめたエリオットは表情を引き攣らせ、リィンは戸惑い
「もしかして旧校舎でしょうか………?」
「そういえばジェニス王立学園にあったのとちょっとだけ雰囲気とかも似ているわよね……?」
黒髪の女子とプリネは考え込み
(………ジェニス王立学園だと………?)
二人の言葉を聞いた金髪の男子は眉を顰めて二人を見つめていた。
「~~~♪」
そして女性教官は鼻歌を歌いながら建物の中に入り
「……………」
銀髪の青年は何も言わず入って行った。
「こんな場所で何を……?」
「くっ……ワケがわからないぞ……?」
その様子を見ていた金髪の女子と眼鏡の男子は戸惑い
「まあ、考えても仕方あるまい。」
青髪の女子は呟いた後周囲の生徒たちと共に建物の中に入っていった。
「な、何かいかにも”出そう”な建物だよね………?」
エリオットは建物を見つめて冷や汗をかき
「……そうだな。(しかし、街で見かけた顔ぶれが一通り集まっているな。やはり同じクラスなのか……?)」
エリオットの言葉に頷いたリィンは考え込んだ後建物の中に入って行った。
「―――ほっほう、あれが俺達の後輩ってわけだな?」
その様子を遠巻きで見ていたバンダナの青年は呟き
「まあ、名目こそ違うが似たようなものだろうね。」
黒いツナギの娘は青年の言葉に頷いた。
「私達の努力が報われたのならこんなに嬉しいことはない。一年間、地道に頑張った甲斐があるというものだよ。」
「だよな~………って、お前は努力なんかしてねぇだろ。好き勝手やっただけじゃねーか。」
「フッ、それは君も同じだろう。しかしアリサ君といい、可愛い子ばかりで嬉しいな。これは是非ともお近づきにならないとね♪」
「へえ、知り合いでもいんのか?」
表情を赤らめて言った娘の言葉を聞いた青年は尋ねたが
「……じゃなくて!コナかけまくるんじゃねーよ!お前のせいでこの一年、どんだけの男子が寂しい思いをしたと思ってやがるんだ!?」
すぐにある事に気付いて娘を睨み
「……………(フッ)」
睨まれた娘は鼻で笑い
「は、鼻で笑いやがったなァ?」
青年は娘を睨んでいた。
「も~、二人ともケンカしちゃダメじゃない。」
その時少女の声が聞こえた後、二人に小柄な少女と太った青年が近づいてきた。
「やあ、二人ともお疲れ。」
「他のヒヨコどもは一通り仕分け終わったみてーだな?」
「うん、みんなとってもいい顔をしてたかな。よーし!充実した学院生活を送れるようしっかりサポートしなきゃ!」
「フフ、さすがは会長どの。」
「おーおー、張り切っちゃって。」
笑顔を浮かべている小柄な少女を娘と青年は微笑ましそうに見つめ
「まあ、多少の助けがないと最初のうちは厳しいだろうしね。―――それで、そちらの準備も一通り終わったみたいだね?」
太った青年は二人を見つめて尋ねた。
「ああ、教官の指示通りにね。しかし何というか……彼らには同情禁じえないな。」
「ま、それは同感だぜ。本年度から発足する”訳アリ”の特別クラス……せいぜいお手並みを拝見するとしようかね。」
そして娘の言葉に頷いたバンダナの青年は旧校舎を見つめていた……………
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