宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第二部
狩るということ
じゅういち
前書き
第二部らしいですよ
突然ではあるが、我々の種族の寿命は非常に長い。
どれほど長いかと言うと、1700年代の地球で狩りを行った個体がいま現在、地球時間で2000年を越えて、現役で生きているくらいには長い。
また、肉体のピークが訪れるまでも早く、それが死ぬギリギリまで続くと言うのだから、間違いなく戦闘のために特化した、戦闘民族と言えるだろう。
実は、そんな我々の種族の寿命というのは不明瞭な部分が多く、私自身よく分かっていないのだ。
その理由はひどく簡単であり、何とも言えないものではあるが、狩りにおいてその生を終えることが、そのほとんどを占めるためだ。
そんなところにまで、何となく残念臭が漂うのは、ある意味で愛しさすら覚える。
裏を返せば、それだけ自分達のライフワークである狩りに重きを置き、誇りを持っていることに他ならない。
では、私はどうなのか。
一種族の者として、それだけの誇りや自尊心を持って狩りを行っているのか。
その答えはNO!
である。
そこは誇りを持って断言できる。
というか、いま現在の私は3日間ほど外にすら出ていない。
女騎士、エリステイン・フラウ・リンドルムとのエンカウントより早3日。
何だか3日前は人間と遭遇することに関して、色々と考えていたが、それも早々に予定が狂ったしまった。と、いうよりも、エリステインがある意味で規格外だった、というのが正しい言い方か。
そうなると、なんだか考え過ぎるのも馬鹿らしくなってしまい、この出会いをもっと前向きな方向に考えようと、思考をシフトしたのである。
我々は長いときを生きる生き物である。故に、いちいちそんな些細なことを気にしていたら、それこそ禿げ上がってしまう。
人これを開き直りと呼ぶとか、呼ばないとか。
取り合えず、この3日間においては、船のエンジンを一から見直している最中だ。
一応、自分で組み立てられるだけのガワを剥がして、細かく精査していく。といっても、スキャンに掛けるのが主な作業になってくるのだが。
とは言え、部品も多ければそれなりに細かいので、意外と緊張感があったりする。
何と言っても、背凭れを直すのすら、破片が足りない事態に陥ってしまったのだ。
それがこと、船のエンジンともなれば、更に神経を研ぎ澄ませて行わなければならないのは自明の理。ヘルメットの機能を最大限に活用しつつ、繊細かつ大胆な私の指捌きに隙はない。
低い顫動音を鳴らしながらの姿は、シュールだが。
本日のノルマとなるパーツのスキャンを終えて、元に戻すために組み立てを行っている私をメディアが見れば、「下町を支える伝統工芸職人」として取り上げることは請け合いだ。
主にテレ東で。
あのブレない感じ、私は嫌いじゃない。
「よし、あとはこれを取り付ければ元通り」
そうして手に持ったパーツを合わせようと、カチャカチャと両手指を動かす。
向きを変え、差し込む位置を変え、少し考えてから手を変え品を変え、そこまでして、私は気付く。
アカン、これ違う。
「……え、うそ。じゃあ、これドコの部分よ」
私の繊細かつ、大胆な指捌きはまだ終わらない。
―
あれから小一時間、私は再度バラしては組み立てを3度ほど行い、無事に何事もなくエンジンルームを出て、現在は背凭れのない操縦席に座っている。
浮かび上がる立体映像に目を通しては、著しく変化のない状況に深く溜息をついて、両膝に両肘をつく格好で前のめりになる。
いつもの癖で背凭れに体を預けようとして、そのまま倒れてしまったための、苦肉の策だ。
さて、どうしたものかと、私の癖で口元に生えている4本の牙をカチカチ鳴らす。
顫動音と牙のカチカチ音。図書館に居れば即座に職員がやって来て、退館願いが出されるだろうが気にしない。
さて、エリステインという人族に、私の存在が知れたいま、少なくとも船だけは移動させねばならない。
彼女と別れる際、私の存在を口外しないように言い含めてはいるが、近隣で何かがあれば私自身が関係せずとも、彼女自身が私を紐付けて考えてしまう可能性がある。もしその際に、彼女よりも立場が上の者から問い質されれば、答えないわけにはいかないだろう。
そういうリスクも考えて、高度な知的生命体との接触は避けようとしていたのに、いまとなっては後の祭りだ。
船の存在自体は知られていないのと、私への認識は亜人族(デミ・ヒューマン)といった、この地固有のものとして考えられているのは僥倖と言えるか……。
つきたくもない溜息を、無意識の内に吐いてしまう。
と、船内にアラートが響く。
まさかと思い、勢いよく身を起こした私は、映し出された立体映像に絶句する。
そこに映っているのは件の女騎士、エリステイン・フラウ・リンドルムであった。
―
「何をしているんだ、貴様は」
木に背中を預け、私の体重を支えられる枝の上から、既に光学迷彩を解いた姿で、私は呆れ気味に彼女へ問い掛ける。
「来てくれると思ってました」
低いグロウルの効いた機械音で、背後から声を掛けられれば、大多数の人間は怯えること間違いない。だが、どうやら彼女は違ったようだ。
喜色を浮かべた声色で私を見上げる瞳は、どこまでも真っ直ぐで、内側の私は更に呆れ返る。
しかし、馬鹿丁寧に彼女の前へと姿を見せる私も、大概ではある。
「何か用か?」
「あ、いえ。用とかって訳ではないんですが」
「……は?」
何もないときた。
さあ、これはどうする。
全く持って初体験過ぎて、意味がわからない。
「では、何をしに来た?」
「えっと、お話をしに、でしょうか?」
「……私に聞かれても困るが」
あれ?この子、結構残念な子なのでしょうか。話をしに来たって、こんな森の奥まで?
え、ちょっとこの子怖いんだけど。
いや、ここは早々に帰って貰おう。この流れは、どう考えても私の手に余る。
「仕事はどうした?」
よしっ!これだ!
彼女はそれなりの地位にいる人物であると見受けられる。ということはだ、ここは職務を思い出して貰って、私などに構っている暇はないと思わせるのが必須だ。
「今日は非番なんです」
神は死んだ。
というかだ、非番の日、つまり休みの日にまでわざわざフル装備で、命の危険を犯してまで森の奥、私がいるであろう場所まで足を踏み入れるって、いったいどういう感覚をお持ちなの?
普通なら友達と街へ繰り出してショッピングとか、お洒落なカフェでランチとか、なんかそういうことをするんじゃないの?
「あはは。私、お友達いなくて」
俺はまだ何も言っていない!
というか、聞いてない!
「そうか」
もうそれしか言えない!
「貴方はお友達とかいるんですか?」
「……いや」
友達、友達か。
同族同士、あるいは氏族同士の結束は強いが、あるとすれば、好敵手だろうか。一番表現するには近いのかもしれない。
友人や親友などといった概念は、我々にはあまり馴染みのないものだ。
特に、我々には序列というものが存在し、種族としてのライフワークである、目に見える狩猟の成果に起因し、そこで序列が変動していくのだ。
時には、自らの序列を上げるために氏族間、同族で決闘を行うこともある。もちろんその結果、命を落とすようなことになったとしてもだ。
同族間での結束は強いが、基本は強いものが偉いのであり、正義なのである。
当然それは、掟に沿った形での強さではあるが。
「それじゃあ、私と同じですね!」
ぶっ殺すぞこの女。
言っていることは正しいけど、なんか、なんか納得いかない。
目をキラキラさせるな。同類を見付けたような顔をするな。
私はなんだかとっても腑に落ちない。
「その、何て言うか、私は王国の騎士団に所属しているのですが、やっぱり女性って少なくて。居ても違う所属であったりとかで、浮いているといいますか」
不味い、なんか語りだした。
「私、この領地に連なるものではあるのですが、その、側室の子供で。あっ、元は母は妾だったんですけど、私を身籠って側室になったというか」
やばい。
これ重い話だ。
後書き
ジャンル、コメディーに変えた方いいのか……?
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