鹿
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2部分:第二章
第二章
「いいな、気をつけろ」
「気をつけろって何を?」
「何がどうしたの?」
「油断したら何をされるかわからないからな」
その真顔でこう話すのだった。
「だからな。気をつけるんだ」
「何でこんなこと言うのかな」
「さあ」
「退屈だからじゃないの?」
まだ旗本退屈男の話をする子供達だった。
「それでこんなこと言うのかな」
「そうじゃないの?」
「退屈の虫が騒いだから」
「退屈だがそれでもな。忠告しに来たんだよ」
そうだというのである。
「いいな、その鹿共には気をつけろ」
「鹿をって?」
「こんなに可愛いのに?」
「人懐っこいのに?」
「おかしなこと言うよね」
「そうよね」
子供達は彼の話を聞いても顔を見合わせるだけだ。だが少年はその彼等に対して尚も言うのだった。それが使命であるかの様にだ。
「こんなに可愛いのに」
「どうして?」
「悪いことでもするの?」
「悪いなんてものじゃない」
彼はこうまで言う。
「もうな。ベトコンだ」
「ベトコン?」
「ベトコンって?」
子供達もベトコンとは何かは知らなかった。その単語を聞いて目を丸くさせてそれぞれ顔を見合わせる。緑の芝生と木々があるその公園の中でその黒い目が目立つ。
「何、それ」
「悪い奴なの?」
「そんなに?」
「ベトコンっていうのは昔の軍隊の一つなのよ」
先生がここで子供達にわかりやすく話してきた。
「ベトナムって国の軍隊でね。ジャングルの中で戦ってたのよ」
「じゃあ仮面ライダーアマゾンみたいなの?」
「そうよね」
「だから何でそういう話はわかるんだ?」
少年はそんな子供達に首を傾げさせる。
「旗本退屈男とか仮面ライダーは」
「だってね。再放送あるし」
「DVDもあるから」
「わかるよね」
「ねえ」
子供達はそれでわかるというのだ。
「だからね。それはね」
「わかるよ」
「ねえ」
こう話してだった。皆相変わらず鹿を可愛がり続けている。しかしだ。ここで彼はまた言うのだった。
「くれぐれも鹿には悪戯するな」
「鹿に?」
「悪戯を?」
「意地悪はしないことだ。それは言っておく」
真顔での言葉だった。
「それはしないことだ」
「何か先生と同じこと言うよね」
「そうだね」
子供達はここでまた顔を見合わせた。
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