宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第一部
ファンタジーへようこそ
はち
前書き
背凭れはまだ壊れたまま
我々の種族には、三人一組で行う“成人の儀”というものが存在する。
三人一組とはいうが、我々の種族の掟に、「戦場では助け合わない」というのがある。
なら、三人で行く意味はあるのか。
―
『虫』、『硬い肉』、『サーペント』と我々が呼ぶ生物が存在する。
前世では“エイリアン”、“ゼノモーフ”と呼ばれていた、SFホラー映画に出てくる化け物だ。
身長約200センチ、体重約160キロ。
身の丈以上の尾を持っており、先端は槍のような鋭利な作りとなっている。その先端の一突きは金属を貫通し、岩を砕くほどに硬く鋭い。また、体重200キロはある同族を突き刺したまま持ち上げるほど強靭であり、鞭のように振るえば人間など簡単に吹き飛ぶ膂力を持っている。
体の造りにおいては、個体差は見られるが、黒く、見た目硬質な、骨格が浮き出たような滑らかさを持った外殻をしている。
しかし見た目以上には脆く、現存する人間の銃器で傷を付け、ものによっては倒すことも可能だ。
その反面、前後に細長く、少々湾曲した形をしている頭部は銃弾を弾き、数回の頭突きで分厚い鉄の扉を歪ませるほどに石頭な上、その衝撃に耐えうる首と脊髄も強靭といえる。
その頭部の上半分は半透明なフードになっており、目や鼻、耳などは存在しない。
ちなみに、同族が尻尾を掴み、ジャイアントスイングを行った際、頭部で石柱を砕くほどの勢いで振り回されたにも関わらず無傷であった。
そして、一番特徴的なのはその口だろう。口の中にはインナーマウスと呼ばれる第二の顎があり、口腔内から外へ真っ直ぐに突き出すことができる。20~30センチほど一気に伸ばすその勢いを利用して、アサルトライフルの直撃すら傷が付かない我々のヘルメットすら貫通させ、勢い衰えることなく頭蓋骨をも突き破る威力を持っている。
それに加え、更に厄介なのは奴等の血液で、人体は愚か、コンクリート、金属と、ありとあらゆるものを腐食させるほどの強酸性を持っており、下手に攻撃して返り血を浴びようものなら、こちらが致命傷を負い、最悪命を落とす。
ありとあらゆる環境に適応し、学習能力も非常に高い。宇宙空間などの真空状態でも生存可能な強靭な身体組織に、弾速が遅いとはいえ、常人にはまず回避不能なプラズマキャスターを、視認してから余裕を持って避けることのできる俊敏性と優れた運動能力。
まさに『完璧な生命体』と、称されるだけのことはある。
それがまだ協調性のない、群れずに襲いかかってくるようなスタンドアローンな生物であればまだいい。
しかし、奴等はこれでもかというほどに群れるのだ。
蟻や蜂のように、1匹の女王を中心としてコロニーを形成し、数を増やしていく。
それが集団で、同族同士連携を取って襲い掛かってくるのだが、一度失敗した作戦は学び、考え、別のもっと有効な手段を用いて、損害を与えた分の数を補充して襲い掛かって来るという、その人海戦術と学習能力の高さは悪夢以外の何物でもない。
そんな出鱈目な生物相手に、我々種族は成人への通過儀礼として、その硬い肉と闘う儀式を行なうのだ。
大まかに一定周期ごとに我々が建造、もしくは現地人を使って建造させた神殿へ赴き、そこへ硬い肉を放って狩りを行なう、というものである。
この狩りのためだけに、硬い肉の女王を捕獲し、神殿内の地中深くに拘束し、更に硬い肉の女王を成人の儀まで冷凍保存しておく。
そして、儀式を受ける成人前の我々種族が神殿へと赴き、“ある物”がトリガーとなって解凍される。
その“ある物”というのが、私も装着している左肩アームへと固定する武装、プラズマキャスターである。
この成人の儀でプラズマキャスターを入手するに至り、自分の装備品として認められるのだが、基本それ以外の武装は白兵戦用という、硬い肉の身体的特徴を考えると、投げ出したくなるほど鬼畜な難易度を誇る。
そのプラズマキャスターは棺の中に納められており、そこから持ち出すことによって棺内のギミックが作動する仕組みとなっており、硬い肉の女王が解凍され始める。
全て解凍し終わると、硬い肉の女王に電気ショックを与えて強制的に卵を産ませるのだ。
これを遠隔操縦の機械を使って産み出された卵を運び出し、神殿内の“生け贄の間”に卵を植え付け、硬い肉がある程度成長、繁殖したところで狩りが本格的にスタートされる。
もし、この儀式に失敗した場合は、生け贄が存在すれば際限なく増え続ける硬い肉を全滅させるため、コンピューターガントレットに搭載してあるプラズマ爆弾を使用し、広範囲を自身ごと爆破、殲滅する。
では、その“生け贄”とは何か。
それは、硬い肉以外の生命体である。
硬い肉の女王は卵を産むが、その卵から硬い肉が産まれる訳ではない。
産まれるのは『フェイスハガー』という中間体であり、こいつが硬い肉の幼体である寄生体を、例えば地球であるなら人体へ産み付けるのだ。
フェイスハガーは蜘蛛のような多脚の生物で、地を走っている様は人の手が高速で移動しているようにも見える。
フェイスハガーはその名前の通り、宿主となる生物の顔面に張り付き、口や鼻で息が出来ないようにし、だめ押しとばかりに長い尾のような器官でその首を絞める。
そのまま宿主を昏睡状態へと陥らせ、体内に隠れている産卵管を口腔内へと挿入して硬い肉の幼体を産み付ける。
その間、宿主へとフェイスハガーが酸素を送り込み続けるので、宿主は死亡することなく、昏睡状態のままとなる。
しばらくすると、フェイスハガーは息絶え、顔から剥がれ落ちるのだが、このとき既に宿主の胸部辺りには、硬い肉の幼体が存在することになる。やがて昏睡状態を脱した宿主は、何事もなかったかのように生活するのだが、本人の預かり知らぬところで、幼体はその宿主から養分を吸収して急速に成長していく。
そして、成長した硬い肉の幼体は、蛇のような形をしたチェストバスターと呼ばれ、その名の通り、生きたままの宿主の胸部を突き破って現れる。
当然、宿主はそのときの激痛と傷が原因で命を落とすのだが、ここまで1日と掛からないどころか、早ければ数時間といったところか。
地球でいうところの生け贄は人間のことであり、生け贄の間にはフェイスハガーに寄生させられる為だけに人が集められる。
つまり、硬い肉の女王と人間、もしくはフェイスハガーが憑り付くことのできる他の生命体がいれば、幾らでも硬い肉を増やせるということに他ならない。
なので、この儀式が失敗した際は証拠の隠滅も含め、その文明ごと消し去る必要があり、実際に失敗した際はそうしてきていた。
そんな超生命体と言っても過言ではない硬い肉は、我々種族にとって非常に価値の高い獲物であり、頭蓋骨は文句無しにトロフィーになる。
たが、考えて欲しい。
成人にすらなっていない未熟な個体に、いきなりそんな難易度の高い任務を与えるというのは如何なモノなのか。
確かに博は付くし、自信にも繋がるだろうことは認める。しかし、只でさえ我々の種族の掟のひとつとして、「戦場では助け合わない」というものがあるのだ。
向こうは数と質で攻めてくる、こちらは質のみでそれに勝利しなくてはならないのだ。
つまり私が何を言いたいのか。
至極簡単だ。
最悪のタイミングで現れた女騎士に、私は現実逃避として背凭れの修復に取り掛かった。
だがしかし、多すぎた。
砕けた破片があまりにも多すぎたのだ。
大小入れて、いったい幾つの背凭れの残骸をかき集め、パズルのピースよろしくああでもない、こうでもないと断面を合わせながら唸ったことか。
しかも、中々に細かい作業に私の両手の指は拒絶反応を示し始めている。
細かい作業にこの手は大きすぎる!
あと、爪が長すぎる!
そこで気付く。
気付いてしまった。
「どう見積もっても、破片の数が足りない……っ!」
何てことだ。
いまだ半分も修復は終わってないというのに、既に背凭れであった物は、私の両の手のひらで持てるほどにしか量がない。
「……なんでだろう」
いまだ鳴り響くアラートを意識の外に投げ捨てて、何故か正座した姿勢の私は、ただただ、両手で顔を覆うしかなかった。
後書き
ちなみに、主人公は船内ではヘルメットは絶対に外します。
人間であったころから、家に帰ると絶対に靴下は脱ぐ派です。
あと、家の中で外行き用の服を着ていると落ち着かないので、すぐに寝間着に着替えたい派です。ベルトとか息苦しくなります。
アクセサリー類も外したい人です。
でも、外や人の家などでは全く平気な人です。
作者がそれです。
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