宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第一部
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ご
前書き
うさぎを仕留めたよ
小鬼の背を追い、木々を渡ること10分少々。
私は木の上から奴等の寝床である、洞窟を見下ろしていた。
洞窟の入り口周りには、私が尾行していた小鬼が20匹ほどおり、どの個体の近くにも野生の動物と思われる死体が横たわっていた。
また、小鬼の他に5匹、身長160センチほどの額に小さな角と思われるコブが出た新たな種族を認めることができた。
その5匹に至っては、装備しているものが錆びた鉄の剣であったり、弓、防具も鞣した動物の皮であったり、ボロボロてはあるが軽鎧であったりと、小鬼達に比べれば装備品が整っていると言える。
小鬼達のどこか怯えたような様子から、彼らの上位存在、大きな小鬼といったところであろうか。そして恐らく、彼ら小鬼達の近くに転がっている動物の死骸は、大きな小鬼への上納品で、搾取する側、される側の関係と見て間違いないだろう。
ある程度の知性を持った生き物で、弱肉強食の世で生きているのならば、そう珍しい光景ではない。
ちなみに、我々クラシック種族のプレデターと、バーサーカー種族のプレデターがこの関係に近く、クラシック種族が隷属させられている側に当たる。なまじ、下手に知性が高いので厄介極まりない。
さて、大きな小鬼への上納品をしっかり納められた者と、そうでない者に分けられている様子をみるに、まあ、想像はつく。
その納められなかったグループの中に、私が尾行していた内の1匹がおり、そいつを含めると4匹が並んで立たされていた。
納めることができた者は大きな小鬼の数歩後ろでその動向を見守っているが、初めてのことでもないのだろう。諦めの表情を浮かべる者や安堵している者もいる。
1匹の大きな小鬼が錆びた剣で肩を叩きながら前に出る。
小鬼よりも幾分か低い声で「ギャッギャ」と並んでいる4匹に告げ、右から2番目にいた小鬼を袈裟懸けに斬り付けた。
斬り付けられた小鬼は血飛沫を上げ、背中から倒れた。
僅かに動いていることから、即死とはならなかったのだろう。あんな切れ味が有って無いような物であるならば当然だ。
倒れ伏しながらも、震える右手を挙げている様は必死の命乞いか。
その悲痛な叫びにも似た行為を、大きな小鬼達は涎を滴らせながら下品な笑い声を上げて見下している。
並ばされた1匹の小鬼は、見せ付けられた処刑劇に恐慌をきたした。
叫び声を上げながら、手に持った棍棒を振り上げ、次の瞬間には既に事切れていた。
錆びた剣を手に持った大きな小鬼の斜め後ろから射かけられた矢が、仰向けに倒れ伏した小鬼の左目から無惨にも生えていた。
それは、私が尾行していた1匹であった。
あいつの行動は決して誉められたものではない。
パニックに陥って自滅した。勇気でもなければ蛮勇とすら呼べない。
何が面白いのか、いまだゲラゲラと笑っている大きな小鬼。
腰を抜かして地面にへたり込んでいる小鬼に大股で近付き、その剣を振り上げた。
刹那、大きな小鬼の頭部が跡形もなく弾け飛ぶ。
名誉やら誇りやら、正直いって私自身よくわかっていない。むしろ古くさいとさえ思ってしまうし、それが種族の生き方として正しいと、何よりも大切だとされていることに関して、いい迷惑だとさえ思っている。
だからといって、全く共感できない訳でもないし、まあ、少しだけそんな真っ直ぐな生き方を格好良いとも思わなくもない。
自分もそう在りたいかと言われれば否と答えるし、そう在れと言われても、全力で拒否はするが。
ただまあ、戦いを生業とする者として一つ。
「ささやかな矜持くらいは持つべきだな」
ぐらりと、うつ伏せに倒れ込む姿に何の感慨もいだくことなく、ヘルメットを通して、赤く回転する三角形の3つのロックオンサイトを次の標的へと定める。
手前の軽鎧を着込んだ1匹と、その直ぐ隣の1匹。最後は弓を構える1匹だ。
左肩アームに搭載された3門のプラズマキャスターが、1秒にも満たない間隔で唸りを上げる。
威力はかなりのモノだが、弾速が遅いのが欠点のプラズマキャスターだ。しかし、何が起こったのかも分からず、その場で締まりのない顔をして、棒立ちになっている3匹が避けられる訳もない。
蒼く輝く光弾は、寸分違わずにロックオンした3匹の頭部を軽く吹き飛ばす。
内の1匹、バーサーカー種族が有するプラズマキャスターを浴びることとなった、弓を構えていた大きな小鬼は、胸部辺りまで消し飛んでいた。
さて、残り1匹。
やっと自分が置かれた立場というものが理解できたのだろう。大きな小鬼は叫び声を上げて、小鬼達を嗾ける。
大方、敵を探せとでも叫んでいるのだろう。というか、弾道から敵の位置くらい割り出すことを考えろ。
もっとも、私の光学迷彩装置はかなりの情報を読み込ませており、都度最適化しているため、そう簡単に見破れるほどの柔な擬態能力はしていない。
私を倒したければ同族か硬い肉でも連れてこい。
私は木から飛び、地面に降り立つ。その際に膝をしっかり曲げて衝撃を吸収し、爪先だけで着地して極力音を消す。
浮き足だって騒ぎ立てている様子から、多少の音がしたところで気付かないであろうが。
ゆっくりと歩き、わざと足音を立てながらヘルメット内にある光学迷彩機能をオフにする。
紫電が走り、体に纏った特殊なフィールドが解除されていく。
流石にその音と気配に気付いたのか、唐突に浮かび上がる私の姿に、奴等の心音が急速に跳ね上がったのを関知する。
件の大きな小鬼は、私の姿を認めると、がくがくと震えながら剣を構える。
更に何事かを小鬼達に叫んでいるようだが、当の小鬼達にいたっては微動だにしない。それどころか、地面に頭をつけてひれ伏している者もいる始末だ。
……この鬼の顔を模したヘルメットが原因か。
体格においても、160センチほどの猫背気味の大きな小鬼。かたや250センチ超えのシックスパックが素敵な蛮族。
私の面の造りを鑑みれば、『鬼』という枠組みならこちらが上位種と言えるだろう。
絶望に染まった大きな小鬼は、錆びた剣を投げ捨てて、洞窟内へと一目散に駆け出す。
ことは叶わず、一歩目を踏み出した直後に後頭部にプラズマキャスターを浴びて、うつ伏せに倒れ込んだ。
ははははは。どこへ行こうというのだね。
周りで囃し立てる小鬼達を無視して、頭部の弾け飛んだ最後の大きな小鬼の死体へと近付く。
上位個体といえども、たったの5匹で二桁に達する小鬼達を隷属していたとは思えない。私は洞窟内をスキャンして、内心舌打ちした。
大きな小鬼と思われるシルエットは残り4つ、更に大きな、恐らく大きな小鬼の上位個体と思われるモノが1つ、見覚えのあるシルエットで
微弱な心音が1つと、同じく見覚えのあるシルエットが複数。
そして、隠蔽されるように存在する小部屋のような場所には、小さな蠢くシルエットを無数に検知した。
……ちょっとこれは、面倒なことになったかもしれない。
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