宇宙を駆ける狩猟民族がファンタジーに現れました
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第一部
ファンタジーへようこそ
よん
前書き
重武装じゃありません。デフォです。
音もなく木から木へと飛び移る。
この巨体からは似つかわしくないほどの俊敏性と身軽さに、最初の頃は随分と戸惑ったものだ。
しかも、力の強さに関しては見た目通りと言うか、それ以上のようにも感じる。
なんといっても、体重が三桁に届きそうな筋肉の塊の軍人を片手で持ち上げる上に、軽々と投げ飛ばすほどの膂力を持っているのだ。
更には大して腰の入っていない、振り抜きの裏拳で数メートルは人を吹き飛ばすやら、体重160キロ以上はある、硬い肉《エイリアン》の尻尾を掴んでジャイアントスイングを敢行する、石柱をタックルで粉砕するなど、ただの人間とは比較にならないほどのパワーを持っている。
かく言う私も、大柄であるためパワーや耐久力は平均値のプレデターよりも優れている。
ちなみに、平均のプレデターの耐久力は、至近距離でスラッグ弾を数発食らっても致命傷にはならない。人間なら一発至近距離で食らっただけで吹き飛びながら即死、内臓の原型もほぼ留めることなく、だ。
ただでさえアサルトライフルを間近で受けも傷つかない鎧とヘルメットに、鋼の筋肉を持っているのだ。
パワーも耐久力もあり、俊敏で瞬発力も高く、数多くの武装を携帯しているのにも関わらず長時間活動できる持久力を持つ。更に持ち上げるのならば、恒星間移動を可能とし、携行できるサイズの光学兵器を開発する科学技術力がある。
なのにやってることは未開の蛮族と変わらない。
残念過ぎて泣きたくなってきた……。
船から出て、木々を移動すること約15分ほど。
ヘルメットの集音機能が反応する。
波長や音階が2つ。ということは恐らく話し声である確率が高い。
まさか、こんなにも早く知的生命体に遭遇することになるとは思わなかった。
私はそちらへと移動する中、どのように立ち回るかを考える。
まずは様子を見て、そこからだ。接触することは、今この段階で避けた方が良いだろう。相手を観察し、尾行が可能であるならば尾行し、情報収集に努めた方が安全だ。
早々遅れを取るようなことはないが、正直あの空間のゆらぎのすぐ後だ。何が起こるか予測がつかない。
種族的特性で、低い顫動音が喉から漏れ出る。
どうやら、少々気分が高揚しているようだ。
実は、私はあまり高等な知的生命体のいる星には足を踏み入れないようにしている。
理由は至極感傷的なもので、前世の人間とどうしても重ねて考えてしまうためだ。
姿形がいくら異なっているといっても、それなりに文化が発展し、確固とした文明を築いているような者達が住まう地に、足を踏み入れるのは戸惑われた。
文明を築いている高等な知的生命体の多くは、脆弱な肉体を持ち、そもそも狩りの対象にならないような生命体ばかりだ。実は地球人類も我々の種族からしてみれば、そのような認識を持つ者の方が多かったりもする。
認めてしまえば、そう卑屈に考えることもないと、ある程度の割り切りはできているのだが、人の心というものは儘ならないものである。
さて、いまだにヘルメットの集音機能には、会話とおぼしき二種類の声が音の波となって表示されている。
そろそろ姿が認められる頃だろうと、ヘルメットによって補正された視覚を声の聞こえる場所へとズームしていく。
……いた。
私は足を止めて、木の上から見下ろす形でその様子を観察する。
大きさは、130センチほど。全体的に線も細く、見た目通り体重もなさそうだが、まるで餓鬼のように下っ腹だけがぽっこりと出ている。
醜い小さな生物、これが印象だ。1体は上半身裸で右手にはこん棒を持っており、下半身は布切れ一枚。
もう1体は上半身にサイズの合っていないボロボロの獣の皮をベストのようにして着ているが、それ以外は先の個体とそう変わらない。
ヘルメットの視覚機能を操作し、可視光線のレンジを変更すると、まるでCTやMRIのように2体の生き物の骨格から内部構造までを視覚化する。
体の造りはまあ、そう大きく大差はないが、浮かび上がったシルエットを見るに、魔女のような鉤鼻と上へ向けて尖った耳、やけに発達した犬歯と奥歯以外は鋭く尖った歯が認められる。
記憶を引っ張り出して、モンスターや亜人という枠組みからメジャーな言い方をすれば、小鬼、だろうか。
ギャッギャギャッギャと、ヘルメットが拾う音声から、かなり未熟な言語体型であると予測される。
それでもコミュニケーションを取るという行動を行っていることから、それなりのコミュニティは形成していると思われる。
であるならば、このまま見張って巣へ戻るのを待つのも手だ。
―
この2匹を尾行して既に30分ほど経過しており、その道中、うさぎと思われる小動物を二度狩ろうとして、二度とも尽く失敗している。
狩りに失敗したその瞬間の、2匹の物悲しい背中を眺めていると、苛立たしさよりも先に哀れみを抱いてしまう。
更に取っ組み合いの喧嘩を始めた際には、仲裁に飛び出しそうになったほどだ。
いまはもう落ち着きというよりも、半ば諦めている風ではあるが、双方ボコボコになった顔面のまま、力なく歩みを進めている。
なんだか俺まで悲しくなってきた……。
そこで適当に見付けたうさぎを1匹、クローキングのまま音もなく忍び寄り、腰のシュリケンで頭部を一突きして仕留める。
あとは2匹の小鬼が通る場所に投げ込んでおく。
すると、2匹の小鬼はうさぎが落ちたときの音に敏感に気付くと、歩むスピードを若干上げる。
警戒した風もなく、「ギャギャ!」などと声を上げている様子を見ると狩猟に関わらず、戦いにおいてかなりの素人と伺える。
あれが誘き寄せるための罠だとしたら、あの2匹は間違いなく命を落とすだろう。
更に、なんの疑問も持たずに血濡れのうさぎを見付けて小躍りしているではないか。
うさぎの死体に近付き、耳を持って上に掲げる様は、運が良かっただけなのにどこか誇らしげだ。
怪しさ満点なのにも関わらず、死体の検分すらも行わない。頭部の跡を見れば、それが動かぬ死因であることは火を見るより明らかであり、うさぎほどの小動物といえども、そこから鋭い刃物で一突きにされていることや、抵抗の跡がなく即死であることなども分かる。
まず間違いなく人為的な仕業であることは、疑う余地すらない。
以上のことから、2匹の小鬼が若い個体であり、未熟であるからそういった警戒心が薄いのか、種族としてその程度の知能レベルということなのかが分かった。
一番危険度の高いケースであれば、この辺りをテリトリーとしており、規模の大きい集団、もしくは己よりも強い個体に庇護されており、必要以上に警戒することもないと高を括っているか、である。
まあ、この2匹に関しては装備している物や立ち振舞いから、驚異となるレベルには爪の先程も達していないことは分かっていた。
いまだに小躍りしている2匹を尻目に、近くに生体反応がないか確認する。
すると、低音の唸るような音が森の南の方角から響いてきた。
……角笛か?
そちらへと視線を向けると、ヘルメットの機能でズームさせ、障害となっている木々が次々と透過されていく。すぐに音源であろう場所をマーカーとして表示させてから、2匹の小鬼へと視線を戻した。
2匹はちょうど角笛が鳴らされた方角へ走り出しているところで、心音をスキャンしてみれば慌てているように見受けられる。
恐らく、先程の角笛は出払っている者を呼び戻すためのモノのようだ。
距離的には1キロとちょっとと言ったところか。船を置いてある場所からもそう遠くはない。
場合によっては、残らず排除する必要がありそうだ。
後書き
次は戦闘……いや、蹂躙?
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