剣士さんとドラクエⅧ
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48話 帰国
私は、誰もを守れるような強い人になりたかったんだ。だから強さを追い求め、他は蔑ろにしてきた。自分の身なんて、守りはすれど、二の次で。守れればよかったんだ。それしか出来ない私は。でも、それすら為せなかった。
忘れてたわけじゃない。忘れていたかったわけでもない。でも、私は確かに目をそらしていたんだ。
枯れ草が、私のブーツに絡みつく。そこだけ暗い空が私の心までもを暗くする。心が、麻痺していくように何も感じなくなっていく。いや、そうじゃない。それは間違いだ。私の心は、悲しみで閉ざされていったんだ。怒り?やるせなさ?そんな感情は、悲しみの前では消えたんだ。
「……」
「……、帰ってきたんだ」
「そうだね」
目の前にそびえるのは、美しかったトロデーンの王城。「トウカ」の十八年の心の故郷だ。実際の生まれなんて分かりはしないんだから、故郷はここだけなのだから。
黒雲の立ち込める不吉な空。鋭い棘のある茨の絡みつく城。かつての面影?ああ、全てはドルマゲスのせいで呪いの城と化したトロデーン城から懐古を感じろって?そんなのは無理だ。
あの船の情報を知るために、多くの蔵書を誇るトロデーンへ帰ってきた私達は当然、呪いによって人々の活気が消えた城を見ることになる。
フラッシュバックする忌まわしい呪いの瞬間、脳裏に浮かぶのは茨に変わった義両親。見る影もないモノトリア家、動かない兵士たち。涙すら枯れ果てた私はただ座り込んだけで、あの時はただ必死に親友を追っただけだった。無力感を噛み締め、ドルマゲスの「討伐」を誓った。
ゼシカの炎の魔法が扉を巣食う茨を焼き払ってくれる。開かれた扉、その先にはあの日と変わらぬ様子で静まり返る城がそこにあった。絶対にあり得ないと分かっていながら、開かれた扉の向こうに人々の活気を求めていた私は、ただの馬鹿だ。
「……こっちだ」
皆を案内しつつ、城の方を伺って気配を探る。あの日、全ての生物が茨の呪いによって時間を止められたのを確認した。猫すらもそうだったんだ。だから、城の中に動く気配があるのは明らかにおかしい。教会の昨日が停止し、聖なる守りが機能していない以上、ここに魔物が現れてもおかしくない。
考えたくはなかったけど、やっぱり……ここにも魔物が出るのだろうか。旧修道院跡地のように、人の住んでいた所に……我が物顔で巣食う魔物がいるのだろうか。許せない。許さない、絶対に!
「あれ?」
「どうしたの?」
「開かないんだ」
城の外から図書室に入ろうと試みても開かなかった。……トロデーンの扉をぶち抜くわけにもいかないし、城の中を通って大回りするしかないね……。ああ、なんてついてないんだ。早く、早くドルマゲスを追いかけなきゃいけないっていうのに!
・・・・
軽いステップで、石の床を傷つけないように駆け回るトウカのすぐ後ろを僕も駆け抜けた。道は知ってるけれど、あちこち崩れて進めなくて、いちいち大回りをしないといけなくて、なかなか先へ行けなかった。とてももどかしい。
そういう道は、トウカに通れるようにしてもらおうかとも思ったけれど、彼は必死で城を穢す魔物を倒すのに忙しくてそれどころじゃないようだったから、止めた。魔物を見る度に憎々しげに目を吊り上げ、口を引き結んで戦う姿に何も、言えなかった。
僕達の目の前に飛び出してくる魔物はみたこともない種類ばっかりだった……茨で出来たドラゴン、中身のない鎧の魔物、金属が溶けたようなスライム……次々と叩き潰すように魔物が消えていく。そんな奴らは見たくもなかった。
それから、僕とトウカはすれ違うトロデーンの人々、一人一人に向かって、必ず元の姿に戻すことを誓っていった。
「全力で突き進まないと」
ぽつりと零した独り言はやけに大きく響いた。それに反応したのか、一瞬、びくりと肩を揺らしたトウカはさらに素早く魔物を倒し始め、その分回避が疎かになったので、回復をたくさんしなくちゃいけなくなったククールに恨めしそうに見られてしまう。
……正直、かなり要らない事を言った自覚はある。少なくとも、僕自身に向けての喝は必要だけど、トウカには要らなかったんだから。そんなことをされたほうが困るんだ。
「……力を」
もっと力を。
祈るように、乞うように落とされたのは、トウカの独り言。それを聞いた時、僕たちの心は一つになっていただろう……。
そうじゃない。君は既に力に溢れている、と。
力を本当に欲しなければならないのは、トウカじゃない。僕たちだ。
螺旋階段を全速力で駆け下りる。階段に居る魔物は勢いに任せた攻撃で吹き飛ばしてしまえば問題ない。充分に攻撃で倒すことも可能だし、階段から突き落とせば、体勢を崩した状態で呻く魔物のトドメをさすなんて簡単なんだから。
一階についた。密集して出迎えた魔物は気にもとめずに武器を振りかざして突破する。それだけでも結構な数が減るし、五人やれば追いかけてくる魔物はあまりいないし、いても弱っている奴らばかりだ。
一息に玉座の間の背後を駆け抜ける。図書室まであと、少しだ。
後書き
エルトの思考回路がかなり脳筋気味です。
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