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機動戦士ガンダム0091宇宙の念

作者:むらたく
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宇宙編
月決戦編
  第33話 宇宙の念

 
前書き
ロザミア・バダム
オーガスタ研究所出身の強化人間。
グリプス戦役末期、戦線に投入された。
サイコガンダムMk-llによってアクシズ宙域にて猛威を振るうが、Zガンダムのカミーユ・ビダンにコックピットを貫かれ戦死した。 

 
「もう、いいでしょう…?」
四肢を失い、既に漂うだけとなったレギーナを見て、薄い涙を瞳に浮かべるアイラ。
「わかった…人は分かり合えるってことが…強化人間とか、立場とか関係ない、人は通じ合うことができる!私が今、あなたを感じてわかったように!」
戦闘中、思いをぶつけ合うことで、二人の心は重なり理解した。
しかし、理解したところで、何も変わらない。
「だ…から…何…?わ…た…ゲホッ…私は、守らなきゃ…いけない…」
とめどなく流れる血液が、ひんやりとした体を包んでいく。
バイザーは割れ、破片は深紅に染まっている。
相手を理解したのはアイラだけではなく、ナナも同じだった。心地よく、シンクロした意識。
しかし、その心地よさと、自身の立場を重んじる強化人間故の冷たい本能が、後の惨劇を生む。
「私たちは敵同士…私の…義務は…」
「投降してよ‼︎これ以上…人の争いを…増やしたくない…戦いたくなんかないよ‼︎」
ダメダ
テキニツカマルナ
ヒミツヲシャベルナ
「投降…する…なん…て」
イケナイ
メイレイハゼッタイ
「くっ…あ…たま…が…」
流血のせいではなく、何度も響く研究所での教えが、頭を締め付ける。
こんな状況、こんな状態なのに、ふとオーガスタ研究所での“あの日“を思い出した。

晴れ渡る空、白い雲。
「どうしたのナナ?」
青紫のしなやかな髪。
私より頭一つ分程高い身長。
「ああ、ロザミィ。あの空の向こうには、宇宙があるんだよね。それでコロニーには多くの人々が住んでる。不思議だなぁって」
彼女の名はロザミア、みんなからはロザミィと呼ばれている。私がこの研究所に来る前からここにいる。
「不思議ね、同じ人間なのに、こんなにも離れたところで暮らしている…」
彼女は思いつめた目で空を見上げた。
「けどねナナ。宇宙はいい人達ばかりではないの。地球を支配しようと企むスペースノイドも沢山いるわ」
「…どうして、仲良く生きていけないのかな…?」
「難しいわね…人が生きていくには、どうしても争いは起きてしまうものよ…」
暗い目をした彼女が、目線を落とす。
「そんな…」
ナナはまだ知らなかった。
自分は人を殺めるために作られた意思をもつ殺人マシンだと。
「けどね、関係ない人達や弱い人達を守ることが、私たちの役目なのよ」
「難しい…わかんないや」
「今はいいの、それで。いずれナナにもできるわ、大切な人が」
「ロザミィは大切な人だよ!」
「あら、ありがとう。私もよナナ、午後の訓練も頑張りましょう?」
「うん!」

そんな思い出…ロザミィは最期、こんな気持ちだったのかもしれない。
「んん…はぁ…」
血まみれの体をゆっくり起こし、ヘルメットを投げ捨てる。
「はぁ……はあ…ぐ…ぁぁ……んんぁ…」
全身が凍てつくように硬い。
なんとか手を伸ばし、予備のヘルメットと拳銃を手に取る。
「ぅゲホッ…カァ…はぁ…」
アイラは迷わず、コックピットを開けた。
真空の闇に飛び出し、目の前の機体のコックピットにすがる。
「開けて、あなたを殺しはしない。安全は保証するわ…」
ゆっくりと開いたコックピットの向こうには、自分と同じ歳くらいの少女が鮮血の中で佇んでいた。
「大丈夫…ゆっくりこっちに…」
アイラが手を差し伸べた瞬間だった。
「‼︎」
シートを蹴り、アイラの胸に飛び込んできたナナ。その替えたばかりのバイザーは、既に赤黒く染まっている。
「え?」
「お…前は…敵……だ。テロ…リ……ストだ…お前ら…か…ら私が…守る…」
そう言って、手にした拳銃をゆっくりと上げる。
楽になれる
“それ“を撃てば
「やめてぇ‼︎」


真空によって遮られた銃声。
一瞬なにが起こったのか、アイラにはわからなかった。
ヘルメットを覆う赤い膜。
これは血?
「あぁぁ」
両手、体を鮮血が包み、流れていく拳銃を手に取る。
「え?嘘だよ……」
目の前にあるのは、まるで赤黒い絵の具が塗りたくられた人形のような死体だった。
「嘘よ…嘘……嘘嘘嘘‼︎‼︎」
ナナは、自らの頭を拳銃で撃った。
「どうして…なんで…ぁぁ…」
心を貫く痛みが消えない。
傷は無いのに、胸が苦しい。
「はぁ…はあ、は…はは…あはぁぁァハハ‼︎」
アイラは手にした拳銃を、目の前にある死体に向け、放った。
全弾放ち尽くした。
「あははははは‼︎ァハ‼︎死んだの?強化人間のくせに、死ぬわけ無いわよね‼︎嘘でしょ⁉︎」
空の引き金を何度も引くアイラ。
ナナは壊れた。最後の最後、その小さな体に溜め込んできた闇を、抑えきれなかった。
一発の弾丸に込めたその闇は深く、アイラの心までも蝕んだ。
ナナは楽になりたかった、ただそれだけ。
自分が今まで貫いた信念、特別な感情を抱いた人間、それらを守るための力。
それら全てと、アイラとの戦闘に感じた奇妙な暖かさ。
全てがナナにとって苦痛になった。
感情に押し潰されたナナは、自分の価値を見失った。
ただ、最期に想ったのは、自分のことを愛してくれた人達への感謝の念。
彼女の心は、宇宙の念、宇宙を駆ける念となって、闇に溶けた。

宇宙世紀0091
11月30日
月外周宙域にて、ナナ・リーブルズー死亡ー
 
 

 
後書き
そろそろ終わりが近づいてきました!
次回に続きます。 
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