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異世界にて、地球兵器で戦えり

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第七話 帝国の暴走と異世界の軍勢

警告爆撃により帝国は混乱が続いた。900年の帝国の歴史で、帝国の存亡の危機は何度かあったが、それでも何の抵抗も許さずに、皇宮を破壊するという離れ業を持つ敵との遭遇など前代未聞であったからだ。このため、今まで主戦派であった貴族達も急遽に講和派に鞍替えする動きが続出して、直ぐにでもアカツキ帝国と和議を結ぼうとしたが、ここで予期せぬ事態が起こり、アカツキ帝国も予想にしない暴走が帝国で起きているであった。

ーーー。

「なに、帝国がアルヌスに向けて大軍を差し向けた?」

この報告を聞いて健太郎は、何とも言えない表情に変わる。その意味は、いったい何を考えているのだというものだ。実際に、この報告を聞いた四軍の高級士官も同じような思いであった。


「これだけ負け続けて、何故兵力分散を行った?」

「それはいまだに不明です。ですが、アルヌスの丘にはゲートという異世界に続く門があるそうです。帝国は、異世界に軍を侵攻させたようです」

「いや、それだけでは理由にもならん」

実際にその通りだ。帝国は、植民地より無理矢理徴兵した兵士も動員して国家総動員の体制を取っているのに負けが続いている。アカツキ帝国という明確な敵が存在するはずなのに、どうして兵力分散の愚を犯してまで、異世界に侵攻して新たな敵を作るのだと、軍事を知らない一般人でも正気を疑うものであった。


「モルト皇帝がついにイカレでもしたか?」

「わかりません。帝都に忍び込ませた特殊部隊の新しい情報が入り次第にお伝えします」

「出来る限り早く頼む」

健太郎は、情報担当官にそう言って作戦会議室を退出した。やはり健太郎は、帝国が敗北が続く中で兵力分散の愚を犯している理由が、分からないままだ。

(確かにモルトは主戦派だ。だが、ただの戦争狂いの愚帝ではない。)

確かにモルトが帝国の皇帝に即位して三十年が経ち、その政策はとにかくファルマート大陸に侵略を続ける主戦派の皇帝である。年中戦を続けるが、だからといって絵に書いたように民衆から凶悪な程の搾取もしているわけでもないし、亜人差別も反旗が起きないぎりぎりの綱渡りで乗り切ってもいる。そのため、真面な思考とは言えないが、皇帝としては戦だけではなく、政治の理解力もある。

そんな皇帝が、どうして兵力分散の愚を犯してまで異世界に侵攻したのかが健太郎は気になって仕方なかった。

(まあ、しばらくすれば陸軍の特殊作戦群からの報告が入る。それまで待つとしよう)

そこまで急いで侵攻する予定も今の所存在しないし、新たに占領した都市のインフラ整備の事もあり、イタリカ侵攻は延期となっている。

それから三日ほど経過した時に、帝都の新情報が入ってきた。

「モルト皇帝が負傷した?」

「はい、どうやら警戒爆撃の時に負傷したものと思われます。現在は意識不明との事のようです。」

「更に皇帝不在はまずいと判断したようで、モルト皇帝に変わり、新たな皇帝が即位したようです」

「その皇帝は?」

「ゾルザルという名の皇帝です。前皇帝のモルトの第1子であるようです。」

「その新皇帝は、どのような人物だ?」

「評価は低いですね。貴族や元老院からの評価は、暴君という名が似合う程の傲慢な人物です。これまで自分の思い通りにならなければ、無理矢理でも皇帝の息子という権力を笠にして、何でも通してきた男です。三年ほど前には、奴隷狩りという名目でゾルザル自身が軍を率いて、ヴォーリアバニーという種族を奴隷として多くを捕らえています」

「読めたな。つまりは……」

「権力の暴走です」

今まで我儘し放題の長男が、突然に最高権力者となって、自分の思い通りに事が運べると思い、色々と暴走しているのだろうと判断した。実際に秘書の説明以外に報告書を読んでみると、ゾルザルの取り巻きが、突然と出世して高い地位になったり、講和派の人間が突然と左遷されて、旧モルト家臣達でも主戦派が政治の手綱を握る立場になっているとの事だ。

「ゾルザルに暴走されて講和派の有力者が殺されてはかなわん。密かに講和派を援助するように伝えてくれ」

「よろしいのですか?」

「帝国の支配権全てを占領するだけの能力は我々にはない。帝国と譲歩する必要性もある。それに、我が国はファルマート大陸だけに目を向けるわけにはいかないのだ。」

まだアビス大陸の復興が進んでおらず、情勢もテロリストも活発的に活動しているので不安定な状況が続いている。そのため、アビス大陸の友好国の援助もしなければいけないので、ファルマート大陸だけに集中するわけにはいかなかった。

「新皇帝は主戦論者だ。何をしてくるか分からん。ファルマート大陸で占領している都市と拠点にいる三軍に、警戒態勢を厳にするように伝えろ」

「了解しました。」

ーーー。

アカツキ帝国は、しばらくの間は新皇帝の動きを探るべく様子を見る事に徹するのであった。それからしばらくして、異世界に侵攻した帝国軍と、その後の結果の情報が入手された。その情報は、帝国軍は異世界の軍勢に敗北して返り討ちにあい、異世界の軍勢にアルヌスが逆に占領された。そして、この現状を打破しようと、各国に対して連合諸王国軍を形成してアルヌスを占領している異世界の軍勢に戦いを挑んだが、結果は返り討ちにあって、連合諸王国軍は敗退した。

「周りの意見を真面に聞かない皇帝が、よく連合諸王国軍を形成するような交渉が出来たな?」

「ゾルザル自身は確かに無能で自分の取り巻きを優遇していますが、有能な旧モルト家臣も大多数はいますので。それに、帝国の予備兵力はかなりの数がいたようで、戦力はかなり低下しましても、予備兵力を動員すれば十分にファルマート大陸の各国に対する外圧は保持していたようで、帝国の要求を飲みしかなかったのもありますね」

「まあ、それでも敗北はしたようだな」

「戦う土俵が違い過ぎます」

「確かにな」

アルヌスを占領している異世界の軍隊の情報が記載されている報告書を、健太郎は確認する。その軍勢の名は自衛隊。そして自衛隊の国の名は日本国という事に、健太郎は、この報告書を読んで最初は思わず素で「マジか!!」と、叫びそうになったのであった。

それでもギリギリであったが、素の性格を表に出さないように我慢したが、自分のかつての故郷がゲートから異世界に侵攻している事実を確認した時は、驚きが隠せないものであった。

確認した所、日本国の武装は明らかに現代軍の武器であり、そんな武装で固めた軍隊に、火器も保有していない剣と槍と弓だけで武装した軍勢に負けるわけがないので、結果は想像通りに連合諸王国軍の敗北で終結した。

「自衛隊だったか?出来れば接触して交渉したいものだ」

「いきなり異世界から現れた軍隊と交渉するのですか?」

「する必要はあるだろう。彼らも帝国によって宣戦布告もなく攻められたのだ。帝国に対しての戦争状態に突入した。そんな状況で理解もしないで帝国と戦えば下手な混乱につながる。出来れば早いうちに連携して、帝国に勝利した時の和平交渉に対する取り決めもしなければならん。」

「相手が交渉を蹴りましたらどうしますか?」

「戦う状況になるならば、特軍をファルマート大陸に派遣しよう。優先的に門を破壊すれば、自衛隊は孤立するだろう」

出来れば俺が知っている平成日本であるように願う健太郎。かつての自分の生まれ故郷の接触に興奮する健太郎であるが、平成世界の政治家達の馬鹿なやり取りを見ているので不安を感じて仕方もなかった。

(アカツキ帝国が民族的に日本に近いといっても、日本と違って俺達は帝国だからな)

左翼とその愉快な仲間達のアカツキ帝国批判と、それに便乗するデモ隊の事を考えると憂鬱になる健太郎であった。イタリカ侵攻前に、初めに日本国との接触を図るアカツキ帝国であった。


 
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