遊戯王GX-音速の機械戦士-
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―女の話―
「お前は……!」
タッグデュエル会場から出て行ったレイを探しに出た俺が見つけたのは、黒いサングラスの男――ミスターT。人間らしくない不気味な笑みを浮かべながら、ミスターTはこちらを見てニヤリと笑う。
「やあ遊矢くん。だが、今の君に私に構っている暇はないと思うが……」
油断なくデュエルディスクを構えるこちらを相手に、ミスターTは不遜な態度を崩すことはなく。その含むような言い方から、俺の脳裏には一人の人物が浮かび上がった。
「レイを、どうした……!」
「だから言っているだろう? 私に構っている暇はない、と」
レイに何をしたのか。ニタリと笑みを深めていくミスターTに、このまま殴りかかりたくなる衝動に駆られるが、そんなものは奴には無意味だろう。レイをすぐさま探しに行きたいところだが、目の前にいるこの敵を放っておく訳にはいかない。
「――遊矢!」
ならば速攻で倒すのみ、と慌てたままにデュエルディスクを構えた瞬間、背後から俺の名前を呼ぶ声が聞こえた。もはや数も少なくなった真紅の制服――十代だ。
「ここは任せろ」
制服と同じ真紅のデュエルディスクを構えながら、疾走してきた十代が俺とミスターTの間に割って入る。それを見たミスターTが珍しく表情を歪め、一考したものの俺は決断を下す。
「頼む!」
背格好や口調が変わっても十代は十代だと。そう確信しながら、俺はレイを探すべく走り回った。どこまでも広がるこのアカデミアの森、レイがよくいた場所は――
「……十代?」
――十代を追いかけていた明日香だったが、気がつけば十代の姿はどこにもなく。一瞬で森の中に消え去ってしまったような感覚に、明日香は不気味に感じて歩を止める。辺りを見回しても遊矢に十代どころか、一般生徒の気配すら感じることは出来なかった。
「ここは……」
だが、この場所には見覚えがあった。かつてアカデミアが平和だった時、ここには明日香も幾度となく足を運んでいたことがある。アカデミアの森の中にある池、ここは……
「……遊矢様のお気に入りの場所、だよね」
「レイ……ちゃん……?」
今まで気配すらなかったにもかかわらず、何処かから突如としてレイが出現する。比喩表現でも何でもなく、本当に何もない空間から現れた――ような。
「ボクも行きたかったなぁ……遊矢様と一緒に、ここに」
遊矢がよく釣りをする時に座っていた場所に、レイは儚げに体育座りの体勢で座り込む。愛おしげによく座れそうな岩を撫でる姿は、まさしく早乙女レイそのものだったが――明日香はどこか、違和感を感じざるを得なかった。目の前にいる彼女は早乙女レイではないと、脳内のどこかがけたたましく警鐘を鳴らす。
「レイちゃん……なの?」
「ねぇ明日香さん。デュエルしない? デュエル!」
つい明日香の口から出た疑問に答えることはなく、レイはいつものひまわりのような笑顔でもって、明日香にデュエルを誘う。タッグデュエル大会で付けたままのデュエルディスクを構え、レイは立ち上がるとすぐさまデュエルの準備を完了する。
「……いいわ。デュエルしましょうか」
「やった! 流石明日香さん!」
どこか様子のおかしい彼女だったが、デュエルをすれば何かが分かるかもしれない。明日香はそう考えると、レイと同様にデュエルの準備を完了する。それを待っていたような、レイは――
「楽しいデュエルにしようね!」
――そう、愉しそうに笑った。
『デュエル!』
明日香LP4000
レイLP4000
「……私のターン」
デュエルディスクが先攻を指し示したのは明日香だった。ドローした五枚のカードを見るとともに、明日香はレイに感じていた違和感の正体に気づく。
その、貼りつけたような笑顔だ。
「私は《融合》を発動! 手札の《エトワール・サイバー》と《ブレード・スケーター》を融合し、《サイバー・ブレイダー》を融合召喚!」
最初のターンからの融合召喚。氷上を滑るように明日香の融合のエースモンスターが現れ、明日香を守るように降り立った。
「私はこれでターンエンド」
「ボクのターン、ドロー!」
明日香もレイのデッキは知っているつもりだ。コントロール奪取の《恋する乙女》、アタッカーの《ミスティック・ドラゴン》、効果破壊の蠱惑魔シリーズ。その三種を組み合わせた彼女なりのデッキであり、それを見越しての《サイバー・ブレイダー》の融合召喚だった。
だがデュエルは、明日香の予想外の方向へ進んでいった。
「ボクは《森羅の実張り ピース》を召喚!」
「森羅……?」
レイがつい先程まで使っていたデッキとは違う、植物族のカテゴリーのカード。疑惑の視線を向ける明日香をよそに、何の違和感もないようにレイはデュエルを進行していく。
「《森羅の実張り ピース》を召喚した時、デッキトップが植物族モンスターなら、墓地に送ることが出来るよ。さらにフィールド魔法《霞の谷の神風》を発動!」
《森羅の実張り ピース》の効果によって、レイがデッキトップを墓地に送る。どうやら植物族であったようで、それと同時にフィールド魔法の発動により、アカデミアの森林に一陣の疾風が吹く谷と化していく。
ただしレイが立っている場所だけは。いつも遊矢が座っていたその場所だけは、フィールド魔法に浸食されることはなく、その姿を保っていた。
「さらに手札のこのカードは、フィールドの植物族モンスターを手札に戻すことで、特殊召喚出来る。ボクは《魔天使ローズ・ソーサラー》を特殊召喚!」
小さな豆の如き植物が一瞬にして、茨の鞭を振るう天使へと生まれ変わる。さらに《魔天使ローズ・ソーサラー》の召喚条件である、植物族モンスターを手札に戻すという行動に、フィールド魔法《霞の谷の神風》が反応した。
「《霞の谷の神風》の効果発動! 風属性モンスターが手札に戻った時、デッキからレベル4以下の風属性モンスターを特殊召喚出来る。来て、《コピー・プラント》!」
「……相手モンスターが二体になったことで、《サイバー・ブレイダー》の攻撃力は倍になるわ」
《サイバー・ブレイダー》第二の効果により、《魔天使ローズ・ソーサラー》の攻撃力を上回る。ただしそれが何の意味を持つのか――普段使うデッキではないにしろ、レイは今のデッキを十全以上に使いこなしている。
「《コピー・プラント》の効果発動。このカードのレベルは、他の植物族モンスターと同じレベルになる。よってレベルは7!」
《コピー・プラント》が自身の効果で姿を変えていき、レイのフィールドに姿だけは《魔天使ローズ・ソーサラー》が二体。そのレベルはどちらも7であり、ランク7のエクシーズ召喚を警戒する。
「私は《魔天使ローズ・ソーサラー》と、レベル7になった《コピー・プラント》でオーバーレイ!」
明日香の予想通り、二体の《魔天使ローズ・ソーサラー》が重なっていく。レイは既にエクシーズ召喚をマスターしていたので、今までよりは驚きは少ない。
「レイちゃん……!?」
――それより問題だったのは、レイがデュエルディスクから取り出した一枚のカード。裏面が真っ黒に染まっており、その漆黒は辺りの空間をも侵食するようだった。明日香はあのようなカードを一度、目の当たりにしたことがあった。
実の兄である天上院吹雪。彼が操られていた《ダークネス》のカードだ。
「レイちゃん! そのカードを使うのを止めなさい!」
「――エクシーズ召喚!」
明日香の悲痛な叫びを伴った警告が届くことはなく、レイはその漆黒に染まってカードをデュエルディスクに叩きつける。二体の《魔天使ローズ・ソーサラー》が重なって、新たなエクシーズモンスターと化すのだ。
「《No.11 ビッグ・アイ》……!」
先端に白い球体がついた赤い線――神経のようにも見えるそれらが幾重にも重なっていき、《No.11 ビッグ・アイ》の円錐形な外観を作り上げていく。しかし今は、ランク7のエクシーズモンスターの召喚より、漆黒に染まったカードを召喚したレイのことだ。
「レイちゃん!」
「明日香さん……ボク、遊矢様のことが好きだったの。遊矢様のことが全て」
心配して駆け寄ろうとした明日香に対して、レイはあくまでも笑顔で話しかけた。……貼りついたような表情で、口角を上げて。
「ボクの全部《遊矢様》をボクから奪うなら、明日香さんもボクに全部を頂戴っ……! ビッグ・アイの効果を発動!」
レイの効果発動の宣言とともに、ビッグ・アイの真紅の瞳が光る。一定のタイミングで怪しく輝くそれは、一見してフィールドに何も影響を及ぼすようには見えなかったが――
「ビッグ・アイの効果。オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手モンスターのコントロールを奪う。テンプテーション・グランス!」
「えっ……」
明日香のフィールドにいるモンスターは一体――《サイバー・ブレイダー》のみ。ビッグ・アイの瞳に魅入られ、ゆっくりと明日香に振り向く《サイバー・ブレイダー》の瞳には、レイと同じように明日香への敵意に満ちていた。
「バトル。《サイバー・ブレイダー》でダイレクトアタック」
「うっ……!」
明日香LP4000→1900
今まで明日香を守るように立っていた《サイバー・ブレイダー》から、痛烈な蹴りが明日香の腹部を炸裂する。一瞬息が出来なくなるような感覚を味わい、足が力を失って無意識に大地に膝を突いていた。
「うっ……ぐ、ぁはっ!」
「残念だけど、ビッグ・アイは効果を使ったターン、攻撃出来ないんだ。《サイバー・ブレイダー》。明日香さんと言えば、ってモンスターだよね。……ああでも、遊矢様も持ってたっけ……」
苦悶の声と咳を漏らして倒れる明日香をよそに、レイは表情を笑顔に固定したまま話しかけていく。そして《サイバー・ブレイダー》は明日香を一瞥することもなく、レイのフィールドへと降り立っていく。
「でも全然、ボクから奪ったものには足りないよね。全然、全然、全然……ううん、カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「私の……ターン。ドロー!」
明日香は無理矢理身体を起き上がらせると、デュエルディスクからカードを一枚引き抜いた。遊矢が兄を救った時のように、漆黒に染まったカードを破壊しつつ、デュエルに勝利するしか方法はない――と、明日香はレイを救う方法の目処を立てながら、がら空きになった自分のフィールドと、盤石なレイのフィールドを見る。
小さいデメリットでコントロール奪取効果を持つ《No.11 ビッグ・アイ》に、明日香のフィールドから奪った《サイバー・ブレイダー》。さらにリバースカードが一枚。ビッグ・アイのコントロール奪取効果はあと一回使うことが可能であり、このまま守備を固めるだけでは新たなモンスターも奪われ、ダイレクトアタックで明日香の敗北は決定する。
「私は《融合回収》を発動! 墓地の《融合》カードと、融合素材にした《エトワール・サイバー》を回収する!」
通常魔法カード《融合回収》により、墓地から二枚のカードをサルベージする。明日香のエクストラデッキには複数の《サイバー・ブレイダー》が投入されてはいるが、今狙っているのは融合召喚ではなく。
「さらにフィールド魔法、《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》を発動!」
レイに引き続き、明日香もフィールド魔法を発動させる。異世界からの侵略に備えたルール改正により、両プレイヤーのフィールド魔法が同時に出現する。風が吹く霧の谷に設えられた、純白の教会の中、明日香とレイのデュエルは続行される。
「《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果を……」
「明日香さん。明日香さんはボクから、遊矢様の温もりが感じられるところまで、本当に全部奪っちゃうんだね。後から、後から来たのに」
何故か《霞の谷の神風》を発動しても残っていた、レイが立っていた場所である、遊矢がよく釣りの際に座っていた岩。それも明日香のフィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》により、教会の内部へとフィールドが書き換えられていく。
「……私は、《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果により、手札の魔法カードを墓地に送り、デッキから儀式魔法を手札に加える!」
レイの言っていることから耳を背けながら、明日香は《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の効果により、回収した《融合》の代わりに儀式魔法を手札に加える。そして一瞬戸惑うような動作を見せながら、明日香は手札に加えた儀式魔法を発動する。
「儀式魔法《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを墓地に送り、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》を儀式召喚する!」
手札に加えていたのは《高等儀式術》。デッキの通常モンスターを二体素材にすることで、最強のサイバー・エンジェルが降臨し、その特殊召喚時の効果を発動する。
「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》が特殊召喚に成功した時、相手はモンスターを一体破壊する!」
《No.11 ビッグ・アイ》か《サイバー・ブレイダー》か、そのどちらかを選択して、レイは破壊しなくてはならない。そして攻撃力も《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》はビッグ・アイを上回っており、効果破壊と戦闘破壊の二段構えでの《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の一撃を、レイは。
「ボクはビッグ・アイを選ぶよ」
ビッグ・アイの方を選択する。その宣言に反応するとともに、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》がその大量の得物を持って、ビッグ・アイを切り刻んでいく――が、そのいずれもが、ビッグ・アイを破壊するには至らなかった。
「でもボクは、リバースカード《ナンバーズ・ウォール》を発動。このリバースカードがある限り、No.はNo.でしか倒せない」
「何ですって……!」
明日香のデッキにNo.と名の付くカードがある訳もなく、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の攻撃は、全て《ナンバーズ・ウォール》に阻まれてしまう。もちろん戦闘による破壊も未然に防がれたも同然であり、明日香は手札を見直すものの魔法・罠を破壊するカードはない。
「私は……《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》で、《サイバー・ブレイダー》を攻撃!」
「分かってると思うけど、明日香さんのフィールドのモンスターは一体だから、《サイバー・ブレイダー》は戦闘では破壊されないよ!」
レイLP4000→3400
打つ手がなくなった明日香は、とりあえずのバトルフェイズに移行する。攻撃力の最も低い《サイバー・ブレイダー》に攻撃するが、今の《サイバー・ブレイダー》は第一の効果により戦闘破壊耐性を得ている。ダメージを少し与えたのみで、明日香のバトルフェイズは終了した。
「メイン2……私はまだ通常召喚してないわ。モンスターをセット。リバースカードを二枚伏せ、ターンエンド」
「ボクのターン。ドロー」
《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》によるビッグ・アイの破壊に失敗すると、明日香はすぐさま守備の準備を整えていく。とはいえ、セットモンスターにリバースカードが二枚、という急場しのぎ布陣ではあるが……
「魔法カード《森羅の施し》を発動。カードを三枚ドローして、デッキトップに好きな順番で二枚戻すよ」
レイがエクシーズ素材に使用したカテゴリー、森羅専用のサポートカード。先程は使われることはなかったが、森羅はデッキトップから墓地に送られることにより、効果を発揮するという特異な効果を持つカテゴリーであり。デッキトップの操作とは、攻撃の準備と同じようなものだった。
「さらにビッグ・アイの効果を発動。テンプテーション・グランス!」
ただしこのターンには駒が揃っていないのか、はたまたレイにしか分からない別の理由か――ともかく、エクシーズ素材が取り除かれ、再びビッグ・アイの効果が発動する。その真紅の瞳が輝いていき、新たな標的は……もはや宣言するまでもなく。
「《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》……」
「また一つ……ボクにくれたね……バトル。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》でセットモンスターに攻撃」
敵に振るわれるはずの幾多もの刃は明日香に振るわれ、セットモンスターを細切りに切り刻む。しかもそれだけではなく、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》は貫通効果を持っており、その刃と破壊されたモンスターの破片が明日香へと襲いかかっていく。
明日香LP1900→800
「《サイバー・ブレイダー》でダイレクトアタック!」
「リバースカード、オープン! 《奇跡の残照》! 戦闘で破壊された《エトワール・サイバー》を、守備表示で特殊召喚する!」
《融合回収》の効果で墓地から回収されていた、《サイバー・ブレイダー》の融合素材たる《エトワール・サイバー》。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に切り刻まれた破片が、《奇跡の残照》の光とともに再結成していき、一度きりの壁として明日香のライフを守り抜いた。
「ふうん……《奇跡の残照》って遊矢様のカードだよね? 何で明日香さんが持ってるの? ねぇ、ねぇ」
「……遊矢とトレードしたからよ」
明日香を間一髪のところで守ったリバースカード、《奇跡の残照》は遊矢と明日香がトレードしたカードのため、確かに元をたどれば遊矢のカードだった。遊矢のエクストラデッキに今もあるモンスター、《サイバー・ブレイダー》とトレードしたカードであり――それを聞いたレイの顔が笑みで歪む。
「明日香さんはズルいや……ボクが欲しいもの全部持ってて。全部奪っていって……カードを一枚伏せて、ターンエンド」
「……確かに、そうかもしれないわね」
笑顔を貼りつけたレイの問いかけに、明日香は埃を払いながら初めて答える。どこか自嘲めいた表情とともに。
「レイちゃんがずっと好きだった遊矢の隣に、いきなり私がいて。レイちゃんが努力して手に入れたアカデミアの席に、私は何でもないようにいて」
アカデミア中等部を経てジェネックスで実績を残し、高等部にまで飛び級したレイを、明日香は素直に尊敬していた。その将来性豊かなデュエルの実力だけではなく、ただ好きな人の隣にいたい――という理由だけでそこまで出来る、その行動力と意志の強さにおいても。
もしも明日香がレイと同じ境遇だったとしても、果たして同様のことは出来ただろうか。……いや、出来なかっただろうな、と明日香は思う。そんな彼女が彼を好きならば――
「でも、私も遊矢が好き」
今まで一言も口に出したことはなかったが、レイがいつも言うようのようにスラリと口から出て来た。こんなに言って楽になるのならば、もっと早く口にしておけば良かった、と後悔するほどに。
「デュエルを競い合える遊矢が好き。デュエル以外のことを教えてくれる遊矢が好き。今まで一緒にいた……遊矢が、好き」
一度口にしてしまえば、まるでダムが決壊するかの如くとめどなく溢れだしていく。デュエルに恋していた明日香にとって、共に競い合ってきたライバルとして――そのデュエル以外の恋を見つけさせてくれた相手として。彼のことが好きだと心の底から言い放った。
「ううん、違うよ。遊矢様はボクの全てなんだから、明日香さんのものじゃない」
「そうね……レイちゃん、あなたとは正々堂々相手をしたいの。だから――」
明日香の告白に笑顔のままゆっくりと首を振るレイに対し、明日香は倒すべき相手を見据える。フィールドにいるだけで漆黒の気配を漂わせる、まるで幽霊のようにレイに取り付いた《No.11ビッグ・アイ》――
「――その邪魔なのは破壊させてもらうわ。私のターン、ドロー!」
気迫を込めて明日香はカードを引く。レイのフィールドは《No.11 ビッグ・アイ》に、明日香からコントロールを奪った《サイバー・ブレイダー》に、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。そしてリバースカードが二枚と、永続罠《ナンバーズ・ウォール》にフィールド魔法《霞の谷の神風》。
対する明日香のフィールドは、フィールド魔法《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》にリバースカードが一枚のみだったが――明日香は迷いなくカードを展開していく。
「私は《サイバー・プチ・エンジェル》を召喚し、効果を発動!」
サイバー・エンジェルのサポートカード、《サイバー・プチ・エンジェル》。その効果は儀式魔法《機械天使の儀式》のサーチであり、明日香はさらにデッキから一枚のカードを手札に加える。
「さらに魔法カード《闇の量産工場》を発動! 墓地から通常モンスター二体を手札に加える!」
明日香の墓地にある通常モンスターは、《サイバー・ブレイダー》の融合素材と《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》の儀式素材によって墓地に送られた、三枚の《ブレード・スケーター》。氷上の舞姫が二枚手札に加えられるとともに、明日香はリバースカードを発動する。
「伏せてあった《融合準備》を発動! 墓地から《融合》魔法カードと、デッキから融合素材モンスターを手札に加える!」
最後に発動されたリバースカードは、以前のターンで発動した《融合回収》の相互互換である、通常罠カード《融合準備》。結果的には先の《融合準備》と同じように、明日香の手には融合素材と《融合》魔法カードが加えられる。
先のターンでは《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の発動コストにするため、墓地に送った《融合》だったが、このターンにそれは必要はない。何故なら《サイバー・プチ・エンジェル》の効果により、既に儀式魔法も手札に揃っているからだ。
つまり。
「私は《融合》に《機械天使の儀式》を発動! 現れなさい、私のエースたち!」
そして満を持して発動される、手札に加えられた二枚の魔法カード。《融合》によって《エトワール・サイバー》に《ブレード・スケーター》が融合し、融合のエースモンスターたる《サイバー・ブレイダー》が。《機械天使の儀式》によって《ブレード・スケーター》と、手札の《サイバー・プチ・エンジェル》を素材に、儀式のエースモンスター《サイバー・エンジェル-弁天-》が。それぞれ降臨するとともに、《サイバー・ブレイダー》はその第三の効果を発動する。
「《サイバー・ブレイダー》は相手のモンスターが三体の時、相手のカード効果を全て無効にする! パ・ド・カドル!」
「あっ……」
発動される可能性のあるリバースカード、強固な耐性を誇る《ナンバーズ・ウォール》、レイのコントロール下にあるモンスター効果。それら全てを無効にし、《サイバー・ブレイダー》は攻撃へと繋ぐ。
「《サイバー・エンジェル-弁天-》に装備魔法、《リチュアル・ウェポン》を装備し、バトル!」
最後に攻撃力を1500アップさせる装備魔法《リチュアル・ウェポン》を装備し、明日香の命令とともに《サイバー・エンジェル-弁天-》が疾走する。フィールド全てのモンスターの攻撃力を越えた弁天の標的は、もちろんただ一体――レイを惑わしコントロールを奪う、《ナンバーズ・ウォール》の庇護を失った《No.11 ビッグ・アイ》。
「《サイバー・エンジェル-弁天-》で《No.11 ビッグ・アイ》に攻撃! エンジェリック・ターン!」
「ッ――――」
レイLP3400→2700
弁天の《リチュアル・ウェポン》を使った一閃に、《No.11 ビッグ・アイ》はその身体の中ほどから断ち切られ、爆発とともに沈黙していく。ビッグ・アイが破壊されるともに、レイのフィールドの《ナンバーズ・ウォール》も自壊し、ナンバーズの破壊に伴う自壊効果があったと推測されるが――それは今の明日香には関係のないことだ。
「《サイバー・エンジェル-弁天-》が相手モンスターを破壊した時、相手モンスターの守備力分のダメージを与える!」
レイLP2700→700
《No.11 ビッグ・アイ》の守備力は2000。ビッグ・アイの破壊された爆風がレイを襲い、ボーッとしたようなレイは無抵抗でそれを受け入れる。……ただしどんな暴風がその身を襲おうと、レイはまるで立ち止まった動こうとはしなかったが。
「そして相手モンスターが二体になったことで、《サイバー・ブレイダー》は自身の攻撃力を倍にする! パ・ド・ドロワ!」
一刻も早くデュエルを終わらせようとする明日香に呼応するように、《サイバー・ブレイダー》は自身の攻撃力を倍にしてみせ、《サイバー・エンジェル-弁天-》と入れ替わるように敵と対峙する。
「終わりよ! 《サイバー・ブレイダー》で、《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に攻撃! グリッサード・スラッシュ!」
攻撃目標はコントロールを奪われた《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》。攻撃力を倍にした《サイバー・ブレイダー》ならば、その攻撃力の差からレイのライフポイントを終わらせることが出来る。
「――リバースカード、オープン! 《立ちはだかる強敵》!」
「えっ……!」
しかし《サイバー・ブレイダー》が第二の効果を発動したということは、レイのリバースカードは効果を取り戻した、ということであり。突如として動きを取り戻したレイのリバースカードにより、明日香の《サイバー・ブレイダー》の攻撃対象はレイによって決定されてしまう。
「《サイバー・ブレイダー》……」
明日香とレイに奪われた《サイバー・ブレイダー》が攻撃しあい、どちらも攻撃力を倍加させる効果を発揮していた両者は、無惨にも同士討ちという最期を遂げる。……明日香にはもうこのターン、レイの残るライフを削る手段はない。
「どうしたの? 終わったならターンエンドって言ってよ」
「レイちゃん……ターン、終了よ」
《No.11 ビッグ・アイ》を破壊したにもかかわらず、レイの態度は変わらない――いや、先程の貼りつけたような笑顔もなくなり、まるで能面のように無表情に成り果てていた。自身の力不足を感じて奥歯を噛み締めながら、明日香はターンを終了する。
「ボクのターン。ドロー」
とはいえ明日香の攻勢により、レイのフィールドも《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に《霧の谷の神風》のみ。ナンバーズを失ったレイが取る手段は。
「ボクは《ワン・フォー・ワン》を発動。手札を一枚捨てて、デッキからレベル1モンスター《森羅の神芽 スプラウト》を特殊召喚」
――新たなナンバーズの特殊召喚に他ならない。そのために森羅のカードを使い、レイは着実にフィールドを支配していく。
「《森羅の神芽 スプラウト》の効果。特殊召喚に成功した時、デッキの上を二枚捲る」
一見意味のない効果ではあるが。それが植物族であった場合、墓地に送る効果を持ち――森羅はデッキから墓地に送られた時、効果を発揮するシリーズカードである。
「墓地に送られた《森羅の実張り ピース》と《姫芽君 スプラウト》の効果を発動。それぞれ、墓地のレベル4以下の植物族モンスターと、自身を墓地から特殊召喚する。《コピー・プラント》と《森羅の姫芽君 スプラウト》を特殊召喚」
デッキから墓地に送られたモンスターは、《森羅の実張り ピース》に《森羅の姫芽君 スプラウト》の二体。それぞれ墓地から植物族モンスターを特殊召喚する効果であり、レイのフィールドにさらに二体の植物族モンスターが特殊召喚される。デュエル序盤に《No.11 ビッグ・アイ》のエクシーズ素材になった《コピー・プラント》と、今まさに墓地に送られた《森羅の姫芽君 スプラウト》。
「さらにデッキトップを一枚墓地に送ることで、墓地から《グローアップ・バルブ》を特殊召喚」
そして《ワン・フォー・ワン》によって墓地に送られていた、植物族モンスター《グローアップ・バルブ》も特殊召喚され、レイのフィールドは即座に五体のモンスターで埋まる。まずは、と言わんばかりに、特殊召喚された三体のレベル1モンスターが重なっていく。
「エクシーズ召喚! 《No.83 ギャラクシー・クィーン》!」
《グローアップ・バルブ》、《森羅の姫芽君 スプラウト》、《森羅の神芽 スプラウト》の三体をエクシーズ素材に、新たなナンバーズが守備表示でエクシーズ召喚される。新たなナンバーズの登場に明日香は警戒するが、まだフィールドにエクシーズ素材となるべきモンスターが残っていた。
「墓地の《スポーア》の効果。墓地の植物族モンスターを除外することで、その植物族モンスターのレベルを加えて特殊召喚する。《魔天使ローズ・ソーサラー》を除外し、レベル8として《スポーア》を特殊召喚」
最初のターンに《森羅の実張り ピース》の効果で墓地に送られていた《スポーア》が、《魔天使ローズ・ソーサラー》を吸収しながら特殊召喚され、レベル8と化してフィールドに舞い戻る。《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》もレベル8であり、まだレイのフィールドには――
「《コピー・プラント》の効果。《スポーア》と同じレベルとなり、三体のレベル8モンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」
――フィールドの植物族モンスターのレベルを、その名の通りコピーする効果を持つ《コピー・プラント》。明日香から奪った《サイバー・エンジェル-荼吉尼-》に《スポーア》《コピー・プラント》のレベル8モンスターを三体素材に、新たなナンバーズが特殊召喚される。明日香のフィールドに降臨した《サイバー・エンジェル-弁天-》を倒す、本命のナンバーズ。
「――エクシーズ召喚。《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》」
重なっていくカードたちから花が開く。花の中から美しい女性が現れるとともに、その手には月のような剣が携えられていた。月光の下にあるその姿は、まるであれだけ美しく成長出来たなら――と、少女が願う姿のようでもあり。
「クイーン・オブ・ナイツとギャラクシー・クイーンの効果。攻撃力を300ポイントアップし、戦闘破壊耐性に貫通効果を付与する」
《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》は複数の効果から攻撃力アップを選択し、《No.83 ギャラクシー・クィーン》は破壊耐性に貫通効果を付与させる。二体の美しい女性のナンバーズは、少女の敵を討つべくバトルフェイズへと移る。
「バトル……クイーン・オブ・ナイツで、《サイバー・エンジェル-弁天-》に攻撃!」
「くっ……!」
明日香LP800→600
《サイバー・エンジェル-弁天-》の、《リチュアル・ウェポン》によって強化された攻撃力は3300。自身の攻撃力で永続的に攻撃力を上げた、《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》の攻撃力は3500。たかが200ポイントの違いではあったものの、明日香のエースモンスターは破壊され、フィールドはがら空きとなってしまう。
ただ、ギャラクシー・クイーンの攻撃力やエクシーズ素材となったモンスターの総攻撃力は越えておらず、ライフポイントが少しでも残ったのは不幸中の幸いか……
「ターンエンド」
「……私のターン! ドロー! ……メインフェイズ、《貪欲な壺》を発動することで、さらに二枚ドロー!」
明日香は気迫を込めてカードをドローするものの、その表情には浮かばない感情が目立つ。《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》に《No.83 ギャラクシー・クィーン》の二体のナンバーズを見ながら、それでもまだ諦めまいと《貪欲な壺》を使ってさらにカードをドローする。
「私は……《サイバー・ジムナティクス》を召喚!」
守りを固めたところでギャラクシー・クイーンにより貫通効果を付与されてしまい、クイーン・オブ・ナイツの高攻撃力の前に散るだけだ。ならば明日香には攻める手段しかない――と、新たなサイバー・ガールを召喚する。
「《サイバー・ジムナティクス》の効果を発動! 手札を一枚捨てることで、相手の攻撃表示モンスターを破壊する!」
狙っていた訳ではなかったが、効果破壊を防ぐ《ナンバーズ・ウォール》は《No.11 ビッグ・アイ》を破壊した際、同じように自壊していた。そしてギャラクシー・クイーンが付与するのは、あくまで戦闘破壊耐性のみだと、《サイバー・ジムナティクス》の一撃がクイーン・オブ・ナイツを襲う……!
「クイーン・オブ・ナイツの効果。一ターンに一度、植物族モンスターを裏側守備表示にすることが出来る」
――ただし、レイの冷酷な宣言が明日香を震わせる。クイーン・オブ・ナイツの花が閉じられていき、《サイバー・ジムナティクス》の一撃は避けられてしまう。攻撃表示モンスターを破壊する、という効果の対象ではなくなってしまったためだ。
「まだ……まだよ! 魔法カード《デュアル・ゲート》を発動! 発動するこのカードと墓地の同名カードを除外することで、カードを二枚ドローする!」
ただし《サイバー・ジムナティクス》の効果により、墓地に送っていたカードが次なる可能性を示す。墓地にある同じカードと発動するカードを除外することで、カードを二枚する魔法カード《デュアル・ゲート》。その効果により二枚のカードをドローする――
「ッ……」
――だが、可能性を掴めるとは限らなかった。デッキからドローした二枚のカードを見たものの、明日香に取れる手段は少なかった。……少なくとも、次の明日香のターンを迎える手段はなく。
「……だけどこれなら! 通常魔法《儀式の準備》を発動! 墓地から儀式魔法と、デッキからレベル6モンスターを手札に加える!」
引き当てたカードは優秀なサーチカード《儀式の準備》。レイが操る二体のナンバーズを倒すことは、今の状況では明日香の儀式モンスターには出来ないが、まだ可能性を残すことも出来る。
「私は《高等儀式術》を発動! デッキから通常モンスターを素材に、《サイバー・エンジェル-韋駄天-》を儀式召喚!」
降臨するは三体目のサイバー・エンジェル。その効果は墓地の魔法カードを回収する効果であり、もちろんドローという『可能性』を掴むべく、明日香は《貪欲な壺》を選択する。発動の為の墓地コストは《高等儀式術》の効果で墓地に送られており、発動すること自体は容易であった。
「魔法カード《貪欲な壺》を発動!」
デッキトップから二枚のカードをドロー……だが、明日香には半ば分かっていた。逆転の一手などデッキには残っていない、ということを。
「……私は……」
ドローした二枚のカードではレイを救うことの出来ない。それを突きつけられた明日香は、ふと弱音を吐きそうになる口をせき止める。……ただ、諦めないという心だけでは目の前の状況を変えることが出来ない、というのもまた変えられない事実であり。ピクリとも動かないレイを見据えながらも、明日香は何もすることが出来なかった。
「でも、まだ……!」
「明日香!」
……それでも、まだ口だけは諦めようとしない明日香に対し、《霧の谷の神風》のフィールドの奥から声がかけられる。その声は《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の扉を開け、デュエル場へと足を踏み入れた。
「……遊矢?」
「明日香……っ。これを!」
肩で息をした青い制服を着た青年が、《祝福の教会-リチューアル・チャーチ》の内部を見るとともに、何が起きているかを瞬時に悟ったらしく。ナンバーズ二体を前に操り人形のように立ち尽くす明日香に、苦々しげな表情で一枚のカードを取り出すと、明日香にそのカードを投げ渡した。
「黒い……カード?」
受け取った明日香がカードを見てみると、漆黒に染まった何も描かれていないカード。モンスターや魔法、罠でもなく――黒い、というだけならエクシーズモンスターに近い。
「ナンバーズのカード。強く念じれば、お前の……お前の心のカードになる」
「私の……カード」
それは以前倒したミスターTが持っていたカード。何も描かれていないカードであり、人間の心を写し新たなナンバーズとして生まれ変わる。
「頼む……レイを、助けてくれ!」
「……ええ。私は《機械天使の儀式》を発動!」
恥も外聞もないとばかりの遊矢の頼みを聞き、明日香は一度は折れそうになった心を立て直す……レイを助けたい、という思いは変わらない。ひとまずその漆黒のカードをエクストラデッキに移すと、明日香は一枚のカードを発動する。このカードが明日香自身のカードとなるならば、どのようにして召喚するかは自ずと彼女には理解出来た。
「《サイバー・エンジェル-弁天-》を儀式召喚!」
フィールドの《サイバー・ジムナティクス》と手札の《サイバー・プチ・エンジェル》を素材とし、再び儀式のエースたる《サイバー・エンジェル-弁天-》が降臨する。これで明日香のフィールドには、サイバー・エンジェルが二体――同じレベルのモンスターが、二体。
「……私自身のカード。レイちゃんを助ける力に……私は二体のサイバー・エンジェルで、オーバーレイ・ネットワークを構築!」
彼女のデッキに今までなかったエクシーズモンスター。先程遊矢に渡された漆黒のカードを取り出すと、レイを助けたいという一念と彼への思いを込めながら――カードが浮かび上がっていく。
「集いし想いよ! 熱に溶ける氷のように、一つとなりて少女に宿れ! エクシーズ召喚! 《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》!」
サイバー・エンジェル達によって特殊召喚されたのは、ドレスアップした氷の少女。その手に持ったレイピアのような鋭い瞳でフィールドを見据え、ゆっくりと明日香の前に降り立った。
「私の、ナンバーズ……《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》の効果を発動!」
しばしレディ・ジャスティスの姿を眺めた後、明日香が気を張りつめて効果の発動を宣言するとともに、レディ・ジャスティスは剣を大地に突き刺していく。
「オーバーレイ・ユニットを一つ取り除くことで、相手の守備表示モンスターを全て破壊する!」
大地に突き刺したレイピアから氷の蔓が伸びていき、守備表示だった《No.83 ギャラクシー・クィーン》に、守備表示となった《No.87 雪月花美神クイーン・オブ・ナイツ》へと絡まっていく。その蔓は徐々に広がっていき、最終的には身体全体を包み込み、モンスターの形の氷像と化していた。
「……砕け散りなさい!」
――そして明日香の宣告とともに、氷像と化した二体のナンバーズが文字通り砕け散った。それとともにレイは力を失って膝をつき、レディ・ジャスティスはレイピアを大地から引き抜いた。
「明日香……さん……」
「大丈夫。もう終わらせてあげるから……バトル!」
レディ・ジャスティスの攻撃力は元々の攻撃力は500程度だが、エクシーズ素材の数×1000ポイントアップさせる効果がある。効果発動の為にエクシーズ素材を一つ使用したため、1500にまで落ちてしまったが……このデュエルを終わらせるには、もう充分だ。
「《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》で、ダイレクトアタック!」
レディ・ジャスティスの一突きが煌めくと、レイの頬を掠めて取り憑いていた一枚のカードを突き刺した。漆黒に染まったカードはレディ・ジャスティスの一差しに力を失っていき、トドメとばかりに切り裂いた。
「ぁ……」
レイLP700→0
「レイ!」
「レイちゃん!」
二つのフィールド魔法とレディ・ジャスティスが消えていき、遊矢と明日香の二人は倒れたレイに駆け寄っていく。大地に倒れ伏す前に遊矢が受け止め、素早く呼びかけるものの、どうやら気を失っているようだ。それに遊矢が気づいたすぐ後、心地よそうな寝息が聞こえてくる。
「……大丈夫そうだな」
安心したように笑う遊矢は、慣れたようにレイをおぶっていく。明日香はその光景を安心したように眺め、ゆっくりと息を吐く。
「ありがとう、明日香。……おかげで助かった」
「……ううん。遊矢が来てくれなかったら、ダメだった」
遊矢が《ナンバーズ》のカードを届けてくれていなければ、レイを助けることは出来なかった。生み出された《No.21 氷結のレディ・ジャスティス》を見ながら、明日香は心の底からそう言っていた。
「……でも、助けてくれたのは確かだ。そうだ、十代の方は――」
器用にも眠りこけたレイを担ぎながら十代と連絡を取る遊矢の後ろ姿を見ながら、明日香はレディ・ジャスティスをエクストラデッキにしまい、柔らかく微笑むとともに呟いた。遊矢には聞こえないように小さな声で。
「……私も、もっと強くならなきゃね」
――あなたの隣に、いつまでもいれるように。
後書き
斎王「――女の話をしよう」
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