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ヤオイとノーマル

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1部分:第一章


第一章

                   ヤオイとノーマル
 美人だけれど、こうした評価がつく娘もいる。
 これは性格が後で言われることが多いが常にそうとは限らない。趣味が言われる場合も多い。
 この娘高村良美もそうであり大きい奇麗な目とまだ幼さが残りながらも整った顔をしているからその点では学校の男達からは人気だ。おまけに色も白くて胸も大きいし脚も奇麗だ。髪は前と横を短くしていて後ろを二つ三つ編みにしてまとめている。美少女と言っていい娘だ。
 しかも性格まで大人しくて控えめで親切であるときている。顔にルックスに性格と三拍子揃っているのだがそれでも人気がない。人気がないにはそれなりの根拠があるのである。
「ちょっとあれはなあ」
「そうだよな」
 彼等が言い合う根拠は何かというとその趣味だ。彼女は無類のアニメ好き、漫画好き、特撮好き、ドラマ好きなのだ。所謂オタクであると言っていい。
「昨日の仮面ライダーね」
「あんたそっちも好きなのね」
 クラスメイトの女の子が良美の言葉に思わず呆れる。
「全く。そっちもだなんて」
「仮面ライダーじゃ駄目なの?」
「駄目っていうかね」
 そのクラスメイトは呆れた声をまた彼女にやる。
「普通はそこまで手を広げないわよ」
「広げないって」
「あのさ、良美」
 また彼女に言う。
「あんたドラマにアニメに漫画にって」
「うん」
「完璧おたくじゃない」
「駄目?それで」
「しかもね」
 まだあるのだ。ここからが一番問題である。
「やたら男と男のシチュエーションにこだわるし。それか女か女」
「それがいいんじゃない」
 良美はにこりと笑って言葉を返す。彼女にとってはそれが一番なのだ。
「同性同士っていうのが」
「アブノーマルよ」
 クラスメイトはむけれた顔で彼女に答えた。
「そんなのは。とても」
「そうかしら」
「そうに決まってるでしょ」
 言葉が少し刺々しいものになっていた。
「そうじゃなければ何だっていうのよ。同性愛なんて」
「えっ、だって」
 それでもわかっていない顔のまま答える良美であった。
「そうじゃないと全然面白くないし」
「面白くないってね。あのね」
 良美のその言葉に呆れながらもまた問い返すのであった。
「そういう問題じゃないでしょ。じゃああれ?」
「あれって?」
「仮面ライダーだってそうなの?」
「うん」
 はっきりと答えてきた。きょとんとした顔で。
「男同士の友情とか。そこから発展したのを考えると楽しいじゃない」
「不健康よ」
 クラスメイトは憮然とした顔で答えた。
「そんなのは」
「不健康かしら。けれど」
 まだ彼女は言うのであった。相変わらずわかっていない顔で。
「それがいいから。同性だからこそ」
「何かさあ、それって」
 クラスメイトはここで呆れ果てて良美に言うのであった。
「こう言うの?腐女子」
「気にしていないからいいわ」
 そうした言葉にも平気な顔であった。
「そんなことはね。私は全然ね」
「じゃあこのまま突き進むのね」
「趣味はそういうものよ」
 わかっていてやっているのだ。だから平気なのだ。
 そんな彼女である。しかしクラスメイトはまだそんな彼女に対してさらに言った。
「いい?」
「今度は何?」
「女の子はね」
「ええ」
「男の子と付き合ってナンボよ」
 ナンボときた。少しきつい目になって良美に言うのである。
「経験があってよ。それがなくて男と男、女と女だなんて」
「男の子と」
「命短し乙女よ恋せよ」
 昔から言われている言葉をここで出してみせてきた。他ならぬ良美に対して。
「そういうことよ。あんたも恋をしなさいってことよ」
「私が」
「とにかく相手を見つけなさい」
 また言う。
「わかったわね」
「恋って」
 それでも良美の顔は変わらない。相変わらずおっとりというかのどかというか全くわかっていないというか。そんな顔をしたままであった。
「私が?」
「そうよ」
 クラスメイトは今度は剣呑な顔になっていた。
「相手を見つけてね。いいわね」
「相手って言われても」
「気合入れて探すのよ」
 言う方もかなり真剣になっていた。良美に対して。
「わかったわね」
「気合入れるものなの?」
「当たり前でしょ」
 言う口から出ている八重歯が牙みたいに見えた。
「そうじゃないととても見つからないものよ」
「ふうん」
「おっとりしている暇はないのよ。だから言うけれど」
 またこの言葉を出してきた。
「命短し恋せよ乙女」
「その言葉好きなのね」
「乙女よ恋せよ」
 今度は少し言葉が違っていた。
 
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