美食

第三章

「それは医食同源でもあるのだ」
「中華料理の思想ですね」
「真の美食は身体にもよくなくてはいけない」
　こう言うのである。
「美味であると共に己の身体をよくする」
「そこまで考えての美食なんですか」
「その通り、だからこそ」
　ここまで話してさらに利樹に告げてきた。
「ピラニアやピラルクは生では出さないようにしているのだ」
「ピラルクもですか」
「他にはフルーツコウモリの内臓といったものもあるが」
　実に得体の知れないものまであるようだ。実際にメニューを見てみれば確かにそうしたものもちゃんと書かれているのであった。
「全てじっくりと火を通す」
「火をですか」
「ピラニアはフライやテンプラにしてある」
　そうしてあるというのである。
「あとお勧めはだ」
「お勧めは？」
「健康にもいい。匂い豆腐だな」
　これは利樹も知っていた。名前を聞いてすぐに顔を顰めさせたのであった。
「あの、台湾の有名な」
「匂いはきついがいい」
　だが緒方はこう言うのである。その姿勢のままで。
「味もいいし健康にもだ」
「じゃあもらいます」
　彼の薦めに素直に従うことにした。
「そういうことで」
「人の薦めは素直に受けるといいものだ。それではだ」
「ええ。じゃあ」
「エラブウミヘビの丸焼きにダチョウのオムレツにピラニアの唐揚げに匂い豆腐だな」
「はい」
　以上が食べるメニューであった。
　そしてであった。さらに問うてきた緒方であった。
「飲み物は何がいいか」
「飲み物ですか」
「そうだ。何がいいか」
「ええと、飲み物はですね」
「酒はいけるか」
　酒も勧めてきたのであった。
「大蒜酒があるが」
「いえ、そういうのは」
　大蒜酒には首を傾げさせてそれを返事とした。
「ちょっと」
「では止めておくか」
「はい」
　そうするのであった。
「すいません」
「ではジュースは」
「何がありますか？」
「これもまたいいものがある」
　またこんなことを自信満々に言ってきたのであった。
「まずはだ」
「まずは？」
「ドリアンをベースにした豪華十種野菜ジュース」
　今度はドリアンだった。果物も悪魔とさえ呼ばれているそれである。これまた実に有名なものであった。
「それはどうかな」
「ドリアンですか」
「そうだよ。他にも中に入っているのは凄いぞ」
「面白そうですね」
　利樹は楽しそうに笑ってその言葉に返したのだった。
「それもまた」
「じゃあそれでいいな」
「はい」
　期待する笑みで応えた。
「じゃあ御願いします」
「よし、それではだ」
　こうしてジュースも貰うことになった。そうしてその数々の料理とジュースを楽しんだ。そういったものを楽しんだ次の日に。彼は勧めてくれた友人に話すのだった。