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美食

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2部分:第二章


第二章

「覚えておいてくれ」
「緒方洪庵っていいますと」
 その名前を聞いて利樹はすぐに。あの歴史上の人物の名前を思い出してしまった。そうなってしまうのが自然な流れであった。
「あの有名な蘭学者の」
「ははは、あれなんだよ」
 ここでその蘭学者の方も顔を崩して笑って言ってきたのであった。
「親が立派な人間になってくれるよう願って」
「それでその名前になったんですか」
「そういうことなんだよ」
 こうその事情を話すのであった。
「これで私の名前のことはわかってくれたな」
「はい」
 それはまず、であった。
「わかりました」
「そして」
 その緒方はさらに話を続けてきた。今度は店に関する話であった。
「それで当店と我が組織は」
「お金は」
「その都度の食事代だよ」
 それが会費だというのである。
「それさえ持って来てくれればいいよ」
「そうなのですか」
「実質何時でも会合は開いているよ」
 このことも話してきた。
「何時でもね」
「何時でもといいますと?」
「この店の会員は来てくれたお客さん全員だ」
 ある意味実に大きな話であった。
「来る者は拒まず去る者は負わず」
「それはまたいいですね」
「私は誰も拒まないのだよ」
 腕を組んで胸を張ったうえでの言葉である。
「誰もね」
「じゃあ俺もですか」
「勿論。ではメニューだが」
「どんなのがありますか?」
「テーブルの上にあるものから好きなものを選んでくれ」
 実に自信に満ちた言葉がここでも出される。
「何でもな」
「何でもですか」
「さあ、何が食べたい?」
 彼に急かす形になってきていた。
「何でも好きなものを選んでくれ」
「ええとですね」
 そう言われてだった。とりあえず間近の席に座った。そこは和風のうどん屋のその席だった。そこに座ってそのうえでメニューを見ると目に入ったものは。
「ええとですね」
「何かな?」
「蛇の丸焼きですか」
「エラブウミヘビだよ」
 その蛇の名前を出してきたのである。
「シーフードになるな」
「海蛇ですか」
「そうだ。美味いぞ」
 これまた自信に満ちた声での返答だった。
「それにするか」
「ええ。後は」
 他にもメニューを見る。すると他にあったものは。
「ダチョウのオムレツですか」
「アフリカ料理になる」
 緒方が言うにはそうらしい。本当にそうなのか疑念が起こるがそれでも彼の自信に満ちた口調にはそれを信じさせるものがあった。
「次にはそれか」
「ええ。じゃあそれと」
 次に目に入ったものは何かというと。
「ピラニア!?」
「ふむ、見所があるな」
 ピラニアと聞くとにんまりと笑ってきた緒方であった。
「それは残念だが生では出さない」
「生ではですか」
「真の美食とは何か」
 そうした薀蓄もしてきたのであった。両足を大きく開いて腕を組み胸を張った状態のままでだ。堂々と言ってきたのであった。
 
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