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アインクラッド篇
movement Ⅱ 絶望と希望の二重奏
アスラ戦 其之一
前書き
お久し振りです。
sightアマギ
特別大きな混乱も無く、無事にボス部屋の前までたどり着いた。
「皆、入るぞ。続け!」
ヒースクリフが扉を開き、攻略組のワンレイド48人がボス部屋に雪崩れ込んだ。
「総員抜剣!戦闘準備!」
ヒースクリフの代わりにアスナの指示が飛ぶ。俺も腰のブラッドクロスを引き抜き、やや下段気味に構える。ボスは奇襲してくるでもなく、正面40m程の位置で待ち受けていた。身長は10mに達している。筋骨隆々とした居丈夫で、堂々と仁王立ちしている。
「全部隊、攻撃用意。先ずはA隊、B隊、C隊だ。」
因みに俺はA隊だ。要は正面から突っ込む役だ。
「おらぁぁ!!」
片手直剣突進技《ソニックリープ》で一っ跳びに距離を詰め、初撃を叩き込む。膨大なHPの内のほんの1ドット分だけ削り取る。
「うっへぇ………。」
だが、それでもダメージはダメージだ。ボスーーーアスラのタゲは俺になった。
「グオォォォ!!」
アスラのもつ武器はカタナ、斧、槌、鎌、棍、槍の六種類だ。それらが様々な軌道を描いて殺到する。が、それらはすべて、俺に辿り着く前に紅い壁に阻まれる。誰かは言うまでもない。
「いっっっけぇ!!」
ヒースクリフの両脇から俺とキリトで斬りかかる。再び僅かながらHPが減少する。
「このまま行くぞ!押し切れ!!」
戦端は開かれたばかりだった。
一時間が過ぎた。今のところ順調だ。確かに難敵だ。HPが半分を割り、レッドゾーン直前まで陥るプレイヤーも何人かいるが、大きな損害はない。このまま行けば勝てる。誰もがそう思った。が、そんな甘い敵である筈が無かった。
「パターン変わるぞ!警戒!」
七段HPの三段目を削りきり、アスラが一際高く咆哮する。そして………
「嘘……だろ……?」
そう漏らしたのは誰だったのか。或いは俺だったのかも知れないがそれを意識することも出来なかった。
アスラの背部、六本あった腕が、今や三倍の十八本に増えている。最初の六本ですら、ヒースクリフ率いる俺達A隊でギリギリ対処できるレベルだったのだが。さらに
「ぐ、ぐおぉ!?」
「は、速い!?」
「何だよ!威力が……まるで違うじゃねえか!?」
腕が、先程より数段速く、重く振るわれている。パターンも変わっているようだ。しかも、複数の対象を同時にターゲットしているようだ。
「っ、ヒースクリフ!!」
「分かっている!全隊!一度後退しろ!!」
その言葉に攻撃を受けていた部隊が慌てて退こうとするがそう易々と退かせる訳が無かった。
『グウォォォォ!!』
雄叫びと共に大槌を床に振り下ろす。衝撃が後退中のパーティーを、否、部屋全体を襲う。そして………
「あ!アイツ!」
一人がその衝撃で転倒した。当然、アスラがそんな隙を逃す筈はなく……
「ヒッ、ギャアァァァァ!!!?」
無数の武器がそのプレイヤーを捉え、容赦なくHPを削り取る。あっという間にイエローに達し、レッドゾーンに突入し、いっそ呆気ないほどにゼロへ。
「……あ、」
そのプレイヤーは、何が起こったのか、最後まで理解することが出来ないまま、その体を無数のポリゴン片へと変えた。
一拍おいて
「う……うわぁぁぁぁぁぁ!!?」
あちこちで悲鳴が上がった。混乱し、動きが止まる中、さらに二人の犠牲が出た。それが、決定打となった。そこら中で、転移脱出する者が続出した。
「……完っっっ全に戦線崩壊したな。で、どうすんだ?」
ヒースクリフに訪ねる。オブラートに包んだが、要は撤退するかと聞いている。
「残念だが……撤退はできないな。」
「おいおい……本気か?」
「無論だとも。ここで退けば、攻略組全体の士気に関わる。」
「………はぁ、分かったよ。じゃ、どうすんだ?」
先程と同じ質問だが、意味は違う。さっきのは撤退するかどうかだが、今回は方針を聞いている。
「フム………アマギ君。君にあの腕の半分を任せたいが………どうかな?」
一瞬、何を言われたのか理解出来なかった。
「おーおー、無茶苦茶いってくれるねぇ。」
「何、君の切り札を切ればそれくらいどうとでもなるだろう?」
「………何処まで知ってる?」
幾分かの殺気を込めた問いに、しかしヒースクリフは、飄々として答える。
「フッ、私も夜中にこっそりレベル上げするタイプでね。」
「あらら、見られてたの。俺の索敵に反応するはずだけど?」
「いや、偶然見かけてね。アルゴ君に尾けてもらった。」
「………あとで口止めしないとな。」
「まぁ、そんな訳だ。頑張ってくれたまえ。」
「お前、俺の切り札見るためにこんなことさせるわけじゃあないよな?」
「勿論だとも。流石にそんな真似はしない。」
「………ホントかよ。」
とにもかくにも任された以上は仕方ない。ステータスを呼び出し、少し操作する。指を一振りして消すと、ブラッドクロスを構え直す。
「まぁ………何とかなるだろ。」
いつものセリフを呟き、石造りの床を蹴った。
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