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魔法科高校の有能な劣等生

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愚者

 
前書き
なんか……久々過ぎてなんとも言えない心境なん...(lll-ω-)チーン
 

 
無月 影は真剣な眼差しで前方の魔法師【敵】を目視する。
光で視覚を歪める魔法により敵を凝視する事はできない。
感覚で、大体の位置を予測し。影は拳に力を込め標的を殴り飛ばした。
「まず、一人」
ポイントを集めながら確実に上位を狙う。
この戦場はアマチュアの寄せ集めによる模擬戦だ。
そんなお遊びの模擬戦で遅れを取る訳ねぇだろ。
俺、無月 影は両拳に力を込め。戦場を駆け巡る。
魔法は使わない。全て肉弾戦で終わらせる、この戦場は魔法師によるお遊び。魔法師は魔法に依存し過ぎなんだよ。
だから、突然のイレギュラーに対応できない。
「なッ!?」
曲がり角で身を潜めていた魔法師は驚きを隠せなかった。
一瞬、硬直する。その隙を逃さない。
気絶する程度の威力で魔法師をぶっ飛ばす。
それの繰り返しだ。
走って。走って。走って。走って。
走る。走る。走る。走る。
殴って。殴って。殴って。殴って。殴って。殴って。
「あぁ、鬱陶しい」
質より量……って言い方は相手に失礼だよな。
でも、そんな感じだ。質より量って感じる程、俺は魔法師をぶっ飛ばす―――それの繰り返しなのだ。
俺の存在に気付いても対応できず、やられた奴らの数なんて数え切れない。
ポイントはみるみる加算される。
ランキングはどんどん更新され。35位から29位、22位から19位に。
ランキング20位を切った……。
だが、まだ18人。コイツらのポイントを超えないと一位はありえない。ポイント争奪戦だ、油断すれば負けるぞ。
実力で負ける気なんてしない。だが、これは模擬戦なのだ。
実力は関係ない。
「まぁ、知力は要るけどね」
戦術より戦略、戦略より―――。
これより先の言葉は零の言葉だ。
記憶を失う前の零の言葉、最初の零の言葉。
忘れられる事のない……あの時の記憶。俺はあの瞬間、あの一瞬を忘れるかもしれない。でも、消える事はない。
俺の心の中で残り続ける言葉に記憶に間違いはあっても正解はない。
「俺は、弱いから」
また、魔法師を殴り飛ばした。
殺さない程度に。気絶させる程度に力を込めた拳は何度も、何度も振るわれる。
その度に俺のランキングは更新される。
唖然する、なんで【俺】程度の実力で苦戦するんだ?
満たされる事のない【心】
なんで……俺って――――。
「流石、愚民だな。
無月 影」
男は拳と共に現れた。
巨木の様な腕から放たれる一撃。俺はその拳を避け、カウンターに蹴りを喰らわせる。
それを男は左手で防御し。防御に使った左手で弾き返した。
なんて腕力だ……普通なら数分、痺れてるだろ。
「天野、先輩」
「よぉ、無月。初戦から見せてくれるじゃないか」
【晴天の空】
その二つ名の通り、青空の様な男だ。
何かしらの格闘技の構えをしながら。
「魔法を使わず、己の力だけで勝利する。
己と言っても自身の『力』だけで勝ち進むのは容易な事ではないぞ」
「解ってますよ、俺の進む道は容易じゃない。
それはこの道を選択した時から承知しています。でも、こんな緩やかな道で魔法を使う事はありえない」
魔法師らしからぬ言葉に天野は。
「貴様は人間だな」
―――人間……?
俺が……人間?
「誰よりも人間らしい。
純粋な……いや、純白な人間かな」
「訳の解らない事を。俺は元から【人間】ですよ」
「いや、貴様は自分自身を否定している」
「……否定?」
「お前は自分をこう思っているのだろう。
人間の皮を被った化物とな」
―――なんで、この人は。
否定したい。でも、否定できない男の言葉に苛立ちを感じ。
俺は軽く、舌打ちを打っていた。
「その素振りだと当たりかな」
「否定はしない。肯定も……」
「否定できないの間違いだろう?」
やっぱり俺は人間なのかな。
イライラしてる、何時の間にか天野先輩の腹に一撃、入れようとしていた。
「お前、結構、冷静な奴だと思ってたが。
案外、おてんばだな」
また、防がれた。
続けざまに蹴り、フックと繋げる。
だが、全て防がれた。避けている……違う。打撃の威力を逸らされてるんだ。
「どうした? お前の実力はその程度なのか?」
挑発されている。冷静に、冷静に成るんだ。
落ち着け……乱されるな。冷静に対処すれば一撃、喰らわせられる。
「そろそろ俺も攻撃に転じるとしよう」
天野は脚を天に向け、一気に振り落とした。
―――防げない!
俺は体を捻り、天野の蹴りを回避する。
「それで回避したつもりか?」
爆発した。
爆発、それは爆弾による爆発ではない。
天野の蹴りから生み出された衝撃波だ。直に喰らってたら死んでた……魔法で威力を強化された一撃?
それとも衝撃を発生させる魔法?
解らない、一旦、距離を取らないと。俺は天野の蹴りにより発生した砂煙を利用し逃げる。
建物の障害物を利用すれば逃げ切れる。ここら一体の道は理解している。有利な位置取りで勝負を決めるんだ。
「逃がさん」
また、地面に蹴りを放った。
それは斬撃の様に大地を滑り、俺を目指して走って来る。
俺は建物の陰を利用し回避する。その斬撃の様な蹴りは巨大な薙刀で壁を切り刻み、綺麗な穴を開けた。
「空気を圧縮させた蹴り……」
振動と圧縮を合わせた魔法。
接近しても後退しても、あの蹴りからは逃れられない。
下手すれば……いや、下手しなくても死ぬぞ。明らかに違反だろ、威力も速度も。
「無月、俺は貴様を倒さねばならない」
蹴り【斬撃】を繰り出しながら天野は距離を詰めて来る。
「貴様は俺達の領域に踏み入った。それは許される事ではない」
「領域……?」
アクロバティックな動きをしながら俺は考える。
思考回路を記憶を探り、あの時、あの瞬間を。
「―――ZERO」
その結論を口に出した瞬間、俺の足元は跳ね上がった。
天野の斬撃だ。あの蹴りで足元を吹き飛ばしたのだ。
「厄介な蹴りだッ」
空中に散らばった足場を利用し、移動する。
空中では格好の的だ。少しでも動き、標的をずらさなければあの斬撃をもろに喰らってしまう。
「無月、貴様を成敗せねばならない」
「何故です、」
「解るまいな。お前の様な恵まれた人間には」
「恵まれた……人間? 俺は恵まれてなんていませんよ」
「それはお前自身が気付いてないだけだ」
その間にも二人の攻防は続いている。
会話をしながらの戦闘は影のスイッチを切り替えさせようとしていた。
模擬戦【遊戯】から戦闘【殺す】に。
徐々に―――スイッチは入る。例えるなら車のアクセルペダルを少しずつ踏み、スピードを上げる様な。
無月 影を車で例えるならMT『マニュアルトランスミッション』車だ。
ギアを自分の意思で変え、対象の脅威判定を更新する。
激動『アクセル』に似たスイッチを切り替え。
影は加速する、単純にスピードを上げるのではなくスピードの質を上げる。
その変化に天野は対応できず、その攻防は防攻になっていた。
当たらない、当たる要因すらない。
それは人間の限界を超えていた。如何に天野の蹴りが、魔法で強化されていようと当たらなければ意味はない。
「驚異的な速さだな」
天野は冷静に対応する。当たらないと解っても冷静に影の行動を予測し、的確に当てる為の努力を怠らない。
「もぉ、諦めて下さい」
―――殺す。
「諦められんよ」
――――――殺しちゃえ。
「諦めて、下さい」
「諦めんさ!」
楽しげに。無邪気な少年の様な笑顔で天野は蹴りを繰り出す。斬撃は刻まれ、後を残すだけ。それなのに天野の表情は【笑顔】なのだ。
「……諦めろ」
―――――殺せ。
影は刃を構える。
刃、それは手刀。日本刀の様に構え、蹴り【斬撃】そのものを斬り捨てた。
抑えられない衝動に眩暈する。
殺したくないのに俺は殺したいと思っている。
傷付けたくないのに壊したい。矛盾は脳内を駆け巡る。
でも、結論は出ている。壊したくないなら壊さずに殺せばいい。
「―――殺すよ、」
影の手刀【刃】は天野の首筋に向けられる。
「ねぇ―――殺していい?」
戻ってしまう、あの頃に。
影自身、この一線を越えれば戻れないと解っている。
なのに……なんで俺はこんなに壊したいんだ。
また、矛盾を生じさせる。もぉ、どうでもいい。
殺したいから、殺す。壊したいから、壊す。
「やはり、」
天野は笑顔のままだった。
そして。

「お前は人間だな」





それは数日前の事である。

「どうでしょう、この機会に成り上がってみては?」
魔女の様な表情で生徒会長は俺を誘ってきた。
挑発……見え見えなんだよ。
「ランク付けウィークでしたっけ、俺は別に成り上がるつもりはありませんよ」
「あら、貴方はその立ち位置で満足ですの?」
「満足……ではありませんね。ですが、不満はありません」
「変わり者ですね、貴方ほどの魔法師が底辺で居座りそれを受け入れるなんて」
「別に受け入れてはいません。ただ、自分にはお似合いな称号だと自負してるだけです」
────ある意味、間違ってはないからな。
俺は愚かでどうしようもないクズだから与えられた称号【愚民】を受け入れている…認めているんだ。
「とにかく俺は上に興味はありません。
ですので失礼します」
このまま会話を続けても無意味と判断し俺は立ち上がる。
「────それではつまりませんわ」
突如、異様な寒気を感じた。
「それでは駄目、駄目なんですよ」
一歩、また一歩と生徒会長は足を進め。
「これから始まるショーが主役抜きでは華がないですわ。
貴方は最後までステージの上で踊って頂かないと困ります」
「それは、貴女の都合であって俺には関係のないことです」
「そんな事はありませんわよ、影君。このショーは貴方の為だけに始まり、貴方の為だけに終わりを告げるのですから」
「…………?」
何を、言っているんだ?
こんな茶番に付き合う必要はない、早くここから立ち去るべきだ。
それなのに………俺は奴の言葉に耳を傾けていた。生徒会長の言っていることの半分以上は嘘、偽りであるだろう。なのに、俺はその場に立ち尽くしていた。
歩み寄る生徒会長、距離を置こうとその場から離れる。
逃げるように、じりじりと。
恐怖は感じない。なのになんで俺は震えているんだ?
「おや、どうされました?
顔色が優れませんわよ?」
「――――――」
確信した。
これは『精神汚染』だ。
「………」
「先ほどまでの威勢はどうされました?
随分と静かになられましたわね」
「会長………何を?」
俺はこの生徒会室に入る前に全身をサイオンで覆っていた。
生徒会長の魔法は他者に自身のサイオンを干渉させ、人間の五感を狂わせる魔法。なら、そのサイオン波を自身のサイオンで干渉をジャミングすれば防げる……筈だった。
「さぁ、貴方の全てを私に見せなさい」
誘惑する瞳────俺は完全に会長の魔眼に取り憑かれていた。
拒否する事の出来ない、命令が下される。
「あっ」
口が、言葉が、勝手に漏れようとしている。
必死に口元を手で塞ぎ、口を閉じさせようとするが無駄だった。
「ふふっ、意外と耐えますね」
俺の滑稽な姿を見て微笑む生徒会長。
「私の魔法……いえ、正確にはフェロモンに近いものですけど。ここまで耐えたのは貴方が始めてです」
────フェロモン?
「貴方は私の精神汚染は魔法によるものだと思っていた。
えぇ、確かに私の魔法です。で・す・が、それは正解とは言えません」
俺の鼻元を右手で撫でるように触れ、俺の頬を、額を、髪の毛を左手で順番に触れていった。
「貴方はここに来た瞬間から私の虜になっていた。
貴方は最初から私の掌で踊らされていた。えぇ、それは恥じることではありません。これは仕方のないことなのです。
私の躰は少々、変わっていましてね。
私を見てしまった異性は一種の洗脳状態に陥ってしまうのですよ。
と言っても、それほど強力な洗脳でもなく。ある程度の事なら命令を聞いてくれる程度の洗脳です。
本来なら、その程度の効力しかないのですけど。これに少し、私なりのアレンジを加える事で強力な催眠効果を得られる訳です。
えぇ、本当に私の躰は変わっていますね。
この肉体のそれで、どれほど苦しみ……どれほど嘆いたことやら。
まぁ、それも才能を持つ者の苦悩なのでしょうね。
貴方も、私と同じ境遇で育ってきたと調べで出ていますけど。さて、貴方はどんな人生を送ってきたのかしら?
それは辛く、過酷な少年時代だったのでしょうね……」
淡々と、女は悠長に口を動かすが、それを聴くものは誰も居ない。
無月 影は自身の正気を保たせるので精一杯だった。
ほんの少しでも、気を緩ませればあの女に自身の所有権を全て奪われる。それだけは絶対に死守しなければならない。
────聴覚神経カット。
音は要らない、余計な雑音は全て消せ。
聴こえてくるのは自身の荒々しい呼吸音と心拍数。
最低限の音だけ、それ以外の音は聞き流す。
────視覚……視細胞カット。
脳が見えるもの全ての処理を一時的に止める。
目を閉じたまま視覚を消し、視覚による脳の処理を無くす。
────肌感覚……カット。
全身の肉体を被っている肌の機能を数分の間、停止させる。
今、無月 影は三つの重要器官の信号を全て停止させた。
それは意識的に、無意識に行われた。
目の前の女の魔法……いや、正確にはフェロモンを無力化する為に無意識に影の肉体が導き出した対策法。
────あぁ、これで動ける。
いつ、倒れてもおかしくなかった身体に力を入れ、無月 影は深く、深呼吸する。
……少しずつ、慣れてきた。
これで、この女を✕✕せる。

その時だった。

────㌧㌧。

生徒会室に響き渡るノックの音。
「あら、なんてタイミングの悪い」
少し、不機嫌な顔をする生徒会長。
だが、「まぁ、これも運命……ね」と微笑み。生徒会長は扇子で俺を仰ぎ始めた。
すると俺の躰はプツンっと切れた糸のように崩れ落ちた。
掛けられていた精神攻撃の後遺症なのだろう。指先は震え、拳を握ることもままならない。
それに……『処理』のフィードバックも重なり、目の前の情報を脳が処理できていない。
「失礼します、」
わずかに聴こえる声。
それは聞き覚えのある声だった。
だが、誰の声だったか……それを考える間もなく少女はやって来た。
いや、やって来てしまった。

「あらあら、まさか。
貴女がここに来るなんて」
フフッと微笑む魔女の声。

顔を上げた視線の先には────。
「やっぱり、こうなってた」
溜息を付き、魔女を睨み付ける零宮の姿がった。



 
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